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第3部 周りと仲良くしろと言われました
138.夕飯に誘われました
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四神と四神の花嫁は双方が納得していれば、四神宮の滞在期間を延ばすことができる。
これは今は四神と香子、そして白雲と紅夏だけが知っていることである。さすがに春節が終ったら延長するかどうかということを四神宮に勤める者たちには伝えるかもしれないが、皇帝との契約については秘密にすると四神と香子は約束した。
どこにどんな思惑が隠れているかわからないからである。
例え滞在を延ばしても全て無視してしまえばいいのかもしれないが、そんなことが香子にはできそうもなかった。
だから、誰に嫁ぐのかを決める期間が最長二か月程度延びるかもしれないと香子は考えることにした。
離れがたいことは離れがたい。四神宮に仕える者たちはみな香子に優しくしてくれるし、時には遠慮なく物も言ってくれたりする。もちろん一線を引いていることは間違いないが、四神宮が香子にとって過ごしやすい場所には変わりなかった。
(私がもう一人いれば……いや、無理かな)
一人を四神宮に残すなどとんでもない。香子は即却下した。
それから数日も経たないうちに皇太后から夕食の誘いがきた。
もしかしたらお詫びのつもりかもしれないと香子は苦笑して、受けることにした。
『そんなに気を使うことなんてないのに……』
部屋で呟けば、延夕玲が笑んだ。
『なんのことかは存じませんが、老仏爺は悔やんでいる様子です。花嫁様のお顔を見た方が安心するでしょう』
『私が顔を出せば済むならいくらでも出すわ』
香子もまた笑んだ。出会った頃はどうなることかと思っていたけど、今や皇太后は香子のよき理解者である。
(元々試し的な意味合いはあったのかもしれないよね。でも、それはそれで綱渡りだったんでは?)
四神の花嫁がもし癇癪持ちだったら、今頃夕玲も無事では済まなかったと思う。施政者の妻というのは、夫が死んでも意志を継ぐ者なのかもしれない。
そんなわけで、次の日の晩餐は皇太后が住む慈寧宮で食べることになった。
それほど広い場所ではないが、よろしけば四神もみな来ていただけると幸いだということが手紙に書かれていたらしい。
『じゃあ、四神全員で行った方がいいのかしら?』
夕玲に聞く。社交辞令的なものがわかるほど付き合いはないので、香子では皇太后の真意が読めないのだ。夕玲も困ったように首を傾げた。
『そうですね。とても悔やんでいたご様子でしたが……』
『じゃあ四神も連れて行った方がいいかもね』
というわけで大所帯で向かうことにした。もちろん何人で向かうという連絡はしておく。料理の準備があるからだ。とはいえ四神は基本あまり食べない。香子は大食いだと知られているが、それはそれで香子は不本意である。食べても食べても太らないし、おなかが異常に空くのは四神が触れるからだ。
『みんな沢山いただいた方がいいのかしら?』
香子に別の悩みが生まれてしまった。贅沢な悩みである。
『そこまではお考えにならなくてもよろしいかと』
夕玲に窘められて香子は頷いた。ほどほどに食べればいいのだ。ほどほどに。
相変わらず侍女たちが楽しんで香子を着飾り、内心ぐったりしながら白虎に抱かれて香子は慈寧宮へ向かった。四神、白雲、黒月、夕玲が一緒である。
『おお、おお、よくいらした。どうぞこちらへ』
皇太后が笑顔で香子たちを迎えた。門の手前までとはいえ、皇太后を迎えにこさせる香子はハンパない。香子の胃がキリキリ痛みそうである。
広い円卓にさっそく案内されて、まずはお茶を振舞われた。その際に一度皇太后は人払いをした。先に用件を済ませるつもりだろう。
それに気づいた香子は夕玲と黒月にも席を外すよう言った。夕玲はわかっていたようで素直に礼をしたが、黒月はしぶしぶというかんじであった。香子の守護ということもあるだろうが、そういうところはやはり未熟なのだなと香子は思う。
扉が閉まったところで、四神が何かしたようだった。それも最近は、香子もなんとなくわかるようになっていた。
『江緑、誰にも聞かれることはない』
白虎が言う。皇太后は笑んだ。
『白虎様、ありがとうございます』
そうして、深々と頭を下げた。
『この度は、誠に申し訳ありませんでした。先帝の言を鵜呑みにし、四神と花嫁様を混乱させた罪、いかようにも償います』
(えええ)
香子は内心慌てた。皇室の人間がどう考えるかは知らないが、香子からしたら大したことではない。すでに契約書は確認し、齟齬は解消したのだ。改めて謝られる必要はなかった。
『……どのように償うつもりか。その内容を我らに決めさせるつもりではあるまいな?』
白虎が言う。何を言い出すのかと香子は白虎の手を軽く叩いた。
『……恐れ入ります。二度と四神と花嫁様の前に姿を現さぬよう、牢に入れられたく存じます』
(ちょっと待って待って待って)
ククッと白虎が笑った。
『かようなことをすれば香子が悲しもう。茶番は止めだ。香子が納得しているのだ。江緑、そなたに咎はない』
『……ありがとうございます。ですが皇上(皇帝)は……』
『そうだな』
白虎が考えるような言葉を紡ぐ。
『香子はどうしたい?』
『……どうでもいいと言っているではありませんか。できるだけ顔を合わさないようにしていただければそれで十分です』
香子は不機嫌そうにそっぽを向いた。四神宮にもう少しいたいことはいたいのだが、皇帝の顔を見る機会が増えるのは勘弁してほしいのだ。
『……ほんに花嫁様は皇上に手厳しいのう』
『第一印象って大事ですよ』
地雷は人それぞれなのであった。
話はそこで終わったので、夕玲たちを呼び戻し、今度こそささやかな晩餐会が始まった。
これは今は四神と香子、そして白雲と紅夏だけが知っていることである。さすがに春節が終ったら延長するかどうかということを四神宮に勤める者たちには伝えるかもしれないが、皇帝との契約については秘密にすると四神と香子は約束した。
どこにどんな思惑が隠れているかわからないからである。
例え滞在を延ばしても全て無視してしまえばいいのかもしれないが、そんなことが香子にはできそうもなかった。
だから、誰に嫁ぐのかを決める期間が最長二か月程度延びるかもしれないと香子は考えることにした。
離れがたいことは離れがたい。四神宮に仕える者たちはみな香子に優しくしてくれるし、時には遠慮なく物も言ってくれたりする。もちろん一線を引いていることは間違いないが、四神宮が香子にとって過ごしやすい場所には変わりなかった。
(私がもう一人いれば……いや、無理かな)
一人を四神宮に残すなどとんでもない。香子は即却下した。
それから数日も経たないうちに皇太后から夕食の誘いがきた。
もしかしたらお詫びのつもりかもしれないと香子は苦笑して、受けることにした。
『そんなに気を使うことなんてないのに……』
部屋で呟けば、延夕玲が笑んだ。
『なんのことかは存じませんが、老仏爺は悔やんでいる様子です。花嫁様のお顔を見た方が安心するでしょう』
『私が顔を出せば済むならいくらでも出すわ』
香子もまた笑んだ。出会った頃はどうなることかと思っていたけど、今や皇太后は香子のよき理解者である。
(元々試し的な意味合いはあったのかもしれないよね。でも、それはそれで綱渡りだったんでは?)
四神の花嫁がもし癇癪持ちだったら、今頃夕玲も無事では済まなかったと思う。施政者の妻というのは、夫が死んでも意志を継ぐ者なのかもしれない。
そんなわけで、次の日の晩餐は皇太后が住む慈寧宮で食べることになった。
それほど広い場所ではないが、よろしけば四神もみな来ていただけると幸いだということが手紙に書かれていたらしい。
『じゃあ、四神全員で行った方がいいのかしら?』
夕玲に聞く。社交辞令的なものがわかるほど付き合いはないので、香子では皇太后の真意が読めないのだ。夕玲も困ったように首を傾げた。
『そうですね。とても悔やんでいたご様子でしたが……』
『じゃあ四神も連れて行った方がいいかもね』
というわけで大所帯で向かうことにした。もちろん何人で向かうという連絡はしておく。料理の準備があるからだ。とはいえ四神は基本あまり食べない。香子は大食いだと知られているが、それはそれで香子は不本意である。食べても食べても太らないし、おなかが異常に空くのは四神が触れるからだ。
『みんな沢山いただいた方がいいのかしら?』
香子に別の悩みが生まれてしまった。贅沢な悩みである。
『そこまではお考えにならなくてもよろしいかと』
夕玲に窘められて香子は頷いた。ほどほどに食べればいいのだ。ほどほどに。
相変わらず侍女たちが楽しんで香子を着飾り、内心ぐったりしながら白虎に抱かれて香子は慈寧宮へ向かった。四神、白雲、黒月、夕玲が一緒である。
『おお、おお、よくいらした。どうぞこちらへ』
皇太后が笑顔で香子たちを迎えた。門の手前までとはいえ、皇太后を迎えにこさせる香子はハンパない。香子の胃がキリキリ痛みそうである。
広い円卓にさっそく案内されて、まずはお茶を振舞われた。その際に一度皇太后は人払いをした。先に用件を済ませるつもりだろう。
それに気づいた香子は夕玲と黒月にも席を外すよう言った。夕玲はわかっていたようで素直に礼をしたが、黒月はしぶしぶというかんじであった。香子の守護ということもあるだろうが、そういうところはやはり未熟なのだなと香子は思う。
扉が閉まったところで、四神が何かしたようだった。それも最近は、香子もなんとなくわかるようになっていた。
『江緑、誰にも聞かれることはない』
白虎が言う。皇太后は笑んだ。
『白虎様、ありがとうございます』
そうして、深々と頭を下げた。
『この度は、誠に申し訳ありませんでした。先帝の言を鵜呑みにし、四神と花嫁様を混乱させた罪、いかようにも償います』
(えええ)
香子は内心慌てた。皇室の人間がどう考えるかは知らないが、香子からしたら大したことではない。すでに契約書は確認し、齟齬は解消したのだ。改めて謝られる必要はなかった。
『……どのように償うつもりか。その内容を我らに決めさせるつもりではあるまいな?』
白虎が言う。何を言い出すのかと香子は白虎の手を軽く叩いた。
『……恐れ入ります。二度と四神と花嫁様の前に姿を現さぬよう、牢に入れられたく存じます』
(ちょっと待って待って待って)
ククッと白虎が笑った。
『かようなことをすれば香子が悲しもう。茶番は止めだ。香子が納得しているのだ。江緑、そなたに咎はない』
『……ありがとうございます。ですが皇上(皇帝)は……』
『そうだな』
白虎が考えるような言葉を紡ぐ。
『香子はどうしたい?』
『……どうでもいいと言っているではありませんか。できるだけ顔を合わさないようにしていただければそれで十分です』
香子は不機嫌そうにそっぽを向いた。四神宮にもう少しいたいことはいたいのだが、皇帝の顔を見る機会が増えるのは勘弁してほしいのだ。
『……ほんに花嫁様は皇上に手厳しいのう』
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