452 / 653
第3部 周りと仲良くしろと言われました
149.唯一無二のつがいを得るには(紅炎視点)
しおりを挟む
”つがい”など、ただ厄介なものでしかないと思っていた。
―彼女を見つけるまでは。
* *
その娘は四神の花嫁の部屋にいた。部屋付きの侍女、という者がいるらしいと、紅炎は四神宮に来てから学んだ。
紅夏が”つがい”を得、その”つがい”と別の大陸に渡るのだと聞いた。”つがい”が人だと聞いて、紅炎は呆れた。よく見つけたものだと思ったことは確かだった。眷属同士ならばともかく、人の中で”つがい”に巡り合えるなど奇跡に近いのではないだろうか。
人と性行為はできるが、眷属同士、もしくは”つがい”相手でなければ決して子は成せないものだ。中には人との性行為を嫌がって眷属同士で結婚のようなことをする者たちもいるが、紅炎はそれすらもどうでもよかった。
朱雀は先代の花嫁に眷属を何人か産んでもらった。紅炎もそのうちの一人である。だが次代の朱雀を産んでもらう前に先代の花嫁は先代の青龍と身罷った。情を交わした朱雀はその知らせを聞いても平然としていたが、やはり思うところはあったのだろう。三日程室から出てこなかった。
だから、今回の花嫁に望みをかけた。
けれど朱雀と身体を重ねたはずなのにまだ嫁いではこないという。どういうことなのだと紅炎は内心憤った。
朱雀様にお情けをもらったというのに何故あの花嫁は嫁いでこないのか。紅炎には理解できなかった。
「どういうことなのですか?」
朱雀に問えば、朱雀は笑った。
「そなたたちが人の”つがい”を得るようなものだ。我がどれほど香子に焦がれていても、香子にはわからぬのだ。香子は我らとは違うもの故に」
「朱雀様の深い想いをわからぬとは……」
「もしそなたが人の”つがい”を得ることがあれば理解するだろう」
あの時はそれで引き下がり、領地へ戻った。
領地には一人だけ人を”つがい”とした者がいる。その者にわざわざ会いに行ってみた。ようは気まぐれである。
「そなたが訪ねてくるとは珍しいな」
「……花嫁様は朱雀様と身体を重ねたはずだ。そうだというのに嫁いでは来ぬという。どういうことか」
「……かようなこと、聞かれたとて我にわかるはずはなかろう」
呆れられたがそんなことはどうでもよかった。
「朱雀様は、我らが人の”つがい”を得るようなものだとおっしゃられたのだ」
「ああ、そういうことか」
その者は合点がいったようだった。
「うちはほぼ押しかけ女房だからな。あまり参考にはなるまいよ。だが人と四神や四神の眷属は感じ方や考え方も違う。まして花嫁様は四神全てに求婚されているのだ。いくら朱雀様と身体を重ねたとてすぐに嫁ぐわけにはいかぬだろう」
「だが……」
「紅炎よ。朱雀様は四神であり、花嫁様はその四神の花嫁だ。我らが口を出していい相手ではない。それよりもいいかげん他の眷属と所帯を持ったらどうだ? 全く紅夏といいそなたといい、なかなか結婚しないものだから他の眷属から愚痴られることが多いのだ」
「? 我と他の眷属になんの関係が?」
「……そういうことだろう。誰かと誰かの関係なぞ、気にする必要はない。それよりもそなたの”つがい”を探すか、適当に眷属同士で一緒になるがよい」
「余計なお世話か」
「そういうことだ」
花嫁と朱雀の気持ちや関係については、紅炎にはやはり理解できそうもなかった。
かといって眷属同士で共になりたいとも思えない。まだ子は成す気になれなかった。例え早々に子を成したとしても、朱雀の直接の子である第一世代は子どもよりも長く生きるのだ。だから少なくとも成人してから二百年以上は一人でいるつもりだった。そしてその二百年もとっくに過ぎた。そろそろ終生の相手を探すべきかとは紅炎も思うのだが、やはり気乗りはしなかった。
そんな中、朱雀より四神宮に呼ばれた。
紅夏が”つがい”を得て朱雀の側から離れる為、誰か寄こせと。紅炎は一も二もなくそれに飛びついた。
領地を離れれば視点も変わるのではないかと思ったのだ。それに、紅夏の”つがい”とやらにも興味があった。今の紅夏ならば朱雀に花嫁が嫁がない理由もわかるのだろうか。
そんなわけで四神宮には紅炎が向かうことにした。
そしてあの娘を見つけた。
一目見て、他の人間とは違うと思えた。
最初覚えたのはちょっとした違和感。それまで人など歯牙にもかけなかったというのに、どうしてかあの娘のことは気になった。
それは紅夏が”つがい”と共に一旦四神宮を去った日のことだった。
翌日再びその娘の姿を見て、己の物だと思った。娘は気づかない。ここまで紅炎が娘を求めているということを。
焦燥感で気が狂いそうだった。だが己だけが求めていることを少し悔しくも感じた。
しかし、眷属が”つがい”に逆らえるはずはないのだ。
それからしばらくも経たないうちに、紅炎は林雪紅を捕まえてその溢れる想いを告げていた。
「我が”つがい”よ。花嫁がどなたかに嫁ぐ際、我と共に来るがよい」
だが、林は戸惑うだけだった。そして、就業中は口説くなと命令が出された。紅炎はとても不本意だった。
人と眷属は違う。それをここで知ることになるなんて紅炎は思ってもみなかった。だが林は自分の”つがい”だ。次はもっと想いを籠めて口説こうと、紅炎は思ったのだった。
ーーーーー
紅炎は口説き方を知らない。眷属はみんなこんなん。困る。
―彼女を見つけるまでは。
* *
その娘は四神の花嫁の部屋にいた。部屋付きの侍女、という者がいるらしいと、紅炎は四神宮に来てから学んだ。
紅夏が”つがい”を得、その”つがい”と別の大陸に渡るのだと聞いた。”つがい”が人だと聞いて、紅炎は呆れた。よく見つけたものだと思ったことは確かだった。眷属同士ならばともかく、人の中で”つがい”に巡り合えるなど奇跡に近いのではないだろうか。
人と性行為はできるが、眷属同士、もしくは”つがい”相手でなければ決して子は成せないものだ。中には人との性行為を嫌がって眷属同士で結婚のようなことをする者たちもいるが、紅炎はそれすらもどうでもよかった。
朱雀は先代の花嫁に眷属を何人か産んでもらった。紅炎もそのうちの一人である。だが次代の朱雀を産んでもらう前に先代の花嫁は先代の青龍と身罷った。情を交わした朱雀はその知らせを聞いても平然としていたが、やはり思うところはあったのだろう。三日程室から出てこなかった。
だから、今回の花嫁に望みをかけた。
けれど朱雀と身体を重ねたはずなのにまだ嫁いではこないという。どういうことなのだと紅炎は内心憤った。
朱雀様にお情けをもらったというのに何故あの花嫁は嫁いでこないのか。紅炎には理解できなかった。
「どういうことなのですか?」
朱雀に問えば、朱雀は笑った。
「そなたたちが人の”つがい”を得るようなものだ。我がどれほど香子に焦がれていても、香子にはわからぬのだ。香子は我らとは違うもの故に」
「朱雀様の深い想いをわからぬとは……」
「もしそなたが人の”つがい”を得ることがあれば理解するだろう」
あの時はそれで引き下がり、領地へ戻った。
領地には一人だけ人を”つがい”とした者がいる。その者にわざわざ会いに行ってみた。ようは気まぐれである。
「そなたが訪ねてくるとは珍しいな」
「……花嫁様は朱雀様と身体を重ねたはずだ。そうだというのに嫁いでは来ぬという。どういうことか」
「……かようなこと、聞かれたとて我にわかるはずはなかろう」
呆れられたがそんなことはどうでもよかった。
「朱雀様は、我らが人の”つがい”を得るようなものだとおっしゃられたのだ」
「ああ、そういうことか」
その者は合点がいったようだった。
「うちはほぼ押しかけ女房だからな。あまり参考にはなるまいよ。だが人と四神や四神の眷属は感じ方や考え方も違う。まして花嫁様は四神全てに求婚されているのだ。いくら朱雀様と身体を重ねたとてすぐに嫁ぐわけにはいかぬだろう」
「だが……」
「紅炎よ。朱雀様は四神であり、花嫁様はその四神の花嫁だ。我らが口を出していい相手ではない。それよりもいいかげん他の眷属と所帯を持ったらどうだ? 全く紅夏といいそなたといい、なかなか結婚しないものだから他の眷属から愚痴られることが多いのだ」
「? 我と他の眷属になんの関係が?」
「……そういうことだろう。誰かと誰かの関係なぞ、気にする必要はない。それよりもそなたの”つがい”を探すか、適当に眷属同士で一緒になるがよい」
「余計なお世話か」
「そういうことだ」
花嫁と朱雀の気持ちや関係については、紅炎にはやはり理解できそうもなかった。
かといって眷属同士で共になりたいとも思えない。まだ子は成す気になれなかった。例え早々に子を成したとしても、朱雀の直接の子である第一世代は子どもよりも長く生きるのだ。だから少なくとも成人してから二百年以上は一人でいるつもりだった。そしてその二百年もとっくに過ぎた。そろそろ終生の相手を探すべきかとは紅炎も思うのだが、やはり気乗りはしなかった。
そんな中、朱雀より四神宮に呼ばれた。
紅夏が”つがい”を得て朱雀の側から離れる為、誰か寄こせと。紅炎は一も二もなくそれに飛びついた。
領地を離れれば視点も変わるのではないかと思ったのだ。それに、紅夏の”つがい”とやらにも興味があった。今の紅夏ならば朱雀に花嫁が嫁がない理由もわかるのだろうか。
そんなわけで四神宮には紅炎が向かうことにした。
そしてあの娘を見つけた。
一目見て、他の人間とは違うと思えた。
最初覚えたのはちょっとした違和感。それまで人など歯牙にもかけなかったというのに、どうしてかあの娘のことは気になった。
それは紅夏が”つがい”と共に一旦四神宮を去った日のことだった。
翌日再びその娘の姿を見て、己の物だと思った。娘は気づかない。ここまで紅炎が娘を求めているということを。
焦燥感で気が狂いそうだった。だが己だけが求めていることを少し悔しくも感じた。
しかし、眷属が”つがい”に逆らえるはずはないのだ。
それからしばらくも経たないうちに、紅炎は林雪紅を捕まえてその溢れる想いを告げていた。
「我が”つがい”よ。花嫁がどなたかに嫁ぐ際、我と共に来るがよい」
だが、林は戸惑うだけだった。そして、就業中は口説くなと命令が出された。紅炎はとても不本意だった。
人と眷属は違う。それをここで知ることになるなんて紅炎は思ってもみなかった。だが林は自分の”つがい”だ。次はもっと想いを籠めて口説こうと、紅炎は思ったのだった。
ーーーーー
紅炎は口説き方を知らない。眷属はみんなこんなん。困る。
24
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です
氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。
英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
喪女なのに狼さんたちに溺愛されています
和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です!
聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。
ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。
森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ?
ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる