463 / 653
第4部 四神を愛しなさいと言われました
11.朱雀の領地を歩いてみました(朱雀が)
しおりを挟む
風が少し吹く。四神宮で時折吹く風よりは冷たくないと香子には感じられたが、それは朱雀に抱かれているせいかもしれなかった。
どちらにせよ今回香子が朱雀の腕から下りることはないので、気候などを確認することはできなさそうだった。
『こちらが館から一番近い繁華街でございます。飯店、飯館、茶館、その他いろいろな店があります。どうなさいますか?』
紅雪が先導をし、店が集まっている通りに連れて行ってくれた。みなそれなりに暖かそうな恰好をしているが、自分たちは薄着に見えると香子は思った。周りから見て寒そうではないかと少しだけ香子は気にしたが、街を歩く人たちは朱雀の姿を認めると一様に笑顔になった。そして朱雀の腕の中の香子を見て、みな目を見開いた。
少し居心地が悪いがしょうがないということは香子もわかっている。
『香子、どの店に入りたいのか』
『えっ?』
視線が多くて困っている時に声をかけられて、香子は聞き返した。
『香子、そなたはどの店を見たいのだ?』
『あ、ええと……そのう……』
何がほしいとか、何が見たいとか、そういう具体的なものがあったわけではない。ただぶらぶらと見て歩きたかっただけである。それでほしいものがあれば買い、ということが香子はしたかっただけだ。
『その……一緒に街を歩きたかっただけですよ?』
『……そなたを下ろすことはまかりならぬ』
『わかっていますから』
香子は笑んだ。声はいつものテナーだし、あまり表情も動いてはいないのだけど、朱雀の機嫌がいいことだけは香子もわかっていた。
『? あれはお酒を飲ませるところですか? 外なのに寒くないのでしょうか?』
台のようなものの上に酒という布が上からつり下がっている。そこで自分の杯に酒を注いでもらってお金を払った男が、すぐ横にある椅子に腰掛けて飲み始めた。
『安酒をあのように屋台で売ることで更に値段を下げているのです。あれと似たような店ですと、茶を飲ませる屋台もございます』
紅雪が説明をした。
『へえ……お茶を……』
『香子、そなたが普段飲んでいるようなものとは全然違うぞ』
『わかっています』
いくらなんでもここにきて屋台のお茶を飲みたいとは思わない。
『お茶の葉を売っているような店はないのですか?』
『ございますが、通りに面して売っているものですと価格の方が高い印象はあります』
紅雪は正直だった。香子は苦笑する。それはもう場所代込みの値段というやつだろう。
『この通りが一番人通りが多いのですよね?』
『そうです。そういった通りのうちの一本です』
紅雪が頷いた。
『ならば物がそれなりに高くなるのは当たり前かと思います』
『そういうものでしょうか』
紅雪が世間知らずなのか、それともただ若いだけなのかは香子にはわからなかった。何せ四神の眷属の容姿は一定の年齢を超えると変わらなくなってしまうから見た目だけでは歳がわからないのだ。
『茶葉を扱う店に案内してもらえる?』
『承知しました』
紅雪に先導してもらい、この辺りが茶葉を扱う店ですと案内された。三軒ぐらいあった。
『朱雀様、玄武様、端から全部入ってもよろしいですか?』
『かまわぬ』
『いいぞ』
朱雀が端の店に足を踏み入れた。
『朱雀様、玄武様、並びに花嫁様、ようこそいらっしゃいました。当店自慢の茶を是非試飲していってくださいませ!』
店長が揉み手をしながら現れて、香子はびっくりした。まぁこれだけ派手な集団が通りを歩いていたら、うちの店に来るのではないかと待っていてもおかしくはなかったが、それにしてもと香子は思った。
店内の手前には一応お茶を飲ませるスペースもあったので、そこでお茶を淹れてもらい飲んでみた。
(ちょっと渋みはあるけど、これってプーアル茶かな?)
そう思うようなお茶の味だった。
『これはなんのお茶ですか?』
『南西の地域から入ってきましたプーアルというお茶でございます』
『そうですか。おいしかったです、ごちそうさまでした』
店内を見回し、香子は三軒全部見て回った。もちろん価格も尋ねてみた。ただ、この国のお茶への価値基準がわからなかったので香子では判断がつかなかった。
『……うーん』
『香子、どうした?』
『勧められたお茶葉はこういうところで売られていることを考えると、どれも一応悪くないと思うんですよ。買うのは全然かまわないんですけど、四神宮ではもっといい茶葉が用意されていますから買っても飲まないと思うんですよね。無駄にするぐらいなら買わない方がいいしなぁ……』
『ふむ……紅雪』
『はい』
『そなたらは茶を飲むか?』
『はい、いただきます』
紅雪は目を瞬かせた。
『これらの店で飲んだ茶葉をもし購入した場合、そなたらは飲むのか?』
『そう、ですね。高いとは思いますが飲みます』
『ならば朱雀の名で、勧められた茶葉をそなたらが飲む分だけ買っておけ』
『……承知しました』
紅雪は何かいいたそうだったが茶葉を買ってきた。自分のわがままに付き合わせて悪いなと香子は思ったが、飲んでくれるというならば買った方がいいと思ったのだ。地元の経済活性化には買うのが一番である。
『ただし、過剰な宣伝はさせぬように。あくまで我が好奇心で購入しただけと周知せよ』
『承知しました』
確かにそれで名前を使われても困るもんねと香子は頷く。
神さまだというのに、いろいろ考えなければいけないようでたいへんそうだと香子は思ったのだった。
どちらにせよ今回香子が朱雀の腕から下りることはないので、気候などを確認することはできなさそうだった。
『こちらが館から一番近い繁華街でございます。飯店、飯館、茶館、その他いろいろな店があります。どうなさいますか?』
紅雪が先導をし、店が集まっている通りに連れて行ってくれた。みなそれなりに暖かそうな恰好をしているが、自分たちは薄着に見えると香子は思った。周りから見て寒そうではないかと少しだけ香子は気にしたが、街を歩く人たちは朱雀の姿を認めると一様に笑顔になった。そして朱雀の腕の中の香子を見て、みな目を見開いた。
少し居心地が悪いがしょうがないということは香子もわかっている。
『香子、どの店に入りたいのか』
『えっ?』
視線が多くて困っている時に声をかけられて、香子は聞き返した。
『香子、そなたはどの店を見たいのだ?』
『あ、ええと……そのう……』
何がほしいとか、何が見たいとか、そういう具体的なものがあったわけではない。ただぶらぶらと見て歩きたかっただけである。それでほしいものがあれば買い、ということが香子はしたかっただけだ。
『その……一緒に街を歩きたかっただけですよ?』
『……そなたを下ろすことはまかりならぬ』
『わかっていますから』
香子は笑んだ。声はいつものテナーだし、あまり表情も動いてはいないのだけど、朱雀の機嫌がいいことだけは香子もわかっていた。
『? あれはお酒を飲ませるところですか? 外なのに寒くないのでしょうか?』
台のようなものの上に酒という布が上からつり下がっている。そこで自分の杯に酒を注いでもらってお金を払った男が、すぐ横にある椅子に腰掛けて飲み始めた。
『安酒をあのように屋台で売ることで更に値段を下げているのです。あれと似たような店ですと、茶を飲ませる屋台もございます』
紅雪が説明をした。
『へえ……お茶を……』
『香子、そなたが普段飲んでいるようなものとは全然違うぞ』
『わかっています』
いくらなんでもここにきて屋台のお茶を飲みたいとは思わない。
『お茶の葉を売っているような店はないのですか?』
『ございますが、通りに面して売っているものですと価格の方が高い印象はあります』
紅雪は正直だった。香子は苦笑する。それはもう場所代込みの値段というやつだろう。
『この通りが一番人通りが多いのですよね?』
『そうです。そういった通りのうちの一本です』
紅雪が頷いた。
『ならば物がそれなりに高くなるのは当たり前かと思います』
『そういうものでしょうか』
紅雪が世間知らずなのか、それともただ若いだけなのかは香子にはわからなかった。何せ四神の眷属の容姿は一定の年齢を超えると変わらなくなってしまうから見た目だけでは歳がわからないのだ。
『茶葉を扱う店に案内してもらえる?』
『承知しました』
紅雪に先導してもらい、この辺りが茶葉を扱う店ですと案内された。三軒ぐらいあった。
『朱雀様、玄武様、端から全部入ってもよろしいですか?』
『かまわぬ』
『いいぞ』
朱雀が端の店に足を踏み入れた。
『朱雀様、玄武様、並びに花嫁様、ようこそいらっしゃいました。当店自慢の茶を是非試飲していってくださいませ!』
店長が揉み手をしながら現れて、香子はびっくりした。まぁこれだけ派手な集団が通りを歩いていたら、うちの店に来るのではないかと待っていてもおかしくはなかったが、それにしてもと香子は思った。
店内の手前には一応お茶を飲ませるスペースもあったので、そこでお茶を淹れてもらい飲んでみた。
(ちょっと渋みはあるけど、これってプーアル茶かな?)
そう思うようなお茶の味だった。
『これはなんのお茶ですか?』
『南西の地域から入ってきましたプーアルというお茶でございます』
『そうですか。おいしかったです、ごちそうさまでした』
店内を見回し、香子は三軒全部見て回った。もちろん価格も尋ねてみた。ただ、この国のお茶への価値基準がわからなかったので香子では判断がつかなかった。
『……うーん』
『香子、どうした?』
『勧められたお茶葉はこういうところで売られていることを考えると、どれも一応悪くないと思うんですよ。買うのは全然かまわないんですけど、四神宮ではもっといい茶葉が用意されていますから買っても飲まないと思うんですよね。無駄にするぐらいなら買わない方がいいしなぁ……』
『ふむ……紅雪』
『はい』
『そなたらは茶を飲むか?』
『はい、いただきます』
紅雪は目を瞬かせた。
『これらの店で飲んだ茶葉をもし購入した場合、そなたらは飲むのか?』
『そう、ですね。高いとは思いますが飲みます』
『ならば朱雀の名で、勧められた茶葉をそなたらが飲む分だけ買っておけ』
『……承知しました』
紅雪は何かいいたそうだったが茶葉を買ってきた。自分のわがままに付き合わせて悪いなと香子は思ったが、飲んでくれるというならば買った方がいいと思ったのだ。地元の経済活性化には買うのが一番である。
『ただし、過剰な宣伝はさせぬように。あくまで我が好奇心で購入しただけと周知せよ』
『承知しました』
確かにそれで名前を使われても困るもんねと香子は頷く。
神さまだというのに、いろいろ考えなければいけないようでたいへんそうだと香子は思ったのだった。
13
あなたにおすすめの小説
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
黒騎士団の娼婦
星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。
異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。
頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。
煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。
誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。
「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」
※本作はAIとの共同制作作品です。
※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です
氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。
英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。
【完結】僻地の修道院に入りたいので、断罪の場にしれーっと混ざってみました。
櫻野くるみ
恋愛
王太子による独裁で、貴族が息を潜めながら生きているある日。
夜会で王太子が勝手な言いがかりだけで3人の令嬢達に断罪を始めた。
ひっそりと空気になっていたテレサだったが、ふと気付く。
あれ?これって修道院に入れるチャンスなんじゃ?
子爵令嬢のテレサは、神父をしている初恋の相手の元へ行ける絶好の機会だととっさに考え、しれーっと断罪の列に加わり叫んだ。
「わたくしが代表して修道院へ参ります!」
野次馬から急に現れたテレサに、その場の全員が思った。
この娘、誰!?
王太子による恐怖政治の中、地味に生きてきた子爵令嬢のテレサが、初恋の元伯爵令息に会いたい一心で断罪劇に飛び込むお話。
主人公は猫を被っているだけでお転婆です。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
喪女なのに狼さんたちに溺愛されています
和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です!
聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。
ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。
森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ?
ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる