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第4部 四神を愛しなさいと言われました
27.新年の衣装を見せてもらいました
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皇太后は香子が喜ぶお茶菓子を用意していた。
これも皇太后の好意だと、香子はありがたくいただいた。
『老仏爺、少々お聞きしたいのですが……私のところには女官が夕玲しかいないのです。もう何人かいた方がいいのでしょうか』
『四神の花嫁様ですから、本来であれば少なくとも十数人女官が付いてもおかしくはないはずですぞ』
『それは……』
当たり前のように皇太后に言われて、香子は内心冷汗をかいた。
『ですが、花嫁様付の女官を探すのは難儀でしょうな。よろしければこちらで一人探してみましょう』
『謝老仏爺』(皇太后、ありがとうございます)
『ほ、ほ……礼を言われるようなことではございません。そこな、眷属殿が夕玲を気に入っていると伺いましたのでな』
香子はちら、と青藍の方を見やった。皇太后に手間をかけさせるのは、香子としては本意ではなかった。青藍は涼やかな表情で佇んでいるのみである。
『老仏爺……』
延夕玲が困ったように小さな声を発した。
『お言葉ですが、気に入っているのではありません。夕玲は妻としていただくとお伝えしたはずです』
しかも青藍まで口を開いた。香子は怒りが沸々と湧いてくるのを感じた。香子の怒りを感じたのか、玄武が再び香子の髪に口づけた。
『青藍、控えよ』
白虎がいつもより低い声を発した。
『失礼しました』
青藍はすぐに引き下がった。
『江緑(皇太后の名)、眷属とはこういうものだ。理解せよ』
白虎が皇太后の方を向く。皇太后はわかっているというように口元に笑みを浮かべ、頷いた。
『わかっておりますとも。ですが夕玲は大事な預かり物でございます。大祭時にでも夕玲の両親にご挨拶を』
『承知しました』
青藍は拱手した。これで話は終ったようである。香子は内心ほっとしたが、やはり眷属のあり方はどうかと思った。
お茶とお茶菓子を楽しんだところで、皇太后と皇后は香子ににっこりと笑んだ。
『さ、花嫁様。衣装合わせの時間でございますよ』
『花嫁様の為にご用意させていただきました。どうぞこちらへ』
『は、はい……ありがとうございます』
春節の十日前である。衣装合わせがあるのは香子もわかっていたが、できれば勘弁してもらいたかったというのが本音だ。だが皇太后と皇后がとても楽しそうだったので、玄武を促して席を立ってもらった。
隣の部屋に用意してあるということで、黒月、夕玲を伴ってそちらへ移る。用意された布の量と、待ち構えていただろう仕立て屋とその針子たちの面々を見て香子は怯んだ。衣装はすでにできているだろうにどういうことなのかと聞きたくなってしまう。けれど、おそらく余計なことを聞けば更に衣装を用意されてしまう恐れもある為、香子はそっと自分の口を手で塞いだ。
『まぁ……いっぱいですね……』
仕立て屋の女主人とその針子たちは一斉にその場に傅いた。
『執明神君万歳万歳万々歳、白香娘娘千歳千歳千々歳!』
うわぁ、と香子は思った。あまり四神宮から出ていないということもあり、この挨拶は久しぶりだった。慈寧宮の女官や侍女にも挨拶は免除しているので香子は目を丸くした。
『免礼』(なおれ)
『謝神君!』(玄武様、ありがとうございます)
玄武にそう返され、彼女たちは頭を上げた。玄武はためらうように、そっと香子をその場で下ろした。
『しばし花嫁様をお借りします。玄武様、すみましたらすぐにお呼びしますので少々お待ちください』
皇太后がにこにこしながらそう言って、玄武を部屋から追い出した。さすがである。
(絶対この量は少々じゃすまないよね……)
香子は用意された衣装の量を見て内心げんなりした。
当然だが顔に出すようなことはしない。仕立て屋の女主人はともかく、その従業員たちの目がきらきらと輝いてるのだ。
『……よろしくお願いしますね?』
香子は改めて彼女たちにそう微笑みかけた。
『ありがたきお言葉……』
女主人は目頭をそっと押さえた。針子たちは頬を染める。そして彼女たちの作品を香子たちにお披露目した。
『花嫁様、こちらが花嫁様用の新年の衣装でございます。どうかご試着をお願いします』
『……わかったわ』
飾られていた物、衣装箱の中の全てが香子の衣装だと聞かされて、香子は遠い目をしたくなった。
新しい衣装は嬉しいと香子も思う。ただその量が尋常ではないのだ。そうでなくとも朱雀の領地からも衣装を用意され、日々四神宮にも贈物と称して数々の衣装が届けられている。香子が好きだと言った猫眼石の装飾品も増えていく一方だ。その数は香子の予想をはるかに超えており、一生かかっても着られないのではないかと思うような量である。一度袖を通したら捨てても問題ないと言えるような衣装の数に、香子は口元を引きつらせた。
基本的にこちらの衣装は身体にぴったりしたものではないので多少太ったぐらいでは問題はない。
『まぁ……こちらの布はもう少しあった方がよかったですね。少々お待ちを』
そう、ウエストはいいのだ。問題は香子の胸だった。
『花嫁様の胸はそんなに大きかったかのう』
皇太后と皇后が首を傾げた。全て白虎のせいである。夕玲はそっと目を逸らした。
『……まだ育っているみたいです』
香子は頬を染めて、そう答えることしかできなかった。
ーーーーー
執明神君 玄武のこと
白香娘娘 香子のこと
これも皇太后の好意だと、香子はありがたくいただいた。
『老仏爺、少々お聞きしたいのですが……私のところには女官が夕玲しかいないのです。もう何人かいた方がいいのでしょうか』
『四神の花嫁様ですから、本来であれば少なくとも十数人女官が付いてもおかしくはないはずですぞ』
『それは……』
当たり前のように皇太后に言われて、香子は内心冷汗をかいた。
『ですが、花嫁様付の女官を探すのは難儀でしょうな。よろしければこちらで一人探してみましょう』
『謝老仏爺』(皇太后、ありがとうございます)
『ほ、ほ……礼を言われるようなことではございません。そこな、眷属殿が夕玲を気に入っていると伺いましたのでな』
香子はちら、と青藍の方を見やった。皇太后に手間をかけさせるのは、香子としては本意ではなかった。青藍は涼やかな表情で佇んでいるのみである。
『老仏爺……』
延夕玲が困ったように小さな声を発した。
『お言葉ですが、気に入っているのではありません。夕玲は妻としていただくとお伝えしたはずです』
しかも青藍まで口を開いた。香子は怒りが沸々と湧いてくるのを感じた。香子の怒りを感じたのか、玄武が再び香子の髪に口づけた。
『青藍、控えよ』
白虎がいつもより低い声を発した。
『失礼しました』
青藍はすぐに引き下がった。
『江緑(皇太后の名)、眷属とはこういうものだ。理解せよ』
白虎が皇太后の方を向く。皇太后はわかっているというように口元に笑みを浮かべ、頷いた。
『わかっておりますとも。ですが夕玲は大事な預かり物でございます。大祭時にでも夕玲の両親にご挨拶を』
『承知しました』
青藍は拱手した。これで話は終ったようである。香子は内心ほっとしたが、やはり眷属のあり方はどうかと思った。
お茶とお茶菓子を楽しんだところで、皇太后と皇后は香子ににっこりと笑んだ。
『さ、花嫁様。衣装合わせの時間でございますよ』
『花嫁様の為にご用意させていただきました。どうぞこちらへ』
『は、はい……ありがとうございます』
春節の十日前である。衣装合わせがあるのは香子もわかっていたが、できれば勘弁してもらいたかったというのが本音だ。だが皇太后と皇后がとても楽しそうだったので、玄武を促して席を立ってもらった。
隣の部屋に用意してあるということで、黒月、夕玲を伴ってそちらへ移る。用意された布の量と、待ち構えていただろう仕立て屋とその針子たちの面々を見て香子は怯んだ。衣装はすでにできているだろうにどういうことなのかと聞きたくなってしまう。けれど、おそらく余計なことを聞けば更に衣装を用意されてしまう恐れもある為、香子はそっと自分の口を手で塞いだ。
『まぁ……いっぱいですね……』
仕立て屋の女主人とその針子たちは一斉にその場に傅いた。
『執明神君万歳万歳万々歳、白香娘娘千歳千歳千々歳!』
うわぁ、と香子は思った。あまり四神宮から出ていないということもあり、この挨拶は久しぶりだった。慈寧宮の女官や侍女にも挨拶は免除しているので香子は目を丸くした。
『免礼』(なおれ)
『謝神君!』(玄武様、ありがとうございます)
玄武にそう返され、彼女たちは頭を上げた。玄武はためらうように、そっと香子をその場で下ろした。
『しばし花嫁様をお借りします。玄武様、すみましたらすぐにお呼びしますので少々お待ちください』
皇太后がにこにこしながらそう言って、玄武を部屋から追い出した。さすがである。
(絶対この量は少々じゃすまないよね……)
香子は用意された衣装の量を見て内心げんなりした。
当然だが顔に出すようなことはしない。仕立て屋の女主人はともかく、その従業員たちの目がきらきらと輝いてるのだ。
『……よろしくお願いしますね?』
香子は改めて彼女たちにそう微笑みかけた。
『ありがたきお言葉……』
女主人は目頭をそっと押さえた。針子たちは頬を染める。そして彼女たちの作品を香子たちにお披露目した。
『花嫁様、こちらが花嫁様用の新年の衣装でございます。どうかご試着をお願いします』
『……わかったわ』
飾られていた物、衣装箱の中の全てが香子の衣装だと聞かされて、香子は遠い目をしたくなった。
新しい衣装は嬉しいと香子も思う。ただその量が尋常ではないのだ。そうでなくとも朱雀の領地からも衣装を用意され、日々四神宮にも贈物と称して数々の衣装が届けられている。香子が好きだと言った猫眼石の装飾品も増えていく一方だ。その数は香子の予想をはるかに超えており、一生かかっても着られないのではないかと思うような量である。一度袖を通したら捨てても問題ないと言えるような衣装の数に、香子は口元を引きつらせた。
基本的にこちらの衣装は身体にぴったりしたものではないので多少太ったぐらいでは問題はない。
『まぁ……こちらの布はもう少しあった方がよかったですね。少々お待ちを』
そう、ウエストはいいのだ。問題は香子の胸だった。
『花嫁様の胸はそんなに大きかったかのう』
皇太后と皇后が首を傾げた。全て白虎のせいである。夕玲はそっと目を逸らした。
『……まだ育っているみたいです』
香子は頬を染めて、そう答えることしかできなかった。
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執明神君 玄武のこと
白香娘娘 香子のこと
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