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第4部 四神を愛しなさいと言われました
39.冬の大祭が始まりました
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ラストエンペラーという映画を観たことがあるだろうか。
王城の広場のようなところで百官が等間隔に並び、平伏している姿を思い浮かべてみてほしい。
その光景が、皇帝一家と、玄武に抱かれた香子の前に広がっていた。
(うわあ、この寒いのに……)
香子の感想はそれだった。
真冬の、春節のまだ日が出たばかりの北京。日本で言う旧暦の二月頃である。それだけでもとても寒い季節だということがわかるだろう。
まして北京の緯度は高い。
北緯四十度。日本でいう岩手県と同じ位置である。
そこに正装をした百官が並んでいる。北京は雨や雪こそそれほど降らないが、ひとたび降ったら地面が凍るという土地柄だ。香子は思わず玄武の腕を掴んだ。いくら暖石を持っていたとしても、とても寒いのではないかと香子は思ったのだ。
玄武はそんな香子をそっと包み込むように抱いていた。
新年の挨拶には銅鑼も鳴らされることなく、厳かに行われた。
本当に挨拶だけだったらしい。
香子は拍子抜けした。
メインはこれからだった。玄武と共に輿に乗せられ、皇帝もまた別の輿に乗って天壇へ移動する。香子は玄武の腕の中にいるから全く寒さは感じないが、皇帝はどうなのだろうと香子はほんの少しだけ考えた。
今日はこのまま天壇へ移動し、皇帝が祭祀を行うのを見てから戻り、夜は晩餐会に出席するだけである。
春節は家族で過ごすのが基本なので、冬の大祭というのはオマケに過ぎないのだと香子はやっと気づいた。
それでも輿に乗せられて通りを進めば、朝だというのにところどころで爆竹が鳴っているのが聞こえてきた。
『……大陸の、正月なんですね』
香子は少し楽しくなって呟いた。
『……そのようだ』
玄武にはいまいちピンとこないらしい。そんな玄武の様子に香子は笑った。そして王安石の詩を思い出した。
爆竹声中一歳除、
春風送暖入屠蘇。
千門万戸曈曈日、
総把新桃換旧符。
これは宋代の政治家であり詩人であった王安石による「元日」という漢詩である。
爆竹の音を聞きながら一年を見送り、暖かい春風の中、屠蘇(お酒)を飲む。
明け方の陽光が家々を照らす。みな、古い桃符(昔中国で、元旦などに門戸につけた魔よけの札)を新しいものに張り替える。
宋代の人の詩だから、この国の人は知っているのだろうかと、香子は玄武に『こんな漢詩を知っていますか?』と聞いてみた。
『ふむ。我は知らぬが朱雀ならば知っているかもしれぬ。我は漢詩には疎くてな』
『玄武様にも知らないことってあるんですね』
二人でいると輿の中が暖かいから、つい大祭中だということを香子は忘れてしまった。
そうしている間に輿は天壇についたらしい。以前より到着は早く感じられた。慣れたのかもしれないと香子は思う。
輿を下りると、四神の神官たちが平伏して迎えた。中心に張錦飛がいるのが見えた。
(張老師、寒くないのかしら)
少し香子は心配になった。そんな香子の心配をよそに、神官たちは厳かに立ち上がると『新年快楽! 万事如意!』と言った。
新年おめでとうございますというやつである。これは王城でも聞いた。
玄武と香子を先頭にして(その前に案内役の神官が先に行く)、その後に皇帝が続いた。本当にこの国は神様ファーストなのだなと香子は思った。
そして、天を祀る場所である祈年殿の前へと移動した。祈谷壇には玄武は上らず、下から皇帝の祭祀を見守る形になる。
祈年殿の前にはいろいろな品物が並べられていた。全て食物のように、香子には見えた。
皇帝は着替えをしてから現れた。
香子も本当は着替えをするように言われていたが、それはさすがに拒否した。祭祀を行うのは皇帝であって香子ではないからだった。香子はあくまで傍観者である。一番近くで祭祀を見たいというだけであった。
皇帝が祈年殿に向かって何やら唱え始めたが、残念ながら聞こえなかった。
中国ドラマなどでは何を言っているか聞こえるものなのだろうが、これはドラマではなく現実である。
『香子、姿を変えるぞ』
『え?』
これで終りかと香子が思った頃、それまで黙っていた玄武が呟くように言い、一瞬でその姿を変えた。
『えええええ?』
祈谷壇と門の間を埋めるように、でかい亀が現れた。それもただのでかい亀ではない。その亀には蛇が二匹絡みついていて、その蛇は亀の甲羅の上に乗った香子を支えるように香子にも絡みついた。
『え? ええ? これも、玄武、様なのですよね?』
香子はそっと蛇に掴まるようにした。蛇は気持ちよさそうに更に巻き付いてきた。玄武には二匹の蛇がついていたことを、香子はやっと思い出した。
『香子、それもまた我だ』
『そう、なのですね……』
香子は玄武の本性を明るいところで見たことに驚きはしたが、それと同時に嬉しさも感じた。
以前見た時は暗い中だったからよく見えなかったのだ。
『玄武様の本性も、とても素敵ですね!』
『……かようなことを言われたのは初めてだ』
玄武のいつもより低いバリトンが嬉しそうに響く。
その光景を見ていた皇帝は驚愕に目を見開き、神官たちは『ありがたいことでございます!』と言いながら平伏し、付き従っていた延夕玲はふらりと倒れかけて青藍に支えられていた。
だがそんなことには玄武と香子はついぞ気づかなかったのである。
ーーーーー
やっと大祭! 長かったーーー!
王城の広場のようなところで百官が等間隔に並び、平伏している姿を思い浮かべてみてほしい。
その光景が、皇帝一家と、玄武に抱かれた香子の前に広がっていた。
(うわあ、この寒いのに……)
香子の感想はそれだった。
真冬の、春節のまだ日が出たばかりの北京。日本で言う旧暦の二月頃である。それだけでもとても寒い季節だということがわかるだろう。
まして北京の緯度は高い。
北緯四十度。日本でいう岩手県と同じ位置である。
そこに正装をした百官が並んでいる。北京は雨や雪こそそれほど降らないが、ひとたび降ったら地面が凍るという土地柄だ。香子は思わず玄武の腕を掴んだ。いくら暖石を持っていたとしても、とても寒いのではないかと香子は思ったのだ。
玄武はそんな香子をそっと包み込むように抱いていた。
新年の挨拶には銅鑼も鳴らされることなく、厳かに行われた。
本当に挨拶だけだったらしい。
香子は拍子抜けした。
メインはこれからだった。玄武と共に輿に乗せられ、皇帝もまた別の輿に乗って天壇へ移動する。香子は玄武の腕の中にいるから全く寒さは感じないが、皇帝はどうなのだろうと香子はほんの少しだけ考えた。
今日はこのまま天壇へ移動し、皇帝が祭祀を行うのを見てから戻り、夜は晩餐会に出席するだけである。
春節は家族で過ごすのが基本なので、冬の大祭というのはオマケに過ぎないのだと香子はやっと気づいた。
それでも輿に乗せられて通りを進めば、朝だというのにところどころで爆竹が鳴っているのが聞こえてきた。
『……大陸の、正月なんですね』
香子は少し楽しくなって呟いた。
『……そのようだ』
玄武にはいまいちピンとこないらしい。そんな玄武の様子に香子は笑った。そして王安石の詩を思い出した。
爆竹声中一歳除、
春風送暖入屠蘇。
千門万戸曈曈日、
総把新桃換旧符。
これは宋代の政治家であり詩人であった王安石による「元日」という漢詩である。
爆竹の音を聞きながら一年を見送り、暖かい春風の中、屠蘇(お酒)を飲む。
明け方の陽光が家々を照らす。みな、古い桃符(昔中国で、元旦などに門戸につけた魔よけの札)を新しいものに張り替える。
宋代の人の詩だから、この国の人は知っているのだろうかと、香子は玄武に『こんな漢詩を知っていますか?』と聞いてみた。
『ふむ。我は知らぬが朱雀ならば知っているかもしれぬ。我は漢詩には疎くてな』
『玄武様にも知らないことってあるんですね』
二人でいると輿の中が暖かいから、つい大祭中だということを香子は忘れてしまった。
そうしている間に輿は天壇についたらしい。以前より到着は早く感じられた。慣れたのかもしれないと香子は思う。
輿を下りると、四神の神官たちが平伏して迎えた。中心に張錦飛がいるのが見えた。
(張老師、寒くないのかしら)
少し香子は心配になった。そんな香子の心配をよそに、神官たちは厳かに立ち上がると『新年快楽! 万事如意!』と言った。
新年おめでとうございますというやつである。これは王城でも聞いた。
玄武と香子を先頭にして(その前に案内役の神官が先に行く)、その後に皇帝が続いた。本当にこの国は神様ファーストなのだなと香子は思った。
そして、天を祀る場所である祈年殿の前へと移動した。祈谷壇には玄武は上らず、下から皇帝の祭祀を見守る形になる。
祈年殿の前にはいろいろな品物が並べられていた。全て食物のように、香子には見えた。
皇帝は着替えをしてから現れた。
香子も本当は着替えをするように言われていたが、それはさすがに拒否した。祭祀を行うのは皇帝であって香子ではないからだった。香子はあくまで傍観者である。一番近くで祭祀を見たいというだけであった。
皇帝が祈年殿に向かって何やら唱え始めたが、残念ながら聞こえなかった。
中国ドラマなどでは何を言っているか聞こえるものなのだろうが、これはドラマではなく現実である。
『香子、姿を変えるぞ』
『え?』
これで終りかと香子が思った頃、それまで黙っていた玄武が呟くように言い、一瞬でその姿を変えた。
『えええええ?』
祈谷壇と門の間を埋めるように、でかい亀が現れた。それもただのでかい亀ではない。その亀には蛇が二匹絡みついていて、その蛇は亀の甲羅の上に乗った香子を支えるように香子にも絡みついた。
『え? ええ? これも、玄武、様なのですよね?』
香子はそっと蛇に掴まるようにした。蛇は気持ちよさそうに更に巻き付いてきた。玄武には二匹の蛇がついていたことを、香子はやっと思い出した。
『香子、それもまた我だ』
『そう、なのですね……』
香子は玄武の本性を明るいところで見たことに驚きはしたが、それと同時に嬉しさも感じた。
以前見た時は暗い中だったからよく見えなかったのだ。
『玄武様の本性も、とても素敵ですね!』
『……かようなことを言われたのは初めてだ』
玄武のいつもより低いバリトンが嬉しそうに響く。
その光景を見ていた皇帝は驚愕に目を見開き、神官たちは『ありがたいことでございます!』と言いながら平伏し、付き従っていた延夕玲はふらりと倒れかけて青藍に支えられていた。
だがそんなことには玄武と香子はついぞ気づかなかったのである。
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やっと大祭! 長かったーーー!
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