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第4部 四神を愛しなさいと言われました
41.輿には乗って戻りました
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また輿に乗って、玄武と香子は天壇を後にした。
香子は張錦飛に一言何か伝えたいとは思ったが、相手は四神の神官である。ここで声をかけてはいけない気がしたので我慢した。また落ち着けば張は書を教えに来てくれるはずである。それを待とうと香子は思ったのだった。
着替えを終えて戻ってきた皇帝は疲れた顔をしていた。玄武の本性を見たからだろうが、珍しい顔だなと香子は思った。
声をかけたりはしない。
神官に先導されて元来た道を戻り、輿に乗った。
すでに太陽はそれなりに高い位置まで上っている。とはいえ冬の太陽だ。なんとなく光も寒々しい。
(暖石がなかったらとても耐えられないよね……)
玄武の腕の中、香子はそんなことをぼんやり思う。眷属はいつも通りの恰好ではあるが、女官である延夕玲や、付き従っている侍従や侍女はそれなりに暖かい恰好はしている。しかし神官は薄着と言ってもよかった。彼らもしっかり暖石は持っているのだと、香子は張に聞いてはいたがそれでも心配である。
(私、考えすぎかしら?)
頭の中が暇なのかもしれないとも、香子は思った。
帰りの道程には、道の脇に民衆たちの姿が見えた。爆竹は鳴っていたが、さすがに朝の早い時間に待つなんてことはしなかったらしい。香子はほっとした。今も爆竹の音が至るところから聞こえてくる。新年なのだなと香子はやっと実感した。
この時期の北京は日中でも氷点下である。そんな寒い中輿が通るのを待たせるのは嫌だった。
『人がいますね』
『そうだな。奇特なことだ』
『皇帝や、玄武様のお姿が見たいのでしょう』
『そなたのことを見たいのだろう』
『そんなわけ、ないじゃないですか……』
玄武の腕に包まれたまま、香子はくすくすと笑った。みな一目皇帝の姿や、玄武の姿が見たいに違いなかった。香子は自分がオマケだと思っている。実際のところ行列を見ている民衆は、玄武と花嫁の仲睦まじい姿を見たがっていた。四神と花嫁の関係がよければよいほど災害なども起こりづらくなる。そのことは民衆もよく理解していた。
けれどそれを香子が知ることはない。
輿はゆっくりと進み、そのまま王城まで戻った。玄武の腕に抱かれたまま輿を下りる。夕玲はほっとした顔をしていた。輿の中から消えているのではないかと心配していたのだろう。こんな若い娘に心労をかけてはいけないと香子は思った。
皇帝が何やら言いたそうな顔をしていたが、香子はかまわなかった。
『我らはこのまま四神宮に戻る』
『かしこまりました』
白雲が答えた。今日玄武と香子に付き従ってきたのは、白雲、青藍、黒月、夕玲、そして侍女頭と一部の侍女たちである。彼らは歩いて四神宮に戻るのだ。
玄武は軽く頷くと、香子を抱いて四神宮の己の室へと跳んだ。
『っはー……この移動っていつもどきどきします』
香子は玄武の腕の中からきょろきょろと周りを見て、そう呟いた。玄武が跳んだ先は寝室である。どうして居間に跳んでくれないのかと香子は内心ため息をついた。四神は本当に素直すぎる。
『そろそろ慣れてもいいのではないか?』
『自分にできないことなんですから慣れませんよ!』
玄武がそれにククッと喉で笑う。その音も好きだと、香子は笑んだ。
『香子』
『お昼ご飯まであとどれぐらいですか?』
玄武に当たり前のように床へ下ろされそうになり、香子は待ったをかけた。油断も隙もあったものではない。
『……聞いてみよう』
玄武はため息をついた。それもまた面白いと香子は思う。四神は香子に出会って、いろいろ人らしい仕草などをするようになった。その感情がわかりやすくなったのが、香子としては嬉しい。
『あと半刻程のようだな』
『それなら、お茶にしましょう』
香子は笑んだ。
『用意させればよいか』
『お願いします』
今はまだ白雲たちは四神宮に向かっている途中であるから、紅夏たちに声をかけてもらうよう香子は頼んだ。念話というのは一方的ではあるがなかなかに便利である。玄武はしぶしぶではあったが居間に移動した。
長椅子に腰掛ける。香子はもちろんその腕の中だ。
ほどなくして侍女がお茶を運んできた。一部の侍女は四神宮にいる。新年、侍女のほとんどは交替で休みを取ることになっていた。
『ありがとう』
礼を言えば恐縮された。香子の身分がどんなに高くても、してもらったことに対して礼を言うのは当たり前だと香子は思っているが、そういうものではないというのが香子は未だに慣れない。侍女はお茶を淹れてから、おそるおそる声をかけてきた。
『花嫁様、おそれながら申し上げます。昼食の前にはどうかお召し替えをしていただきたいので、改めてお声掛けをしてもよろしいでしょうか?』
『あ、そうね。この恰好でお昼ご飯はないわよね。悪いけどその時になったら声をかけてちょうだい』
『諾』(はい)
確かにこの余所行きの衣裳で昼食はないと香子は納得した。侍女が辞してから、香子は玄武を眺めた。
『玄武様も衣裳替えをされた方がいいかもしれませんね』
『面倒なことだ』
そう言いながらも玄武も後ほど着替えをすると言う。そんなところも素敵だと、香子は玄武に惚れ直したのだった。
香子は張錦飛に一言何か伝えたいとは思ったが、相手は四神の神官である。ここで声をかけてはいけない気がしたので我慢した。また落ち着けば張は書を教えに来てくれるはずである。それを待とうと香子は思ったのだった。
着替えを終えて戻ってきた皇帝は疲れた顔をしていた。玄武の本性を見たからだろうが、珍しい顔だなと香子は思った。
声をかけたりはしない。
神官に先導されて元来た道を戻り、輿に乗った。
すでに太陽はそれなりに高い位置まで上っている。とはいえ冬の太陽だ。なんとなく光も寒々しい。
(暖石がなかったらとても耐えられないよね……)
玄武の腕の中、香子はそんなことをぼんやり思う。眷属はいつも通りの恰好ではあるが、女官である延夕玲や、付き従っている侍従や侍女はそれなりに暖かい恰好はしている。しかし神官は薄着と言ってもよかった。彼らもしっかり暖石は持っているのだと、香子は張に聞いてはいたがそれでも心配である。
(私、考えすぎかしら?)
頭の中が暇なのかもしれないとも、香子は思った。
帰りの道程には、道の脇に民衆たちの姿が見えた。爆竹は鳴っていたが、さすがに朝の早い時間に待つなんてことはしなかったらしい。香子はほっとした。今も爆竹の音が至るところから聞こえてくる。新年なのだなと香子はやっと実感した。
この時期の北京は日中でも氷点下である。そんな寒い中輿が通るのを待たせるのは嫌だった。
『人がいますね』
『そうだな。奇特なことだ』
『皇帝や、玄武様のお姿が見たいのでしょう』
『そなたのことを見たいのだろう』
『そんなわけ、ないじゃないですか……』
玄武の腕に包まれたまま、香子はくすくすと笑った。みな一目皇帝の姿や、玄武の姿が見たいに違いなかった。香子は自分がオマケだと思っている。実際のところ行列を見ている民衆は、玄武と花嫁の仲睦まじい姿を見たがっていた。四神と花嫁の関係がよければよいほど災害なども起こりづらくなる。そのことは民衆もよく理解していた。
けれどそれを香子が知ることはない。
輿はゆっくりと進み、そのまま王城まで戻った。玄武の腕に抱かれたまま輿を下りる。夕玲はほっとした顔をしていた。輿の中から消えているのではないかと心配していたのだろう。こんな若い娘に心労をかけてはいけないと香子は思った。
皇帝が何やら言いたそうな顔をしていたが、香子はかまわなかった。
『我らはこのまま四神宮に戻る』
『かしこまりました』
白雲が答えた。今日玄武と香子に付き従ってきたのは、白雲、青藍、黒月、夕玲、そして侍女頭と一部の侍女たちである。彼らは歩いて四神宮に戻るのだ。
玄武は軽く頷くと、香子を抱いて四神宮の己の室へと跳んだ。
『っはー……この移動っていつもどきどきします』
香子は玄武の腕の中からきょろきょろと周りを見て、そう呟いた。玄武が跳んだ先は寝室である。どうして居間に跳んでくれないのかと香子は内心ため息をついた。四神は本当に素直すぎる。
『そろそろ慣れてもいいのではないか?』
『自分にできないことなんですから慣れませんよ!』
玄武がそれにククッと喉で笑う。その音も好きだと、香子は笑んだ。
『香子』
『お昼ご飯まであとどれぐらいですか?』
玄武に当たり前のように床へ下ろされそうになり、香子は待ったをかけた。油断も隙もあったものではない。
『……聞いてみよう』
玄武はため息をついた。それもまた面白いと香子は思う。四神は香子に出会って、いろいろ人らしい仕草などをするようになった。その感情がわかりやすくなったのが、香子としては嬉しい。
『あと半刻程のようだな』
『それなら、お茶にしましょう』
香子は笑んだ。
『用意させればよいか』
『お願いします』
今はまだ白雲たちは四神宮に向かっている途中であるから、紅夏たちに声をかけてもらうよう香子は頼んだ。念話というのは一方的ではあるがなかなかに便利である。玄武はしぶしぶではあったが居間に移動した。
長椅子に腰掛ける。香子はもちろんその腕の中だ。
ほどなくして侍女がお茶を運んできた。一部の侍女は四神宮にいる。新年、侍女のほとんどは交替で休みを取ることになっていた。
『ありがとう』
礼を言えば恐縮された。香子の身分がどんなに高くても、してもらったことに対して礼を言うのは当たり前だと香子は思っているが、そういうものではないというのが香子は未だに慣れない。侍女はお茶を淹れてから、おそるおそる声をかけてきた。
『花嫁様、おそれながら申し上げます。昼食の前にはどうかお召し替えをしていただきたいので、改めてお声掛けをしてもよろしいでしょうか?』
『あ、そうね。この恰好でお昼ご飯はないわよね。悪いけどその時になったら声をかけてちょうだい』
『諾』(はい)
確かにこの余所行きの衣裳で昼食はないと香子は納得した。侍女が辞してから、香子は玄武を眺めた。
『玄武様も衣裳替えをされた方がいいかもしれませんね』
『面倒なことだ』
そう言いながらも玄武も後ほど着替えをすると言う。そんなところも素敵だと、香子は玄武に惚れ直したのだった。
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