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第1部 四神と結婚しろと言われました
23.止まらぬ想い(朱雀・玄武視点)
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香子の泣き叫ぶ声が力を失い嗚咽のみになった頃、玄武がすっと席を立つ。その場にいる者たちが見守る中、玄武は自然な所作で香子を抱き上げると謁見の間を後にした。
玄武も朱雀も以前の花嫁が現れた時のことを鮮明に覚えていた。
彼女は召喚される前とてもつらい生活を強いられていたという。それなのに時折元の世界に残してきた家族を思って泣くこともあった。
だから元の世界で幸せに暮らしていたであろう香子が、いきなり見知らぬ世界に連れて来られて平気なはずはない。事は荷物一つだけのことではないのだ。
御史たちはどうしたらいいのかわからず、ただただ震えながら頭を地板に擦りつけるばかりである。
『……人間というのはまことに愚かなものよ……』
朱雀がため息交じりに呟く。それに彼らは更に大きく身を震わせた。
『御史大夫とやらに伝えよ。今後一切我らの前に顔を見せることは許さぬとな』
『し、承知しました!!』
御史たちは転げるように逃げ帰っていった。
小物こそろくなことを考えない。
玄武の眷族である黒月は玄武が出て行った方を見つめていたが、着いていけるような雰囲気ではなかった為どうしようか考えあぐねているようだった。
『黒月、玄武兄より沙汰があるまで我に仕えよ』
『……承知しました』
不服さを隠せないところは玄武が眷族に無関心なことと、混血が進んだ結果であろうと朱雀は考える。
よくも悪くも玄武は一途だった。
ただ一途に相手を想い続けたが故に、前の花嫁に次代を産んでもらうことができなかった。
(こたびこそは想いが叶うといいが……)
『戻るぞ』
朱雀が席を立つ。それに白虎、青龍、そしてその眷族たちが続いた。
* *
玄武は香子が抱えた荷物もまとめて一緒にすっぽりとその腕に収め、香子の部屋に足を踏み入れた。
手前の居間を横切り臥室(寝室)に入る。未だ流れ続ける涙をぬぐいながら、香子を床に下ろそうとすると香子はいやいやをするように首を振った。
『白香、大丈夫だ。我はここにいる』
優しく囁くと、香子の肩が震えた。
『……玄武、さま……?』
確認するように言って、香子は腕の中の荷物が落ちるのもかまわず玄武に縋りついた。それを玄武は優しく受け止める。
密着すると香子から甘い香りがほのかにして、玄武は狼狽した。
これまで長い時を生きてきて、玄武が自分の性欲を自覚したのはこれで二人目だった。
もちろん気は進まないまでも乞われれば人間の女性を相手にしたことはある。けれどここまで強烈に『欲しい』と思ったのは久しぶりだった。
(異世界からの花嫁は我らを夢中にさせる何かがあるのだな……)
現に朱雀はすでに香子を片時も離したくないほどの溺愛ぶりである。そんな朱雀の様子を見て、玄武は自分たちのことはどうでもいいと思っていた。
けれど今、この腕の中にいる存在が欲しくてたまらない。
(白虎兄、青龍兄も彼女をこんな風に求めたのだろうか……)
今は亡き四神を思い、長袍の袖の部分でまだ時折こぼれる涙をぬぐう。
『いろいろなことがあって疲れたであろう、少し眠るといい。そなたが眠るまでついておるから……』
そう言ってそっと香子の体を再び床に下ろそうとしたが、香子は離れようとしなかった。
心細いのであろうことはわかるが、このまま抱きしめ続けていたら昨夜の朱雀のように口づけてしまいそうだと玄武は思う。
『白香……そうやってくっついておると、襲ってしまうぞ……?』
きっと弾かれたように玄武の腕から逃れるであろうことを予想していたが、よほど参っていたのか、香子は伸び上って玄武の首にその細い両腕を絡めた。
『白香……』
玄武は己の声が上ずっていないかどうか確認するだけで精いっぱいだった。そして嘆息する。
『……本当にいいのだな?』
弱っているところにつけ込むような真似をしている自覚はあったが、ここで頷かれたらもう止まれないだろうと玄武は思った。
玄武も朱雀も以前の花嫁が現れた時のことを鮮明に覚えていた。
彼女は召喚される前とてもつらい生活を強いられていたという。それなのに時折元の世界に残してきた家族を思って泣くこともあった。
だから元の世界で幸せに暮らしていたであろう香子が、いきなり見知らぬ世界に連れて来られて平気なはずはない。事は荷物一つだけのことではないのだ。
御史たちはどうしたらいいのかわからず、ただただ震えながら頭を地板に擦りつけるばかりである。
『……人間というのはまことに愚かなものよ……』
朱雀がため息交じりに呟く。それに彼らは更に大きく身を震わせた。
『御史大夫とやらに伝えよ。今後一切我らの前に顔を見せることは許さぬとな』
『し、承知しました!!』
御史たちは転げるように逃げ帰っていった。
小物こそろくなことを考えない。
玄武の眷族である黒月は玄武が出て行った方を見つめていたが、着いていけるような雰囲気ではなかった為どうしようか考えあぐねているようだった。
『黒月、玄武兄より沙汰があるまで我に仕えよ』
『……承知しました』
不服さを隠せないところは玄武が眷族に無関心なことと、混血が進んだ結果であろうと朱雀は考える。
よくも悪くも玄武は一途だった。
ただ一途に相手を想い続けたが故に、前の花嫁に次代を産んでもらうことができなかった。
(こたびこそは想いが叶うといいが……)
『戻るぞ』
朱雀が席を立つ。それに白虎、青龍、そしてその眷族たちが続いた。
* *
玄武は香子が抱えた荷物もまとめて一緒にすっぽりとその腕に収め、香子の部屋に足を踏み入れた。
手前の居間を横切り臥室(寝室)に入る。未だ流れ続ける涙をぬぐいながら、香子を床に下ろそうとすると香子はいやいやをするように首を振った。
『白香、大丈夫だ。我はここにいる』
優しく囁くと、香子の肩が震えた。
『……玄武、さま……?』
確認するように言って、香子は腕の中の荷物が落ちるのもかまわず玄武に縋りついた。それを玄武は優しく受け止める。
密着すると香子から甘い香りがほのかにして、玄武は狼狽した。
これまで長い時を生きてきて、玄武が自分の性欲を自覚したのはこれで二人目だった。
もちろん気は進まないまでも乞われれば人間の女性を相手にしたことはある。けれどここまで強烈に『欲しい』と思ったのは久しぶりだった。
(異世界からの花嫁は我らを夢中にさせる何かがあるのだな……)
現に朱雀はすでに香子を片時も離したくないほどの溺愛ぶりである。そんな朱雀の様子を見て、玄武は自分たちのことはどうでもいいと思っていた。
けれど今、この腕の中にいる存在が欲しくてたまらない。
(白虎兄、青龍兄も彼女をこんな風に求めたのだろうか……)
今は亡き四神を思い、長袍の袖の部分でまだ時折こぼれる涙をぬぐう。
『いろいろなことがあって疲れたであろう、少し眠るといい。そなたが眠るまでついておるから……』
そう言ってそっと香子の体を再び床に下ろそうとしたが、香子は離れようとしなかった。
心細いのであろうことはわかるが、このまま抱きしめ続けていたら昨夜の朱雀のように口づけてしまいそうだと玄武は思う。
『白香……そうやってくっついておると、襲ってしまうぞ……?』
きっと弾かれたように玄武の腕から逃れるであろうことを予想していたが、よほど参っていたのか、香子は伸び上って玄武の首にその細い両腕を絡めた。
『白香……』
玄武は己の声が上ずっていないかどうか確認するだけで精いっぱいだった。そして嘆息する。
『……本当にいいのだな?』
弱っているところにつけ込むような真似をしている自覚はあったが、ここで頷かれたらもう止まれないだろうと玄武は思った。
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