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第1部 四神と結婚しろと言われました
71.懸念(趙視点)
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午前中にやってきた王英明に、趙文英は香子の提案を伝えた。
王はそれに少し考えるような顔をしたが、それほど時間を置かずに頷いた。
『……中書令に伝えておこう。しかしそれにしても、随分と欲のないお方だな……』
『私もそう思う』
趙も同意して笑んだ。
女性というのは基本装飾品や高価な衣類をいくらでも求めるものというイメージがあるだけに、香子の提案は意外だった。
『ただ、四神宮に仕える者の給金に上乗せするというのは意外な考え方だ。詳しくお尋ねするようにと言われるやもしれん』
『そうですね……その時はまたお尋ねしてまとめましょう』
趙としてもそれは詳しく聞きたいと思っていたところだ。
この国では給金が身分や職種、勤めた年数によって決められている。扶養家族の数によって手当が出ることもあるがまれである。その為子どもが多すぎて食べていけなくなるという家族もある。そういう家族は都市部に口減らしの為に子どもを捨てるということもままあった。おかげで都市部にはそういった子どもを育てる為の孤児院があり、社会的な問題にもなっている。
まだ趙は独身だが妻帯者からお金がかかってたいへんという話を何度も耳にしていた。いろいろ話を聞いているだけでこのまま独身でもいいかもしれないと思うのは若者の常である。
(白香様のような女性であれば……)
赤い髪はいただけないが、あの聡明さは理想だった。きっと香子が側にいれば、毎日が楽しいに違いない。
そこまで考えて趙は軽く首を振った。
(何を馬鹿な……)
おそれおおくも香子は四神の花嫁である。懸想していいわけがなかった。
王が持ってきた贈り物の目録を見て嘆息する。昨日の今日だというのにもういくつも届いていた。
しかも王がとんでもない話まで持ってきた。
なんと、四神に花嫁が現れたという話を聞いた皇太后が王都にやってくるという。
皇太后の四神好きは有名であった。すでに遷都してから何百年も経っているというのに、前の皇帝が御隠れになってからわざわざ西の地である洛陽に居を移したのは、少しでも四神のそばにいたかったからという理由に他ならない。
しかもすでに出発しているというから、おそらく神殿にも皇太后の息のかかった者が入っているということが窺えた。
(早ければ半月……どんなに遅くても一月はかかるまい)
その為急遽室を整えたり出迎えの準備をする必要があり、すでに宮廷中が浮足立っていた。
四神宮には関係ないことなので特になんの準備もする必要はないが、皇太后がいる間晩餐会に一度ぐらいは四神や香子も出席する機会があるに違いない。
(何事もなければいいが……)
趙は皇太后の人となりは知らない。王や中書令から聞いた話によると、皇族の中には神を侮る者も少なからず存在するという。
平和な時代が長く続いているということも影響しているのだろうが、神は絶対的なものだと教えられて育った趙からすればなんともおそれおおいことだ。
長い歴史の中では、神の怒りをかって滅ぼされた国もある。それはさまざまな研究により花嫁に関連するのではないかと言われているぐらいだ。
昨日の景山のことで花嫁というのは諸刃の剣であるということを趙は理解した。四神にとって優先されるものは花嫁であり、それを害そうとする者があれば存在を消されてしまうだろう。昨日の件は王が上に話してくれたらしいが、やはり中書令はご存知であったらしい。
『花嫁の希望をできるだけ叶えつつ、四神の眷族と連携をはかれ』というお達しがあった。
皇帝もまた一番の脅威は香子であると正しく理解しているようだった。
午後は景山に足を伸ばす予定だろうか。一応準備をしつつ、昼食前に尋ねることにした。
王はそれに少し考えるような顔をしたが、それほど時間を置かずに頷いた。
『……中書令に伝えておこう。しかしそれにしても、随分と欲のないお方だな……』
『私もそう思う』
趙も同意して笑んだ。
女性というのは基本装飾品や高価な衣類をいくらでも求めるものというイメージがあるだけに、香子の提案は意外だった。
『ただ、四神宮に仕える者の給金に上乗せするというのは意外な考え方だ。詳しくお尋ねするようにと言われるやもしれん』
『そうですね……その時はまたお尋ねしてまとめましょう』
趙としてもそれは詳しく聞きたいと思っていたところだ。
この国では給金が身分や職種、勤めた年数によって決められている。扶養家族の数によって手当が出ることもあるがまれである。その為子どもが多すぎて食べていけなくなるという家族もある。そういう家族は都市部に口減らしの為に子どもを捨てるということもままあった。おかげで都市部にはそういった子どもを育てる為の孤児院があり、社会的な問題にもなっている。
まだ趙は独身だが妻帯者からお金がかかってたいへんという話を何度も耳にしていた。いろいろ話を聞いているだけでこのまま独身でもいいかもしれないと思うのは若者の常である。
(白香様のような女性であれば……)
赤い髪はいただけないが、あの聡明さは理想だった。きっと香子が側にいれば、毎日が楽しいに違いない。
そこまで考えて趙は軽く首を振った。
(何を馬鹿な……)
おそれおおくも香子は四神の花嫁である。懸想していいわけがなかった。
王が持ってきた贈り物の目録を見て嘆息する。昨日の今日だというのにもういくつも届いていた。
しかも王がとんでもない話まで持ってきた。
なんと、四神に花嫁が現れたという話を聞いた皇太后が王都にやってくるという。
皇太后の四神好きは有名であった。すでに遷都してから何百年も経っているというのに、前の皇帝が御隠れになってからわざわざ西の地である洛陽に居を移したのは、少しでも四神のそばにいたかったからという理由に他ならない。
しかもすでに出発しているというから、おそらく神殿にも皇太后の息のかかった者が入っているということが窺えた。
(早ければ半月……どんなに遅くても一月はかかるまい)
その為急遽室を整えたり出迎えの準備をする必要があり、すでに宮廷中が浮足立っていた。
四神宮には関係ないことなので特になんの準備もする必要はないが、皇太后がいる間晩餐会に一度ぐらいは四神や香子も出席する機会があるに違いない。
(何事もなければいいが……)
趙は皇太后の人となりは知らない。王や中書令から聞いた話によると、皇族の中には神を侮る者も少なからず存在するという。
平和な時代が長く続いているということも影響しているのだろうが、神は絶対的なものだと教えられて育った趙からすればなんともおそれおおいことだ。
長い歴史の中では、神の怒りをかって滅ぼされた国もある。それはさまざまな研究により花嫁に関連するのではないかと言われているぐらいだ。
昨日の景山のことで花嫁というのは諸刃の剣であるということを趙は理解した。四神にとって優先されるものは花嫁であり、それを害そうとする者があれば存在を消されてしまうだろう。昨日の件は王が上に話してくれたらしいが、やはり中書令はご存知であったらしい。
『花嫁の希望をできるだけ叶えつつ、四神の眷族と連携をはかれ』というお達しがあった。
皇帝もまた一番の脅威は香子であると正しく理解しているようだった。
午後は景山に足を伸ばす予定だろうか。一応準備をしつつ、昼食前に尋ねることにした。
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