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第1部 四神と結婚しろと言われました
86.宮廷内は広すぎます
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薄いとはいえ布を何枚も重ねられた衣装は動きづらく重く感じられる。香子が常に四神に抱き上げられて移動することを考慮して、髪飾りの簪は少なめではあるが、それでも貴重な玉等を使われている為けっこう重い。
皇帝という立場上こちらにやってくるということができないことは理解できるがやはり納得がいかない。やっと身支度が終り部屋を出ると、すぐに玄武によって抱き上げられてしまった。
景山に行った時と同じく王と趙が先導し、その後に香子を抱き上げた玄武、三神、眷族が続く。宮廷内を移動するだけなので付き添ってくれる侍女の数が少ないのにはほっとした。四神宮を出ていくつか角を曲がるともう香子は道がわからなくなった。ただでさえ似たような建物が並んでいるのに回廊の柱の色等も同じなのである。
(一人になるということはまずないだろうけど……)
四神が人の中で香子を下ろすとは考えづらい。それでも帰り道がわからないというのはなんとなく不安で、香子は玄武の長袍をぎゅっと掴んだ。
しばらく進むとちらほらと官吏や侍女たちの姿を見ることができた。彼らは四神の姿を見ると一様に道を開け、邪魔にならない場所で平伏した。それを見て香子は目を丸くし、そして自分を抱き上げている玄武を見やる。
『香子、どうかしたのか?』
『いいえなんでも……』
自分の前ではけっこう情けない面もあるけどやはり神様なのだなと思っただけである。とんでもなく失礼なのは間違いないが、こんな身近に神様がいたことなどなかったので実感が湧きづらいことは確かだった。
十分ぐらい歩いただろうか、やっとなにかの門の前に着いた。
王が門の前に立ち朗々と呼びかける。
『中書主書、王英明。四神宮主官趙文英、四神並びに花嫁様をお連れした。開門願う』
ということはここが皇帝の執務室の手前の門ということか。門はすぐに開き、王と趙は先に門をくぐった。四神と眷族がその後に続く。
わざわざ門があるということは、もう皇帝のプライベードゾーンに近いのだろうと推測する。侍女に案内されて回廊を進み、ある室の前で侍女が立ち止まった。
趙と王がさっと横に避ける。
『どうぞ、こちらへ』
玄武はためらいもなく開かれた室に足を踏み入れた。
皇帝と中書令らしき者がさっと立ち上がる。
『ご足労いただき申し訳ない』
全然申し訳なさそうでもない表情で皇帝が隣の室に香子たちを促す。玄武に抱き上げられている香子を見ても眉一つ動かさない様子から、やはり皇帝は四神と花嫁の関係を正しく理解しているのだなと香子は思った。
隣の室は応接間のようだった。部屋の壁際に椅子が並べられ、奥まったところには卓が置かれその両隣に幅広の椅子が設置されている。対面式ではなく横に並べた状態だ。
その片方に座るよう玄武を促し、卓を挟んだ隣の席に皇帝が腰掛けた。
(まぁ対面に座ると喧嘩になりやすいとはいうよね)
対面というのはお互いが正反対な方角に座る為敵対関係になりやすいと前に聞いたことがあった。対面で座るのは主に交渉事に関わる場合ぐらいで、中国でのカップルは主に横並びで座っていたように思う。
そんなことを考えている間に侍女がお茶を運んできた。椅子に腰かけた状態でも玄武の腕に抱かれている香子に一瞬眉をひそめたが、すぐに平静を装って蓋椀(蓋のついた茶器)を三つ卓に置く。
他の者たちにどう思われようが、人前で四神の腕から抜け出すわけにはいかないのがつらいところだ。
(しょうがないじゃんねー)
香子は仕方なく茶器に目を落とす。
全員に蓋椀がいきわたったところで皇帝が茶器を持ち上げた。
それにならって香子も茶器を持つ。蓋椀はけっこう熱いので親指と中指で茶器を挟み、人差し指で蓋をずらして茶葉がこぼれないようにお茶を飲んだ。
もう少しお湯が冷めれば片手で茶器を支え、もう片方の手で蓋をずらして飲むのだが入れたばかりというのは熱すぎてうまく持てない。茶托も陶磁器製なのでそこらへんが困るところである。
問題はその後だった。
皇帝という立場上こちらにやってくるということができないことは理解できるがやはり納得がいかない。やっと身支度が終り部屋を出ると、すぐに玄武によって抱き上げられてしまった。
景山に行った時と同じく王と趙が先導し、その後に香子を抱き上げた玄武、三神、眷族が続く。宮廷内を移動するだけなので付き添ってくれる侍女の数が少ないのにはほっとした。四神宮を出ていくつか角を曲がるともう香子は道がわからなくなった。ただでさえ似たような建物が並んでいるのに回廊の柱の色等も同じなのである。
(一人になるということはまずないだろうけど……)
四神が人の中で香子を下ろすとは考えづらい。それでも帰り道がわからないというのはなんとなく不安で、香子は玄武の長袍をぎゅっと掴んだ。
しばらく進むとちらほらと官吏や侍女たちの姿を見ることができた。彼らは四神の姿を見ると一様に道を開け、邪魔にならない場所で平伏した。それを見て香子は目を丸くし、そして自分を抱き上げている玄武を見やる。
『香子、どうかしたのか?』
『いいえなんでも……』
自分の前ではけっこう情けない面もあるけどやはり神様なのだなと思っただけである。とんでもなく失礼なのは間違いないが、こんな身近に神様がいたことなどなかったので実感が湧きづらいことは確かだった。
十分ぐらい歩いただろうか、やっとなにかの門の前に着いた。
王が門の前に立ち朗々と呼びかける。
『中書主書、王英明。四神宮主官趙文英、四神並びに花嫁様をお連れした。開門願う』
ということはここが皇帝の執務室の手前の門ということか。門はすぐに開き、王と趙は先に門をくぐった。四神と眷族がその後に続く。
わざわざ門があるということは、もう皇帝のプライベードゾーンに近いのだろうと推測する。侍女に案内されて回廊を進み、ある室の前で侍女が立ち止まった。
趙と王がさっと横に避ける。
『どうぞ、こちらへ』
玄武はためらいもなく開かれた室に足を踏み入れた。
皇帝と中書令らしき者がさっと立ち上がる。
『ご足労いただき申し訳ない』
全然申し訳なさそうでもない表情で皇帝が隣の室に香子たちを促す。玄武に抱き上げられている香子を見ても眉一つ動かさない様子から、やはり皇帝は四神と花嫁の関係を正しく理解しているのだなと香子は思った。
隣の室は応接間のようだった。部屋の壁際に椅子が並べられ、奥まったところには卓が置かれその両隣に幅広の椅子が設置されている。対面式ではなく横に並べた状態だ。
その片方に座るよう玄武を促し、卓を挟んだ隣の席に皇帝が腰掛けた。
(まぁ対面に座ると喧嘩になりやすいとはいうよね)
対面というのはお互いが正反対な方角に座る為敵対関係になりやすいと前に聞いたことがあった。対面で座るのは主に交渉事に関わる場合ぐらいで、中国でのカップルは主に横並びで座っていたように思う。
そんなことを考えている間に侍女がお茶を運んできた。椅子に腰かけた状態でも玄武の腕に抱かれている香子に一瞬眉をひそめたが、すぐに平静を装って蓋椀(蓋のついた茶器)を三つ卓に置く。
他の者たちにどう思われようが、人前で四神の腕から抜け出すわけにはいかないのがつらいところだ。
(しょうがないじゃんねー)
香子は仕方なく茶器に目を落とす。
全員に蓋椀がいきわたったところで皇帝が茶器を持ち上げた。
それにならって香子も茶器を持つ。蓋椀はけっこう熱いので親指と中指で茶器を挟み、人差し指で蓋をずらして茶葉がこぼれないようにお茶を飲んだ。
もう少しお湯が冷めれば片手で茶器を支え、もう片方の手で蓋をずらして飲むのだが入れたばかりというのは熱すぎてうまく持てない。茶托も陶磁器製なのでそこらへんが困るところである。
問題はその後だった。
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