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第1部 四神と結婚しろと言われました
87.皇帝との会話は疲れます
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お茶を一口飲んで、香子は複雑な表情をした。
(リプトン紅茶の味がする……)
この味には心当たりがあった。別にリプトンのティーバッグが悪いわけではない。ただこれが有名なキーマンティーだと言って出された時、味がリプトンのティーバッグで抽出されたものと同一だったらどうだろうということだ。
つまりはなんだかがっかりなんである。
そしてなんだか煙臭いような気がする。
(うーん……質がよくないなー、これ)
香子は眉を寄せた。こんなものを皇帝に飲ませていいものなのだろうか。
『これ、祁門紅(キーマンティー)ですよね? どなたかからの贈り物ですか?』
そう聞くと皇帝は面白そうな表情をした。
『確かに祁門紅だが、何故そう思う』
『うーん……言っちゃなんですけど、これはあまり質がよくないか、製法を簡略化されたようにしか思えないのです』
『随分詳しいな』
『元の世界にもこのお茶はありましたから』
中国茶に関して香子はけっこううるさい。伊達に留学中にいろんなお茶を試し過ぎて食費ととんとんになってしまったわけではない(そんなことはえばれない)
『陸羽の親戚かと思ったぞ』
『名字が違いますし、うちの両親はそれほどお茶にこだわりません。これは私の趣味です』
『ほほう……』
皇帝は中書令に目配せしたが、それに香子は気付かなかった。
『茶を入れ直させよう』
皇帝がそう言うのに香子は『替えなくてけっこうです』と答えた。
『お茶葉がもったいないので、味が出なくなってから替えてもらえれば十分です』
それに皇帝と中書令は目を丸くした。
『ところで、何をお聞きになりたいのですか?』
香子は別に雑談をしに来たわけではない。
(つーかなんで私が皇帝なんかと顔突き合せて話をしなきゃなんないわけ?)
皇帝なんか、というのもひどい言い方だが、香子は封建社会に生まれ育ったわけではない。もちろん自国の天皇に会ったりしたら畏れ多いと感じるかもしれないけれども、何代目だかわからない皇帝に忠誠心なぞあろうはずがない。
『ああ、贈り物の中の不要品を金に変えて寄付したいという話であったな』
『ええ、孤児院とかお金に困っているところがあれば』
『それは本心か?』
窺うような眼差しを向けられたことに香子はいぶかしげな顔をする。
『どういう意味ですか?』
言ったことが本心でなければなんだというのだ。やっぱりそんなのもったいないからやめたわー、てへ☆ とか言ってほしいのだろうか。(ちなみに☆は重要です)
『いや……おそらく花嫁殿に送られたのは服や装飾品といったところだろう。とっておいても損はないと思うが』
『使わない物を手元に置くことほど無駄なことはないと思います。そもそも贈り物をいただく覚えもありません』
きっぱり言うと皇帝は笑った。
『それならば一切受け取らないという選択肢もあったのではないか?』
『最初はそれも検討しましたが、どうせなら受け取るだけ受け取って恵まれない人に回した方がいいかと思いまして』
『李雲よ、百官や後宮の女共に見習わせたいと思わぬか』
皇帝はまだ笑っている。香子をバカにしているわけではないだろうが、そんなにこの国は腐敗しているのだろうか。
『花嫁様は崇高な精神をお持ちでいらっしゃいますな』
しれっと答えたのは中書令だった。どうやら中書令の名前は李雲というらしい。そういえば皇帝の姓も李ではなかったか。
『それで、不要品の販路などはあるのでしょうか? 寄付先は?』
話を早く終らせたくて二人の科白は聞かなかったことにする。
『そこらへんは中書省に一任する。詳しくはのちほど李雲に尋ねるといい。それよりも、寄付の前に一部を四神宮に勤める者に分配するというのはどういうことか?』
(あー、やっぱりそっちかー……)
香子はげんなりした。
(リプトン紅茶の味がする……)
この味には心当たりがあった。別にリプトンのティーバッグが悪いわけではない。ただこれが有名なキーマンティーだと言って出された時、味がリプトンのティーバッグで抽出されたものと同一だったらどうだろうということだ。
つまりはなんだかがっかりなんである。
そしてなんだか煙臭いような気がする。
(うーん……質がよくないなー、これ)
香子は眉を寄せた。こんなものを皇帝に飲ませていいものなのだろうか。
『これ、祁門紅(キーマンティー)ですよね? どなたかからの贈り物ですか?』
そう聞くと皇帝は面白そうな表情をした。
『確かに祁門紅だが、何故そう思う』
『うーん……言っちゃなんですけど、これはあまり質がよくないか、製法を簡略化されたようにしか思えないのです』
『随分詳しいな』
『元の世界にもこのお茶はありましたから』
中国茶に関して香子はけっこううるさい。伊達に留学中にいろんなお茶を試し過ぎて食費ととんとんになってしまったわけではない(そんなことはえばれない)
『陸羽の親戚かと思ったぞ』
『名字が違いますし、うちの両親はそれほどお茶にこだわりません。これは私の趣味です』
『ほほう……』
皇帝は中書令に目配せしたが、それに香子は気付かなかった。
『茶を入れ直させよう』
皇帝がそう言うのに香子は『替えなくてけっこうです』と答えた。
『お茶葉がもったいないので、味が出なくなってから替えてもらえれば十分です』
それに皇帝と中書令は目を丸くした。
『ところで、何をお聞きになりたいのですか?』
香子は別に雑談をしに来たわけではない。
(つーかなんで私が皇帝なんかと顔突き合せて話をしなきゃなんないわけ?)
皇帝なんか、というのもひどい言い方だが、香子は封建社会に生まれ育ったわけではない。もちろん自国の天皇に会ったりしたら畏れ多いと感じるかもしれないけれども、何代目だかわからない皇帝に忠誠心なぞあろうはずがない。
『ああ、贈り物の中の不要品を金に変えて寄付したいという話であったな』
『ええ、孤児院とかお金に困っているところがあれば』
『それは本心か?』
窺うような眼差しを向けられたことに香子はいぶかしげな顔をする。
『どういう意味ですか?』
言ったことが本心でなければなんだというのだ。やっぱりそんなのもったいないからやめたわー、てへ☆ とか言ってほしいのだろうか。(ちなみに☆は重要です)
『いや……おそらく花嫁殿に送られたのは服や装飾品といったところだろう。とっておいても損はないと思うが』
『使わない物を手元に置くことほど無駄なことはないと思います。そもそも贈り物をいただく覚えもありません』
きっぱり言うと皇帝は笑った。
『それならば一切受け取らないという選択肢もあったのではないか?』
『最初はそれも検討しましたが、どうせなら受け取るだけ受け取って恵まれない人に回した方がいいかと思いまして』
『李雲よ、百官や後宮の女共に見習わせたいと思わぬか』
皇帝はまだ笑っている。香子をバカにしているわけではないだろうが、そんなにこの国は腐敗しているのだろうか。
『花嫁様は崇高な精神をお持ちでいらっしゃいますな』
しれっと答えたのは中書令だった。どうやら中書令の名前は李雲というらしい。そういえば皇帝の姓も李ではなかったか。
『それで、不要品の販路などはあるのでしょうか? 寄付先は?』
話を早く終らせたくて二人の科白は聞かなかったことにする。
『そこらへんは中書省に一任する。詳しくはのちほど李雲に尋ねるといい。それよりも、寄付の前に一部を四神宮に勤める者に分配するというのはどういうことか?』
(あー、やっぱりそっちかー……)
香子はげんなりした。
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