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第1部 四神と結婚しろと言われました
129.溺愛もほどほどにお願いします
香子の笑みに四神は目を奪われた。
決して香子は現状を楽観視しているわけではない。けれど彼女はよく笑う。
怒り、泣き、笑い、そして哀しみ、時に同情し、無知かと思えば鋭いことも言う。
『でもこの世界の為だなんて、そんな大仰なこと……』
『大仰ではない。現に玄武兄が落ち着いたことにより北の領地での吹雪が止んだというではないか。南の領地はまだわからぬが、何か変化があれば眷族が知らせてこよう』
朱雀の真摯な科白に香子は戸惑った。
『あのぅ……そういうことをしただけで……』
そこまで言って香子は赤くなり、口を押さえた。まだ彼らがいるのは食堂で、側には侍女たちも眷族もいる。
疑問として浮かんだ言葉がすぐ口から出てくるのをどうにかしたいと香子は思う。彼女の恥じらいに気付いたのは黒月だった。
『……失礼ですが、そういったお話は茶室に移動された方がよろしいかと』
黒月の科白に香子は助かったと思った。
『そうだな、そうしよう』
朱雀が玄武に目配せして言う。玄武もそれに心得たように立ち上がり、香子を軽々と抱き上げた。なんというかもう抱き上げられるのが当たり前になっていて自然と香子の腕が上がり、玄武の首に絡められる。毎回のことであるのだが、侍女たちはそれを見る度に顔がほころぶのを押さえるので精いっぱいだった。
茶室に移動すると侍女たちの仕事はそうそうない。湯と茶器、点心の準備をすると後は香子がお茶を入れるので茶室からは追い出されてしまうのが常だった。そうして彼女たちはいつも、茶室の中で自分たちの主人が何を話しているのか想像しては悶々とするのだった。
いつものようにお茶を入れて一息つく。
茶器は大そう熱を持つので、茶壺の蓋を押さえるのにある程度人差し指の爪は長くしておく必要があった。だが皇族や貴族の女性のように爪を伸ばす気にはなれない。香子は庶民である。爪を伸ばすのは特権階級のみの贅沢に他ならない。そういえば先日の贈り物の中に爪カバーのようなものを見つけて思わずため息をつきそうになってしまった。
(そういえば、あんなの売れるのかなぁ……?)
どれも贅沢そうな品ではあったから多少安めに出せば買う人がいそうなものだが、爪カバーとかはどうなのだろう。
そこまで考えて軽く首を振る。どうも余計なことを考えがちだ。
四神は基本香子を見ているだけで余計なことは言わない。先ほど言いかけたことを思い出して香子は再び赤くなった。
今回は紅夏と白雲が茶室の表に控えていた。
(聞くなら今しかないよねー……)
気にはなるのだ。
香子はただ玄武と朱雀に抱かれただけである。内容は「ただ」とは言えないほど濃密な物であったが、それでも別に誰とまず結婚すると決めたわけではないし、子どもを身ごもったわけでもない。
それなのに吹雪が止むなどやはり尋常ではない気がする。
このまま誰かに嫁ぐことを決めたなら、一体どうなってしまうのだろう。
香子は意を決して顔を上げた。
『あの……私は……その……ただ抱かれただけで……』
言いながらどんどん顔が熱を持つのを感じる。
『香子……そなたは気軽に誰にでも体を許すわけではあるまい? 我と朱雀と心を交わし初めてその身を委ねてくれた。そのことが何よりも尊いのだ』
そう言って玄武がそっと香子の手を取る。
そういえば玄武の心の安定がどうのとか言っていたような気がする。
(つまりは玄武様の気の持ちようってことー?)
極端に言えばそういうことなのかもしれない。
『香子、今宵もそなたを抱きたい……』
反対側から朱雀に囁かれてどぎまぎしてしまう。腰が砕けそうになるバリトンも、耳に甘いテノールも非常に危険だと香子は思う。
(あ、明日ぐらいはちゃんと起きたい……)
いいかげん日の光を浴びないと体が溶けてしまいそうだ。
しかしここではっきりと『今夜は嫌だ』というのも憚られる。
『あの……明日には馬遼さんのご家族がみえられると思いますし、できれば昭正公主の話も聞きたいので……』
それに朱雀が笑む。
『わかった、今宵は体にあまり負担がかからないようにしよう』
(……ちょっと待ってーーーーっっ!!)
そしてその夜も、香子は玄武と朱雀に甘く啼かされることになったのである。
決して香子は現状を楽観視しているわけではない。けれど彼女はよく笑う。
怒り、泣き、笑い、そして哀しみ、時に同情し、無知かと思えば鋭いことも言う。
『でもこの世界の為だなんて、そんな大仰なこと……』
『大仰ではない。現に玄武兄が落ち着いたことにより北の領地での吹雪が止んだというではないか。南の領地はまだわからぬが、何か変化があれば眷族が知らせてこよう』
朱雀の真摯な科白に香子は戸惑った。
『あのぅ……そういうことをしただけで……』
そこまで言って香子は赤くなり、口を押さえた。まだ彼らがいるのは食堂で、側には侍女たちも眷族もいる。
疑問として浮かんだ言葉がすぐ口から出てくるのをどうにかしたいと香子は思う。彼女の恥じらいに気付いたのは黒月だった。
『……失礼ですが、そういったお話は茶室に移動された方がよろしいかと』
黒月の科白に香子は助かったと思った。
『そうだな、そうしよう』
朱雀が玄武に目配せして言う。玄武もそれに心得たように立ち上がり、香子を軽々と抱き上げた。なんというかもう抱き上げられるのが当たり前になっていて自然と香子の腕が上がり、玄武の首に絡められる。毎回のことであるのだが、侍女たちはそれを見る度に顔がほころぶのを押さえるので精いっぱいだった。
茶室に移動すると侍女たちの仕事はそうそうない。湯と茶器、点心の準備をすると後は香子がお茶を入れるので茶室からは追い出されてしまうのが常だった。そうして彼女たちはいつも、茶室の中で自分たちの主人が何を話しているのか想像しては悶々とするのだった。
いつものようにお茶を入れて一息つく。
茶器は大そう熱を持つので、茶壺の蓋を押さえるのにある程度人差し指の爪は長くしておく必要があった。だが皇族や貴族の女性のように爪を伸ばす気にはなれない。香子は庶民である。爪を伸ばすのは特権階級のみの贅沢に他ならない。そういえば先日の贈り物の中に爪カバーのようなものを見つけて思わずため息をつきそうになってしまった。
(そういえば、あんなの売れるのかなぁ……?)
どれも贅沢そうな品ではあったから多少安めに出せば買う人がいそうなものだが、爪カバーとかはどうなのだろう。
そこまで考えて軽く首を振る。どうも余計なことを考えがちだ。
四神は基本香子を見ているだけで余計なことは言わない。先ほど言いかけたことを思い出して香子は再び赤くなった。
今回は紅夏と白雲が茶室の表に控えていた。
(聞くなら今しかないよねー……)
気にはなるのだ。
香子はただ玄武と朱雀に抱かれただけである。内容は「ただ」とは言えないほど濃密な物であったが、それでも別に誰とまず結婚すると決めたわけではないし、子どもを身ごもったわけでもない。
それなのに吹雪が止むなどやはり尋常ではない気がする。
このまま誰かに嫁ぐことを決めたなら、一体どうなってしまうのだろう。
香子は意を決して顔を上げた。
『あの……私は……その……ただ抱かれただけで……』
言いながらどんどん顔が熱を持つのを感じる。
『香子……そなたは気軽に誰にでも体を許すわけではあるまい? 我と朱雀と心を交わし初めてその身を委ねてくれた。そのことが何よりも尊いのだ』
そう言って玄武がそっと香子の手を取る。
そういえば玄武の心の安定がどうのとか言っていたような気がする。
(つまりは玄武様の気の持ちようってことー?)
極端に言えばそういうことなのかもしれない。
『香子、今宵もそなたを抱きたい……』
反対側から朱雀に囁かれてどぎまぎしてしまう。腰が砕けそうになるバリトンも、耳に甘いテノールも非常に危険だと香子は思う。
(あ、明日ぐらいはちゃんと起きたい……)
いいかげん日の光を浴びないと体が溶けてしまいそうだ。
しかしここではっきりと『今夜は嫌だ』というのも憚られる。
『あの……明日には馬遼さんのご家族がみえられると思いますし、できれば昭正公主の話も聞きたいので……』
それに朱雀が笑む。
『わかった、今宵は体にあまり負担がかからないようにしよう』
(……ちょっと待ってーーーーっっ!!)
そしてその夜も、香子は玄武と朱雀に甘く啼かされることになったのである。
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