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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
29.ありがちな展開になりました
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香子はできるだけ広間の真ん中で行われている催しと食事に意識を集中させるようにしていた。皇太后の視線は四神に向けられているもので、自分には関係ないと思うことにする。四神も香子もその場で食事をしているだけだからどちらへの視線かはわからない。ただ、この場にいる者たちの大半の視線は四神と香子、ほぼ均等に向けられているように感じられた。
(なーんか以前より感覚が鋭敏になっているような気がするんだよね。それとも自意識過剰?)
そうだったら恥ずかしいので香子は聞けないでいる。
実際四神が香子に触れるたびにその体は作り変わっているので五感にも全て変化はあるのだが、香子自身はほとんど自覚がなかった。
そしてその鋭敏になりつつある五感が、背後からの小さな声を拾った。
『あの……花嫁様……』
聞いたことのない女性の声である。香子は白虎の腕の中から少し身を乗り出すようにして背後を窺った。
白虎の後方一メートルぐらいのところで、まだ出仕して間もないような面持ちの少女が小さくなっている。その姿があまりにも場違いで、香子は軽く首を傾げた。
『何か?』
『……その……老佛爷がお呼びです……』
皇太后が? と思った時、
『人の身で四神の花嫁を呼びつけるとは何事か!』
『ひっ……も、申し訳ありませ……』
玄武の後ろに控えていたはずの黒月がいつのまにかすぐ後ろにいて、ひどく厳しい表情で怒鳴るように言った。少女はその剣幕に泣きそうになっている。きっとこの少女は貧乏くじを引かされたに違いないと香子は嘆息した。
『黒月、その子に怒ってもしかたありません』
気持ちはなんとなくわかるが、香子は静かに言った。
『はっ、失礼しました』
黒月はすぐに下がる。その洗練された動きがきれいだと香子は思った。
しかしどうしたものだろう。わざわざこの宴席で香子を呼びつけるというのは如何なものか。白虎を窺うと、
『花嫁は行かぬと伝えよ。白香は我ら四神の花嫁、何人たりとも呼びつける権利はない』
彼は淡々と言った。少女は可哀想に震えながら平伏した。
『たいへんな失礼を……』
そして項垂れて戻っていく。四神も眷族もそれを一顧だにしなかった。
可哀想だとは思ったがしかたないとしか言いようがない。おそらく少女は叱責されるだろう。なんとも理不尽なことである。
それでその場は終りかと思ったら残念ながらそうは問屋がおろさなかった。今度は見た目歳のいった女官がやってきた。遠目で見る皇太后と大して年が変わらぬように見える。
『花嫁殿、老佛爷がお呼びです。白虎様の膝からお降りなさい』
女官はあろうことかつんとすましたままそう香子に言った。
(えええええ)
先程の少女はちゃんと白虎の言葉を伝えられなかったのかもしれない。黒月が柳眉を逆立てたのがわかり、香子はそちらの方が何倍も怖かった。
白虎は大仰にため息をついた。
そしてそのまま立ち上がる。すると世界が一瞬ぐにゃりと曲がった。香子が左右に首を回して周りを確認した時、もう皇太后の前にいた。
『わぁっ!!』
香子はびっくりして白虎の首に縋りついた。それに皇太后が眉を寄せる。だがすぐににこやかな表情になった。
『花嫁殿を呼んだつもりが……白虎様までいらっしゃるとは、恐悦至極にございます』
『江緑、花嫁を呼びつけてなんとする』
皇太后の嬉しそうな声に対し、白虎のそれは空気が凍りそうなほど冷たい。皇太后の名は江緑というらしかった。
『いえね、白虎様。花嫁殿は一人で四神全ての花嫁を務められるのでしょう? それはとてもたいへんなことと思いまして』
『それで?』
白虎が先を促す。皇太后はとうとう満面の笑みを浮かべた。
『夕玲、これへ』
香子は冷汗をかいた。
これはまさかのライバルフラグでは!? とどきどきしてきた。香子からは見えないが、白虎はこの時うんざりしたような表情を浮かべていた。
皇太后の後ろからしずしずと進み出た女性は、色白で細面のいわゆる楚々とした美人だった。
(わぁ……あっちの方が花嫁っぽいよー)
『白虎様に挨拶なさい』
『はい、老佛爷。……お初に御目文字いたします、延夕玲と申します』
体を斜めにし、手を少し前に出し、少し腰を落とした姿勢で目を伏せた彼女はメンクイの香子から見ても合格だった。だが白虎は眉を寄せ、低い声を出した。
『江緑、何の真似か』
明らかに怒りを含んだ声音に、しかし皇太后は笑んだままだった。
『聞けば花嫁殿は玄武様、朱雀様と思いを通わせているご様子。白虎様を是非御慰めしようと我が親類の中でもえりすぐりの娘を連れて参りました』
(わぁ……)
なんてありがちな展開だろうとかえって香子は感心してしまった。
(なーんか以前より感覚が鋭敏になっているような気がするんだよね。それとも自意識過剰?)
そうだったら恥ずかしいので香子は聞けないでいる。
実際四神が香子に触れるたびにその体は作り変わっているので五感にも全て変化はあるのだが、香子自身はほとんど自覚がなかった。
そしてその鋭敏になりつつある五感が、背後からの小さな声を拾った。
『あの……花嫁様……』
聞いたことのない女性の声である。香子は白虎の腕の中から少し身を乗り出すようにして背後を窺った。
白虎の後方一メートルぐらいのところで、まだ出仕して間もないような面持ちの少女が小さくなっている。その姿があまりにも場違いで、香子は軽く首を傾げた。
『何か?』
『……その……老佛爷がお呼びです……』
皇太后が? と思った時、
『人の身で四神の花嫁を呼びつけるとは何事か!』
『ひっ……も、申し訳ありませ……』
玄武の後ろに控えていたはずの黒月がいつのまにかすぐ後ろにいて、ひどく厳しい表情で怒鳴るように言った。少女はその剣幕に泣きそうになっている。きっとこの少女は貧乏くじを引かされたに違いないと香子は嘆息した。
『黒月、その子に怒ってもしかたありません』
気持ちはなんとなくわかるが、香子は静かに言った。
『はっ、失礼しました』
黒月はすぐに下がる。その洗練された動きがきれいだと香子は思った。
しかしどうしたものだろう。わざわざこの宴席で香子を呼びつけるというのは如何なものか。白虎を窺うと、
『花嫁は行かぬと伝えよ。白香は我ら四神の花嫁、何人たりとも呼びつける権利はない』
彼は淡々と言った。少女は可哀想に震えながら平伏した。
『たいへんな失礼を……』
そして項垂れて戻っていく。四神も眷族もそれを一顧だにしなかった。
可哀想だとは思ったがしかたないとしか言いようがない。おそらく少女は叱責されるだろう。なんとも理不尽なことである。
それでその場は終りかと思ったら残念ながらそうは問屋がおろさなかった。今度は見た目歳のいった女官がやってきた。遠目で見る皇太后と大して年が変わらぬように見える。
『花嫁殿、老佛爷がお呼びです。白虎様の膝からお降りなさい』
女官はあろうことかつんとすましたままそう香子に言った。
(えええええ)
先程の少女はちゃんと白虎の言葉を伝えられなかったのかもしれない。黒月が柳眉を逆立てたのがわかり、香子はそちらの方が何倍も怖かった。
白虎は大仰にため息をついた。
そしてそのまま立ち上がる。すると世界が一瞬ぐにゃりと曲がった。香子が左右に首を回して周りを確認した時、もう皇太后の前にいた。
『わぁっ!!』
香子はびっくりして白虎の首に縋りついた。それに皇太后が眉を寄せる。だがすぐににこやかな表情になった。
『花嫁殿を呼んだつもりが……白虎様までいらっしゃるとは、恐悦至極にございます』
『江緑、花嫁を呼びつけてなんとする』
皇太后の嬉しそうな声に対し、白虎のそれは空気が凍りそうなほど冷たい。皇太后の名は江緑というらしかった。
『いえね、白虎様。花嫁殿は一人で四神全ての花嫁を務められるのでしょう? それはとてもたいへんなことと思いまして』
『それで?』
白虎が先を促す。皇太后はとうとう満面の笑みを浮かべた。
『夕玲、これへ』
香子は冷汗をかいた。
これはまさかのライバルフラグでは!? とどきどきしてきた。香子からは見えないが、白虎はこの時うんざりしたような表情を浮かべていた。
皇太后の後ろからしずしずと進み出た女性は、色白で細面のいわゆる楚々とした美人だった。
(わぁ……あっちの方が花嫁っぽいよー)
『白虎様に挨拶なさい』
『はい、老佛爷。……お初に御目文字いたします、延夕玲と申します』
体を斜めにし、手を少し前に出し、少し腰を落とした姿勢で目を伏せた彼女はメンクイの香子から見ても合格だった。だが白虎は眉を寄せ、低い声を出した。
『江緑、何の真似か』
明らかに怒りを含んだ声音に、しかし皇太后は笑んだままだった。
『聞けば花嫁殿は玄武様、朱雀様と思いを通わせているご様子。白虎様を是非御慰めしようと我が親類の中でもえりすぐりの娘を連れて参りました』
(わぁ……)
なんてありがちな展開だろうとかえって香子は感心してしまった。
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