異世界で四神と結婚しろと言われました

浅葱

文字の大きさ
100 / 581
第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました

29.ありがちな展開になりました

 香子はできるだけ広間の真ん中で行われている催しと食事に意識を集中させるようにしていた。皇太后の視線は四神に向けられているもので、自分には関係ないと思うことにする。四神も香子もその場で食事をしているだけだからどちらへの視線かはわからない。ただ、この場にいる者たちの大半の視線は四神と香子、ほぼ均等に向けられているように感じられた。

(なーんか以前より感覚が鋭敏になっているような気がするんだよね。それとも自意識過剰?)

 そうだったら恥ずかしいので香子は聞けないでいる。
 実際四神が香子に触れるたびにその体は作り変わっているので五感にも全て変化はあるのだが、香子自身はほとんど自覚がなかった。
 そしてその鋭敏になりつつある五感が、背後からの小さな声を拾った。

『あの……花嫁様……』

 聞いたことのない女性の声である。香子は白虎の腕の中から少し身を乗り出すようにして背後を窺った。
 白虎の後方一メートルぐらいのところで、まだ出仕して間もないような面持ちの少女が小さくなっている。その姿があまりにも場違いで、香子は軽く首を傾げた。

『何か?』
『……その……老佛爷ラオフオイエがお呼びです……』

 皇太后が? と思った時、

『人の身で四神の花嫁を呼びつけるとは何事か!』
『ひっ……も、申し訳ありませ……』

 玄武の後ろに控えていたはずの黒月がいつのまにかすぐ後ろにいて、ひどく厳しい表情で怒鳴るように言った。少女はその剣幕に泣きそうになっている。きっとこの少女は貧乏くじを引かされたに違いないと香子は嘆息した。

『黒月、その子に怒ってもしかたありません』

 気持ちはなんとなくわかるが、香子は静かに言った。

『はっ、失礼しました』

 黒月はすぐに下がる。その洗練された動きがきれいだと香子は思った。
 しかしどうしたものだろう。わざわざこの宴席で香子を呼びつけるというのは如何なものか。白虎を窺うと、

『花嫁は行かぬと伝えよ。白香バイシャンは我ら四神の花嫁、何人なんびとたりとも呼びつける権利はない』

 彼は淡々と言った。少女は可哀想に震えながら平伏した。

『たいへんな失礼を……』

 そして項垂れて戻っていく。四神も眷族もそれを一顧だにしなかった。
 可哀想だとは思ったがしかたないとしか言いようがない。おそらく少女は叱責されるだろう。なんとも理不尽なことである。
 それでその場は終りかと思ったら残念ながらそうは問屋がおろさなかった。今度は見た目歳のいった女官がやってきた。遠目で見る皇太后と大して年が変わらぬように見える。

『花嫁殿、老佛爷がお呼びです。白虎様の膝からお降りなさい』

 女官はあろうことかつんとすましたままそう香子に言った。

(えええええ)

 先程の少女はちゃんと白虎の言葉を伝えられなかったのかもしれない。黒月が柳眉を逆立てたのがわかり、香子はそちらの方が何倍も怖かった。
 白虎は大仰にため息をついた。
 そしてそのまま立ち上がる。すると世界が一瞬ぐにゃりと曲がった。香子が左右に首を回して周りを確認した時、もう皇太后の前にいた。

『わぁっ!!』

 香子はびっくりして白虎の首に縋りついた。それに皇太后が眉を寄せる。だがすぐににこやかな表情になった。

『花嫁殿を呼んだつもりが……白虎様までいらっしゃるとは、恐悦至極にございます』
江緑ジャンリー、花嫁を呼びつけてなんとする』

 皇太后の嬉しそうな声に対し、白虎のそれは空気が凍りそうなほど冷たい。皇太后の名は江緑というらしかった。

『いえね、白虎様。花嫁殿は一人で四神全ての花嫁を務められるのでしょう? それはとてもたいへんなことと思いまして』
『それで?』

 白虎が先を促す。皇太后はとうとう満面の笑みを浮かべた。

夕玲シーリン、これへ』

 香子は冷汗をかいた。
 これはまさかのライバルフラグでは!? とどきどきしてきた。香子からは見えないが、白虎はこの時うんざりしたような表情を浮かべていた。
 皇太后の後ろからしずしずと進み出た女性は、色白で細面のいわゆる楚々とした美人だった。

(わぁ……あっちの方が花嫁っぽいよー)
『白虎様に挨拶なさい』
『はい、老佛爷。……お初に御目文字いたします、延夕玲イエンシーリンと申します』

 体を斜めにし、手を少し前に出し、少し腰を落とした姿勢で目を伏せた彼女はメンクイの香子から見ても合格だった。だが白虎は眉を寄せ、低い声を出した。

『江緑、何の真似か』

 明らかに怒りを含んだ声音に、しかし皇太后は笑んだままだった。

『聞けば花嫁殿は玄武様、朱雀様と思いを通わせているご様子。白虎様を是非御慰めしようと我が親類の中でもえりすぐりの娘を連れて参りました』
(わぁ……)

 なんてありがちな展開だろうとかえって香子は感心してしまった。
感想 95

あなたにおすすめの小説

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。