異世界で四神と結婚しろと言われました

浅葱

文字の大きさ
101 / 581
第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました

30.会話するのがたいへんです

『必要ない。連れて帰れ』

 こんなに綺麗な女性なのだから少しは反応するのかと香子は思っていたが、白虎の返答はにべもなかった。

『白虎様、どうかそうおっしゃらずに。花嫁殿も人の身、四神全てを受け入れるのは難しかろう、のぅ?』

 前半は白虎、後半は香子に話しかけたようである。しかも前半は優しげだが、後半はなんだか低くてどすが効いたような声音だった。香子の背筋を冷汗が伝う。

(そ、そりゃあ正直言えば四神全員を受け入れるっていうのには抵抗があるけど……)

 けれどそれを決めるのは皇太后ではないと香子は思う。余計なお世話ですと言いたいところだが、さすがにそれはまずいだろう。ここは沈黙で通した方がよさそうだと香子は曖昧な笑みを浮かべた。

江緑ジャンリー白香バイシャンは我らの花嫁だ。そなたの指図は受けぬ』
『指図だなどと、そのようなことはいたしませぬ。これも花嫁殿と白虎様を思ってのこと。もし白虎様の側に侍らすのが不適当とおっしゃるなら、花嫁殿のお付にでもしていただけると幸いです』

 さすが皇太后、のらりくらりと白虎の冷たい声をかわしている。しかも自分の遠縁だとかいう美女を香子付にしてはどうかと提案する辺りがにくい。

(ここで私が断ったら私が悪い人みたいじゃんねー)

 しかし白虎の側女にするだの、香子のお付にするだの勝手なことを言われている当の本人はどう思っているのだろうか。
 ちら、とその場に立っている美人―延夕玲イエンシーリンを窺ったが彼女は目を伏せている為よくわからなかった。だがその頬がほんのりと赤く染まっているのを見て、白虎に好意を持ったのだろうと香子は思った。

(顔とか体つき見たら超いい男だし……)

 それに声もイイ! と香子は心の中で拳をぐっと握り締めた。
 だがデリカシーはないと思う。
 それはともかく白虎を窺うと苦笑された。香子付と言われたら口を出せないということだろう。ここで白虎が断ってくれれば楽なのだが、そうもいかないらしい。

(面倒臭い)

 大体まず香子付、というのが何をどこまでするものなのかわからない。しかしこれを素直に聞いたら皇太后に鼻で笑われるに違いない。かといって趙文英に丸投げするというのもどうかと思う。どちらにせよ香子には即答できそうもなかった。
 困ったなと視線を向けた先には皇帝がい、眉を寄せていた。意識せずとも必然的に目が合う。

老佛爷ラオフオイエ、お戯れも大概になされ』
(もっと早く口出ししてほしかったなー……)
『何が戯れか。聞けば四神宮には女官がいないというではないか。夕玲を女官にすれば花嫁殿も暮らしやすくなるであろう』

 いったいどこからそういう情報を仕入れるのだろうか。実際四神宮には侍女や侍女頭はいても女官はいない。女官は身分のある女性がなるもので、主人に対してそれなりに発言権を持つ。簡単に言えば秘書のようなものだと香子は考えている。
 だがそれならば黒月が護衛兼女官のようなものなので必要ないといえた。基本来客もないし(全て止められている)、それほど外出もしない。食事の際の毒見役も四神宮においては無用だと考えれば断るのになんら問題はない。

『お言葉ですが、私に女官は必要ありません』

 毅然とそう言い放つと、皇太后の目が香子を射殺さんばかりにぎらぎらと光った。

(こーわーいー)

 思わず白虎にぎうっと抱きついてしまう。だが皇太后はすぐにまた冷静さを取り戻したように見えた。

『花嫁殿は何をおっしゃるのか。例え必要ないと思っても一人ぐらいは側においておくのが当然じゃ。さ、夕玲。花嫁殿に挨拶を』
(会話になってなーい)

 確かに身分がある者は必要ない雇用もある程度する責任がある。
 だがこの美女を女官として四神宮におくのは間違っているだろう。

『花嫁様、夕玲と申します。どうぞよしなに』

 なのにこんな大勢が見守る中撤回するには勇気がいった。

(せっかくの美人さんなんだから少しは仲良くできるといいな)

 夕玲の科白に頷いて、香子はそんなことを思った。
感想 95

あなたにおすすめの小説

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。