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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
31.自覚をしてもらいたい(黒月視点)
とても不満である。
黒月の心情を端的に表す言葉はそれだった。だが公の席ということもあり、黒月はできるだけその感情を表に出すことは控えた。
だが香子はしっかり理解しているらしく、少しすまなさそうな顔をしていた。
そんな顔をするならどうしてきっぱり断ってこなかったのだと黒月はやつあたり的に考えてしまう。
仕えている、といいながら己の態度が不遜だということは自覚していた。
だがそれもこれも香子が悪いのだと黒月は思う。
黒月は香子の”守護”である。いついかなる時も香子を守ると、優先すると四神と花嫁に誓った。
そして守護は常に側にいるのが当然だというのに白虎に遮られたのも気に入らなかった。確かに四神の腕の中にいる香子に危害が加えられることはありえない。けれど厄介事を引き寄せてしまったではないかと黒月は思う。
もちろんその場に黒月がいたからといって回避できたという保証はない。だがせめて側にいたならばと思ってしまうのだ。
『……それで、その女官とやらはどんなことをするのですか?』
準備があるというのでその娘は明日改めて四神宮にやってくるらしい。随分と優雅なことである。
香子は小首を傾げた。
『さぁ……必要ないとは言ったのですけれども。女官ってようは、秘書みたいな立場でしょうから』
晩餐会が終り、白虎の室の居間で黒月は香子に問いただしていた。
『秘書か……確かに必要はなさそうだ。なれば断ろう』
それまで悠然として黙っていた白虎が口を挟み、立ち上がろうとした。それを香子が制する。
『一度は返事をしてしまったものを撤回するのは失礼かと。いてもすることがないと思えばおのずから辞めていかれるでしょう。それだけの身分はお持ちのようですし』
本来なら女官になるような身分ではないということなのだろうか。人間の身分制度というのは黒月にとって難解である。
『明日来られてから趙さんと相談するようですね。どうされるつもりなのかわからないので……』
他人事のような香子の言葉に自覚が足りないと黒月は思う。
どうするつもりなのかなどと決まっているではないか。その小娘はあわよくば四神の花嫁になろうとしているに違いない。
だがそれは不可能である。
四神は花嫁以外に想いを寄せることなどない。
極端な話、四神にとって花嫁以外はどうでもいい存在なのである。そう、傍らにある眷族も領民も、そしてこの国、いやこの世界の者、物全てに興味はない。
わかっているのに、いやわかっているからこそ黒月は玄武に惹かれたのだ。花嫁が現れるまでの玄武は全てを超越した孤高の存在だった。少なくとも黒月にはそう見えた。
それがどうだ。花嫁が現れたと一言言って姿を消した玄武を追いかけてきたら、凍てついた眼差しが溶けていた。そしてその瞳は、狂おしいほどにまっすぐ香子に向けられていた。
衝撃だった。
黒月はそれまで花嫁という存在を見たことがなくて。
だから、花嫁を目の前にした四神がどうなるのか想像もつかなかった。
玄武の反応を思い出して、黒月は一気に頭が冷めた。
人間がどのようなことを考えたとて、四神が花嫁以外に意識を向けるはずがないとわかっているではないか。
だが問題はそれだけではない。もしその娘が嫉妬にかられて香子に何かしようとした場合はどうするのだ。
もちろんその時は黒月が全力で守ればいいのだが、遠目でしか見ていないのでどれほどの力量があるのか判断がつかなかった。これだから血の薄い眷族は……と黒月は自分自身の力不足に舌打ちをしたくなる。
『黒月さん』
そんなことを考えていると香子の声がかかった。
『はい』
(『さん』はいらないと言っているのに)
『その……多分彼女と黒月さんの守護、というのは被る部分が多いのではないかと思うのです。よろしくお願いしますね』
『御意』
その娘がおかしなことをしたらすぐにでも叩きだしてやろうと物騒なことを思いながら、黒月は拱手した。
黒月の心情を端的に表す言葉はそれだった。だが公の席ということもあり、黒月はできるだけその感情を表に出すことは控えた。
だが香子はしっかり理解しているらしく、少しすまなさそうな顔をしていた。
そんな顔をするならどうしてきっぱり断ってこなかったのだと黒月はやつあたり的に考えてしまう。
仕えている、といいながら己の態度が不遜だということは自覚していた。
だがそれもこれも香子が悪いのだと黒月は思う。
黒月は香子の”守護”である。いついかなる時も香子を守ると、優先すると四神と花嫁に誓った。
そして守護は常に側にいるのが当然だというのに白虎に遮られたのも気に入らなかった。確かに四神の腕の中にいる香子に危害が加えられることはありえない。けれど厄介事を引き寄せてしまったではないかと黒月は思う。
もちろんその場に黒月がいたからといって回避できたという保証はない。だがせめて側にいたならばと思ってしまうのだ。
『……それで、その女官とやらはどんなことをするのですか?』
準備があるというのでその娘は明日改めて四神宮にやってくるらしい。随分と優雅なことである。
香子は小首を傾げた。
『さぁ……必要ないとは言ったのですけれども。女官ってようは、秘書みたいな立場でしょうから』
晩餐会が終り、白虎の室の居間で黒月は香子に問いただしていた。
『秘書か……確かに必要はなさそうだ。なれば断ろう』
それまで悠然として黙っていた白虎が口を挟み、立ち上がろうとした。それを香子が制する。
『一度は返事をしてしまったものを撤回するのは失礼かと。いてもすることがないと思えばおのずから辞めていかれるでしょう。それだけの身分はお持ちのようですし』
本来なら女官になるような身分ではないということなのだろうか。人間の身分制度というのは黒月にとって難解である。
『明日来られてから趙さんと相談するようですね。どうされるつもりなのかわからないので……』
他人事のような香子の言葉に自覚が足りないと黒月は思う。
どうするつもりなのかなどと決まっているではないか。その小娘はあわよくば四神の花嫁になろうとしているに違いない。
だがそれは不可能である。
四神は花嫁以外に想いを寄せることなどない。
極端な話、四神にとって花嫁以外はどうでもいい存在なのである。そう、傍らにある眷族も領民も、そしてこの国、いやこの世界の者、物全てに興味はない。
わかっているのに、いやわかっているからこそ黒月は玄武に惹かれたのだ。花嫁が現れるまでの玄武は全てを超越した孤高の存在だった。少なくとも黒月にはそう見えた。
それがどうだ。花嫁が現れたと一言言って姿を消した玄武を追いかけてきたら、凍てついた眼差しが溶けていた。そしてその瞳は、狂おしいほどにまっすぐ香子に向けられていた。
衝撃だった。
黒月はそれまで花嫁という存在を見たことがなくて。
だから、花嫁を目の前にした四神がどうなるのか想像もつかなかった。
玄武の反応を思い出して、黒月は一気に頭が冷めた。
人間がどのようなことを考えたとて、四神が花嫁以外に意識を向けるはずがないとわかっているではないか。
だが問題はそれだけではない。もしその娘が嫉妬にかられて香子に何かしようとした場合はどうするのだ。
もちろんその時は黒月が全力で守ればいいのだが、遠目でしか見ていないのでどれほどの力量があるのか判断がつかなかった。これだから血の薄い眷族は……と黒月は自分自身の力不足に舌打ちをしたくなる。
『黒月さん』
そんなことを考えていると香子の声がかかった。
『はい』
(『さん』はいらないと言っているのに)
『その……多分彼女と黒月さんの守護、というのは被る部分が多いのではないかと思うのです。よろしくお願いしますね』
『御意』
その娘がおかしなことをしたらすぐにでも叩きだしてやろうと物騒なことを思いながら、黒月は拱手した。
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