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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
40.学習能力がないみたいです
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延夕玲はとても真面目な少女だった。
黒月や侍女頭である陳秀美に様子を見させることにしたが、特に問題とされるような行動もない。本当にただ女官として勤めにきたように見えた。
そして夕玲自身もまた、香子に対しなんら含むところもなさそうだった。
(杞憂かな……)
皇太后に言われたからこちらに勤め始めただけで、白虎のことはどうでもいいのかもしれない。
夕玲のことではないが陳から少し気になることは知らされた。曰く、夕玲の侍女である鄭嬷嬷は夜になると夕玲の部屋を出、慈寧宮で過ごしているというのだ。それも毎晩である。
わざわざ王城の反対側まで行き来するとはご苦労としか言いようがない。けっこうな年に見えたが見た目だけだったのだろうかと香子も思う。食事もわざわざ食堂から夕玲の部屋に運んで食べているというのだからその徹底ぶりも恐れ入る。四神宮には出入り禁止になっているし特に顔を合わせることもないだろうがあまりいい感じではない。
(ま、しょうがないよね)
みんながみんな同じ思いや考えを持っているわけではない。
こうした割り切りの早さが香子のよいところである。もちろんぐじぐじと考えてしまうこともあるが、最後は「考えてもしかたない」でぽーんと切り替えをする。そうでなければさすがに現在の状況に馴染むのは難しいだろう。
いきなり四人も夫候補が現れ、しかも全員と同時に関係を持ってもいいなどと言われるとは誰も夢にも思わない。
うとうとと床で寝返りをうつ。それを逞しい腕が捉えた。
『……香子、起きたのか』
(もー……)
耳元でそんな甘いバリトンを聞かされるのは本当に勘弁してほしい。
(腰が砕けるからやーめーてー)
とはいえそんなことは言えない。そんなことを言ったら別の意味で気遣われて床から出してもらえなくなってしまう。
『はい……』
かろうじて返事をすると今度は向かいから大きな手が伸びてきて香子の頬に触れた。
『赤くなっている』
そう言う声は甘いテナー。香子は決して声フェチではないが朝から聞いていい声ではないと思っている。
(アナタたちのせいですよ!!)
向かいで面白そうな表情をしている朱雀を睨むが、結局その美貌にほだされてしまうのだ。美人は三日で飽きるなんて絶対嘘だ! と香子はぐっと拳を握る。
『最近のそなたは我らといても心ここにあらずだな……』
脳髄まで侵すようなバリトンで囁かないでほしいと切実に香子は思う。それも耳元で。
(もーやだこのイケメンイケボ地獄~!!)
どんどん顔が熱を持ってくるのがわかるのだ。
香子は思わず両手を頬に当てた。玄武と朱雀ともう何回も朝を迎えているのにいつまで経っても慣れない。
『そんな……だって……』
『だって?』
朱雀に聞き返される。香子は口籠った。
そういえばつい最近似たようなやりとりを誰かとしたような気がする。あの時は。
(確か……白虎様のスイッチが入っちゃったんだった……)
結局どこらへんが白虎にそうさせたのかわからないのでどう返したらいいのか悩む。香子はどうにかして別の答えを導き出した。
『えっと……その……皇太后に言われてきたとはいえ、夕玲が実際どう思っているのか気になってしまって』
香子の返事に朱雀が眉を寄せた。どうも望む答えではなかったらしいがそれは仕方がない。
『夕玲?』
背後からいぶかしげな声。いち女官の名前など四神が覚えているわけはないかと思い直した香子は、『私付の女官です』と言い直した。
『どう思っている、とは?』
言い方が悪かったらしい。
『えーとですね、皇太后は多分私付の女官が白虎様の愛妾? になればいいと思って送り込んできたみたいなんです。あ、でもこれはただの私見なんですけどね?』
考えながら言った科白に朱雀は眉間に皺を寄せた。
『……人の考えというのは度し難い』
思ったより不機嫌そうな朱雀の様子に香子は少し慌ててフォローした。
『私がそう思っただけなので、本当にそう考えて彼女を女官にしたわけではないかもしれません。ただ、その場合彼女が白虎様を想っていたらなんだか可哀想だなと思って……』
そこまで言ったところで背後からきつく抱きしめられた。
『そなたは優しすぎる』
『え。いえ、別に彼女に同情してるわけじゃないですよ? 白虎様を本当に好きだったらのちのち面倒なことになりそうじゃないですか。でも直接聞いても正直に話してくれるとは思えないし、実際正直に話してくれたとしてもそれが本当かどうか判断する力は私にはないから困ってるんです』
『……なれば白虎に声をかけさせればよかろう』
『?』
朱雀のシンプルな答えに香子は首を傾げた。そしてふと思い出す。
そういえば以前、会話をすれば相手の心の内まで透けて見えるようなことを言っていたような。
けれど香子の気持ちだけは読めないとも。
それが本当なら、確かに白虎に声をかけさせれば白虎を想っているかどうかはわかるかもしれない。
『朱雀様、大好き!』
あんなに考えていたのがバカみたいに目の前がぱあっと晴れる。その勢いで言ってしまった科白を香子はその一瞬後後悔することになる。
目の前の美貌がひどく嬉しそうに笑んだのと同時に、
『香子……我はどうなのだ?』
背後から低い声と共におなかに腕を回され、香子は背筋を冷や汗が伝うのを感じた。
『も、もちろん玄武様のことも愛してっ……!』
香子が床からどうにか出られたのは、それから一小時(一時間)経ってからのことだった。
黒月や侍女頭である陳秀美に様子を見させることにしたが、特に問題とされるような行動もない。本当にただ女官として勤めにきたように見えた。
そして夕玲自身もまた、香子に対しなんら含むところもなさそうだった。
(杞憂かな……)
皇太后に言われたからこちらに勤め始めただけで、白虎のことはどうでもいいのかもしれない。
夕玲のことではないが陳から少し気になることは知らされた。曰く、夕玲の侍女である鄭嬷嬷は夜になると夕玲の部屋を出、慈寧宮で過ごしているというのだ。それも毎晩である。
わざわざ王城の反対側まで行き来するとはご苦労としか言いようがない。けっこうな年に見えたが見た目だけだったのだろうかと香子も思う。食事もわざわざ食堂から夕玲の部屋に運んで食べているというのだからその徹底ぶりも恐れ入る。四神宮には出入り禁止になっているし特に顔を合わせることもないだろうがあまりいい感じではない。
(ま、しょうがないよね)
みんながみんな同じ思いや考えを持っているわけではない。
こうした割り切りの早さが香子のよいところである。もちろんぐじぐじと考えてしまうこともあるが、最後は「考えてもしかたない」でぽーんと切り替えをする。そうでなければさすがに現在の状況に馴染むのは難しいだろう。
いきなり四人も夫候補が現れ、しかも全員と同時に関係を持ってもいいなどと言われるとは誰も夢にも思わない。
うとうとと床で寝返りをうつ。それを逞しい腕が捉えた。
『……香子、起きたのか』
(もー……)
耳元でそんな甘いバリトンを聞かされるのは本当に勘弁してほしい。
(腰が砕けるからやーめーてー)
とはいえそんなことは言えない。そんなことを言ったら別の意味で気遣われて床から出してもらえなくなってしまう。
『はい……』
かろうじて返事をすると今度は向かいから大きな手が伸びてきて香子の頬に触れた。
『赤くなっている』
そう言う声は甘いテナー。香子は決して声フェチではないが朝から聞いていい声ではないと思っている。
(アナタたちのせいですよ!!)
向かいで面白そうな表情をしている朱雀を睨むが、結局その美貌にほだされてしまうのだ。美人は三日で飽きるなんて絶対嘘だ! と香子はぐっと拳を握る。
『最近のそなたは我らといても心ここにあらずだな……』
脳髄まで侵すようなバリトンで囁かないでほしいと切実に香子は思う。それも耳元で。
(もーやだこのイケメンイケボ地獄~!!)
どんどん顔が熱を持ってくるのがわかるのだ。
香子は思わず両手を頬に当てた。玄武と朱雀ともう何回も朝を迎えているのにいつまで経っても慣れない。
『そんな……だって……』
『だって?』
朱雀に聞き返される。香子は口籠った。
そういえばつい最近似たようなやりとりを誰かとしたような気がする。あの時は。
(確か……白虎様のスイッチが入っちゃったんだった……)
結局どこらへんが白虎にそうさせたのかわからないのでどう返したらいいのか悩む。香子はどうにかして別の答えを導き出した。
『えっと……その……皇太后に言われてきたとはいえ、夕玲が実際どう思っているのか気になってしまって』
香子の返事に朱雀が眉を寄せた。どうも望む答えではなかったらしいがそれは仕方がない。
『夕玲?』
背後からいぶかしげな声。いち女官の名前など四神が覚えているわけはないかと思い直した香子は、『私付の女官です』と言い直した。
『どう思っている、とは?』
言い方が悪かったらしい。
『えーとですね、皇太后は多分私付の女官が白虎様の愛妾? になればいいと思って送り込んできたみたいなんです。あ、でもこれはただの私見なんですけどね?』
考えながら言った科白に朱雀は眉間に皺を寄せた。
『……人の考えというのは度し難い』
思ったより不機嫌そうな朱雀の様子に香子は少し慌ててフォローした。
『私がそう思っただけなので、本当にそう考えて彼女を女官にしたわけではないかもしれません。ただ、その場合彼女が白虎様を想っていたらなんだか可哀想だなと思って……』
そこまで言ったところで背後からきつく抱きしめられた。
『そなたは優しすぎる』
『え。いえ、別に彼女に同情してるわけじゃないですよ? 白虎様を本当に好きだったらのちのち面倒なことになりそうじゃないですか。でも直接聞いても正直に話してくれるとは思えないし、実際正直に話してくれたとしてもそれが本当かどうか判断する力は私にはないから困ってるんです』
『……なれば白虎に声をかけさせればよかろう』
『?』
朱雀のシンプルな答えに香子は首を傾げた。そしてふと思い出す。
そういえば以前、会話をすれば相手の心の内まで透けて見えるようなことを言っていたような。
けれど香子の気持ちだけは読めないとも。
それが本当なら、確かに白虎に声をかけさせれば白虎を想っているかどうかはわかるかもしれない。
『朱雀様、大好き!』
あんなに考えていたのがバカみたいに目の前がぱあっと晴れる。その勢いで言ってしまった科白を香子はその一瞬後後悔することになる。
目の前の美貌がひどく嬉しそうに笑んだのと同時に、
『香子……我はどうなのだ?』
背後から低い声と共におなかに腕を回され、香子は背筋を冷や汗が伝うのを感じた。
『も、もちろん玄武様のことも愛してっ……!』
香子が床からどうにか出られたのは、それから一小時(一時間)経ってからのことだった。
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