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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
46.お茶はおいしく飲みたいです
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まずお茶の入った蓋碗が配られ、籠を重ねたような三段のスタンドから茶菓子を選ぶ。
これは皇太后の采配で、一番先に四神に回ってきた。だが食に興味のない四神は香子に選ぶように言った。
曰く、『そなたの好きな物を選べ』
自分たちで食べる気が全くないというのも困りものである。そんなわけで皇太后陣営のきつい視線を浴びながら茶菓子を選ぶ羽目になった。
(うえーん、せっかくのお菓子なのに食べるのが怖いよー)
顔にはひきつった笑みを張り付けながら、内心冷汗ものである。しかし果物の干菓子があり、それには少し懐かしさを感じて選ばせてもらった。北京の伝統的な特産品である砂糖漬けのドライフルーツである。お茶葉を売っている店でたまにお茶請けに出てきたことがあった。あとの物は口の中が相変わらずカラカラになりそうなお菓子である。
(やっぱり月餅は中秋節の頃だけなのね……)
日本だと一年中買えたりするのだが、中国では季節ものである。というか日本では何でも一年中買えるような気もする。ちなみに中にクルミや棗の入っている月餅が香子は好きだった。卵の黄身がそのまま入っているのは苦手だったので、もし出されることがあれば遠慮したいところである。
閑話休題。
『此度は無礼講ぞ。各々好きにするがよい』
『謝老佛爷!』(皇太后、ありがとうございます)
皇太后がお茶に口をつけるのを待ってお茶の蓋を少しずらす。
「?」
茶の香りをかぎ、何故か薄いと感じた。
もしや……と香子は眉を寄せる。お茶葉を寄せるように蓋を何度か動かし、茶葉の色を確認する。
(茶葉の色じゃわかんないかー……)
四神が反応しないので害のあるものではないことがわかる。しかし前例がある為あまり飲みたいとは思えなかった。
(誰かがまた処罰とか受けるの嫌だし……でも、ねぇ……)
とりあえず一口含んでみる。やはり予想通り渋味を舌に感じた。
(やっぱり……)
マスカットのような香りからして、お茶は東方美人という烏龍茶だということはわかる。しかし渋味があるというのは質の悪いお茶である証拠だ。
まずこのお茶を配られたのが自分だけなのか確認しなければならない。ただ、いくらなんでも四神のお茶を飲むわけにもいかない。
(知られないようにして確認するには……)
そこまで考えて、香子はあることを思い出した。
そういえば、四神は香子の日本語を解するのではなかったか。正確には日本語を解するわけではなく、香子のしゃべる言葉は全て理解できるということらしいのだが。
善は急げと、香子は相変わらず椅子になってくれている玄武に甘えるように寄りかかると、
「玄武様、お茶を飲んで渋味やえぐみがないかどうか教えてください」
と日本語で小声で言った。
『香子?』
「渋味があれば、はい、と。なければ、いいえでお願いします」
香子の硬い声に何か察したのか、玄武が頷いたのを感じた。
悠然と玄武の腕が伸ばされ、前に置かれた蓋碗を手に取る。それと同時くらいに白虎もまた目の前に置かれた蓋碗に手を伸ばした。
(そういえば、そうなんだっけ)
四神同士は脳裏で会話ができるのだということを思い出した。
彼らは静かに一口含むと、お茶を置いた。
そして、
『不』(いいえ)
と呟くように答えた。
香子は嘆息した。
「どうもまた私のお茶だけ質の悪い物のようです……」
『どれ』
躊躇いもせず、玄武が香子のお茶に口をつける。それに驚いたのは香子だけではなかった。
『執明神君!?』(執明神君:玄武のこと)
皇太后の後ろに控えていた者たちに動揺が走った。なんともわかりやすいことである。玄武が白虎に目配せした。
白虎の目がすっと細くなり、皇太后に厳しい視線を向けた。
『江緑、何の真似だ?』
もともと低い声が更に低くなり、凄味を増す。傍で聞いている香子でさえ背筋に冷汗が流れるのを感じたというのに、当の皇太后は悠然としたものだった。
『はて、白虎様。妾にはいったい何のことだか?』
『このようなことをするのであれば今後一切我らにはかかわらないでもらおう』
白虎の厳しい言葉に、皇太后は笑んだ。
周りは固唾を飲んで成り行きを見守っているというのに、大物である。
『気付いたのは花嫁殿かえ?』
しかも白虎を無視して香子に話しかけるという暴挙に出た。当然その目は炯炯と香子を見据えている。
(だからこーわーいー)
『……はい』
仕方なく答えると、何故か皇太后は面白い物を見るような表情をした。
『花嫁殿が茶に造詣が深いと聞いたが……噂に違わずのようじゃな』
どこからそんな噂が、と皇太后の斜め後ろに控えている延夕玲を見やると、少し申し訳なさそうな顔をしていた。それだけで香子はもうどうでもいい気がした。
『恐れ多いことです』
それよりお茶を変えてほしいと思っていたら、『たいへん失礼いたしました』と皇太后付の女官が新しい茶を持ってきた。こういうことは基本侍女の仕事だが、女官が持ってきたことで不問に付せということなのだろう。大した嫌がらせでもないのでこのまま流してしまうのはやぶさかではないが、事はそう簡単にはいかなかった。
『……老佛爷、お戯れも大概になされ』
それまで黙っていた皇帝が、ひどく厳しい眼差しで皇太后を見据える。
(いーやー、こーわーいー)
香子は思わず玄武の腕に縋った。
親子喧嘩とか、正直やめてほしい。
もちろん内容が内容だけにただの親子喧嘩で済むはずはないのだが、香子は白虎に縋るような目を向けた。
ーーー
注:皇太后=老佛爷=江緑
これは皇太后の采配で、一番先に四神に回ってきた。だが食に興味のない四神は香子に選ぶように言った。
曰く、『そなたの好きな物を選べ』
自分たちで食べる気が全くないというのも困りものである。そんなわけで皇太后陣営のきつい視線を浴びながら茶菓子を選ぶ羽目になった。
(うえーん、せっかくのお菓子なのに食べるのが怖いよー)
顔にはひきつった笑みを張り付けながら、内心冷汗ものである。しかし果物の干菓子があり、それには少し懐かしさを感じて選ばせてもらった。北京の伝統的な特産品である砂糖漬けのドライフルーツである。お茶葉を売っている店でたまにお茶請けに出てきたことがあった。あとの物は口の中が相変わらずカラカラになりそうなお菓子である。
(やっぱり月餅は中秋節の頃だけなのね……)
日本だと一年中買えたりするのだが、中国では季節ものである。というか日本では何でも一年中買えるような気もする。ちなみに中にクルミや棗の入っている月餅が香子は好きだった。卵の黄身がそのまま入っているのは苦手だったので、もし出されることがあれば遠慮したいところである。
閑話休題。
『此度は無礼講ぞ。各々好きにするがよい』
『謝老佛爷!』(皇太后、ありがとうございます)
皇太后がお茶に口をつけるのを待ってお茶の蓋を少しずらす。
「?」
茶の香りをかぎ、何故か薄いと感じた。
もしや……と香子は眉を寄せる。お茶葉を寄せるように蓋を何度か動かし、茶葉の色を確認する。
(茶葉の色じゃわかんないかー……)
四神が反応しないので害のあるものではないことがわかる。しかし前例がある為あまり飲みたいとは思えなかった。
(誰かがまた処罰とか受けるの嫌だし……でも、ねぇ……)
とりあえず一口含んでみる。やはり予想通り渋味を舌に感じた。
(やっぱり……)
マスカットのような香りからして、お茶は東方美人という烏龍茶だということはわかる。しかし渋味があるというのは質の悪いお茶である証拠だ。
まずこのお茶を配られたのが自分だけなのか確認しなければならない。ただ、いくらなんでも四神のお茶を飲むわけにもいかない。
(知られないようにして確認するには……)
そこまで考えて、香子はあることを思い出した。
そういえば、四神は香子の日本語を解するのではなかったか。正確には日本語を解するわけではなく、香子のしゃべる言葉は全て理解できるということらしいのだが。
善は急げと、香子は相変わらず椅子になってくれている玄武に甘えるように寄りかかると、
「玄武様、お茶を飲んで渋味やえぐみがないかどうか教えてください」
と日本語で小声で言った。
『香子?』
「渋味があれば、はい、と。なければ、いいえでお願いします」
香子の硬い声に何か察したのか、玄武が頷いたのを感じた。
悠然と玄武の腕が伸ばされ、前に置かれた蓋碗を手に取る。それと同時くらいに白虎もまた目の前に置かれた蓋碗に手を伸ばした。
(そういえば、そうなんだっけ)
四神同士は脳裏で会話ができるのだということを思い出した。
彼らは静かに一口含むと、お茶を置いた。
そして、
『不』(いいえ)
と呟くように答えた。
香子は嘆息した。
「どうもまた私のお茶だけ質の悪い物のようです……」
『どれ』
躊躇いもせず、玄武が香子のお茶に口をつける。それに驚いたのは香子だけではなかった。
『執明神君!?』(執明神君:玄武のこと)
皇太后の後ろに控えていた者たちに動揺が走った。なんともわかりやすいことである。玄武が白虎に目配せした。
白虎の目がすっと細くなり、皇太后に厳しい視線を向けた。
『江緑、何の真似だ?』
もともと低い声が更に低くなり、凄味を増す。傍で聞いている香子でさえ背筋に冷汗が流れるのを感じたというのに、当の皇太后は悠然としたものだった。
『はて、白虎様。妾にはいったい何のことだか?』
『このようなことをするのであれば今後一切我らにはかかわらないでもらおう』
白虎の厳しい言葉に、皇太后は笑んだ。
周りは固唾を飲んで成り行きを見守っているというのに、大物である。
『気付いたのは花嫁殿かえ?』
しかも白虎を無視して香子に話しかけるという暴挙に出た。当然その目は炯炯と香子を見据えている。
(だからこーわーいー)
『……はい』
仕方なく答えると、何故か皇太后は面白い物を見るような表情をした。
『花嫁殿が茶に造詣が深いと聞いたが……噂に違わずのようじゃな』
どこからそんな噂が、と皇太后の斜め後ろに控えている延夕玲を見やると、少し申し訳なさそうな顔をしていた。それだけで香子はもうどうでもいい気がした。
『恐れ多いことです』
それよりお茶を変えてほしいと思っていたら、『たいへん失礼いたしました』と皇太后付の女官が新しい茶を持ってきた。こういうことは基本侍女の仕事だが、女官が持ってきたことで不問に付せということなのだろう。大した嫌がらせでもないのでこのまま流してしまうのはやぶさかではないが、事はそう簡単にはいかなかった。
『……老佛爷、お戯れも大概になされ』
それまで黙っていた皇帝が、ひどく厳しい眼差しで皇太后を見据える。
(いーやー、こーわーいー)
香子は思わず玄武の腕に縋った。
親子喧嘩とか、正直やめてほしい。
もちろん内容が内容だけにただの親子喧嘩で済むはずはないのだが、香子は白虎に縋るような目を向けた。
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注:皇太后=老佛爷=江緑
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