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第2部 嫁ぎ先を決めろと言われました
64.自分のことは棚に上げておくのです
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香子を口説きながらも、青龍はまだ紳士だったといえよう。
確かに午後中触れられてはしまったが最後まではされなかった。ただ手前までされた時点でアウトかどうかは個人の倫理観による。
気持ちが伴っていない交わりは嫌だと香子が抗弁したことも大きい。
『申し訳ないのですが、まだそれほど青龍様に気持ちがあるとは言えないんです!』
ただでさえこちらにきてまだ一月ちょっとしか経っていないのだ。すでに玄武と朱雀に抱かれている香子としても脳内がパンクしそうである。
けれど香子もまた己が焦っていることは自覚していた。
(まだ一月ぐらいしか経ってないんだよね……)
夕食までの時間どうにか部屋に帰してもらった香子は改めてノートを見返した。ノートには一応こちらの世界に来てからのことを簡単に記載している。もちろん日本語で書いてあるそれを眺め、正確には一月と十日ほど経過していることに嘆息した。先日浴室で指折り数えた時とは多少誤差があったようである。
一日一日が濃くて、気持ちの上ではすでに半年ぐらい経っているように思えるが、実際はそれほどたっていない。
(さらに青龍様にも抱かれる……?)
香子は首を振った。
(まだ無理……)
頭の中がぐちゃぐちゃで整理できない。いろいろな考えが浮かぶのだが、それを肯定したいのか否定したいのかさえ今の香子には難しすぎた。
それに。
香子は眉を寄せる。
何故青龍があんなに積極的になったのか。
どうも眷族である青藍から発破をかけられたようである。
曰く、
『青龍様、我は延夕玲を口説きますし領地に連れ帰りますが、青龍様は今のままでよろしいのでしょうか? 花嫁様は四神の花嫁。何故遠慮されるのか我には理解できませぬ』
大体このようなことを言われたと青龍が白状した。
(あーのーやーろーうー)
おおかた夕玲の件で香子が口を出したのが気に食わなかったに違いない。
どうやら”つがい”というのが眷属にとって唯一無二というのは間違いないようである。
(せめて夕玲と話をしないと……)
青藍本人に言ってヒートアップされても困る。一番いいのは夕玲を常に付き従わせて空き時間をできるだけ作らせないことだが、現実問題そんなことができようはずもない。かえっていらぬ火種を撒いてしまうことは必定である。
そんなわけで香子は香子なりに青龍と話をした。
せめてもう少し気持ちが伴ってから青龍に抱かれたいということ。
白虎のことが気にならないかと言えば嘘になるが、まずはきちんと青龍と向き合いたい。
嫌いではないのだからもう少し待ってほしい。
いずれ青龍に応えるから。
青龍は苦笑しながらも承諾してくれた。
けれどそれとこれとは別だと、『最後まではせぬ』と言われて舐めたり噛んだり触れられたりするのはどうなのだろう。
(うー……涼やかな顔してねっとり……)
先ほどまでの痴態を思い出し、香子は一人身悶えた。
夜玄武と朱雀に抱かれている間思い出さないようにしなくてはと拳を握る。そうでなくてもあの二神は敏いのだ。
(触れ合った場所から心が読めるとかないよねー……)
もしそんなことになっていたら発狂しそうである。
未だ己が不安定であることを香子は自覚していた。というより、きっと誰に嫁ぐか決めるまでは安定しないのではないだろうか。
(まずは夕玲とお話!)
香子は気持ちを切り替えた。
とはいえ、誰かと本当の意味で二人きりになるというのはとても難しい。
夕食の後、
『夕玲、ちょっといいかしら』
と声をかければ何事かと黒月までやってきた。
『個人的なことだから、みんな席を外してくれる? 終わったら声をかけるから、黒月は部屋の外にいてね』
『……承知しました』
全然承知していない表情で返事をされ、香子は笑いそうになるのをどうにかこらえた。とにかく黒月は過保護である。
当然侍女たちも部屋から出す。
『いきなり声をかけてごめんなさいね。座って?』
向かいの椅子に腰かけるよう促すと、夕玲はおずおずと座った。その表情はとても堅い。
無理もないと香子も思う。自分が同じ立場だったら何事かと内心パニックを起こしてしまうかもしれない。
お茶を入れ、夕玲の前にも置く。侍女たちが用意してくれたものだ。
『まずは一口でも飲んでちょうだい。もったいぶってもしょうがないから本題だけ』
そう言いながら香子も口をつけた。侍女たちが急いで茶菓子も用意してくれたが食べる余裕はないだろう。
『ねぇ、夕玲。貴女は四神宮に慕っている方はいる?』
杯を手にしたまま夕玲の動きが止まった。彼女の答えを待たず続ける。
『もし慕っている方がいるとして、それは白虎様ではないわよね?』
『は、はい! 違います!』
夕玲は即答した。わざわざ頭まで振っている。慌てているが、これは本当だろうと判断する。
白虎にも確認してもらったし、皇太后も夕玲を妾にする気はないと言っていたが、やはり本人の気持ちを確認しなければ思っていた。香子は内心ほっとする。
『なら誰を慕っているのか聞かないでおくわ。だけど、くれぐれも青藍には気を付けてね』
『青藍様、ですか?』
夕玲は戸惑っているようだった。
『もし夕玲が青藍様を慕っているのならいいのだけど、そうでない場合はきちんと話し合った方がいいと思うの。たぶん、青藍は貴女に本気だから……』
夕玲は俯いた。
『……青藍様のことは……花嫁様にまで筒抜けなのですね……』
『詳細は知らないわ。夕玲が青藍のことをどこまで理解しているのかわからないし……。でも、もし青藍が嫌なら私に知らせてちょうだい。私にとっては青藍よりも貴女の方が大事だから』
『花嫁様……』
夕玲は顔を上げることができないようだった。
『花嫁様……お心遣い感謝します……』
消え入りそうな声で言われた言葉に香子は苦笑した。
もっと早く声をかけるべきだったと思う。成人しているとはいえ、夕玲はまだ十七歳の少女なのだ。
(守らなきゃ)
嗚咽をこらえる夕玲に気付かないふりをしながら、香子はお茶を啜った。
確かに午後中触れられてはしまったが最後まではされなかった。ただ手前までされた時点でアウトかどうかは個人の倫理観による。
気持ちが伴っていない交わりは嫌だと香子が抗弁したことも大きい。
『申し訳ないのですが、まだそれほど青龍様に気持ちがあるとは言えないんです!』
ただでさえこちらにきてまだ一月ちょっとしか経っていないのだ。すでに玄武と朱雀に抱かれている香子としても脳内がパンクしそうである。
けれど香子もまた己が焦っていることは自覚していた。
(まだ一月ぐらいしか経ってないんだよね……)
夕食までの時間どうにか部屋に帰してもらった香子は改めてノートを見返した。ノートには一応こちらの世界に来てからのことを簡単に記載している。もちろん日本語で書いてあるそれを眺め、正確には一月と十日ほど経過していることに嘆息した。先日浴室で指折り数えた時とは多少誤差があったようである。
一日一日が濃くて、気持ちの上ではすでに半年ぐらい経っているように思えるが、実際はそれほどたっていない。
(さらに青龍様にも抱かれる……?)
香子は首を振った。
(まだ無理……)
頭の中がぐちゃぐちゃで整理できない。いろいろな考えが浮かぶのだが、それを肯定したいのか否定したいのかさえ今の香子には難しすぎた。
それに。
香子は眉を寄せる。
何故青龍があんなに積極的になったのか。
どうも眷族である青藍から発破をかけられたようである。
曰く、
『青龍様、我は延夕玲を口説きますし領地に連れ帰りますが、青龍様は今のままでよろしいのでしょうか? 花嫁様は四神の花嫁。何故遠慮されるのか我には理解できませぬ』
大体このようなことを言われたと青龍が白状した。
(あーのーやーろーうー)
おおかた夕玲の件で香子が口を出したのが気に食わなかったに違いない。
どうやら”つがい”というのが眷属にとって唯一無二というのは間違いないようである。
(せめて夕玲と話をしないと……)
青藍本人に言ってヒートアップされても困る。一番いいのは夕玲を常に付き従わせて空き時間をできるだけ作らせないことだが、現実問題そんなことができようはずもない。かえっていらぬ火種を撒いてしまうことは必定である。
そんなわけで香子は香子なりに青龍と話をした。
せめてもう少し気持ちが伴ってから青龍に抱かれたいということ。
白虎のことが気にならないかと言えば嘘になるが、まずはきちんと青龍と向き合いたい。
嫌いではないのだからもう少し待ってほしい。
いずれ青龍に応えるから。
青龍は苦笑しながらも承諾してくれた。
けれどそれとこれとは別だと、『最後まではせぬ』と言われて舐めたり噛んだり触れられたりするのはどうなのだろう。
(うー……涼やかな顔してねっとり……)
先ほどまでの痴態を思い出し、香子は一人身悶えた。
夜玄武と朱雀に抱かれている間思い出さないようにしなくてはと拳を握る。そうでなくてもあの二神は敏いのだ。
(触れ合った場所から心が読めるとかないよねー……)
もしそんなことになっていたら発狂しそうである。
未だ己が不安定であることを香子は自覚していた。というより、きっと誰に嫁ぐか決めるまでは安定しないのではないだろうか。
(まずは夕玲とお話!)
香子は気持ちを切り替えた。
とはいえ、誰かと本当の意味で二人きりになるというのはとても難しい。
夕食の後、
『夕玲、ちょっといいかしら』
と声をかければ何事かと黒月までやってきた。
『個人的なことだから、みんな席を外してくれる? 終わったら声をかけるから、黒月は部屋の外にいてね』
『……承知しました』
全然承知していない表情で返事をされ、香子は笑いそうになるのをどうにかこらえた。とにかく黒月は過保護である。
当然侍女たちも部屋から出す。
『いきなり声をかけてごめんなさいね。座って?』
向かいの椅子に腰かけるよう促すと、夕玲はおずおずと座った。その表情はとても堅い。
無理もないと香子も思う。自分が同じ立場だったら何事かと内心パニックを起こしてしまうかもしれない。
お茶を入れ、夕玲の前にも置く。侍女たちが用意してくれたものだ。
『まずは一口でも飲んでちょうだい。もったいぶってもしょうがないから本題だけ』
そう言いながら香子も口をつけた。侍女たちが急いで茶菓子も用意してくれたが食べる余裕はないだろう。
『ねぇ、夕玲。貴女は四神宮に慕っている方はいる?』
杯を手にしたまま夕玲の動きが止まった。彼女の答えを待たず続ける。
『もし慕っている方がいるとして、それは白虎様ではないわよね?』
『は、はい! 違います!』
夕玲は即答した。わざわざ頭まで振っている。慌てているが、これは本当だろうと判断する。
白虎にも確認してもらったし、皇太后も夕玲を妾にする気はないと言っていたが、やはり本人の気持ちを確認しなければ思っていた。香子は内心ほっとする。
『なら誰を慕っているのか聞かないでおくわ。だけど、くれぐれも青藍には気を付けてね』
『青藍様、ですか?』
夕玲は戸惑っているようだった。
『もし夕玲が青藍様を慕っているのならいいのだけど、そうでない場合はきちんと話し合った方がいいと思うの。たぶん、青藍は貴女に本気だから……』
夕玲は俯いた。
『……青藍様のことは……花嫁様にまで筒抜けなのですね……』
『詳細は知らないわ。夕玲が青藍のことをどこまで理解しているのかわからないし……。でも、もし青藍が嫌なら私に知らせてちょうだい。私にとっては青藍よりも貴女の方が大事だから』
『花嫁様……』
夕玲は顔を上げることができないようだった。
『花嫁様……お心遣い感謝します……』
消え入りそうな声で言われた言葉に香子は苦笑した。
もっと早く声をかけるべきだったと思う。成人しているとはいえ、夕玲はまだ十七歳の少女なのだ。
(守らなきゃ)
嗚咽をこらえる夕玲に気付かないふりをしながら、香子はお茶を啜った。
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