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第4部 四神を愛しなさいと言われました
82.エリーザにはないしょです
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紅児の結婚式をするならば準備が必要だろう。
勢いでやるにしても紅児の両親を呼んだり、衣裳を準備したりといろいろある。
あと、できれば香子は紅児には内緒で準備をしたかった。
紅児は香子の部屋付の侍女なので、部屋では話せない。まずは当事者にということで、宣言をした昼食後は朱雀のところで過ごすことにした。(昼食の席で宣言した為紅児は知らない。給仕の侍女たちと四神、そして眷属たちが知っているのみである)
『青藍、エリーザにはぎりぎりまで内緒にしたいから、エリーザのいないところで夕玲に伝えておいてちょうだい』
『承知しました』
『白雲も、陳に伝えておいてね。もし趙文英と黒月にも伝えられたらお願い』
『かしこまりました』
『紅夏は、異論はない?』
『ありがとうございます』
紅夏は拱手した。
もちろん侍女たちに口止めはした。他の侍女たちに話してもいいが、絶対に紅児に伝わらないようにすることを厳命した。侍女たちはとても嬉しそうに承諾した。
朱雀に抱かれて朱雀の室に移動する。
『日中、そなたがここにいるというのも不思議なものだな』
朱雀の室の居間である。長椅子の上で朱雀の膝に横抱きにされ、紅夏が淹れたお茶を香子は啜った。
『そうですね』
『昨夜は”埋め合わせ”とやらをしてもらってはいないが?』
『……夜でお願いします』
”埋め合わせ”というのは昨日の水餃子に入っていた香菜の件である。朱雀がわざわざ香子の為に用意したというのだから、一晩ぐらい朱雀の好きにさせても……と香子も思うのだが、昼間からというのは勘弁してほしい。
『……夜であろうと、我らはそなたの身体を隅々まで見えるのだがな?』
『……気持ちの問題です。それに、昼に抱かれたら夕飯がいただけないじゃないですかっ!』
クックックッと朱雀が笑った。
『ほんにそなたは……面白い』
四神に安心して身を委ねられるのは夜だと香子は思っている。日中だとどうしてもごはんのことが気になってしまう。色気より食い気とはよくいったものだ。
紅夏もあまり表情が動かないが、香子には呆れた表情をしているように見えた。ムッとする。
『とにかく、紅夏はエリーザと結婚式を挙げることはいいのでしょう?』
『是非挙げたいです。今すぐにでも』
表情はろくに動かないが、紅夏は食い気味にそう答えた。香子は笑ってしまいそうになった。
『今すぐは無理だわ。場所は四神宮として、エリーザのご両親も連れてきてほしいし、衣裳も決めないといけないのだけど……』
問題は衣裳である。紅児の寸法はなんだかんだ理由をくつけて侍女たちに測ってもらえばいいかもしれないが、手配をどうするかというところで頭が痛い。
そういえばそろそろ皇太后に挨拶に行こうと思っていたので、延夕玲も含めて相談しようと香子は思った。
紅夏の衣裳も準備しなくてはならない。
『そういうことだから、エリーザのご両親に連絡はしておいてちょうだい』
『かしこまりました』
紅児の両親といっても正確には養父母である。紅児の本当の両親は海の向こうにあるセレスト王国にいる。父親は紅児と共に唐に来た帰りに嵐に遭い、行方不明だ。母親は国にいて、生きているという話だが、紅児が会うことはまだ叶わない。
一度紅児の叔父が迎えにきたことはあったが、紅児は船が難破した時のトラウマで船に乗れなくなってしまっている。いつか船に乗ることができるようになるかもしれないが、それはまだわからない。
紅夏は朱雀の室から出て行った。また紅児の邪魔をするのだろうと香子はぼんやり思う。
『香子』
椅子になっている朱雀に声をかけられて、香子はハッとした。
せっかく朱雀の側にいるのに別のことばかり考えてしまう己が少し嫌だった。
『……エリーザが、実の親に会える日はくるのかどうか、考えてしまいました』
『……あの娘は船には乗れぬのだったな』
『はい』
『貿易船には加護を与えた故、あの娘の親が会いにくることはできぬのだろうか』
『確かにその手もありますね』
とはいえ片道二か月の航海である。そう簡単に乗ることはできないだろう。
『でも、最低でも往復で四か月も船に乗らないといけないのですから、難しいのではないでしょうか』
『……人にとっては長いやもしれぬな』
香子だって四か月も船の上で暮らしたことはない。貿易船である。すぐに飽きてしまうだろうし、食べ物だってたいへんだろう。紅児の母親は香子が思っているより若いかもしれないが、紅児に会う為だけに船に乗ってくるとはとても考えられなかった。
『今できることを考えましょう』
そう言うと、朱雀にきつく抱き込まれた。
『抱かぬが、触れさせよ』
今できることは、香子が朱雀に触れられることらしい。香子はまた言質を取られたと内心ため息をついた。
『……夕飯は食べさせてくださいね?』
『そなた次第だな』
朱雀はすぐこうやって意地悪な物言いをする。香子は笑ってしまった。
そうして、皇太后に会ったり、紅夏の衣裳を発注したり、香子が自分の花嫁衣裳を作るようなことを言って紅児を連れて行ったりと準備をしたのだった。
準備は整った。
『そろそろ、結婚式をしたいわね』
『えええっ?』
紅児が目を丸くして、驚いたような声を上げた。香子は紅児の結婚式はできるならこちらでしたいと思っていたから、紅児の反応は意外に感じた。
『結婚式って……花嫁様のですかっ!?』
香子はひっくり返りそうになった。まさか香子の結婚式だと思われるとは、香子は全く予想していなかった。
『違うわ、エリーザ。貴方のよ』
紅児はこれ以上ないというぐらい目を見開いた。
それに香子はにんまりとしたのだった。
勢いでやるにしても紅児の両親を呼んだり、衣裳を準備したりといろいろある。
あと、できれば香子は紅児には内緒で準備をしたかった。
紅児は香子の部屋付の侍女なので、部屋では話せない。まずは当事者にということで、宣言をした昼食後は朱雀のところで過ごすことにした。(昼食の席で宣言した為紅児は知らない。給仕の侍女たちと四神、そして眷属たちが知っているのみである)
『青藍、エリーザにはぎりぎりまで内緒にしたいから、エリーザのいないところで夕玲に伝えておいてちょうだい』
『承知しました』
『白雲も、陳に伝えておいてね。もし趙文英と黒月にも伝えられたらお願い』
『かしこまりました』
『紅夏は、異論はない?』
『ありがとうございます』
紅夏は拱手した。
もちろん侍女たちに口止めはした。他の侍女たちに話してもいいが、絶対に紅児に伝わらないようにすることを厳命した。侍女たちはとても嬉しそうに承諾した。
朱雀に抱かれて朱雀の室に移動する。
『日中、そなたがここにいるというのも不思議なものだな』
朱雀の室の居間である。長椅子の上で朱雀の膝に横抱きにされ、紅夏が淹れたお茶を香子は啜った。
『そうですね』
『昨夜は”埋め合わせ”とやらをしてもらってはいないが?』
『……夜でお願いします』
”埋め合わせ”というのは昨日の水餃子に入っていた香菜の件である。朱雀がわざわざ香子の為に用意したというのだから、一晩ぐらい朱雀の好きにさせても……と香子も思うのだが、昼間からというのは勘弁してほしい。
『……夜であろうと、我らはそなたの身体を隅々まで見えるのだがな?』
『……気持ちの問題です。それに、昼に抱かれたら夕飯がいただけないじゃないですかっ!』
クックックッと朱雀が笑った。
『ほんにそなたは……面白い』
四神に安心して身を委ねられるのは夜だと香子は思っている。日中だとどうしてもごはんのことが気になってしまう。色気より食い気とはよくいったものだ。
紅夏もあまり表情が動かないが、香子には呆れた表情をしているように見えた。ムッとする。
『とにかく、紅夏はエリーザと結婚式を挙げることはいいのでしょう?』
『是非挙げたいです。今すぐにでも』
表情はろくに動かないが、紅夏は食い気味にそう答えた。香子は笑ってしまいそうになった。
『今すぐは無理だわ。場所は四神宮として、エリーザのご両親も連れてきてほしいし、衣裳も決めないといけないのだけど……』
問題は衣裳である。紅児の寸法はなんだかんだ理由をくつけて侍女たちに測ってもらえばいいかもしれないが、手配をどうするかというところで頭が痛い。
そういえばそろそろ皇太后に挨拶に行こうと思っていたので、延夕玲も含めて相談しようと香子は思った。
紅夏の衣裳も準備しなくてはならない。
『そういうことだから、エリーザのご両親に連絡はしておいてちょうだい』
『かしこまりました』
紅児の両親といっても正確には養父母である。紅児の本当の両親は海の向こうにあるセレスト王国にいる。父親は紅児と共に唐に来た帰りに嵐に遭い、行方不明だ。母親は国にいて、生きているという話だが、紅児が会うことはまだ叶わない。
一度紅児の叔父が迎えにきたことはあったが、紅児は船が難破した時のトラウマで船に乗れなくなってしまっている。いつか船に乗ることができるようになるかもしれないが、それはまだわからない。
紅夏は朱雀の室から出て行った。また紅児の邪魔をするのだろうと香子はぼんやり思う。
『香子』
椅子になっている朱雀に声をかけられて、香子はハッとした。
せっかく朱雀の側にいるのに別のことばかり考えてしまう己が少し嫌だった。
『……エリーザが、実の親に会える日はくるのかどうか、考えてしまいました』
『……あの娘は船には乗れぬのだったな』
『はい』
『貿易船には加護を与えた故、あの娘の親が会いにくることはできぬのだろうか』
『確かにその手もありますね』
とはいえ片道二か月の航海である。そう簡単に乗ることはできないだろう。
『でも、最低でも往復で四か月も船に乗らないといけないのですから、難しいのではないでしょうか』
『……人にとっては長いやもしれぬな』
香子だって四か月も船の上で暮らしたことはない。貿易船である。すぐに飽きてしまうだろうし、食べ物だってたいへんだろう。紅児の母親は香子が思っているより若いかもしれないが、紅児に会う為だけに船に乗ってくるとはとても考えられなかった。
『今できることを考えましょう』
そう言うと、朱雀にきつく抱き込まれた。
『抱かぬが、触れさせよ』
今できることは、香子が朱雀に触れられることらしい。香子はまた言質を取られたと内心ため息をついた。
『……夕飯は食べさせてくださいね?』
『そなた次第だな』
朱雀はすぐこうやって意地悪な物言いをする。香子は笑ってしまった。
そうして、皇太后に会ったり、紅夏の衣裳を発注したり、香子が自分の花嫁衣裳を作るようなことを言って紅児を連れて行ったりと準備をしたのだった。
準備は整った。
『そろそろ、結婚式をしたいわね』
『えええっ?』
紅児が目を丸くして、驚いたような声を上げた。香子は紅児の結婚式はできるならこちらでしたいと思っていたから、紅児の反応は意外に感じた。
『結婚式って……花嫁様のですかっ!?』
香子はひっくり返りそうになった。まさか香子の結婚式だと思われるとは、香子は全く予想していなかった。
『違うわ、エリーザ。貴方のよ』
紅児はこれ以上ないというぐらい目を見開いた。
それに香子はにんまりとしたのだった。
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