異世界で四神と結婚しろと言われました

浅葱

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第4部 四神を愛しなさいと言われました

141.街中を散策してみます

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 玄武の領地の繁華街で、玄武は香子を抱いたまま歩いている。

『……花嫁様、声が大きいです』

 玄武にツッコミを入れた香子は、黒月に窘められた。香子が大声を上げたくなるようなことを玄武が言ったのだが、言い訳をしてもしかたないだろうと彼女は嘆息した。

『ごめんなさい』
『……花嫁様、我に謝ってはなりません』

 ならばどうすればいいのかと香子は内心思った。

『……花嫁様……?』

 たまたま道行く人の耳に届いてしまったらしい。それまで遠巻きにしていた人たちが目を見開いた。

『花……』
『嫁……』
『様……』
『じゃとぅっ!?』
『……わぁっ!?』

 いきなり大きな声がしたことで、香子はびっくりしてしまった。玄武が、声のした方を見やる。遠巻きにしていた人々が一斉に平伏した。

『……平身ピンシェン(なおれ)……いつも通りにせよ』
謝神君シエシェンジュン(神よ、ありがとうございます)!!』

 人々が一斉に大きな声を上げたことで、香子は「うるさっ」と内心思った。遠巻きにしていたというのにその声量である。どれほど領民は玄武のことを心配していたのだろうと、香子はなんとなく申し訳ないような気持ちになった。
 彼ら以外の道行く者たちが目を丸くして香子たちを見やった。

『香子、あの店はどうだ?』

 珍しく玄武が香子を促した。

『あの店、ですか?』

 玄武が足を向けた先はちょっとした飯館レストランだった。

『聞いて参りましょう』

 黒流が店に向かおうとする。そういえばお昼時であったと香子も思い出した。だが紅児の養父母のところで煎餅ジエンビンを食べてきたのでどうしても食べたいという程ではない。

『あの……席が空いていたらでお願いします』

 黒流は一瞬目を丸くしたが、すぐに表情を戻した。

『……どうしたらこのような方を手に入れられるのでしょう』
『え?』
『なんでもございません』

 黒流はそう言うと、飯館の中に入った。そしてすぐに出てくる。

『二階にお席が用意できるとのことでございます。しかし普通の店でございますので……』
『普通のお店の料理、いただきたいです。私、この辺りの地域の食事に興味があります』

 二階の陽台ベランダの席が用意された。店内から二階に上がる時も注目されて、香子としてはいたたまれなかった。相手が玄武でなかったとしても、誰かを抱き上げて歩く者がいたら見るのはしかたないだろう。

『……穴が空きそう……』

 二階の席に玄武が腰かける。香子はぼそっと呟いた。

香子シャンズ、如何した?』
『なんでもないです……』

 視線だけで穴が空きそうだなんて言っても理解できないだろうと香子は思ったのだ。

『……お茶でございます』

 お茶と燻製肉のような物を持ってきた男性は店主なのだろう。声が震えていた。

『ここの名物料理を頼む』

 黒流が言ってから、香子は、あっと思った。
 玄武の領地は黒竜江省に位置している。おそらくだが、羊肉の料理が多いのかもしれないと香子は思い出した。
 香子は羊肉がそれほど得意とは言えない。

『あのぅ……鍋包肉グオバオロウはあるかしら?』
『ご用意いたします!』
『あ、あの……もしメニューにないのなら……』
『ございます、ございます!』

 男性は転がるようにして階段を降りていった。

『……大丈夫かしら?』

 鍋包肉というのは豚ヒレ肉に衣をつけて揚げ、それに甘酢をかけた料理である。東北料理として香子は聞いたことがあったので、ここで聞いてみたのだった。食べられる料理が他にあればラッキー程度である。

『花嫁様は料理にお詳しいのですか?』
『……自炊はしていましたが、詳しいというほどではありません』
『……自炊……』

 黒流はゆっくりと黒月を見た。黒月は首を振った。

『私は花嫁様が調理される姿を見たことはありません』
『元の世界での話です。こちらにきてからはしていないので……』
『そうですか。花嫁様に料理をしていただくなど由々しき事と……』
『そういうものかしら……?』

 香子は首を傾げた。自分が食べたいものぐらい自分で作れた方がいいと香子は思うのだが、現在は人の仕事を取ってはいけないと思っているので香子は遠慮している状態だ。お菓子を作ったりはしないが、ちょっとしたものならば……と香子は考えてしまう。

黒流ヘイリュウ、香子は似て異なる世界からこちらへ召喚されてきたのだ。故に、この世界の人間とも考え方は若干違う』
『そう、でございましたか。ではこちらの領地にいらした場合はそういったことも含めてお伺いしましょう』

 黒流はそう言いながら口元に笑みを掃いた。香子は内心こわいと思った。
 そう考えると、白虎の領地の眷属たちはわかりやすくてよかった。こちらがきっぱりと断ることもできたが、こう……玄武の領地の眷属は違うと香子は感じた。

(ヘタなことは言えないわね)

 香子は笑みを浮かべるに留めた。言質を取られるわけにはいかない。

『お待たせしました!』

 運ばれてきたのはどれも肉料理だった。香子が頼んだ鍋包肉もあったことで、香子はほっとした。

『玄武様、そのぅ……』
『そなたが食べられるものだけ食べればよい』
『ありがとうございます……』

 羊肉の料理もあったが、ちょっと臭みがきつくて香子には食べられなかった。鍋包肉に使われていた肉は豚肉だったが、獣臭がきつかったことから香子は苦笑した。巷の料理というのはこういうものであったと香子も思い出す。
 最後に水餃子が出てきたことで、内心ほっとした。
 北京で暮らしていた香子にとって、水餃子は安心する主食であったから。
 香子が食べられないものは、玄武と黒流、そして黒月が食べた。黒月は、自分は香子の守護だからと一度は固辞したが、香子が一緒に食べたいとわがままを言ったことで同席することになった。そんな黒月だったが食べ始めればたくさん食べたので、香子はよかったと思ったのだった。
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