貴方色に染まる

浅葱

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本編

113.什么时候都可以(いつでもいいよ)

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 昼食を挟んで、紅児は花嫁と今までのこと、これからのこと、そして他愛のないことを語り合った。
 いくらしても話はつきないのに、楽しい時間は無常にも早く過ぎてしまった。

「花嫁様」

 扉の向こうからかかった黒月の声に、2人はこの世の終りのような表情をした。
 わかっていた。これでもう、しばらくは会えないのだということは。
 花嫁はぎゅうっときつく紅児ホンアールを抱きしめた。しばらくそうしてから、名残惜しそうにそっと離す。

「花嫁様……」
「いってらっしゃい。お母様が待っているんでしょう?」

 その優しい声に胸がきゅうっとしめつけられるのを紅児は感じた。
 離れたくなんかない。
 でも。

「はい……失礼します……」

 またきっと、いつか会えるから。


 花嫁の部屋を出ると、侍女たちが待っていた。そのまま四神宮の外の寮に連れて行かれた。侍女たちの住む大部屋に連れ込まれ、着替えをさせられる。彼女たちはその間一切無駄口をきかなかった。
 綺麗に髪を結い直され、装飾品をつけられる。
 真剣な顔で自分たちの作品を確認すると、やっと彼女たちは笑みを浮かべた。

「さぁ、紅児……」

 促され大部屋を出れば、思った通り紅夏ホンシャーが待っていた。

「……綺麗だな」

 四神もその眷属も表情はそれほど豊かではない。今の紅夏も、人によっては無表情にしか見えないかもしれない。だがほんの少しの表情の変化で、紅児は紅夏が嬉しく思っているのだということがわかった。

「……みんなの、おかげです」

 はにかみながら答える。紅夏は紅児の腰を抱くと、そのまま四神宮の謁見の間に連れて行かれた。
 何故か普段は何も置かれていないはずの下座に椅子が二脚置かれていた。そこに座るよう促され、おそるおそる座るとほどなくして朱雀に抱かれた花嫁が顔を出した。
 花嫁は立ち上がろうとする紅児を手で制すると、真面目な顔でこう言った。

「エリーザ、これまでよく仕えてくれました。グッテンバーグ氏と、国のお母上によろしく伝えてください」
「……はい……花嫁様のご厚意に感謝します」

 花嫁が微笑む。そしてすぐに朱雀は踵を返した。
 花嫁もまた、振り返らない。
 姿が見えなくなり、少しだけ紅児はぼうっと四神宮の方をみやった。
 あっさりとした別れのようでいて、その実多分に含まれた想いを感じた。

「行くぞ」

 いくら感謝しても足りない、その人の姿を思い浮かべながら紅児は四神宮を後にした。
 まだ夕方よりも前の明るい時間。港に移動してすぐに船に乗れるか乗れないかの試しをすることになっているので、これでもぎりぎりなのに違いなかった。
 みな休み時間ではないから誰も見送りには出てこない。それが今の紅児にはひどくありがたかった。
 しかし王城を出たところで見慣れた赤い髪をみとめ、紅児は目を丸くした。

「あ……」
「紅炎」

 それは紅夏の代わりに朱雀の領地からやってきた紅炎だった。彼は紅児に近づいて来、

「花嫁様からの手紙だ」
「あ……ありがとうございます……」

 ぶっきらぼうにそう言うと彼は無造作に紙を渡した。紅児はそれを慌てて受けとる。いくら薄い紙1枚といえど花嫁からの品を落とすわけにはいかない。紅児の様子とは裏腹に紅炎はそのまま王城の中に戻っていった。

「…………」
「乗ろう」

 呆然とその後姿を見送る紅児に声がかかる。え? と思った時には馬車に乗せられていた。すぐに馬車が動き出す。紅夏に支えられていたので事なきを得たが、馬車はけっこうなスピードで走っているように感じた。

「あの……」
「……王都から出たら馬車を降りる。また天津に入ってから馬車に乗ることになっている」

 簡潔な説明の意味を考える。馬車を降りたらどうするのかといえば、きっと紅夏に抱えられて走るのだろう。つまり馬車移動のみで港に行くには時間が足りないということだ。
 そういえば、と3年以上前の記憶を探し出す。

「……王都からだと、移動に丸一日かかったような気がします……」

 紅夏は頷いた。王都は内陸にあるのね、とかつて思ったような気もする。
 荷物のほとんどは、先行して港に着いているはずの叔父が運んでくれているので2人は身軽なものである。しかしさすがに日の出ているうちに王都内を疾走するのはまずいということで馬車になったのだろう。
 馬車から見える王都の景色には活気があった。どちらかといえば喧騒としている街中を横目で眺めながら、紅児は先ほど紅炎から受け取った手紙を開いた。
 まず綺麗な字だと思った。
 そして。

”帰ってきたくなったら、いつでも帰ってきなさい”

 たった一行だけの手紙。
 反則だ、と紅児は思った。
 ぽたり、と雫が膝に落ちる。
 せっかくこらえていたのに。
 笑って王都を出ていきたかったのに。

(花嫁様のばか……)

 そんな紅児を、紅夏は優しく抱きしめた。
 それからしばらく、あとからあとから溢れる雫が膝を濡らし続けた。
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