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本編
31.勉強(無理に強いる)
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花嫁が晩餐会に出かけた後、侍女頭である陳に「もう今日は休んでいいわよ」と紅児は言われた。
「花嫁様はいつ戻られるかわからないし、戻っていらっしゃっても湯あみ後はすぐどなたかの室に行かれてしまうから」
そんなわけで空き時間ができてしまった。
まずは夕食をとろうと食堂へ行けば、予想した通り紅夏が待っていた。氷のような無表情が紅児の姿を捕えるとほんの少しだけほころぶ。それは見た者全てにわかるというほどではないが、紅児はなんとなく気恥ずかしかった。
共に食堂に向かった侍女も紅夏の姿を認めると「またね」と離れていく。いつのまにか紅夏と一緒にいるのが当り前のようになっていた。
しかも最初の頃は席に着いて何もしなかった紅夏がお茶を持ってきてくれるようになった。すぐ横にいる者がお茶しか飲んでいないことに最初は困惑したが、紅夏が食事を必要としていないことを聞いてから徐徐に慣れた。
けれど。
「……あの……」
口元に食べ物を差し出されるのはどうしても慣れない。
初めてされた時はなんとなくで食べてしまった。これが求愛行動なのだと知ったのに、今日も食べてしまった。今更拒むのはおかしいのだろうか。でも紅児は恥ずかしいからできればやめてほしかった。
「どうした?」
不思議そうに聞かれ紅児は周りを見やった。侍女たちがにこにこしながらこちらを見ているのがわかる。
(無理だわ……)
男性は全く興味なさそうだが少し離れたところで食事をとっている侍女たちの視線が痛い。よくこの間この視線を気付かなかったものだと思う。
「あの……恥ずかしい、です。だから……」
どうにか消え入りそうな声で告げると口元に差し出された箸が戻された。それにほっとするかしないかのうちに、唇をその長い指先で辿られた。
「…………!?」
「そなに愛らしいことを言うのはこの唇か」
流し眼をされ、その色気に紅児は赤くなった。眷族というのは色気まで操れるのか。
「先程は食べたではないか」
昼のことを言っているのだろう。
「あ、あの……あそこは人の目がなかったから……」
しどろもどろで言い訳をする。
「そうか」
納得してくれたのかと思ったが、そこで引きさがってくれるわけはなくて。
腕を取られ、立ち上がらせられる。紅児はなにごとかと目を見開いた。
しかも紅夏は紅児の片手を取ったまま、もう片方の手には料理の乗った皿を持っている。
「なれば我の室で食べるとしよう」
平然と食堂から出て行こうとする紅夏に紅児は慌てた。
「え? え? なんで……?」
「人目がなければいいのだろう」
紅児は真っ赤になった。そこまでして食べさせたいのか。
「あ、あの……」
人目がなければとかそういう問題ではないと紅児は思う。このまま紅夏の室に行ったとしたら、いったいみなにどんな想像をされてしまうか。
「や、やめるって選択肢はないの、でしょうか?」
どうにかして尋ねると、やっと紅夏は足を止めた。そしてじっと紅児を見る。
「……それは……そなたが我の妻になるのを了承したととってもいいのだな?」
(え……)
どこをどういう解釈をしたらそうなるのだろうか。断られるとは微塵も思っていない様子に紅児はいいかげん腹が立ってきた。
「どうしてそうなるんですか?」
「そなたにもう求婚する必要がないというのだろう」
紅児は首を傾げた。言っている意味がよくわからない。
「そなたは我の妻になるのだから、求婚をこれ以上しなくてもいいのではないか」
紅児は少し考えた。
給餌は求愛行動である。
給餌を拒む=求愛を拒むという図式になるのではなかろうか。
拒むほど紅児は紅夏を嫌だと思っているわけではない。だから恥ずかしいからやめてほしいと理由を言ったのだ。
それから紅夏が「人目のないところでならいいのか」と解釈した。確かに人目がないにこしたことはないが密室で2人きりというのもハードルが高いからそれも断った。
それがどうして紅児が紅夏の求愛を受けたことになるのだろう。
「ええと、食べさせられるのは恥ずかしいです。だからやめてほしいのです。別に紅夏様に嫁ぐとかそういう意図はありません」
きっぱり答えると、紅夏は眉根を寄せた。
「我はそなたに食べさせたい」
「ほ、他に何かないんですか?」
「他に、とは?」
真顔で聞かれ、紅児はうっと詰まった。聞いたはいいが更に恥ずかしいことだったら目も当てられない。でも聞いてみなければわからないだろう。
紅児は意を決して聞いてみることにした。
「あの……何かを食べさせる以外にその……何か方法はないのでしょうか……?」
自分から求愛とか、求婚とか言うのは恥ずかしい。だからこんな曖昧な聞き方になってしまったが紅夏にはわかったようだった。
「ふむ……紅児は大胆だな」
そう言うと食べ物の乗った皿をどこかに置き、いきなり紅児を抱き上げた。
「え? あの……っ!」
そのまま寮の方に向かわれて紅児は慌てた。いったい紅夏は何をするつもりなのか。
「紅夏様! 待って、待ってください!!」
「……何を待つのだ?」
「何をするんですか? せめてそれを教えていただけないと……!」
紅夏は仕方ないというように足を止めた。
「そんなことは決まっておろう。そなたを抱……」
「わーわーわーわーわーっっっ!! わかりました! わかりました! 紅夏様、ごはんが食べたいです! 紅夏様に食べさせていただきたいですっっ!!」
紅夏が言いかけたのをどうにか遮り、紅児は必死で言い募った。
それにクスリと頭上で笑われ、紅児はカーッ! と頭に血が上るのを感じた。
ようはからかわれたのだ。
だけど。
「では食堂か、我の室かどちらがいい?」
紅児の頭の中がこんがらがった。給餌をするのはやはりやめないようだ。
食堂に、これから戻るか、それともこのまま紅夏の室に行くか。
少し考えて、やっぱり2人きりになるのはハードルが高いと思った。
「……食堂で」
「わかった」
そして食堂に戻り「あーん」をさせられながら、紅児は釈然としない思いを抱えていた。
ああいうのは詭弁というのではないのだろうか?
けれど紅児の口にせっせと食べ物を運ぶ紅夏が嬉しそうなので、考えることを放棄した。
「花嫁様はいつ戻られるかわからないし、戻っていらっしゃっても湯あみ後はすぐどなたかの室に行かれてしまうから」
そんなわけで空き時間ができてしまった。
まずは夕食をとろうと食堂へ行けば、予想した通り紅夏が待っていた。氷のような無表情が紅児の姿を捕えるとほんの少しだけほころぶ。それは見た者全てにわかるというほどではないが、紅児はなんとなく気恥ずかしかった。
共に食堂に向かった侍女も紅夏の姿を認めると「またね」と離れていく。いつのまにか紅夏と一緒にいるのが当り前のようになっていた。
しかも最初の頃は席に着いて何もしなかった紅夏がお茶を持ってきてくれるようになった。すぐ横にいる者がお茶しか飲んでいないことに最初は困惑したが、紅夏が食事を必要としていないことを聞いてから徐徐に慣れた。
けれど。
「……あの……」
口元に食べ物を差し出されるのはどうしても慣れない。
初めてされた時はなんとなくで食べてしまった。これが求愛行動なのだと知ったのに、今日も食べてしまった。今更拒むのはおかしいのだろうか。でも紅児は恥ずかしいからできればやめてほしかった。
「どうした?」
不思議そうに聞かれ紅児は周りを見やった。侍女たちがにこにこしながらこちらを見ているのがわかる。
(無理だわ……)
男性は全く興味なさそうだが少し離れたところで食事をとっている侍女たちの視線が痛い。よくこの間この視線を気付かなかったものだと思う。
「あの……恥ずかしい、です。だから……」
どうにか消え入りそうな声で告げると口元に差し出された箸が戻された。それにほっとするかしないかのうちに、唇をその長い指先で辿られた。
「…………!?」
「そなに愛らしいことを言うのはこの唇か」
流し眼をされ、その色気に紅児は赤くなった。眷族というのは色気まで操れるのか。
「先程は食べたではないか」
昼のことを言っているのだろう。
「あ、あの……あそこは人の目がなかったから……」
しどろもどろで言い訳をする。
「そうか」
納得してくれたのかと思ったが、そこで引きさがってくれるわけはなくて。
腕を取られ、立ち上がらせられる。紅児はなにごとかと目を見開いた。
しかも紅夏は紅児の片手を取ったまま、もう片方の手には料理の乗った皿を持っている。
「なれば我の室で食べるとしよう」
平然と食堂から出て行こうとする紅夏に紅児は慌てた。
「え? え? なんで……?」
「人目がなければいいのだろう」
紅児は真っ赤になった。そこまでして食べさせたいのか。
「あ、あの……」
人目がなければとかそういう問題ではないと紅児は思う。このまま紅夏の室に行ったとしたら、いったいみなにどんな想像をされてしまうか。
「や、やめるって選択肢はないの、でしょうか?」
どうにかして尋ねると、やっと紅夏は足を止めた。そしてじっと紅児を見る。
「……それは……そなたが我の妻になるのを了承したととってもいいのだな?」
(え……)
どこをどういう解釈をしたらそうなるのだろうか。断られるとは微塵も思っていない様子に紅児はいいかげん腹が立ってきた。
「どうしてそうなるんですか?」
「そなたにもう求婚する必要がないというのだろう」
紅児は首を傾げた。言っている意味がよくわからない。
「そなたは我の妻になるのだから、求婚をこれ以上しなくてもいいのではないか」
紅児は少し考えた。
給餌は求愛行動である。
給餌を拒む=求愛を拒むという図式になるのではなかろうか。
拒むほど紅児は紅夏を嫌だと思っているわけではない。だから恥ずかしいからやめてほしいと理由を言ったのだ。
それから紅夏が「人目のないところでならいいのか」と解釈した。確かに人目がないにこしたことはないが密室で2人きりというのもハードルが高いからそれも断った。
それがどうして紅児が紅夏の求愛を受けたことになるのだろう。
「ええと、食べさせられるのは恥ずかしいです。だからやめてほしいのです。別に紅夏様に嫁ぐとかそういう意図はありません」
きっぱり答えると、紅夏は眉根を寄せた。
「我はそなたに食べさせたい」
「ほ、他に何かないんですか?」
「他に、とは?」
真顔で聞かれ、紅児はうっと詰まった。聞いたはいいが更に恥ずかしいことだったら目も当てられない。でも聞いてみなければわからないだろう。
紅児は意を決して聞いてみることにした。
「あの……何かを食べさせる以外にその……何か方法はないのでしょうか……?」
自分から求愛とか、求婚とか言うのは恥ずかしい。だからこんな曖昧な聞き方になってしまったが紅夏にはわかったようだった。
「ふむ……紅児は大胆だな」
そう言うと食べ物の乗った皿をどこかに置き、いきなり紅児を抱き上げた。
「え? あの……っ!」
そのまま寮の方に向かわれて紅児は慌てた。いったい紅夏は何をするつもりなのか。
「紅夏様! 待って、待ってください!!」
「……何を待つのだ?」
「何をするんですか? せめてそれを教えていただけないと……!」
紅夏は仕方ないというように足を止めた。
「そんなことは決まっておろう。そなたを抱……」
「わーわーわーわーわーっっっ!! わかりました! わかりました! 紅夏様、ごはんが食べたいです! 紅夏様に食べさせていただきたいですっっ!!」
紅夏が言いかけたのをどうにか遮り、紅児は必死で言い募った。
それにクスリと頭上で笑われ、紅児はカーッ! と頭に血が上るのを感じた。
ようはからかわれたのだ。
だけど。
「では食堂か、我の室かどちらがいい?」
紅児の頭の中がこんがらがった。給餌をするのはやはりやめないようだ。
食堂に、これから戻るか、それともこのまま紅夏の室に行くか。
少し考えて、やっぱり2人きりになるのはハードルが高いと思った。
「……食堂で」
「わかった」
そして食堂に戻り「あーん」をさせられながら、紅児は釈然としない思いを抱えていた。
ああいうのは詭弁というのではないのだろうか?
けれど紅児の口にせっせと食べ物を運ぶ紅夏が嬉しそうなので、考えることを放棄した。
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