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本編
34.新娘想吃的(食べたい物)
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紅児の思いつきはその後いろいろな人に伝えられたらしい。
最終的に花嫁のところに届き、その時は花嫁も少し恥ずかしそうな顔をしていたとか。
「食べたい物ねぇ……」
少し考えるような顔をした後、「煎餅が食べたい、かも……」と呟かれた。
こちらに来る前は近くに屋台があったこともあるが、基本は観光地に行かないと食べられないものだったらしい。だからそれほど頻繁に食べていないのだとも。
煎餅というのは、小麦粉を薄く溶いたものを丸く伸ばしてクレープの生地のように焼いた上に卵、薄脆(小麦粉とピーナッツ油で作ったスナック)、葱などを乗せ、辛味噌だれのような味つけをしたものである。確かにできたてはけっこうおいしいし、外で食べる方が風情があっていいだろう。
「あと茶蛋(茶玉子)かな……」
聞いている限り、本当に市井の食べ物が食べたいようだった。
茶蛋は旅行した先でよく食べたという。旅行では汽車という乗り物の駅でよく売っていたらしい。だから日常で食べていた物ではないけれど、時折無性に食べたくなるのだという。
茶蛋というのはいわゆる煮卵である。ゆで卵をまず作り、殻にひびを入れる。スパイス(五香等)や醤油などで味付けをした濃い煮汁を沸騰させた中に、ひびを入れたゆで卵を入れてそのまま丸1日とろ火で煮続けて作る。
ただ茶蛋に関しては四神宮の食堂でも食べられるはずである。
「うーん、あんなキレイに色がついたのじゃなくて、ところどころに色がついている……ああ、なんて言ったらいいのかしら……」
ようは上品な味の物よりやっぱり市井で簡単に手に入るような物が食べたいらしい。
「わがまま言ってごめんね」
提案をしたのが紅児だと知って花嫁は直接話をしてくれた。
「表に出ることができないことはわかっているの。でもね、時々やりきれなくなるのよ」
花嫁は城壁の向こうに思いを馳せているようだった。
旅行を何度もしていたというぐらいだから、それなりに裕福な家のお嬢さんだったのだろうと紅児は想像する。しかも友だちと2人だけで旅行に何度も行っていたと聞いて驚いた。そんなに気軽に女性同士で旅ができるなんてどれだけ先進的で治安がいいところだったのだろう。そんな世界からこの世界に無理矢理連れてこられた花嫁が、いろいろなことを不自由に思わないはずがないと納得した。
だから。
「煎餅や茶蛋でしたら馬さんが作れると思います。熱々を作ってもらって庭で食べたらいいのではないでしょうか」
花嫁は首を傾げた。
そんな仕草もコケティッシュで紅児はその気もないのにどきどきしてしまった。
「うーん……例えば、なんだけど……エリーザのお養父とうさんに来ていただくことはできないかしら? もうすぐ村に戻られるのよね?」
「え……?」
ここで養父の話が出てくるのは何故だろうか。紅児は目をぱちぱちさせた。
「エリーザのお養父さんも小吃店を経営されているのでしょう? だったらお養父さんの作る物も食べてみたいわ」
いたずらを思いついたような顔で言う花嫁に厳しい声がかかった。
「花嫁様、王城内へみだりに部外者を立ち入りさせるのは関心しません!」
「花嫁様……」
延が目を吊り上げて叱り、黒月も地を這うような声を出す。花嫁は肩を竦めた。
けれど。
「もーーーーー! そーゆーのが面倒くさいっっ!! 黒月が側にいて見張ってればいいじゃない! 私は四神と一緒にいればいいじゃない! 毒味役とかいらないんだし!」
いきなり大きな声を上げて怒る花嫁にみな目を丸くした。
紅児は申し訳なくなって、平伏した。
「さしでがましいことを申しまして……」
花嫁はそれにはっとしたような表情をした。
「エリーザは何も悪くないわ! わがままを言っているのは私よ」
長椅子から立ち上がり、花嫁は紅児に近付いてきた。紅児はそれをただ見ていることしかできなくて。
紅児の前で花嫁がしゃがむ。そして地板についた紅児の両手を取るとそのまま立ち上がらせた。
「まだ年若いお嬢さんに気を使わせてしまって申し訳ないのは私の方よ。エリーザの気持ちとてもうれしかった、ありがとう……」
「……もったいないお言葉……」
優しい黒い瞳で見つめられ、紅児は胸が熱くなった。
少しでも花嫁の役に立ちたいと思うのに、何もできない自分がひどく歯がゆかった。
黒月が嘆息する。
「……紅児殿の養父殿を連れてくるとなると我々の一存だけでは決められないでしょう。趙と相談し、許可がおりましたら考えましょう」
「黒月殿……」
黒月のしかたないというような声に延もため息交じりに呟く。
途端花嫁の目が輝いた。
「本当に! 黒月大好き!」
そのまま飛びつこうとする花嫁をしかし、黒月は無情にも避けた。
花嫁が前につんのめるのを黒月が片腕で支える。
「お気をつけなされませ」
「……黒月は照れ屋さんなのね」
黒月の眉がピクリを動く。目がスッと細くなった。
「……花嫁様?」
「……ごめんなさい、もう言いません……」
他の侍女を見ると笑いをこらえているがわかった。
最初はきさくだけど上品な方という印象があったが、本当は市井でのびのびと暮らしていたのだろう。
花嫁はやっぱり面白い人だと紅児は思った。
最終的に花嫁のところに届き、その時は花嫁も少し恥ずかしそうな顔をしていたとか。
「食べたい物ねぇ……」
少し考えるような顔をした後、「煎餅が食べたい、かも……」と呟かれた。
こちらに来る前は近くに屋台があったこともあるが、基本は観光地に行かないと食べられないものだったらしい。だからそれほど頻繁に食べていないのだとも。
煎餅というのは、小麦粉を薄く溶いたものを丸く伸ばしてクレープの生地のように焼いた上に卵、薄脆(小麦粉とピーナッツ油で作ったスナック)、葱などを乗せ、辛味噌だれのような味つけをしたものである。確かにできたてはけっこうおいしいし、外で食べる方が風情があっていいだろう。
「あと茶蛋(茶玉子)かな……」
聞いている限り、本当に市井の食べ物が食べたいようだった。
茶蛋は旅行した先でよく食べたという。旅行では汽車という乗り物の駅でよく売っていたらしい。だから日常で食べていた物ではないけれど、時折無性に食べたくなるのだという。
茶蛋というのはいわゆる煮卵である。ゆで卵をまず作り、殻にひびを入れる。スパイス(五香等)や醤油などで味付けをした濃い煮汁を沸騰させた中に、ひびを入れたゆで卵を入れてそのまま丸1日とろ火で煮続けて作る。
ただ茶蛋に関しては四神宮の食堂でも食べられるはずである。
「うーん、あんなキレイに色がついたのじゃなくて、ところどころに色がついている……ああ、なんて言ったらいいのかしら……」
ようは上品な味の物よりやっぱり市井で簡単に手に入るような物が食べたいらしい。
「わがまま言ってごめんね」
提案をしたのが紅児だと知って花嫁は直接話をしてくれた。
「表に出ることができないことはわかっているの。でもね、時々やりきれなくなるのよ」
花嫁は城壁の向こうに思いを馳せているようだった。
旅行を何度もしていたというぐらいだから、それなりに裕福な家のお嬢さんだったのだろうと紅児は想像する。しかも友だちと2人だけで旅行に何度も行っていたと聞いて驚いた。そんなに気軽に女性同士で旅ができるなんてどれだけ先進的で治安がいいところだったのだろう。そんな世界からこの世界に無理矢理連れてこられた花嫁が、いろいろなことを不自由に思わないはずがないと納得した。
だから。
「煎餅や茶蛋でしたら馬さんが作れると思います。熱々を作ってもらって庭で食べたらいいのではないでしょうか」
花嫁は首を傾げた。
そんな仕草もコケティッシュで紅児はその気もないのにどきどきしてしまった。
「うーん……例えば、なんだけど……エリーザのお養父とうさんに来ていただくことはできないかしら? もうすぐ村に戻られるのよね?」
「え……?」
ここで養父の話が出てくるのは何故だろうか。紅児は目をぱちぱちさせた。
「エリーザのお養父さんも小吃店を経営されているのでしょう? だったらお養父さんの作る物も食べてみたいわ」
いたずらを思いついたような顔で言う花嫁に厳しい声がかかった。
「花嫁様、王城内へみだりに部外者を立ち入りさせるのは関心しません!」
「花嫁様……」
延が目を吊り上げて叱り、黒月も地を這うような声を出す。花嫁は肩を竦めた。
けれど。
「もーーーーー! そーゆーのが面倒くさいっっ!! 黒月が側にいて見張ってればいいじゃない! 私は四神と一緒にいればいいじゃない! 毒味役とかいらないんだし!」
いきなり大きな声を上げて怒る花嫁にみな目を丸くした。
紅児は申し訳なくなって、平伏した。
「さしでがましいことを申しまして……」
花嫁はそれにはっとしたような表情をした。
「エリーザは何も悪くないわ! わがままを言っているのは私よ」
長椅子から立ち上がり、花嫁は紅児に近付いてきた。紅児はそれをただ見ていることしかできなくて。
紅児の前で花嫁がしゃがむ。そして地板についた紅児の両手を取るとそのまま立ち上がらせた。
「まだ年若いお嬢さんに気を使わせてしまって申し訳ないのは私の方よ。エリーザの気持ちとてもうれしかった、ありがとう……」
「……もったいないお言葉……」
優しい黒い瞳で見つめられ、紅児は胸が熱くなった。
少しでも花嫁の役に立ちたいと思うのに、何もできない自分がひどく歯がゆかった。
黒月が嘆息する。
「……紅児殿の養父殿を連れてくるとなると我々の一存だけでは決められないでしょう。趙と相談し、許可がおりましたら考えましょう」
「黒月殿……」
黒月のしかたないというような声に延もため息交じりに呟く。
途端花嫁の目が輝いた。
「本当に! 黒月大好き!」
そのまま飛びつこうとする花嫁をしかし、黒月は無情にも避けた。
花嫁が前につんのめるのを黒月が片腕で支える。
「お気をつけなされませ」
「……黒月は照れ屋さんなのね」
黒月の眉がピクリを動く。目がスッと細くなった。
「……花嫁様?」
「……ごめんなさい、もう言いません……」
他の侍女を見ると笑いをこらえているがわかった。
最初はきさくだけど上品な方という印象があったが、本当は市井でのびのびと暮らしていたのだろう。
花嫁はやっぱり面白い人だと紅児は思った。
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