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本編
55.没問題(大丈夫)
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夜も更けてから、紅夏は王城を後にした。
どうしても去りがたくて、紅児はこの夜初めて自分の意志により紅夏の室で過ごした。
最後まで抱かれたわけではない。けれどその手前まで全身あますことなく触れられた。
紅児はほおっとため息をつく。それすらも甘く感じられて彼女は頬を染めた。
明日いったいどんな顔で侍女たちに会えばいいのだろうか。
それ以前に、花嫁には気づかれているのかもしれない。いや、紅夏の室に泊る時点で何が起こるかぐらい誰でもわかるだろう。性教育を受けていない紅児にだってわかるのだから。
紅児は自分がひどくふしだらな娘になってしまったように思えた。
未婚なのに男性に肌を許すなんて(最後まではされていないけれど)ふしだらでないとしたらなんだというのか。
けれど紅児の国では極端な話、結婚時に処女や童貞だと嫌がられ最悪の場合は離縁されてしまったりする。処女や童貞というのは文字通りモテないという証拠だ。
自由恋愛が認められているかそうでないかという違いなのだろうが、ここまで慣習が違わなくてもいいのではないかとも思ってしまう。
自分の国と、今現在暮らしている国の慣習。どちらを基準に考えればいいのか混乱してしまう。
(でも……紅夏様と結婚するんだから……)
紅夏の床に横になったまま思う。
いつのまにかそれも紅児の中で決定事項になっていた。
この先も紅夏以外に肌を許す相手なんていない。
母が聞いたら古風だと笑うだろうか。けれど確か自分の国でも昔はそうだったと聞いたようなような気がする。
確か痛ましい事件が起きてから徐々に慣習も変わっていったようなことを聞いた覚えがある。ただそれは子供の紅児にはまだ早いと言われて……。
そんなことを考えているうちにいつのまにか紅児は眠ってしまった。
紅夏の床はお日様の匂いがした。
控えめな音によって紅児は目覚めた。
ふんわりと優しい腕に包まれたような気持ちで床から起き上がる。ぼうっとしたまま扉を開けると、侍女頭の陳が心配そうな表情で立っていた。
途端紅児は自分がどこにいるのか思い出した。
「……あ……」
「おはよう紅児。……その……大丈夫かしら?」
大丈夫って何が? と内心首を傾げながら、「あ……ハイ、大丈夫です……」と頬を染めながら答えた。
紅夏の部屋で一晩過ごしたということを知られているのがとても恥ずかしい。確かに侍女たちには心配をかけたくないから部屋を出る前に一応断ったのだが。
「紅夏様は……?」
「あの……村に行ってくれています……」
「ああ、そうなのね……」
陳は話しながらもじっと紅児を見つめている。それがひどく居心地悪く感じられた。
「ところで……その……紅夏様と、したの……?」
何を? と聞き返す必要はなかった。陳の頬がほんのりと赤く染まったのに、紅児は聞かれたことを察した。ただでさえ赤く染まっていた頬が更に赤くなる。
「い、いえ……最後までは……その……」
「……そう……。ええと……同意、なのよね?」
「は、ははははいッッ!!」
朝から一体何の話をしているのか。
陳の心配そうな表情が一瞬ほころんだ。
「ならいいわ。そろそろ時間よ、支度をしに戻りなさい」
「は、はいっ!」
急いで床をできるだけきれいに直し紅夏の室を出た。
「ただいま戻りました!」
大部屋に戻ると案の定支度をしている侍女たちの動きがピタリと止まった。かまっている時間はないので小部屋に入り急いで支度をする。侍女服に着替え髪を梳かしていると誰かが小部屋に入ってきて髪型を整えてくれた。紅児も練習はしているが元々ウェーブがかった髪はなかなかうまくまとまってくれない。それでいまだ毎朝侍女たちの手を煩わせているのを申し訳ないと思っている。
「はい、できたわよ」
「ありがとうございます」
「食事に行きましょう」
服の下の守り袋を確認し一緒に大部屋を出る。みななんだかいつもより優しい表情をしているように見えた。
大部屋を出たところで紅児はつい辺りを見回した。
(ああ……)
いつのまにか紅夏が迎えにきてくれるのを当り前に思っていた己に赤面する。昼頃には戻ってくると言っていたのがひどく待ち遠しい。
半ば侍女たちに引きずられるようにして食堂へ行けば、久しぶりに彼女たちと同じ席で朝食をとることになった。好きな物を自分で持ってくるのは毎日のことだが自分の手で食事をするのは久しぶりだ。
箸の使い方は今でもそれほどうまくはできないが自分で食べられるということが嬉しい。
彼女たちと食事をするからには昨夜のことを追及されるのを覚悟していたが、何故か何も言われなかった。
(もう呆れられているのかも)
紅夏のこと以外にもいろいろ騒がしている紅児のことなど、みなもううんざりしてしまったのかもしれない。それは切ないことだけど今はここ以外に居場所がないのだから我慢してもらうしかない。
けれど朝食を終えお茶を飲み始めた時、
「……ねぇ紅児……体は、その……大丈夫なの?」
隣に腰掛けている侍女に聞かれた。紅児は首を傾げる。
「? 大丈夫です、けど?」
陳といい何故みな同じ質問をするのだろうか。
「……わかったわ」
しかも紅児の返答で何かわかったらしい。何がなんだか疑問に思っているのはどうやら紅児だけらしかった。
そして彼女たちは一様に笑顔になった。
「……これから仕事だから聞かないけど、終ったら……わかってるわよね?」
「……は、はい……」
仕事が終ってからすぐ紅夏の室に逃げては駄目だろうか。
一瞬そんなことを考えてしまうぐらい、彼女たちの笑みは恐ろしく映った。
どうしても去りがたくて、紅児はこの夜初めて自分の意志により紅夏の室で過ごした。
最後まで抱かれたわけではない。けれどその手前まで全身あますことなく触れられた。
紅児はほおっとため息をつく。それすらも甘く感じられて彼女は頬を染めた。
明日いったいどんな顔で侍女たちに会えばいいのだろうか。
それ以前に、花嫁には気づかれているのかもしれない。いや、紅夏の室に泊る時点で何が起こるかぐらい誰でもわかるだろう。性教育を受けていない紅児にだってわかるのだから。
紅児は自分がひどくふしだらな娘になってしまったように思えた。
未婚なのに男性に肌を許すなんて(最後まではされていないけれど)ふしだらでないとしたらなんだというのか。
けれど紅児の国では極端な話、結婚時に処女や童貞だと嫌がられ最悪の場合は離縁されてしまったりする。処女や童貞というのは文字通りモテないという証拠だ。
自由恋愛が認められているかそうでないかという違いなのだろうが、ここまで慣習が違わなくてもいいのではないかとも思ってしまう。
自分の国と、今現在暮らしている国の慣習。どちらを基準に考えればいいのか混乱してしまう。
(でも……紅夏様と結婚するんだから……)
紅夏の床に横になったまま思う。
いつのまにかそれも紅児の中で決定事項になっていた。
この先も紅夏以外に肌を許す相手なんていない。
母が聞いたら古風だと笑うだろうか。けれど確か自分の国でも昔はそうだったと聞いたようなような気がする。
確か痛ましい事件が起きてから徐々に慣習も変わっていったようなことを聞いた覚えがある。ただそれは子供の紅児にはまだ早いと言われて……。
そんなことを考えているうちにいつのまにか紅児は眠ってしまった。
紅夏の床はお日様の匂いがした。
控えめな音によって紅児は目覚めた。
ふんわりと優しい腕に包まれたような気持ちで床から起き上がる。ぼうっとしたまま扉を開けると、侍女頭の陳が心配そうな表情で立っていた。
途端紅児は自分がどこにいるのか思い出した。
「……あ……」
「おはよう紅児。……その……大丈夫かしら?」
大丈夫って何が? と内心首を傾げながら、「あ……ハイ、大丈夫です……」と頬を染めながら答えた。
紅夏の部屋で一晩過ごしたということを知られているのがとても恥ずかしい。確かに侍女たちには心配をかけたくないから部屋を出る前に一応断ったのだが。
「紅夏様は……?」
「あの……村に行ってくれています……」
「ああ、そうなのね……」
陳は話しながらもじっと紅児を見つめている。それがひどく居心地悪く感じられた。
「ところで……その……紅夏様と、したの……?」
何を? と聞き返す必要はなかった。陳の頬がほんのりと赤く染まったのに、紅児は聞かれたことを察した。ただでさえ赤く染まっていた頬が更に赤くなる。
「い、いえ……最後までは……その……」
「……そう……。ええと……同意、なのよね?」
「は、ははははいッッ!!」
朝から一体何の話をしているのか。
陳の心配そうな表情が一瞬ほころんだ。
「ならいいわ。そろそろ時間よ、支度をしに戻りなさい」
「は、はいっ!」
急いで床をできるだけきれいに直し紅夏の室を出た。
「ただいま戻りました!」
大部屋に戻ると案の定支度をしている侍女たちの動きがピタリと止まった。かまっている時間はないので小部屋に入り急いで支度をする。侍女服に着替え髪を梳かしていると誰かが小部屋に入ってきて髪型を整えてくれた。紅児も練習はしているが元々ウェーブがかった髪はなかなかうまくまとまってくれない。それでいまだ毎朝侍女たちの手を煩わせているのを申し訳ないと思っている。
「はい、できたわよ」
「ありがとうございます」
「食事に行きましょう」
服の下の守り袋を確認し一緒に大部屋を出る。みななんだかいつもより優しい表情をしているように見えた。
大部屋を出たところで紅児はつい辺りを見回した。
(ああ……)
いつのまにか紅夏が迎えにきてくれるのを当り前に思っていた己に赤面する。昼頃には戻ってくると言っていたのがひどく待ち遠しい。
半ば侍女たちに引きずられるようにして食堂へ行けば、久しぶりに彼女たちと同じ席で朝食をとることになった。好きな物を自分で持ってくるのは毎日のことだが自分の手で食事をするのは久しぶりだ。
箸の使い方は今でもそれほどうまくはできないが自分で食べられるということが嬉しい。
彼女たちと食事をするからには昨夜のことを追及されるのを覚悟していたが、何故か何も言われなかった。
(もう呆れられているのかも)
紅夏のこと以外にもいろいろ騒がしている紅児のことなど、みなもううんざりしてしまったのかもしれない。それは切ないことだけど今はここ以外に居場所がないのだから我慢してもらうしかない。
けれど朝食を終えお茶を飲み始めた時、
「……ねぇ紅児……体は、その……大丈夫なの?」
隣に腰掛けている侍女に聞かれた。紅児は首を傾げる。
「? 大丈夫です、けど?」
陳といい何故みな同じ質問をするのだろうか。
「……わかったわ」
しかも紅児の返答で何かわかったらしい。何がなんだか疑問に思っているのはどうやら紅児だけらしかった。
そして彼女たちは一様に笑顔になった。
「……これから仕事だから聞かないけど、終ったら……わかってるわよね?」
「……は、はい……」
仕事が終ってからすぐ紅夏の室に逃げては駄目だろうか。
一瞬そんなことを考えてしまうぐらい、彼女たちの笑みは恐ろしく映った。
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