貴方色に染まる

浅葱

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本編

69.顔色(色)

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 珍しく紅夏ホンシャーが困っているように見えた。というより面白そうな色を浮かべていたとでも言おうか。

「そうだな……だがそろそろ昼食をとらねばならぬのではないか?」
「あっ!!」

 言われてみればその通りである。
 花嫁が朝食兼昼食をとり、移動をしてから戻るという形でいいのだろうがいいかげん昼食をとり仕事に戻らなければいけない。
 紅夏と共に食堂へ移動する。
 いつも通り食べたい物を取り、席に着く。そして鳥の雛のように紅夏に食べさせてもらう。
 そう、悶えそうなこの毎回の給餌を、紅児ホンアールは親鳥から餌をもらう雛のような気持ちでいただくことで少しでも平静であろうとしている。だがもちろんこんな美形な親がいるはずもなく、実際親だったとしても恋をしてしまいそうだった。
 周りの目がなければもうでろでろに溶けてしまいそうである。
 あらかた食べ終えたところでお茶を飲み一息つく。

(ごはんがおいしいの、最高! ……って、あれ?)

 紅児は首を傾げた。

「……紅夏様、あの……ええと髪の色……」

 もしかしてはぐらかされた? と思った時、どこに隠していたのか揚げ饅頭マントウが口元に差し出された。しかも練乳がかかっている物だったから紅児は頬を緩めて口を開いた。

〈花嫁様の髪の色の件であったな〉
〈? はい〉

 もぐもぐと口を動かしながら頭の中で返事をする。
 抱き寄せられ心話に切り替えられたことから話しづらい内容なのだということがわかる。以前たまたま花嫁の髪の色のことを侍女たちが話していたことがあったが、やはりはっきりしたことはわからないようだったことを紅児は思い出した。

〈もしかして……秘密なのですか?〉
〈いや……特に隠さなければいけない事柄でもない。ただ経緯が経緯だけにそなたが少し恥ずかしい思いをするかもしれぬ〉
(恥ずかしい思い?)

 紅児は首を傾げた。
 紅夏はいつになく眉を寄せ、どう話したものか考えているようだった。
 やがて。

〈……エリーザ、そなたの髪は赤いが……我と同じ色合いではないな〉
〈ええ……そうですね……〉

 考えるような表情で言われ、紅児は何故今そんなことを言うのかと肩を落とした。紅児は紅夏を好きだと自覚するまで己の髪の色を特に気にしたことはなかった。自国の人々はいろんな髪・瞳の色をしていたし、それによって好奇な視線を向けられることもなかった。ただ肌の色はやはり少し目につき、この国のような少し黄色味がかったような肌の色はそれほどでもないが、黒っぽい肌の色をしている人には視線が少し集まったようには思う。だからと言ってそれでいじめられたり、ということはなく法さえ守っていればみな寛容であった。
 けれどこの国では黒髪黒目で黄色味がかったような肌の色をしているのが一般的である。もちろん他にも少数民族はいるようだし、国境線近くに住む人々は他民族との混血が進んでいてその限りではないらしい。
 紅児のことに戻ろう。彼女は紅夏を好きになってから、彼と髪の色合いが微妙に違うことをもどかしく思っていた。それは花嫁と朱雀を見ているから余計だった。
 朱雀はウェーブがかった髪をしており、そこは花嫁と違う。だが色はまるきり同じ暗紫紅色ワインレッドだ。
 花嫁と朱雀が一緒にいるとそれだけで場が華やかになるのを感じる。白虎や青龍といる時と雰囲気が明らかに違うのだ。もちろんそれは紅児から見たものなので実際は違うかもしれない。けれど花嫁と朱雀を見ているとなんだかとても羨ましくなってしまうのだった。

 同じ色をしているというだけで。

 これを子供じみた考えというのは些か乱暴かもしれない。己の国では色の違いは全く気にならなかったが、この国ではみな同じ色をしている。
 赤い髪に緑の瞳、そして透き通るような白い肌は誰とも被らない。(花嫁は白い肌をしているが別格である)
 それがひどく紅児には孤独に感じられる。
 だからもし、紅夏と全く同じ色を纏えたならと思ってしまう。

〈花嫁様の元の髪色が黒なのは知っているな〉
〈はい……〉

 紅夏に初めて会った時、そう言っていたのを思い出す。
 あれはまだ春だった。

〈だが花嫁様がこの地に降り立たれた時、赤い髪をしていた。染めていらしたのだ〉
〈ああ……〉

 では今も染めているのだろうか。

〈花嫁様はご自身の髪が赤いことにこだわっていたが、この国の染料では同じ色を出すことは難しそうだった〉

 紅児は首を傾げた。

〈……実は四神や我ら眷属には固有の能力がある。それは基本交わることで発現するものだ〉

 ますますわけがわからない。

〈交わるって……〉
〈交尾のことだ〉

 紅児は真っ赤になった。
 声を上げなかったのが不思議なくらいである。

(交尾って……交尾って……)

 実のところ紅児はその手前までの行為を恥ずかしながらもたびたびされている。されている最中は体が熱くなり、どうしたらいいのかわからなくなってしまう。ただ紅夏の手に、唇に翻弄されて気がつけば朝になっているなんてこともあるぐらいだ。その先を匂わされることもあり、最近知識としてはどういうことなのか知っている。
 頬を染めた紅児を、紅夏は色を含んだ目で見つめた。
 紅児は抗議の意味を篭めて睨む。そんな表情も紅夏にとっては愛らしいものにしか映らない。
 だがそれほど時間があるわけでもないので紅夏は要点を伝えた。

〈……朱雀様の能力は体毛を同じ色にするというものだ。これには相手の体に熱を与え、色を定着させるという方法をとる〉
〈……それで花嫁様は同じ色を纏っていらっしゃるのですか……〉

 なんとなく納得した紅児だったが、”熱を与える”というのがわからない。そこで知った気にならないのが紅児のいいところではあるのだが……。
 そして紅夏の言葉を思い出す。
 先程”四神や我ら眷属には固有の能力がある”と言っていなかっただろうか。

(ってことは……)

 紅児はまじまじと紅夏を見つめた。

〈……あの……もしかして、紅夏様も……〉

 おずおずと尋ねれば、紅夏が満足そうに笑んだ。

〈……エリーザ、我と同じ色を纏ってくれるか〉
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