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4.もうみんな知ってました
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「よー、カイエ! 俺たちリックのこと応援するから!」
「……は……?」
翌朝である。朝食をとろうと食堂に行ったら同僚たちからこんな声をかけられた。だからなんで知ってるんだお前ら。
「なんの話なんだ……?」
わかってはいたがつい聞き返してしまった。
「リックがさ、三年も片思いしてたっていうじゃねーか。フられた~って言ってたけど諦めないっていうから応援することにしたんだ。ま、せいぜいがんばれよ~」
何をどうがんばれというのか。しかも応援ってなんなんだ。そこに俺の意志はないのか。
内心たそがれていたらリックが降りてきた。やっと起きたらしい。
「おはよー、カイエ! 起こしてくれればいいのに~」
「何言ってやがる。自力で起きろ!」
もう共同の部屋じゃないんだぞ。
「……寝ぐせついてんじゃねーか。鏡見て直してこい!」
「食べてから~。カイエが直してくれよ」
「甘ったれんな!」
リックは当たり前のように朝食を自分の皿に盛ると俺の横に座った。前は正面だったのにどういう心境の変化なんだろう。俺たちが並んで腰かけていると周りからの好奇の視線が痛い。ったく見世物じゃねえんだぞ。
「……カイエ、ごめん。昨日みんなに見られちゃってさ、どうしたんだって詰め寄られたから答えちゃったんだ」
「昨日って……あー……」
そういえば裸のまま蹴り出したっけ。
「みんな心配してくれちゃってさー。ほら、俺童顔だから……」
俺が襲ったと? まぁ客観的に見たらそれっぽいわな。
「カイエ、カッコイイじゃん。だからなんか、やっかみ? みたいなのもあったらしくて……」
なんとなくわかる。でも現実はそんなにうまくいってない。告白はされても受けないようにしたし、権力を笠にきて相手をさせられることはあるけど、すぐにお役御免になる。最近はその手のコナはかけられないから、上の人たちの間でも俺の早漏は伝わったのではないかなと思う。
「……持って生まれたものでねたまれちゃたまんねーよな。ちょっと待ってろ」
トレイを片付けてからリックの髪を直しに戻った。なんか懐かしいなと思いながらくせっ毛についた寝ぐせを丁寧に直していく。本当は一度全体を濡らした方がいいのだが、そんな時間はないので梳かして油をつけて固めるぐらいだ。
「カイエってちゃんと努力してるじゃん……櫛とか持ち歩いてるし」
「?」
「騎士なんだから身だしなみもキチンとしなくちゃだろ?」
「……そうだよね」
当たり前のことは努力とは言わない。リックはもう少し努力した方がいいとは思うが。
「歯磨きしてから行けよ」
「はーい」
ほっとくとリックはそのまま出ようとするからな。兵士の時はそれでもよかったが俺たちは騎士だ。いわゆる国の顔である。きちんとするに越したことはなかった。
同僚たちの視線が何故か痛い。俺、なんかしたか? ああ、リックのせいか。困ったもんだ。
「あれ、確実にデキてない?」
「デキてないらしいぞ」
「天然? アイツ天然なの?」
「罪深いよな~」
なんか同僚がわけわからないことを言っていたが、俺とは関係なさそうなので歯を磨きにいくことにした。
歯を磨いて改めて身だしなみを整え、鏡をチェックしてから部屋を出る。部屋には大きい鏡がないので給料で買った。
「自分好き? 自分スキーか?」
と同僚にからかわれたが、
「騎士たるもの身だしなみをしっかり整えるのは義務だろ? 部屋の鏡じゃ全身は見られないから」
と答えたらため息をつかれた。なんなんだいったい。
訓練場に出て、ウォーミングアップと称して筋トレを始める。もちろん軽く身体を動かしてからだ。騎士たるものすぐに動けるようにしておかなければならない。今日も王城内の巡回だ。身体が鈍ってしかたがない。
「カイエ~」
なんか子犬みたいなのがご機嫌でかけてきた。
「おせーよ」
「筋トレ一緒にやろー」
「先に身体をほぐしてからだ。怪我するぞ」
「わかったー」
別にリックのことが嫌いなわけじゃない。気心も知れてるし、こうしてまた一緒に訓練できると思ったら心が弾んだ。
だからって身体を許すとかにはならないだろ? あくまで俺とリックは友人だ。
筋トレをいったんやめて柔軟を手伝ってやる。騎士は身体が資本だ。基礎訓練はしっかりやるべきだ。
「背中押す?」
「ああ、頼む」
俺ちょっと身体が硬いんだよな。
「あ~、カイエの背中~」
「ちゃんと押せよ!」
「はーい」
やっぱり痛いがどうにか足のつま先を持つことができた。
「カイエって身体硬いよね」
「……ちょっとな」
「ちょっとじゃないと思うよ。顔とかつかない?」
「いててててっっ!」
「もー、そんなんじゃエッチの時好きな体位できないじゃん」
「うっせ! しないからいいんだ!」
「ええ~、エッチしようよ~」
「お前とはしない!」
いったいどういう会話なんだ。
「おーい、朝礼始まるぞー」
「はーい」
騎士団長が降りてきたらしい。柔軟をやめて立ち上がり、リックの身だしなみをチェックして列に並んだ。
「おはよう、諸君」
「「「おはようございます!」」」
「本日も騎士団員として、規律ある生活を送るように。王が降臨したことで世界中が活性化している。気候変動や災害は起こりにくくなったが、魔物もまた恩恵を受けているようだ。王都近くの森で魔物の目撃情報が増えている。気を引き締め、有事に備えよ!」
「「「はっ!!」」」
いつもならこれで終りだが、騎士団長はこちらの方を見やった。俺? じゃないよな?
「ところで、昨日寮で裸で駆けまわっていた輩がいたと聞いたのだが……」
あああああ!!
「はーい! 僕です!」
そこで何故貴様は手を上げるんだ!
「君は……確か一昨日騎士に昇進したリックか」
「はい! 騎士団長、よろしくお願いします」
「何故裸で駆けまわっていたのかね? 誰かに襲われたのなら忌憚なく言うといい。我々はそのような卑怯な輩を許しはしない」
どうしてここで聞くかなぁ! 襲われそうになったのは俺なんだけど!
「いえ! カイエを口説こうとして蹴り出されただけです!」
正直かっ! ああもうやだ。
やっぱり故郷に帰ろうかな。
俺はあまりのいたたまれなさに、その場で顔を両手で覆いしゃがみこんだ。
「……は……?」
翌朝である。朝食をとろうと食堂に行ったら同僚たちからこんな声をかけられた。だからなんで知ってるんだお前ら。
「なんの話なんだ……?」
わかってはいたがつい聞き返してしまった。
「リックがさ、三年も片思いしてたっていうじゃねーか。フられた~って言ってたけど諦めないっていうから応援することにしたんだ。ま、せいぜいがんばれよ~」
何をどうがんばれというのか。しかも応援ってなんなんだ。そこに俺の意志はないのか。
内心たそがれていたらリックが降りてきた。やっと起きたらしい。
「おはよー、カイエ! 起こしてくれればいいのに~」
「何言ってやがる。自力で起きろ!」
もう共同の部屋じゃないんだぞ。
「……寝ぐせついてんじゃねーか。鏡見て直してこい!」
「食べてから~。カイエが直してくれよ」
「甘ったれんな!」
リックは当たり前のように朝食を自分の皿に盛ると俺の横に座った。前は正面だったのにどういう心境の変化なんだろう。俺たちが並んで腰かけていると周りからの好奇の視線が痛い。ったく見世物じゃねえんだぞ。
「……カイエ、ごめん。昨日みんなに見られちゃってさ、どうしたんだって詰め寄られたから答えちゃったんだ」
「昨日って……あー……」
そういえば裸のまま蹴り出したっけ。
「みんな心配してくれちゃってさー。ほら、俺童顔だから……」
俺が襲ったと? まぁ客観的に見たらそれっぽいわな。
「カイエ、カッコイイじゃん。だからなんか、やっかみ? みたいなのもあったらしくて……」
なんとなくわかる。でも現実はそんなにうまくいってない。告白はされても受けないようにしたし、権力を笠にきて相手をさせられることはあるけど、すぐにお役御免になる。最近はその手のコナはかけられないから、上の人たちの間でも俺の早漏は伝わったのではないかなと思う。
「……持って生まれたものでねたまれちゃたまんねーよな。ちょっと待ってろ」
トレイを片付けてからリックの髪を直しに戻った。なんか懐かしいなと思いながらくせっ毛についた寝ぐせを丁寧に直していく。本当は一度全体を濡らした方がいいのだが、そんな時間はないので梳かして油をつけて固めるぐらいだ。
「カイエってちゃんと努力してるじゃん……櫛とか持ち歩いてるし」
「?」
「騎士なんだから身だしなみもキチンとしなくちゃだろ?」
「……そうだよね」
当たり前のことは努力とは言わない。リックはもう少し努力した方がいいとは思うが。
「歯磨きしてから行けよ」
「はーい」
ほっとくとリックはそのまま出ようとするからな。兵士の時はそれでもよかったが俺たちは騎士だ。いわゆる国の顔である。きちんとするに越したことはなかった。
同僚たちの視線が何故か痛い。俺、なんかしたか? ああ、リックのせいか。困ったもんだ。
「あれ、確実にデキてない?」
「デキてないらしいぞ」
「天然? アイツ天然なの?」
「罪深いよな~」
なんか同僚がわけわからないことを言っていたが、俺とは関係なさそうなので歯を磨きにいくことにした。
歯を磨いて改めて身だしなみを整え、鏡をチェックしてから部屋を出る。部屋には大きい鏡がないので給料で買った。
「自分好き? 自分スキーか?」
と同僚にからかわれたが、
「騎士たるもの身だしなみをしっかり整えるのは義務だろ? 部屋の鏡じゃ全身は見られないから」
と答えたらため息をつかれた。なんなんだいったい。
訓練場に出て、ウォーミングアップと称して筋トレを始める。もちろん軽く身体を動かしてからだ。騎士たるものすぐに動けるようにしておかなければならない。今日も王城内の巡回だ。身体が鈍ってしかたがない。
「カイエ~」
なんか子犬みたいなのがご機嫌でかけてきた。
「おせーよ」
「筋トレ一緒にやろー」
「先に身体をほぐしてからだ。怪我するぞ」
「わかったー」
別にリックのことが嫌いなわけじゃない。気心も知れてるし、こうしてまた一緒に訓練できると思ったら心が弾んだ。
だからって身体を許すとかにはならないだろ? あくまで俺とリックは友人だ。
筋トレをいったんやめて柔軟を手伝ってやる。騎士は身体が資本だ。基礎訓練はしっかりやるべきだ。
「背中押す?」
「ああ、頼む」
俺ちょっと身体が硬いんだよな。
「あ~、カイエの背中~」
「ちゃんと押せよ!」
「はーい」
やっぱり痛いがどうにか足のつま先を持つことができた。
「カイエって身体硬いよね」
「……ちょっとな」
「ちょっとじゃないと思うよ。顔とかつかない?」
「いててててっっ!」
「もー、そんなんじゃエッチの時好きな体位できないじゃん」
「うっせ! しないからいいんだ!」
「ええ~、エッチしようよ~」
「お前とはしない!」
いったいどういう会話なんだ。
「おーい、朝礼始まるぞー」
「はーい」
騎士団長が降りてきたらしい。柔軟をやめて立ち上がり、リックの身だしなみをチェックして列に並んだ。
「おはよう、諸君」
「「「おはようございます!」」」
「本日も騎士団員として、規律ある生活を送るように。王が降臨したことで世界中が活性化している。気候変動や災害は起こりにくくなったが、魔物もまた恩恵を受けているようだ。王都近くの森で魔物の目撃情報が増えている。気を引き締め、有事に備えよ!」
「「「はっ!!」」」
いつもならこれで終りだが、騎士団長はこちらの方を見やった。俺? じゃないよな?
「ところで、昨日寮で裸で駆けまわっていた輩がいたと聞いたのだが……」
あああああ!!
「はーい! 僕です!」
そこで何故貴様は手を上げるんだ!
「君は……確か一昨日騎士に昇進したリックか」
「はい! 騎士団長、よろしくお願いします」
「何故裸で駆けまわっていたのかね? 誰かに襲われたのなら忌憚なく言うといい。我々はそのような卑怯な輩を許しはしない」
どうしてここで聞くかなぁ! 襲われそうになったのは俺なんだけど!
「いえ! カイエを口説こうとして蹴り出されただけです!」
正直かっ! ああもうやだ。
やっぱり故郷に帰ろうかな。
俺はあまりのいたたまれなさに、その場で顔を両手で覆いしゃがみこんだ。
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