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⑪帰宅した恋人

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 純也と国生は、その後も二人で『お供え』をして回った。純也は4か所目まで同じことを繰り返し、国生は諦めて講義するのもやめた。

 最後の5か所目は、一番標高の高い位置にありメインのような扱いを受けている祠である。
 『お供え』も少し多めにする決まりだ。

 「これからも、みなさんが山で安全に過ごせるようお願いします。」

 ここに来てようやく、純也は啓介以外の安全を祈った。
 『お供え』もスコーンとサンドイッチになって、乳酸菌飲料の本数も増えている。
 
 やっとか・・・。

 ようやく自分達の身の安全をお願いしてくれた。今までも、国生は全ての従業員と客の安全を願って手を合わせてきたが、隣の男の恋人への強い思いに毎回、打ち消されている気分だった。

 無駄に良い顔しやがって!!

 ハーフと間違われることの多い、国生とは反対に純也は大人しく目の爽やかな印象の顔立ちをしている。
 すっきりと整った甘いマスクは、万人受けするだろうと思う。

 国生は上司から純也の話をあまり聞いたことはないが、例のご令嬢がSNSにあげた純也の写真をこっそり保存しているのを知っている。

 きっと純也が知ったら、とんでもなく喜ぶだろうと予想はつく。
 自分も倉本のことで世話になることがあるので、タイミングをみてそのことを教えてやろうと思っているが、しばらくはなしだ。

 むしろ、今日のことを上司に告げ口したい。思いっきり叱られてほしい。

 「お前、大石さんに嫌われたらどうすんの?」

 「どうもしないです。死ぬんで。」

 怖いほど・・・曇りのない目をしている。国生は、思わず唾を飲んだ。
 
 「へぇ・・・」

 短い返事を、どうにか絞り出す。
 お互い、惚気を言い合って盛り上がったこともあるし、国生は倉本が不在の時には純也達の家でご馳走になったこともある。
 が、これは、初めて知った。

 「お前・・・俺と一緒だな。」

 国生は、今、これまでで一番、純也に仲間意識を抱いた。

 国生は倉本を好きになってから、己の人生全てを捧げてきた。傍に居られなくなった時は捧げきって終ろうと決めている。
 
 純也が、少し目を見開いたあと小さく笑った。

 「国生さんはきっと同じだって思ってました。」

 純也の言葉に国生も、軽い笑みを返す。二人は山をおりるために車に乗り込んだ。
 純也が助手席だ。

 本当は帰りの運転は純也に押し付けるつもりだったが、これぐらいは引き受けてやろうと思う。
 


 「啓介さん、お帰りさないっ♡」

 「ただいま、純也。」

 夜の9時過ぎに啓介が帰宅した。県内の他のゴルフ場で各ゴルフ場のグリーンキーパー達が集まる『キーパー会』という会議があり参加していたのだ。
 
 啓介から聞いた話では、『キーパー会』は、集まったキーパー達でスループレーでゴルフした後、全員で昼食をとり食後にお茶を飲みながら会議が始まるのが決まった流れらしい。
 なんとも緩いお仕事なのである。

 今回は会議の後、再びコースでハーフラウンドして、その後は希望者だけで二次会という飲み会に移行していた。

 めちゃくちゃ体力のある男達の集まりだ。

 啓介は、マイカー参加なので飲み会には参加したものの飲まずに帰ってきていた。
 代行やタクシーを頼んでもいいのだが、特別に頼んでない限り施設に出入りする道路の門が夜の10時には閉まってしまうし、キャディバッグや着替えの詰まったボストンバッグ等、荷物のことを考えると結局、自分の車で好きにするのが一番楽で気を使わない。

 「意外と早く終わったんですね。」

 「途中で抜けてきた。最後まで付き合うと明日になるからな。」

 ずっしりと重いキャディバッグを啓介から受け取り、部屋の中の定位置に戻す。
 啓介はボストンバッグを持って、洗濯機の方へ行き洗濯物を仕分けしている。
 
 純也は、それを後ろからそっと覗く。ちらっと見えたゴルフウェアには見覚えがある。

 あの黒いの、ちょっといイヤラしいやつだ!!

 朝、家を出る啓介はゴルフウェアではなかった。現地に着いてから着替えたのだろう。

 啓介はかなりのゴルフ好きで、プライベートでもゴルフに行くし、自身の職場である白花岳に友人を招いてラウンドすることもある。
 完全会員制の普段は入れないコースでラウンドできる貴重な機会なので喜ばれるらしい。
 
 どんなウェア着るか確認しとけば良かった!!

 純也は、己の迂闊さを後悔した。聞いたところで、別のウェアにしてくれとは言えないので別に何も変わらないのだが、心の準備ができるかどうかが違ってくる。

 あのウェアを着た啓介さんを何の対策もなしに男達の集団の中に送り出してしまうなんて、恋人としてあり得ない!!

 啓介が本日、着ていた黒いウェアはメジャーなブランドのゴルフラインのもので、純也から見ても啓介に良く似合っている。
 上下お揃いで着ていることが多く、体に程よくフィットして、本当に丁度いいサイズ感だ。

 その丁度いいサイズ感が、啓介の魅力的な体を際出させてしまう・・・と純也が勝手に思っている。
 黒色というのも、セクシーさをプラスしている・・・気がしている。

 全体的に黒を貴重としているが、ポケットや裾の部分にネオンカラーの派手な色が多色使いで少量ずつ使われていて、それがヤンチャな感じなのも良い。

 そのウェアをきた啓介は実に魅力的だが、人前で着られると心配だ。

 「啓介さん、お風呂準備できてますよ♡♡」

 心配だが、外の世界から自分のもとに帰ってきた本人の魅力にはあがらえない。

 離れていた分を、きっちり取り返さなければいけない。

 「ありがとう、純也!!入るっ!!」

 振り返った啓介の嬉しそうに輝く目が、一段と愛しい。きっと、ゴルフ場の広い浴室を使っているいるはずだが、こうして自宅の風呂にも絶対入る。

 「俺も一緒に入ります♡」

 啓介が、優しく笑ってくれる。純也は後ろから近付いて、そのまま啓介を抱きしめた。
 知らないシャンプーとボディソープの香りがした。

 「今日は、国生と『お供え』して回ったんだろう?」

 純也が鼻先を首筋に擦り付けると、擽ったそうに啓介が身をよじった。

 早く、いつもの香りに戻したい。

 「念入りに、啓介さん達の安全をお願いしてきました。もちろん、お客さんも・・・。」

 純也の手が啓介の着ていたたシャツのボタンを外し始める。
 少し恥ずかしそうにしながらも、大人しく待ってくれる。

 「お前の服も・・・」

 ふり返った啓介が、純也の服に手を伸ばす。

 「!!脱がしてくれるの?」

 めったいにない申し出だ。もしかして、離れていた時間を寂しいと感じてくれていたのだろうか?
 そう考えるととんでもなく嬉しい!!

 「ん。」

 啓介が恥ずかしそうにしたまま、小さく返事する。

 可愛いー!!

 可愛すぎないか!?もうあのウェアとシャンプーどうこう等、どうでもいい。
 今!自分の目の前の!!この啓介がぶっちぎりで一番魅力的だ。
 
 一番はハイペースで更新されるので、あまり意味はない。

 「純也っ、脱げないし脱がせられないっ!」

 無意識にきつく抱きしめてしまっていて、苦情が入ってしまった。


 
 
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