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不毛の地に咲く新たな絆
帝都からの影、招かれざる再会
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蒼の月草が開花してから数日。 バルザムの村は、これまでにない活気に包まれていました。 花の力によるものか、雪解け後の大地からは次々と野花が芽吹き、セリスの麦も驚くべき成長を見せています。
「奥様、大変です‼ 村の入り口に、見たこともないような豪華な馬車が停まっています‼ 」
リリカが、顔を真っ青にしてキッチンに飛び込んできました。 わたくしとラッシュ様は、嫌な予感を抱きながら顔を見合わせました。 このバルザムに、予告もなく馬車を走らせてくる者など、心当たりは限られています。
わたくしたちが玄関を出ると、そこには漆黒の塗装に金細工が施された、悪趣味なほど華美な馬車が鎮座していました。 馬車の扉に刻まれているのは、帝国でも有数の権勢を誇る「特務監査局」の紋章。
「……また、あの方の手先でしょうか……」
わたくしが呟くと、ラッシュ様はわたくしを庇うように前に立ちました。 馬車の扉が開き、中から一人の男が降り立ちました。 それは、ヴァルターのような下っ端役人ではありませんでした。 整えられた口髭、冷酷さを隠そうともしない細い目。 帝都で「強欲の鴉」と恐れられる、マカリスタ皇太子の腹心、カシアン伯爵その人だったのです。
「やあ、これはこれは。かつての帝国最高位の公爵閣下と、その麗しき奥方様ではありませんか」
カシアンは、芝居がかった仕草で慇懃無礼な一礼をしました。 その視線は、わたくしたちを通り越し、背後の温室へと向けられています。 彼の鼻が、くんくんと空気を嗅ぐように動きました。
「噂は本当のようですね……。帝都の魔導士たちが、辺境の空に異常な魔力の揺らぎを観測しましてね。まさか、このゴミ溜めのようなバルザムで、幻の『蒼の月草』を咲かせた者がいるとは⁉ 」
カシアンの言葉に、リリカが思わず声を上げそうになるのを、わたくしは制しました。 やはり、あの開花の光は隠し通せなかったのです。
「カシアン伯爵、わざわざ帝都からご苦労なことだ。だが、ここはすでに私の私領であり、帝都の監査を受ける義理はないはずだが⁉ 」
ラッシュ様の声は、氷のように冷たく、鋭く響きました。 公爵としての威厳を取り戻したその姿に、カシアンは一瞬だけたじろぎましたが、すぐに下品な笑みを浮かべました。
「おやおや、恐ろしい。ですが閣下、帝国法によれば『国家の利益に直結する稀少資源』の発見は、直ちに皇帝陛下に報告し、管理下に置く義務があります。……この蒼の月草、すべて没収させていただきますよ」
「なんですって……⁉ 」
わたくしは、思わず叫んでいました。 わたくしたちがどれほどの思いで、あの冬を越してきたと思っているのですか⁉ 指を凍らせ、眠れぬ夜を過ごし、リリカと手を取り合って守り抜いた命。 それを、ただ「利益」という言葉だけで奪おうというのですか⁉
「奥様、落ち着いてください。……伯爵、それはあまりに一方的な暴論だ。この植物はミーシアが独自の理論で育て上げたものであり、帝国の所有物ではない‼ 」
「いいえ、閣下。不毛の地での成功はすべて、帝国の寛大な追放処分という恩赦の結果です。……さあ、兵士たちよ‼ 内部を改め、鉢植えをすべて馬車へ運べ‼ 」
カシアンの合図とともに、馬車の影から武装した兵士たちが現れました。 リリカが恐怖に震え、わたくしの袖を掴みます。
しかし、その時でした。 村のあちこちから、鍬や鎌を手にした村人たちが次々と集まってきたのです‼ 先頭に立つのは、老農夫のグレンさんでした。
「伯爵様だか何だか知らねえが、この村に土足で踏み入るたあ、いい度胸じゃねえか⁉ 」
「そうだ‼ 公爵様と奥様は、俺たちの命の恩人だ‼ あんたらに渡す草なんて、ここには一本もありゃしねえぞ‼ 」
村人たちの怒号が、静かなバルザムに響き渡ります。 カシアンは予想外の展開に、顔を醜く歪めました。 「ええい、下賤な民草どもが……⁉ 剣を抜け‼ 逆らう者は反逆罪として……」
「そこまでだ、カシアン」
ラッシュ様が、静かに一歩前に出ました。 その手には、いつの間にか一本の古い剣が握られていました。 それは、公爵家に代々伝わる名剣。 「私は、この地の領主として、私の民と私の妻の努力を守る義務がある。これ以上、バルザムの土を汚すというのなら……たとえ帝国を相手にしても、私は引かんぞ⁉ 」
その気迫に、プロの兵士たちさえも気圧され、じりじりと後退しました。 ラッシュ様の背後には、団結した村人たち。 そして、知恵を絞り、奇跡を咲かせたわたくしたち。
カシアンは、屈辱に震えながら馬車へと戻り、窓越しに呪うような言葉を吐き捨てました。
「……今日は引きましょう。ですが、忘れないことだ。皇太子殿下とモンロー様が、このお宝を見逃すとでもお思いかな⁉ すぐに、正規の軍隊が派遣されることになるでしょう。その時、この村がどうなるか……楽しみですな‼ 」
走り去る馬車の土煙を、わたくしたちは黙って見送りました。 勝利の喜びはありませんでした。 これから始まる、帝都の闇との本当の戦い。 それを予感し、わたくしの背中を冷たい汗が伝います。
「ミーシア、リリカ。怖がることはない。私たちは、もう一人じゃないんだ」
ラッシュ様が、わたくしたちの手を優しく、けれど強く握ってくれました。 村人たちも、誇らしげに胸を張っています。 「そうですわね、あなた……。わたくしたちが咲かせた希望は、誰にも奪わせません」
わたくしたちのワンダフルライフ。 それは今、帝国を揺るがす壮大な「抵抗」の物語へと、その姿を変えようとしていたのです……。
「奥様、大変です‼ 村の入り口に、見たこともないような豪華な馬車が停まっています‼ 」
リリカが、顔を真っ青にしてキッチンに飛び込んできました。 わたくしとラッシュ様は、嫌な予感を抱きながら顔を見合わせました。 このバルザムに、予告もなく馬車を走らせてくる者など、心当たりは限られています。
わたくしたちが玄関を出ると、そこには漆黒の塗装に金細工が施された、悪趣味なほど華美な馬車が鎮座していました。 馬車の扉に刻まれているのは、帝国でも有数の権勢を誇る「特務監査局」の紋章。
「……また、あの方の手先でしょうか……」
わたくしが呟くと、ラッシュ様はわたくしを庇うように前に立ちました。 馬車の扉が開き、中から一人の男が降り立ちました。 それは、ヴァルターのような下っ端役人ではありませんでした。 整えられた口髭、冷酷さを隠そうともしない細い目。 帝都で「強欲の鴉」と恐れられる、マカリスタ皇太子の腹心、カシアン伯爵その人だったのです。
「やあ、これはこれは。かつての帝国最高位の公爵閣下と、その麗しき奥方様ではありませんか」
カシアンは、芝居がかった仕草で慇懃無礼な一礼をしました。 その視線は、わたくしたちを通り越し、背後の温室へと向けられています。 彼の鼻が、くんくんと空気を嗅ぐように動きました。
「噂は本当のようですね……。帝都の魔導士たちが、辺境の空に異常な魔力の揺らぎを観測しましてね。まさか、このゴミ溜めのようなバルザムで、幻の『蒼の月草』を咲かせた者がいるとは⁉ 」
カシアンの言葉に、リリカが思わず声を上げそうになるのを、わたくしは制しました。 やはり、あの開花の光は隠し通せなかったのです。
「カシアン伯爵、わざわざ帝都からご苦労なことだ。だが、ここはすでに私の私領であり、帝都の監査を受ける義理はないはずだが⁉ 」
ラッシュ様の声は、氷のように冷たく、鋭く響きました。 公爵としての威厳を取り戻したその姿に、カシアンは一瞬だけたじろぎましたが、すぐに下品な笑みを浮かべました。
「おやおや、恐ろしい。ですが閣下、帝国法によれば『国家の利益に直結する稀少資源』の発見は、直ちに皇帝陛下に報告し、管理下に置く義務があります。……この蒼の月草、すべて没収させていただきますよ」
「なんですって……⁉ 」
わたくしは、思わず叫んでいました。 わたくしたちがどれほどの思いで、あの冬を越してきたと思っているのですか⁉ 指を凍らせ、眠れぬ夜を過ごし、リリカと手を取り合って守り抜いた命。 それを、ただ「利益」という言葉だけで奪おうというのですか⁉
「奥様、落ち着いてください。……伯爵、それはあまりに一方的な暴論だ。この植物はミーシアが独自の理論で育て上げたものであり、帝国の所有物ではない‼ 」
「いいえ、閣下。不毛の地での成功はすべて、帝国の寛大な追放処分という恩赦の結果です。……さあ、兵士たちよ‼ 内部を改め、鉢植えをすべて馬車へ運べ‼ 」
カシアンの合図とともに、馬車の影から武装した兵士たちが現れました。 リリカが恐怖に震え、わたくしの袖を掴みます。
しかし、その時でした。 村のあちこちから、鍬や鎌を手にした村人たちが次々と集まってきたのです‼ 先頭に立つのは、老農夫のグレンさんでした。
「伯爵様だか何だか知らねえが、この村に土足で踏み入るたあ、いい度胸じゃねえか⁉ 」
「そうだ‼ 公爵様と奥様は、俺たちの命の恩人だ‼ あんたらに渡す草なんて、ここには一本もありゃしねえぞ‼ 」
村人たちの怒号が、静かなバルザムに響き渡ります。 カシアンは予想外の展開に、顔を醜く歪めました。 「ええい、下賤な民草どもが……⁉ 剣を抜け‼ 逆らう者は反逆罪として……」
「そこまでだ、カシアン」
ラッシュ様が、静かに一歩前に出ました。 その手には、いつの間にか一本の古い剣が握られていました。 それは、公爵家に代々伝わる名剣。 「私は、この地の領主として、私の民と私の妻の努力を守る義務がある。これ以上、バルザムの土を汚すというのなら……たとえ帝国を相手にしても、私は引かんぞ⁉ 」
その気迫に、プロの兵士たちさえも気圧され、じりじりと後退しました。 ラッシュ様の背後には、団結した村人たち。 そして、知恵を絞り、奇跡を咲かせたわたくしたち。
カシアンは、屈辱に震えながら馬車へと戻り、窓越しに呪うような言葉を吐き捨てました。
「……今日は引きましょう。ですが、忘れないことだ。皇太子殿下とモンロー様が、このお宝を見逃すとでもお思いかな⁉ すぐに、正規の軍隊が派遣されることになるでしょう。その時、この村がどうなるか……楽しみですな‼ 」
走り去る馬車の土煙を、わたくしたちは黙って見送りました。 勝利の喜びはありませんでした。 これから始まる、帝都の闇との本当の戦い。 それを予感し、わたくしの背中を冷たい汗が伝います。
「ミーシア、リリカ。怖がることはない。私たちは、もう一人じゃないんだ」
ラッシュ様が、わたくしたちの手を優しく、けれど強く握ってくれました。 村人たちも、誇らしげに胸を張っています。 「そうですわね、あなた……。わたくしたちが咲かせた希望は、誰にも奪わせません」
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