転落令嬢と辺境公爵の開墾スローライフ~愛と勇気と知恵で、不毛の地に楽園を築きます!

紅葉山参

文字の大きさ
26 / 53
不毛の地に咲く新たな絆

帝都を揺るがす青き衝撃

しおりを挟む
 カシアン伯爵とモンローが、五百の兵を引き連れて命からがら帝都に逃げ帰ったという知らせは、瞬く間に帝国全土を駆け巡りました。 無敵を誇った帝国正規軍が、辺境の不毛の地で、ただの農民と植物に敗北した……。 このニュースは、マカリスタ皇太子の権威を根底から揺るがす巨大な衝撃波となりました。

 帝都の社交界では、連日その話題でもちきりでした。 「聞いたか⁉ バルザムの地に、死者をも蘇らせる『蒼の月草』が咲いたそうだ」 「それだけじゃない。追放されたミーシア様は、聖女のような力であの地を楽園に変えたというじゃないか」

 かつてわたくしを「地味で無能な女」と蔑んでいた貴族たちは、今や手のひらを返したように、わたくしの機嫌を伺う手紙を……もちろん、バルザムの入り口で自警団に焼かれる運命にある手紙を、次々と送ってくるようになりました。

 一方、マカリスタ皇太子の執務室では、荒れ狂う嵐のような怒号が響いていました。

「……バルカスが負けただと⁉ あの不毛の地で、たかだか草木に敗れたというのか‼ 」

 マカリスタは、執務机の上の高価な装飾品を次々と投げ捨て、肩で息をしていました。 その目の前では、泥に汚れたドレスのまま、顔をぐちゃぐちゃにして泣き喚くモンローが床に伏しています。

「マカリスタ様あ……‼ あの女、ミーシアがわたくしを……わたくしを泥の中に放り込んだのですわ‼ 許せません、今すぐ軍を出し、あの村を焼き払ってください‼ 」

「黙れ、この愚か者が‼ 」

 マカリスタの怒声が、モンローを凍りつかせました。 彼は、彼女の顎を乱暴に掴み上げ、蛇のような冷たい目で見下ろしました。

「貴様が勝手に付いていったせいで、帝国の面目は丸潰れだ。……それに、あの薬……。ミーシアが帝都に流したあの『蒼の雫』のせいで、私の政敵たちが一気に力を持ち始めたのだぞ⁉ 貴様のような、見た目だけの女に構っている暇はないのだ‼ 」

 マカリスタの言葉は、モンローにとって何よりも鋭い刃でした。 自分が「最愛」だと思い込んでいたものは、ただの便利な飾り物に過ぎなかった。 その現実を突きつけられた彼女の顔は、絶望で真っ白に染まりました。

 その頃、バルザムのわたくしたちの家では、勝利の宴……というよりは、明日への希望に満ちた穏やかな時間が流れていました。 自警団の男たちは、没収した帝都軍の馬や武具を整理し、自分たちの戦力へと変えていきました。 村人たちは、帝都の兵士が落としていった食料や物資を分け合い、冬の蓄えに加えています。

「ミーシア様、見てください‼ 蒼の月草の粒子が、村の畑全体に広がっていますわ‼ 」

 リリカさんが、庭から嬉しそうに駆け寄ってきました。 見れば、夜の闇の中で、村のあちこちから淡い青い光が立ち上っています。 それは、大地が浄化され、豊かな生命力を取り戻している証拠でした。

「本当ね……。これで、来年の収穫は今年の数倍になるはずだわ」

 わたくしは、温かいハーブティーを飲みながら、隣で地図を広げているラッシュ様を見つめました。 彼は、帝都からの追撃に備えつつも、すでに「バルザム独立領」としての将来を見据えていました。

「ミーシア。帝都は今、内側から崩れ始めている。マカリスタの支配は、長くは持たないだろう」

 ラッシュ様はわたくしの手を取り、その力強い指先を絡ませました。 「彼らが自滅するのを待ちつつ、私たちはこの地をさらに強固にする。……君の知恵があれば、ここは帝国さえも無視できない、聖なる楽園になるはずだ」

「はい、ラッシュ様。わたくし、どこまでもあなたについて参ります……。たとえ帝国すべてを敵に回しても、この大地と、あなたの愛があれば怖くありませんわ」

 わたくしは、彼の広い胸に顔を埋めました。 帝都を揺るがす青き衝撃。 それは、虐げられた者たちが反撃を開始した合図でもありました。

 第2章の幕が閉じ、物語はいよいよ「激動の第3章」へと突入します。 マカリスタが最後に見せるであろう狂気。 そして、わたくしたちが掴み取る、本当の自由と幸せ。

 不毛の地に咲いた奇跡は、これから帝国そのものを、塗り替えていくことになるはず?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病弱設定されているようです

との
恋愛
『あのようにご立派な家門にお産まれになられたのに⋯⋯お可哀想なご令嬢だそうですのよ』 なんて噂が流れているけれど、誰も会ったことがないミリー・ミッドランド侯爵令嬢。 ネグレクトなんて言葉はない時代に生まれ落ちて、前世の記憶を取り戻したら⋯⋯。 前世の記憶と共に無双します! 再開しました。完結まで続投です。 ーーーーーー 恋愛小説大賞27位、ありがとうございました(感謝) ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定。 完結確定、R15は念の為・・

捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。

亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。 だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。 婚約破棄をされたアニエル。 だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。 ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。 その相手とはレオニードヴァイオルード。 好青年で素敵な男性だ。 婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。 一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。 元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……

【完結】恋が終わる、その隙に

七瀬菜々
恋愛
 秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。  伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。  愛しい彼の、弟の妻としてーーー。  

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

貧乏子爵令嬢ですが、愛人にならないなら家を潰すと脅されました。それは困る!

よーこ
恋愛
図書室での読書が大好きな子爵令嬢。 ところが最近、図書室で騒ぐ令嬢が現れた。 その令嬢の目的は一人の見目の良い伯爵令息で……。 短編です。

師匠の嫉妬で才能を奪われた薬師見習いの私、牢獄で本物の力を取り戻す

er
恋愛
辺境貴族の娘セシリアは宮廷薬師見習いとして働くが、師匠エリザから無能と罵られ続ける。疫病が王都で流行すると、エリザはセシリアに濡れ衣を着せ処刑させようとする。

【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!

たまこ
恋愛
 エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。  だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...