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反撃の蒼光、帝都崩壊編
経済という名の静かなる侵略
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バルザムの防衛戦で帝都軍を退けた後、わたくしたちは剣を鍬に持ち替え、再び大地との対話を始めました。けれど、それは単なる農耕への回帰ではありませんでした。わたくし、ミーシアが帝都の闇に放った一石……蒼の雫による経済的な揺さぶりが、目に見える形で芽吹き始めていたのです。
奥様、見てください‼ また帝都から商団の馬車がやってきましたわ‼
リリカさんが、村の境界にある見張り塔から嬉しそうに報告してくれました。彼女が指差す先には、かつての帝都軍が通った泥の道を進む、数台の頑丈な荷馬車が見えます。それは略奪に来た軍勢ではなく、わたくしたちが作り出した価値を求めて、黄金を積んでやってきた強欲な……いえ、賢明な商人たちでした。
彼らが求めているのは、帝都で今や伝説となりつつある蒼の月草の加工品です。わたくしは、ラッシュ様と相談し、バルザムの特産品として三つの段階の商品を用意しました。
一つ目は、日常的に使えるサフラスの精製油。これは肌を整えるだけでなく、微かな蒼の月草の香りが精神を安定させる効果を持ち、帝都の令嬢たちの間で飛ぶように売れています。 二つ目は、蒼の月草の花粉を用いた特殊な肥料。これは不毛の地であっても植物を急速に成長させる力を持ち、食料不足に悩む近隣の領主たちが喉から手が出るほど欲しがっています。 そして三つ目が、わたくしが抽出した純度百パーセントの蒼の雫。これはもはや薬の域を超え、帝都の権力者たちの間で一種の通貨のように扱われ始めていました。
いらっしゃいませ。バルザムの地へようこそ。
わたくしは、かつての社交界で身につけた優雅な微笑みを浮かべ、商団の代表である恰幅の良い男を迎え入れました。彼は、帝都でも名の知れた大商会の会頭でしたが、今はわたくしの前で額の汗を拭い、揉み手をしています。
ミーシア様、いえ、バルザム領主夫人。どうか、今月分の蒼の雫を、我が商会に優先的に卸していただけないでしょうか⁉ 代金は、前回の倍……いえ、三倍お支払いいたします‼
あら、困りましたわ。先ほどマクシミリアン侯爵の使者の方からも、同様のご提案をいただいたばかりですの。わたくしたちの月草は、愛を込めて育てておりますから、量産はできませんのよ。
わたくしが困ったように首を傾げると、会頭は顔を真っ青にして、さらなる条件を提示してきました。かつてわたくしを「役立たずの女」と嘲笑っていた帝都の空気。それが今、このバルザムの地では、わたくしの一言でひっくり返るのです。
わたくしが彼らに求めたのは、金貨だけではありませんでした。帝都の最新の魔導具、農業用の鉄器、そして何より「マカリスタ皇太子の動向」という生きた情報です。
ラッシュ様は、わたくしが商談を進める傍らで、運び込まれた物資を厳しく検品していました。 「会頭、この鉄器の品質は悪くない。だが、前回約束した魔導結晶の数が足りないようだが……。もしや、皇太子殿下の横槍が入ったのかな⁉ 」
ラッシュ様の鋭い指摘に、会頭はビクッと肩を震わせました。 「め、滅相もございません‼ ただ、帝都では今、マカリスタ様がバルザムとの交易を禁止する勅令を出そうと躍起になっておりまして……。我々も、検問を潜り抜けるのに苦労しているのです」
「……なるほど。彼はまだ、自分が置かれた状況を理解していないようですね」
わたくしは、会頭に一瓶の蒼の雫を手渡しました。 「会頭。これを、皇太子の政敵である第二皇子派の重鎮へ届けてください。代金は結構ですわ。その代わり、マカリスタ様が次にどのような無茶を仰るか、逐一報告してちょうだい」
会頭は、震える手で瓶を受け取り、何度も頭を下げながら去っていきました。 彼らが帝都へ戻れば、わたくしの雫は、皇太子の権力を内側から削り取る鋭いナイフへと変わります。
「ミーシア、君のやり方は、剣で戦うよりもはるかに残酷で、そして確実だね」
ラッシュ様が、去りゆく馬車を見送りながら、わたくしの肩を抱き寄せました。 彼の腕の温もりを感じながら、わたくしは静かに答えました。
「残酷、でしょうか……。わたくしはただ、あの方たちが教えてくれた『弱肉強食』というルールを、そのままお返ししているだけですわ。……愛する人と、この地を守るためなら、わたくしは喜んで魔女にでもなりましょう」
空は高く、バルザムの地には心地よい風が吹き抜けていました。 かつて不毛と呼ばれたこの地は今や、帝国の心臓部を支配する経済の源泉へと変貌を遂げていたのです。 マカリスタ皇太子が、自らの傲慢さが招いた「飢え」に気づくのは、そう遠い日のことではないでしょう。
奥様、見てください‼ また帝都から商団の馬車がやってきましたわ‼
リリカさんが、村の境界にある見張り塔から嬉しそうに報告してくれました。彼女が指差す先には、かつての帝都軍が通った泥の道を進む、数台の頑丈な荷馬車が見えます。それは略奪に来た軍勢ではなく、わたくしたちが作り出した価値を求めて、黄金を積んでやってきた強欲な……いえ、賢明な商人たちでした。
彼らが求めているのは、帝都で今や伝説となりつつある蒼の月草の加工品です。わたくしは、ラッシュ様と相談し、バルザムの特産品として三つの段階の商品を用意しました。
一つ目は、日常的に使えるサフラスの精製油。これは肌を整えるだけでなく、微かな蒼の月草の香りが精神を安定させる効果を持ち、帝都の令嬢たちの間で飛ぶように売れています。 二つ目は、蒼の月草の花粉を用いた特殊な肥料。これは不毛の地であっても植物を急速に成長させる力を持ち、食料不足に悩む近隣の領主たちが喉から手が出るほど欲しがっています。 そして三つ目が、わたくしが抽出した純度百パーセントの蒼の雫。これはもはや薬の域を超え、帝都の権力者たちの間で一種の通貨のように扱われ始めていました。
いらっしゃいませ。バルザムの地へようこそ。
わたくしは、かつての社交界で身につけた優雅な微笑みを浮かべ、商団の代表である恰幅の良い男を迎え入れました。彼は、帝都でも名の知れた大商会の会頭でしたが、今はわたくしの前で額の汗を拭い、揉み手をしています。
ミーシア様、いえ、バルザム領主夫人。どうか、今月分の蒼の雫を、我が商会に優先的に卸していただけないでしょうか⁉ 代金は、前回の倍……いえ、三倍お支払いいたします‼
あら、困りましたわ。先ほどマクシミリアン侯爵の使者の方からも、同様のご提案をいただいたばかりですの。わたくしたちの月草は、愛を込めて育てておりますから、量産はできませんのよ。
わたくしが困ったように首を傾げると、会頭は顔を真っ青にして、さらなる条件を提示してきました。かつてわたくしを「役立たずの女」と嘲笑っていた帝都の空気。それが今、このバルザムの地では、わたくしの一言でひっくり返るのです。
わたくしが彼らに求めたのは、金貨だけではありませんでした。帝都の最新の魔導具、農業用の鉄器、そして何より「マカリスタ皇太子の動向」という生きた情報です。
ラッシュ様は、わたくしが商談を進める傍らで、運び込まれた物資を厳しく検品していました。 「会頭、この鉄器の品質は悪くない。だが、前回約束した魔導結晶の数が足りないようだが……。もしや、皇太子殿下の横槍が入ったのかな⁉ 」
ラッシュ様の鋭い指摘に、会頭はビクッと肩を震わせました。 「め、滅相もございません‼ ただ、帝都では今、マカリスタ様がバルザムとの交易を禁止する勅令を出そうと躍起になっておりまして……。我々も、検問を潜り抜けるのに苦労しているのです」
「……なるほど。彼はまだ、自分が置かれた状況を理解していないようですね」
わたくしは、会頭に一瓶の蒼の雫を手渡しました。 「会頭。これを、皇太子の政敵である第二皇子派の重鎮へ届けてください。代金は結構ですわ。その代わり、マカリスタ様が次にどのような無茶を仰るか、逐一報告してちょうだい」
会頭は、震える手で瓶を受け取り、何度も頭を下げながら去っていきました。 彼らが帝都へ戻れば、わたくしの雫は、皇太子の権力を内側から削り取る鋭いナイフへと変わります。
「ミーシア、君のやり方は、剣で戦うよりもはるかに残酷で、そして確実だね」
ラッシュ様が、去りゆく馬車を見送りながら、わたくしの肩を抱き寄せました。 彼の腕の温もりを感じながら、わたくしは静かに答えました。
「残酷、でしょうか……。わたくしはただ、あの方たちが教えてくれた『弱肉強食』というルールを、そのままお返ししているだけですわ。……愛する人と、この地を守るためなら、わたくしは喜んで魔女にでもなりましょう」
空は高く、バルザムの地には心地よい風が吹き抜けていました。 かつて不毛と呼ばれたこの地は今や、帝国の心臓部を支配する経済の源泉へと変貌を遂げていたのです。 マカリスタ皇太子が、自らの傲慢さが招いた「飢え」に気づくのは、そう遠い日のことではないでしょう。
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