転落令嬢と辺境公爵の開墾スローライフ~愛と勇気と知恵で、不毛の地に楽園を築きます!

紅葉山参

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反撃の蒼光、帝都崩壊編

奈落への招待状、そして意外な来訪者

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 帝都から届く情報は、日に日にマカリスタ皇太子の孤立を物語っていました。 わたくしが流した蒼の雫は、高位貴族たちの間で「持たざる者は淘汰される」という恐怖を煽り、彼らの忠誠心を皇太子から引き剥がしていました。 一方で、皇太子の寵愛を盾に傲慢に振る舞っていたモンローは、美貌の衰えと周囲の冷たい視線に耐えきれず、自邸に引きこもっているという話です。

「ざまぁございませんわね」

 リリカさんが、庭で薬草を摘みながら、毒気のない声で笑いました。 「あのモンローという方、あんなに泥まみれになってもまだ、自分が一番だと思っているのかしら⁉ 」

「彼女にとって、美しさが唯一の武器でしたから。それが失われる恐怖は、死よりも辛いのでしょうね……。けれど、わたくしたちが受けた苦しみは、あのようなものでは済みませんでしたわ」

 わたくしは、自分の掌を見つめました。 帝都を追放されたあの日、馬車から放り出された感覚。 冬の寒さに凍えながら、いつ終わるとも知れない開拓に明け暮れた日々。 それらすべてが、今のわたくしの強さの糧となっています。

 そんなある日の午後、バルザムの村に一人の意外な人物が姿を現しました。 それは豪華な馬車でも、武装した兵士でもなく、たった一人で馬を駆り、埃にまみれてやってきた老紳士でした。

「……あれは、まさか……⁉ 」

 書斎の窓からその姿を見たわたくしは、思わず持っていたペンを落としてしまいました。 ラッシュ様も異変に気づき、すぐに玄関へと向かいました。 馬から降り、ふらつく足取りでわたくしたちの前に立ったその人物は、かつて帝都大学士院の総裁を務め、わたくしの植物学の師でもあった、ベルンハルト伯爵でした。

「ミーシア……。そして、バルザム公爵。……生きておられたか。いや、それどころか……この奇跡は何だ……」

 老伯爵は、村の周囲を囲む蒼い光の粒子と、瑞々しく育った麦畑を見て、呆然と立ち尽くしていました。 わたくしは慌てて彼に駆け寄り、その細くなった手を握りました。

「ベルンハルト先生‼ どうして、このような辺境までお越しに……⁉ 先生のお体では、この旅はあまりに過酷ですわ‼ 」

「……帝都に……、もう私の居場所はない。マカリスタは、蒼の月草の研究データを差し出せと私を脅し、学士院を兵士たちに封鎖させた。私は、君が残した希望を守るために、すべてを捨ててここへ来たのだ……」

 先生の言葉に、わたくしは胸が締め付けられる思いでした。 あの高潔な先生までをも追い詰めるとは……。マカリスタの狂気は、もはや制御不能な域に達しているようです。

 わたくしたちは、先生を家の中に案内し、リリカさんが淹れた温かいスープと、蒼の月草の茶を差し出しました。 一口飲むごとに、先生の顔に赤みが戻り、その瞳に学学者としての鋭い光が蘇っていくのがわかりました。

「ミーシア……。君は、私を超えた。この蒼の月草の変異、そして土地の浄化。これは、帝国の歴史を塗り替える大発見だ。……だが、それゆえに危険だ。マカリスタは今、禁忌の魔導に手を出そうとしている」

 禁忌の魔導……。その不穏な言葉に、ラッシュ様の表情が険しくなりました。 「先生、それはどういう意味でしょうか。皇太子が、国を滅ぼしかねない力を使おうとしていると⁉ 」

「左様。彼は、蒼の月草の『生命力』を強引に抽出し、それを自らの軍隊に注入して、不死の兵士を作ろうとしている。そのための生贄として、バルザムの民を……そして君たち二人を狙っているのだ」

 沈黙が、リビングを支配しました。 窓の外では、夕陽が沈み、蒼い月草が一段と美しく輝き始めています。 マカリスタは、わたくしたちが育てた命を、死の道具に変えようとしている。 それは、植物を愛するわたくしにとって、決して許すことのできない冒涜でした。

「……そうですか。ならば、わたくしたちも、もう容赦はいたしませんわ」

 わたくしは、静かに立ち上がり、ラッシュ様と視線を合わせました。 彼は、黙ってわたくしの腰を抱き寄せ、その大きな手でわたくしの決意を支えてくれました。

「ミーシア。帝都へ戻る時が来たのかもしれないね。……逃げるためではなく、すべてを終わらせるために」

「ええ、ラッシュ様。わたくしたちが育てたこの蒼い光で、帝都の闇をすべて焼き払ってしまいましょう」

 ベルンハルト先生の来訪は、バルザムの平穏な日々に終わりを告げる号砲でした。 けれど、それは同時に、わたくしたちが真の自由を手に入れるための、最終決戦の幕開けでもあったのです。

 リリカさんは、わたくしたちの会話を横で聞きながら、黙ってナイフを研いでいました。 彼女もまた、この家という居場所を守るために、戦う覚悟を決めていたのです。

 帝都の毒花と、辺境の聖女。 どちらが真の「王道」を歩んでいるのか。 わたくしたちは、蒼の奇跡を身に纏い、奈落へと堕ちゆく帝国を救うための、最後の一歩を踏み出す決意を固めたのでした……。
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