28 / 53
反撃の蒼光、帝都崩壊編
奈落への招待状、そして意外な来訪者
しおりを挟む
帝都から届く情報は、日に日にマカリスタ皇太子の孤立を物語っていました。 わたくしが流した蒼の雫は、高位貴族たちの間で「持たざる者は淘汰される」という恐怖を煽り、彼らの忠誠心を皇太子から引き剥がしていました。 一方で、皇太子の寵愛を盾に傲慢に振る舞っていたモンローは、美貌の衰えと周囲の冷たい視線に耐えきれず、自邸に引きこもっているという話です。
「ざまぁございませんわね」
リリカさんが、庭で薬草を摘みながら、毒気のない声で笑いました。 「あのモンローという方、あんなに泥まみれになってもまだ、自分が一番だと思っているのかしら⁉ 」
「彼女にとって、美しさが唯一の武器でしたから。それが失われる恐怖は、死よりも辛いのでしょうね……。けれど、わたくしたちが受けた苦しみは、あのようなものでは済みませんでしたわ」
わたくしは、自分の掌を見つめました。 帝都を追放されたあの日、馬車から放り出された感覚。 冬の寒さに凍えながら、いつ終わるとも知れない開拓に明け暮れた日々。 それらすべてが、今のわたくしの強さの糧となっています。
そんなある日の午後、バルザムの村に一人の意外な人物が姿を現しました。 それは豪華な馬車でも、武装した兵士でもなく、たった一人で馬を駆り、埃にまみれてやってきた老紳士でした。
「……あれは、まさか……⁉ 」
書斎の窓からその姿を見たわたくしは、思わず持っていたペンを落としてしまいました。 ラッシュ様も異変に気づき、すぐに玄関へと向かいました。 馬から降り、ふらつく足取りでわたくしたちの前に立ったその人物は、かつて帝都大学士院の総裁を務め、わたくしの植物学の師でもあった、ベルンハルト伯爵でした。
「ミーシア……。そして、バルザム公爵。……生きておられたか。いや、それどころか……この奇跡は何だ……」
老伯爵は、村の周囲を囲む蒼い光の粒子と、瑞々しく育った麦畑を見て、呆然と立ち尽くしていました。 わたくしは慌てて彼に駆け寄り、その細くなった手を握りました。
「ベルンハルト先生‼ どうして、このような辺境までお越しに……⁉ 先生のお体では、この旅はあまりに過酷ですわ‼ 」
「……帝都に……、もう私の居場所はない。マカリスタは、蒼の月草の研究データを差し出せと私を脅し、学士院を兵士たちに封鎖させた。私は、君が残した希望を守るために、すべてを捨ててここへ来たのだ……」
先生の言葉に、わたくしは胸が締め付けられる思いでした。 あの高潔な先生までをも追い詰めるとは……。マカリスタの狂気は、もはや制御不能な域に達しているようです。
わたくしたちは、先生を家の中に案内し、リリカさんが淹れた温かいスープと、蒼の月草の茶を差し出しました。 一口飲むごとに、先生の顔に赤みが戻り、その瞳に学学者としての鋭い光が蘇っていくのがわかりました。
「ミーシア……。君は、私を超えた。この蒼の月草の変異、そして土地の浄化。これは、帝国の歴史を塗り替える大発見だ。……だが、それゆえに危険だ。マカリスタは今、禁忌の魔導に手を出そうとしている」
禁忌の魔導……。その不穏な言葉に、ラッシュ様の表情が険しくなりました。 「先生、それはどういう意味でしょうか。皇太子が、国を滅ぼしかねない力を使おうとしていると⁉ 」
「左様。彼は、蒼の月草の『生命力』を強引に抽出し、それを自らの軍隊に注入して、不死の兵士を作ろうとしている。そのための生贄として、バルザムの民を……そして君たち二人を狙っているのだ」
沈黙が、リビングを支配しました。 窓の外では、夕陽が沈み、蒼い月草が一段と美しく輝き始めています。 マカリスタは、わたくしたちが育てた命を、死の道具に変えようとしている。 それは、植物を愛するわたくしにとって、決して許すことのできない冒涜でした。
「……そうですか。ならば、わたくしたちも、もう容赦はいたしませんわ」
わたくしは、静かに立ち上がり、ラッシュ様と視線を合わせました。 彼は、黙ってわたくしの腰を抱き寄せ、その大きな手でわたくしの決意を支えてくれました。
「ミーシア。帝都へ戻る時が来たのかもしれないね。……逃げるためではなく、すべてを終わらせるために」
「ええ、ラッシュ様。わたくしたちが育てたこの蒼い光で、帝都の闇をすべて焼き払ってしまいましょう」
ベルンハルト先生の来訪は、バルザムの平穏な日々に終わりを告げる号砲でした。 けれど、それは同時に、わたくしたちが真の自由を手に入れるための、最終決戦の幕開けでもあったのです。
リリカさんは、わたくしたちの会話を横で聞きながら、黙ってナイフを研いでいました。 彼女もまた、この家という居場所を守るために、戦う覚悟を決めていたのです。
帝都の毒花と、辺境の聖女。 どちらが真の「王道」を歩んでいるのか。 わたくしたちは、蒼の奇跡を身に纏い、奈落へと堕ちゆく帝国を救うための、最後の一歩を踏み出す決意を固めたのでした……。
「ざまぁございませんわね」
リリカさんが、庭で薬草を摘みながら、毒気のない声で笑いました。 「あのモンローという方、あんなに泥まみれになってもまだ、自分が一番だと思っているのかしら⁉ 」
「彼女にとって、美しさが唯一の武器でしたから。それが失われる恐怖は、死よりも辛いのでしょうね……。けれど、わたくしたちが受けた苦しみは、あのようなものでは済みませんでしたわ」
わたくしは、自分の掌を見つめました。 帝都を追放されたあの日、馬車から放り出された感覚。 冬の寒さに凍えながら、いつ終わるとも知れない開拓に明け暮れた日々。 それらすべてが、今のわたくしの強さの糧となっています。
そんなある日の午後、バルザムの村に一人の意外な人物が姿を現しました。 それは豪華な馬車でも、武装した兵士でもなく、たった一人で馬を駆り、埃にまみれてやってきた老紳士でした。
「……あれは、まさか……⁉ 」
書斎の窓からその姿を見たわたくしは、思わず持っていたペンを落としてしまいました。 ラッシュ様も異変に気づき、すぐに玄関へと向かいました。 馬から降り、ふらつく足取りでわたくしたちの前に立ったその人物は、かつて帝都大学士院の総裁を務め、わたくしの植物学の師でもあった、ベルンハルト伯爵でした。
「ミーシア……。そして、バルザム公爵。……生きておられたか。いや、それどころか……この奇跡は何だ……」
老伯爵は、村の周囲を囲む蒼い光の粒子と、瑞々しく育った麦畑を見て、呆然と立ち尽くしていました。 わたくしは慌てて彼に駆け寄り、その細くなった手を握りました。
「ベルンハルト先生‼ どうして、このような辺境までお越しに……⁉ 先生のお体では、この旅はあまりに過酷ですわ‼ 」
「……帝都に……、もう私の居場所はない。マカリスタは、蒼の月草の研究データを差し出せと私を脅し、学士院を兵士たちに封鎖させた。私は、君が残した希望を守るために、すべてを捨ててここへ来たのだ……」
先生の言葉に、わたくしは胸が締め付けられる思いでした。 あの高潔な先生までをも追い詰めるとは……。マカリスタの狂気は、もはや制御不能な域に達しているようです。
わたくしたちは、先生を家の中に案内し、リリカさんが淹れた温かいスープと、蒼の月草の茶を差し出しました。 一口飲むごとに、先生の顔に赤みが戻り、その瞳に学学者としての鋭い光が蘇っていくのがわかりました。
「ミーシア……。君は、私を超えた。この蒼の月草の変異、そして土地の浄化。これは、帝国の歴史を塗り替える大発見だ。……だが、それゆえに危険だ。マカリスタは今、禁忌の魔導に手を出そうとしている」
禁忌の魔導……。その不穏な言葉に、ラッシュ様の表情が険しくなりました。 「先生、それはどういう意味でしょうか。皇太子が、国を滅ぼしかねない力を使おうとしていると⁉ 」
「左様。彼は、蒼の月草の『生命力』を強引に抽出し、それを自らの軍隊に注入して、不死の兵士を作ろうとしている。そのための生贄として、バルザムの民を……そして君たち二人を狙っているのだ」
沈黙が、リビングを支配しました。 窓の外では、夕陽が沈み、蒼い月草が一段と美しく輝き始めています。 マカリスタは、わたくしたちが育てた命を、死の道具に変えようとしている。 それは、植物を愛するわたくしにとって、決して許すことのできない冒涜でした。
「……そうですか。ならば、わたくしたちも、もう容赦はいたしませんわ」
わたくしは、静かに立ち上がり、ラッシュ様と視線を合わせました。 彼は、黙ってわたくしの腰を抱き寄せ、その大きな手でわたくしの決意を支えてくれました。
「ミーシア。帝都へ戻る時が来たのかもしれないね。……逃げるためではなく、すべてを終わらせるために」
「ええ、ラッシュ様。わたくしたちが育てたこの蒼い光で、帝都の闇をすべて焼き払ってしまいましょう」
ベルンハルト先生の来訪は、バルザムの平穏な日々に終わりを告げる号砲でした。 けれど、それは同時に、わたくしたちが真の自由を手に入れるための、最終決戦の幕開けでもあったのです。
リリカさんは、わたくしたちの会話を横で聞きながら、黙ってナイフを研いでいました。 彼女もまた、この家という居場所を守るために、戦う覚悟を決めていたのです。
帝都の毒花と、辺境の聖女。 どちらが真の「王道」を歩んでいるのか。 わたくしたちは、蒼の奇跡を身に纏い、奈落へと堕ちゆく帝国を救うための、最後の一歩を踏み出す決意を固めたのでした……。
9
あなたにおすすめの小説
病弱設定されているようです
との
恋愛
『あのようにご立派な家門にお産まれになられたのに⋯⋯お可哀想なご令嬢だそうですのよ』
なんて噂が流れているけれど、誰も会ったことがないミリー・ミッドランド侯爵令嬢。
ネグレクトなんて言葉はない時代に生まれ落ちて、前世の記憶を取り戻したら⋯⋯。
前世の記憶と共に無双します!
再開しました。完結まで続投です。
ーーーーーー
恋愛小説大賞27位、ありがとうございました(感謝)
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定。
完結確定、R15は念の為・・
捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。
亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。
だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。
婚約破棄をされたアニエル。
だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。
ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。
その相手とはレオニードヴァイオルード。
好青年で素敵な男性だ。
婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。
一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。
元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……
【完結】恋が終わる、その隙に
七瀬菜々
恋愛
秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。
伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。
愛しい彼の、弟の妻としてーーー。
人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜
清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。
クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。
(過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…)
そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。
移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。
また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。
「俺は君を愛する資格を得たい」
(皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?)
これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。
貧乏子爵令嬢ですが、愛人にならないなら家を潰すと脅されました。それは困る!
よーこ
恋愛
図書室での読書が大好きな子爵令嬢。
ところが最近、図書室で騒ぐ令嬢が現れた。
その令嬢の目的は一人の見目の良い伯爵令息で……。
短編です。
師匠の嫉妬で才能を奪われた薬師見習いの私、牢獄で本物の力を取り戻す
er
恋愛
辺境貴族の娘セシリアは宮廷薬師見習いとして働くが、師匠エリザから無能と罵られ続ける。疫病が王都で流行すると、エリザはセシリアに濡れ衣を着せ処刑させようとする。
【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!
たまこ
恋愛
エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。
だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる