転落令嬢と辺境公爵の開墾スローライフ~愛と勇気と知恵で、不毛の地に楽園を築きます!

紅葉山参

文字の大きさ
36 / 53
反撃の蒼光、帝都崩壊編

断罪の蒼光、偽りの王座に終止符を

しおりを挟む
 帝都の中心、玉座の間。 かつてわたくし、ミーシアが一方的に婚約破棄を突きつけられ、すべてを奪われて追放された、因縁の場所。

 そこに今、一人の女性が凛として立ちました。 わたくしは、バルザムの村の女性たちが、わたくしのために心を込めて織ってくれた、蒼の月草をイメージした美しいドレスを纏っていました。 それは高価なシルクではありませんが、大地と命の輝きを宿した、世界で一番誇らしい衣装です。

 その隣には、抜身の剣を手にし、王者の風格を漂わせるラッシュ様の姿。 そして、力強くわたくしの背中を支えてくれるリリカさんの姿がありました。

「……久しぶりですね、マカリスタ様。この場所で貴方に別れを告げたあの日から、わたくしは多くのことを学びましたわ」

 わたくしの静かな声が、広大な玉座の間に響き渡りました。 玉座に深く腰掛け、狂気に満ちた笑みを浮かべるマカリスタ。 その足元には、未だに魔力を供給し続ける不気味な魔導巨像が控えています。

「ミーシア……。よくも戻ってきたな。わたくしの帝国を、わたくしの秩序を、その得体の知れない草木で汚しおって。……貴様は、わたくしに跪き、その蒼の雫の製法を差し出すべきなのだ‼ 」

 マカリスタは立ち上がり、狂ったように叫びました。

「マカリスタ様、貴方はまだ気づかないのですか……⁉ この帝国を汚したのは、わたくしではなく、貴方の尽きることのない欲望です。……貴方が『無能』と切り捨てた植物たちも、貴方の道具ではありません。この大地に息づく命なのです」

「黙れえええっ‼ 死ね、ミーシア‼ この魔導巨像の力で、貴様もろともその忌々しい騎士たちを塵にしてやる‼ 」

 マカリスタが杖を振り上げると、魔導巨像がその巨大な鋼の腕を振り上げました。 帝国の至宝とされるその兵器は、周囲の魔力を根こそぎ吸収し、破滅の光を放とうとしています。

 けれど、わたくしは一歩も退きませんでした。 わたくしは、巨像の中に組み込まれた、悲鳴を上げている「命の核」を感じ取っていました。

「……無駄ですわ、マカリスタ様。その巨像を動かしている動力源……。それは、貴方が強引に奪った蒼の月草の根。……わたくしの声を聞かないはずがありません」

 わたくしが右手をそっと巨像に向けると、わたくしの中に眠る蒼の月草の核が、かつてないほど激しく共鳴しました。

「鎮まりなさい。貴方たちの居場所は、冷たい鋼の中ではなく、太陽の光が降り注ぐバルザムの丘にあるのです……‼ 」

 わたくしの祈りが、蒼い光の奔流となって巨像を包み込みました。 その瞬間、巨像を覆っていた黒い不浄な霧が一気に晴れました。 鋼の隙間から、瑞々しい蒼い蔦が溢れ出し、巨像を優しく包み込むようにして縛り上げたのです。

「な、なんだと……⁉ わたくしの、わたくしの最高傑作が……動かないだと⁉ 」

 マカリスタは玉座から転げ落ち、呆然と目の前の光景を見つめていました。 彼が誇っていた武力も、魔法も、わたくしが培った「命の絆」の前ではあまりに無力でした。

「マカリスタ。貴方の負けだ。……貴方が軽んじた一輪の花が、帝国を救い、貴方を裁くことになったのだ」

 ラッシュ様の剣が、マカリスタの喉元に突きつけられました。 その剣先は、少しの迷いもなく、正義の重みを伝えています。

「や、やめろ……。わたくしは皇太子だぞ⁉ 皇帝の血を引くわたくしを殺せば、この国は……」

「その皇帝陛下も、貴方の暴挙に心を痛め、すでに退位を決められました。……貴方はもはや、皇太子でもなければ、この国の主でもない。ただの罪人です」

 ラッシュ様の言葉に、マカリスタは力なくその場に崩れ落ちました。 彼が積み上げてきた偽りの城は、今、完全に崩壊したのです。

 わたくしは、震えるマカリスタの前に立ち、彼を見下ろしました。 かつては彼を見上げるだけで足が震えていたわたくし。 けれど今は、彼がどれほど小さく、惨めな存在であるかがよくわかりました。

「マカリスタ様。……貴方がわたくしを不毛の地へと追放したおかげで、わたくしは真の幸せを見つけることができました。……その意味では、感謝すべきかもしれませんわね」

 わたくしの言葉は、皮肉ではなく、心からの本音でした。 彼のような冷酷な男に縋っていた自分を、今なら笑い飛ばせます。

「……連れて行け。彼には、自分が汚した大地を一生かけて償ってもらう」

 ラッシュ様の命令で、マカリスタは兵士たちに連行されていきました。 その後を追うように、変わり果てた姿のモンローも引きずられていきます。 二人は互いを呪い、罵り合いながら、二度と戻ることのない奈落へと消えていきました。

 玉座の間に、朝の光が差し込んできました。 わたくしは、ラッシュ様と視線を合わせ、静かに頷きました。

「終わりましたわね、ラッシュ様」

「いや、ミーシア。ここから始まるんだ。……君と一緒に、この国を本当の楽園に変える物語がね」

 ラッシュ様はわたくしの手を取り、その広い胸に引き寄せました。 窓の外では、帝都の人々が自由を求めて歓声を上げていました。 不毛の地に咲いた蒼い奇跡は、今、帝国全体の夜明けを告げる光となったのです。

 わたくしたちのワンダフルライフ。 その第一章は、最高の形で幕を閉じようとしていました……‼
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

病弱設定されているようです

との
恋愛
『あのようにご立派な家門にお産まれになられたのに⋯⋯お可哀想なご令嬢だそうですのよ』 なんて噂が流れているけれど、誰も会ったことがないミリー・ミッドランド侯爵令嬢。 ネグレクトなんて言葉はない時代に生まれ落ちて、前世の記憶を取り戻したら⋯⋯。 前世の記憶と共に無双します! 再開しました。完結まで続投です。 ーーーーーー 恋愛小説大賞27位、ありがとうございました(感謝) ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定。 完結確定、R15は念の為・・

捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。

亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。 だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。 婚約破棄をされたアニエル。 だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。 ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。 その相手とはレオニードヴァイオルード。 好青年で素敵な男性だ。 婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。 一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。 元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……

【完結】恋が終わる、その隙に

七瀬菜々
恋愛
 秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。  伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。  愛しい彼の、弟の妻としてーーー。  

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜

清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。 クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。 (過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…) そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。 移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。 また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。 「俺は君を愛する資格を得たい」 (皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?) これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。

貧乏子爵令嬢ですが、愛人にならないなら家を潰すと脅されました。それは困る!

よーこ
恋愛
図書室での読書が大好きな子爵令嬢。 ところが最近、図書室で騒ぐ令嬢が現れた。 その令嬢の目的は一人の見目の良い伯爵令息で……。 短編です。

師匠の嫉妬で才能を奪われた薬師見習いの私、牢獄で本物の力を取り戻す

er
恋愛
辺境貴族の娘セシリアは宮廷薬師見習いとして働くが、師匠エリザから無能と罵られ続ける。疫病が王都で流行すると、エリザはセシリアに濡れ衣を着せ処刑させようとする。

【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!

たまこ
恋愛
 エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。  だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...