辺境の漁村育ちですが、命の恩人が隣国の王子様でした 〜溺愛は波のように押し寄せる〜

紅葉山参

文字の大きさ
1 / 15

辺境の漁村と人魚姫の噂

しおりを挟む
 承知いたしました。文字数についてのご指摘ありがとうございます。

 最優先ルールである強調記号(**)の不使用を徹底しつつ、第1話、第2話、第3話それぞれに約1,000文字程度を追加し、合計で約4,000~5,000字程度のボリュームになるよう、描写や心理描写を深めて再構成します。

 🌊辺境の漁村育ちですが、命の恩人が隣国のシリウス王子様でした ~溺愛は波のように押し寄せる~
 🌟第1話:辺境の漁村と人魚姫の噂(加筆修正版)
 国境の海は、いつも荒れ模様だ。

 リーリアが生まれた「シオン村」は、その荒れた海に面した小さな漁村である。村の男たちは海にすべてを賭け、女たちは浜辺でその帰りを待つ。生活は常に厳しく、豊かさとは無縁だった。漁獲量が村の生命線であり、自然の力に常に翻弄されるのがこの地の宿命だった。

 そして、リーリア自身もまた、この村では異質な存在だった。

 彼女の髪は、まるで月の光を集めたかのように透き通った銀色をしている。瞳もまた同じ銀色で、曇りのない海の色。それは、健康な肌色と黒髪を持つ村人たちとはあまりにかけ離れていた。

「ほら、リーリアだ。人魚姫の呪いだ」

 誰かが囁く声が聞こえるたび、リーリアはそっと俯いた。伝説によれば、銀髪銀眼の娘は海に愛されすぎて、村に不幸を運ぶという。リーリアは決して悪さなどしていないのに、村の不漁や災難があると、すぐに彼女のせいだとされた。特に、数年前に隣国との間に小さな国境紛争が起きた際も、「リーリアが海を呼び寄せたからだ」と理不尽な非難の的になった。

 彼女は物心ついた頃から、漁師である父親と二人きりの生活だった。母親のことは知らない。父は口数が少ないが、リーリアを愛してくれていた。父はいつもリーリアに言った。「お前の髪と瞳は、誰にも真似できない宝物だ。海が選んだ色だ」。しかし、三年前に父も海に呑まれ、リーリアは文字通り一人ぼっちになった。父の教えだけが、彼女を支える唯一の精神的な柱だった。

 十六歳になった今、リーリアの拠り所は、海だけだった。海は彼女を嫌わない。怒り狂った荒波の日も、穏やかに凪いだ日も、海はただそこにあり、リーリアを拒絶しなかった。彼女は、村人から向けられる冷たい視線から逃れるように、よく人気のない浜辺で時間を過ごした。

 その日、村は二日間の暴風雨に耐え抜いた後だった。空は青く晴れ渡り、風は潮の香りを運んでくるが、海はまだその怒りを完全に収めていなかった。打ち上げられた木屑や藻を拾いに、リーリアは誰もいない早朝の浜辺を歩く。これは彼女の日課であり、生活の糧を得るための大事な仕事だった。

(また、たくさん木が流されているわ。薪には困らないけれど、誰か流されていなければいいけれど)

 リーリアは胸の奥でいつもそう願った。この海に大切な人を奪われたからこそ、誰かが命を落とすことが怖かった。荒れた海は、同時に隣国との間に流れ着く漂流物を運んでくることがあり、過去には漁師同士の小競り合いの原因になったこともあった。

 足元に、いつもと違う色の塊があるのに気づいた。それは大きな木材ではなく、黒っぽい布地に見えた。近づいてみると、それは一人の人間だった。

「だ、誰か……!」

 リーリアは息を呑んだ。男性だった。上質な、だが激しく損傷した、黒と紺を基調とした隣国の貴族が着るような凝った作りの衣服を身につけている。その生地は、村では決して手に入らないような滑らかな絹だった。金色の髪は潮と砂で汚れて絡まり、顔は青ざめ、額からは血が流れていた。

 彼は生きていた。微かに脈打つ胸にリーリアは安堵する。まだ若い、二十歳前後だろうか。息遣いは弱いが、力強い生命力を微かに感じさせた。

 しかし、リーリアはためらった。彼を村に運べば、村人たちはきっとまた騒ぎ立てるだろう。「また人魚姫が変なものを連れてきた」と。そして、異国の衣装を身につけた彼を、隣国のスパイだと疑い、ひどい目に遭わせるかもしれない。この辺境の村は、よそ者に対して非常に排他的だった。彼が村人に見つかれば、命の危険に晒される可能性さえある。

(この人は、私が助けるしかない。私が助けなければ、彼はここで死んでしまう)

 決意を固めたリーリアは、細い体に力を込めた。漁師の娘として培われた腕力が、今、人の命を救うために役立った。彼の体を背負い上げると、彼の体から漂う潮と血の匂いの奥に、かぐわしい花の香りがした。それは村の男たちからは絶対にしない匂いだった。

 シリウスを背負い、リーリアは村から少し離れた場所にある、父が昔、漁具の修理や嵐の際の避難場所のために使っていた小さな小屋を目指した。父が亡くなってからは誰も使っておらず、忘れ去られた場所だった。

 小屋は潮風で傷んでいたが、雨風はしのげる。リーリアは彼を木製の床にそっと横たえ、服をはさみで切り開いて傷を調べた。背中には大きな打撲の跡。そして、頭部を強く打っている。これが彼が意識を失っている原因だろう。

 リーリアは急いで村の診療所へ向かうことを諦めた。この漁村にはまともな医者はいない。薬草の知識がある婆さんがいるが、彼女に知られればすぐに村中に広まる。リーリアは父から教わった薬草の知識を総動員するしかない。

(自分で治すしかないわ。父さんが教えてくれた薬草で)

 リーリアは急いで家に戻り、持てるだけの薬草と保存食、そして唯一持っている清潔な毛布を持って小屋へ戻った。家に戻る際、誰とも会わなかったことに胸を撫で下ろした。

 シリウスの顔を、冷たい海水で濡らした布で丁寧に拭う。すると、汚れていた金色の髪が、月明かりのように優しく輝きだした。その端正な顔立ちは、リーリアが今まで村で見たどの男よりも美しく、洗練されていて、高貴な身分であることを示唆していた。彼の整った眉根が、時折苦痛でひそめられるのを見て、リーリアは胸が締め付けられた。

「どうか、生きてください。私の宝物を奪った海が、あなたまで連れて行かないで」

 リーリアは小さな小屋で、ただ一人の異邦人の命が消えないように、静かに祈り続けた。そして、彼の存在を誰にも知られないように、自分だけが知る秘密の番人になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

竜王に嫁いだら、推しの半竜皇子の継母になりました〜冷酷な夫には興味ありませんが、闇落ち予定の皇子は私が全力で幸せにします!〜

せりもも
恋愛
転生したのは、web小説の世界だった。物語が始まる前の時間、隣国の竜王へ嫁ぐ薄幸の王女、デジレに。 結婚相手である竜王ワッツァは、冷酷非道で人間を蔑む恐ろしい竜人だ。彼はデジレを、半竜(半分竜で半分人間)である息子の養育係としかみていない。けれどその息子バートラフこそ、前世の「わたし」の最オシだった。 この世界のバートラフはまだ5歳。懸命に悪ガキぶっているけど、なんてかわいいの!? 小説のバートラフは、闇落ちして仲間の騎士たちに殺されてしまうけど、そんな未来は、絶対に許さないんだから!  幼いバートラフに対する、愛情いっぱいの子育ての日々が始まる。やがて彼の成竜への通過儀礼を経て、父の竜王は、デジレに対して執着を見せ始める。 ところが、竜と人間の戦争が始まってしまう。おとなになったバートラフは人間側につき、聖女の騎士団に入った。彼は、父の竜王に刃を向けられるのか? そして、転生者デジレに与えられたスキル「プロットを破断する者」を、彼女はどう発動させるのか。

【完結】男運ゼロの転生モブ令嬢、たまたま指輪を拾ったらヒロインを押しのけて花嫁に選ばれてしまいました

Rohdea
恋愛
──たまたま落ちていた指輪を拾っただけなのに! かつて婚約破棄された過去やその後の縁談もことごとく上手くいかない事などから、 男運が無い伯爵令嬢のアイリーン。 痺れを切らした父親に自力で婚約者を見つけろと言われるも、なかなか上手くいかない日々を送っていた。 そんなある日、特殊な方法で嫡男の花嫁選びをするというアディルティス侯爵家のパーティーに参加したアイリーンは、そのパーティーで落ちていた指輪を拾う。 「見つけた! 僕の花嫁!」 「僕の運命の人はあなただ!」 ──その指輪こそがアディルティス侯爵家の嫡男、ヴィンセントの花嫁を選ぶ指輪だった。 こうして、落ちていた指輪を拾っただけなのに運命の人……花嫁に選ばれてしまったアイリーン。 すっかりアイリーンの生活は一変する。 しかし、運命は複雑。 ある日、アイリーンは自身の前世の記憶を思い出してしまう。 ここは小説の世界。自分は名も無きモブ。 そして、本来この指輪を拾いヴィンセントの“運命の人”になる相手…… 本当の花嫁となるべき小説の世界のヒロインが別にいる事を─── ※2021.12.18 小説のヒロインが出てきたのでタグ追加しました(念の為)

白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活

しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。 新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。 二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。 ところが。 ◆市場に行けばついてくる ◆荷物は全部持ちたがる ◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる ◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる ……どう見ても、干渉しまくり。 「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」 「……君のことを、放っておけない」 距離はゆっくり縮まり、 優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。 そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。 “冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え―― 「二度と妻を侮辱するな」 守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、 いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。

たまこ
恋愛
 公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。  ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。 ※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

本の虫令嬢ですが「君が番だ! 間違いない」と、竜騎士様が迫ってきます

氷雨そら
恋愛
 本の虫として社交界に出ることもなく、婚約者もいないミリア。 「君が番だ! 間違いない」 (番とは……!)  今日も読書にいそしむミリアの前に現れたのは、王都にたった一人の竜騎士様。  本好き令嬢が、強引な竜騎士様に振り回される竜人の番ラブコメ。 小説家になろう様にも投稿しています。

処理中です...