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王子の一途な決意
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アンサンブル王国の王都は、辺境のシオン村とは比べ物にならないほど、壮麗で喧騒に満ちていた。城壁に囲まれた王宮は、石造りの重厚な建築物で埋め尽くされ、その豪華さはシリウスが記憶を失う前よりも冷たく、重く感じられた。
シリウスが帰還したことで、王宮は一時的な安堵に包まれたが、すぐに次の問題へと移った。それは、王位継承をめぐる派閥争いと、彼の婚約問題だった。
「シリウス殿下!ご無事で何より。しかし、このような長期間、どこで何をされていたのか、王国民にご説明いただく必要があります」
老練な首相、デュラン伯爵は、シリウスの帰還を喜ぶよりも先に、冷ややかな視線を浴びせた。彼の背後には、シリウスの異母弟である第二王子を推す貴族たちが控えている。彼らは、シリウスの「失踪」を格好の攻撃材料にしようとしていた。
シリウスは、記憶を失っていた間に培った冷静さと、王族としての威厳を持って、彼らに応じた。
「嵐による難破だ。私は運良く、隣国の辺境の漁村に流れ着き、そこで一人の娘に命を救われた。その後、記憶を回復し、自力で帰還した。これ以上の詮索は不要だ」
しかし、デュラン伯爵は引かなかった。
「その娘、漁師の娘と聞きましたが、まさか殿下。その娘との間に、何らかの深い関わりを……」
シリウスの青い瞳が、鋭くデュラン伯爵を射抜いた。その瞬間、宮廷の空気は凍りついた。
「ある。彼女は、この国の次期国王となるべき私の命を救った、大恩人だ。私の命は、彼女の献身と勇気によって繋がれた。この恩義を無視する者は、王家への忠誠心がないと見なす」
シリウスは、一切の躊躇なく言い切った。記憶を失っていた間に彼を支えたリーリアの純粋な心は、王宮の陰謀と打算に満ちた世界とは対極にあり、シリウスにとって何よりも守るべき宝物となっていた。
しかし、王位継承の準備を進めるにあたり、最も重要なのは「血筋」と「安定」だった。
シリウスには、幼少期から政略的な婚約者候補がいた。それは、王国内で最も力を持つ公爵家の一人娘、美貌と知性を兼ね備えたアメリア令嬢だ。彼女の父親は、シリウスの最も強力な支持基盤である。
アメリアは、シリウスの帰還を心から喜び、すぐに王子の元を訪れた。
「シリウス様。ご無事で本当によかった。心から案じておりました。貴方の不在中、私ども公爵家が、王位を狙う輩から王家をお守りいたしました」
アメリアの言葉は優雅で完璧だったが、シリウスの心は微動だにしなかった。彼女の愛には、常に「政略」という打算的な影が付きまとっていたからだ。
「ありがとう、アメリア。君の献身に感謝する」
シリウスは、リーリアの素朴で純粋な愛情と比較し、王宮での愛がいかに打算的であるかを感じていた。彼は、王宮に戻ってすぐに、リーリアへ感謝の品と手紙を送った。そして、彼女の村の安全を確保するための秘密裏の調査も開始した。
(リーリア。君のいる場所は、私のいる王宮よりも遥かに純粋だ。だが、私は君をこの暗い世界へ引き入れなければならない)
王子の座を固めるには、まず王宮内での権力を掌握する必要があった。彼は失踪中の出来事について、公式には「機密」として扱い、追っ手のことや、リーリアとの個人的な関わりを詳細には語らなかった。
しかし、彼の決意は固かった。
彼は執務室に、リーリアの銀色の髪の色に似た、海辺の風景画を飾った。それは、彼がどれだけリーリアを想っているかの、静かな証だった。
「私の命の恩人は、この国の隣国の民である。彼女こそが、国境を越えた平和の象徴となる。私は、その女性を妃として迎える」
シリウスは、重臣たちにそう宣言した。それは、彼らが望む政略結婚を拒否し、王子の権限と意志を最大限に示す、明確な宣戦布告だった。
シリウスが帰還したことで、王宮は一時的な安堵に包まれたが、すぐに次の問題へと移った。それは、王位継承をめぐる派閥争いと、彼の婚約問題だった。
「シリウス殿下!ご無事で何より。しかし、このような長期間、どこで何をされていたのか、王国民にご説明いただく必要があります」
老練な首相、デュラン伯爵は、シリウスの帰還を喜ぶよりも先に、冷ややかな視線を浴びせた。彼の背後には、シリウスの異母弟である第二王子を推す貴族たちが控えている。彼らは、シリウスの「失踪」を格好の攻撃材料にしようとしていた。
シリウスは、記憶を失っていた間に培った冷静さと、王族としての威厳を持って、彼らに応じた。
「嵐による難破だ。私は運良く、隣国の辺境の漁村に流れ着き、そこで一人の娘に命を救われた。その後、記憶を回復し、自力で帰還した。これ以上の詮索は不要だ」
しかし、デュラン伯爵は引かなかった。
「その娘、漁師の娘と聞きましたが、まさか殿下。その娘との間に、何らかの深い関わりを……」
シリウスの青い瞳が、鋭くデュラン伯爵を射抜いた。その瞬間、宮廷の空気は凍りついた。
「ある。彼女は、この国の次期国王となるべき私の命を救った、大恩人だ。私の命は、彼女の献身と勇気によって繋がれた。この恩義を無視する者は、王家への忠誠心がないと見なす」
シリウスは、一切の躊躇なく言い切った。記憶を失っていた間に彼を支えたリーリアの純粋な心は、王宮の陰謀と打算に満ちた世界とは対極にあり、シリウスにとって何よりも守るべき宝物となっていた。
しかし、王位継承の準備を進めるにあたり、最も重要なのは「血筋」と「安定」だった。
シリウスには、幼少期から政略的な婚約者候補がいた。それは、王国内で最も力を持つ公爵家の一人娘、美貌と知性を兼ね備えたアメリア令嬢だ。彼女の父親は、シリウスの最も強力な支持基盤である。
アメリアは、シリウスの帰還を心から喜び、すぐに王子の元を訪れた。
「シリウス様。ご無事で本当によかった。心から案じておりました。貴方の不在中、私ども公爵家が、王位を狙う輩から王家をお守りいたしました」
アメリアの言葉は優雅で完璧だったが、シリウスの心は微動だにしなかった。彼女の愛には、常に「政略」という打算的な影が付きまとっていたからだ。
「ありがとう、アメリア。君の献身に感謝する」
シリウスは、リーリアの素朴で純粋な愛情と比較し、王宮での愛がいかに打算的であるかを感じていた。彼は、王宮に戻ってすぐに、リーリアへ感謝の品と手紙を送った。そして、彼女の村の安全を確保するための秘密裏の調査も開始した。
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しかし、彼の決意は固かった。
彼は執務室に、リーリアの銀色の髪の色に似た、海辺の風景画を飾った。それは、彼がどれだけリーリアを想っているかの、静かな証だった。
「私の命の恩人は、この国の隣国の民である。彼女こそが、国境を越えた平和の象徴となる。私は、その女性を妃として迎える」
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