聖女の身代わりとして捨てられた私は、隣国の魔王閣下に拾われて溺愛される

紅葉山参

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夜の庭園で、真実の誓いを捧げました

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伯爵家との決別から数日が経ちました。  アステリア王国は魔物の侵攻によって風前の灯火だという噂を聞きましたが、帝国の結界の内側にいる私には、どこか遠い世界の出来事のように感じられます。

 今夜は、帝国の宮廷庭園で夜会が開かれていました。  と言っても、ヴォルデレード様が「私のレティシアの美しさを世界に見せつけたい」という、少々困った独占欲から開催されたものです。

「見て、あの白銀の髪。まさに神話から抜け出したような美しさだわ……」 「魔王陛下が、あんなに穏やかな顔で笑われるなんて信じられない」

 貴族たちの囁きを背中で聞きながら、私はヴォルデレード様と手を取り合ってバルコニーへと出ました。  夜空には満天の星が輝き、庭園に咲き誇る月光花が淡い光を放っています。

「……疲れさせてしまったか? レティシア」 「少しだけ、緊張しました。でも、皆さんが温かく迎えてくださって、とても嬉しいです」

 私は彼の広い胸に背中を預け、冷たい夜風を楽しみました。  すると、ヴォルデレード様の大きな腕が私の腰を抱き込み、密着させるように力を込めました。

「君が他の男の目に触れるたび、私はその者たちの目から光を奪いたくなる。……この感情を抑えるのは、なかなかに骨が折れるのだぞ」

「また、そんな物騒なことを……」

 私は苦笑して彼を見上げました。  けれど、彼の瞳は真剣そのもので、そこには私なしでは生きていけないという、ひりつくような切実さが宿っていました。

「レティシア。君が覚醒させた力は、単なる浄化の魔力ではない。……私の魂そのものを繋ぎ止める、唯一の楔なのだ」

 彼は私の手を取り、その手のひらに優しく口づけを落としました。

「私は魔王として、永すぎる時を生きてきた。誰からも理解されず、呪いに侵され、ただ世界を呪うことしか知らなかった。……君に会うまでは」

「ヴォルデレード様……」

「君が私を、人間にしてくれた。……だから、お願いだ。どこへも行かないでくれ。君がいない世界など、私には灰と同じだ」

 強大な魔王が、私の前ではこんなにも脆く、一人の男性として愛を求めている。  その事実が、私の心の奥底を激しく揺さぶりました。  かつて誰も私を必要としてくれなかった。けれど今、この世界で最も力を持つ方が、私だけを求めている。

「……私は、どこへも行きません。あなたの隣が、私の居場所ですから」

 私は背伸びをして、彼の頬にそっと触れました。  ヴォルデレード様は感極まったように、私の唇を自身のそれで塞ぎました。  深く、熱く、奪うような口づけ。  全身の力が抜け、彼に寄りかからなければ倒れてしまいそうになります。

 その時でした。  私の体から、これまで以上に強烈な光が溢れ出したのです。

「なっ……これは……⁉ 」

 ヴォルデレード様が驚いて目を見開きました。  光は夜の庭園全体を包み込み、枯れかけていた花々が一斉に開花し、大気が清浄な魔力で満たされていきます。   「……レティシア、君……。覚醒がさらに進んだのか」

 光の中心で、私の背中にはうっすらと、白銀の光で編まれたような翼が浮かび上がっていました。  「始祖の聖女」の完全な覚醒。  それは、魔王の闇を完全に相殺し、二人で一対となる「世界の調整者」としての目覚めでした。

「ああ……なんという美しさだ。もはや人ですらない。……我が神よ、君をこの手の中に閉じ込めておける自信がなくなってきた」

 ヴォルデレード様は、畏怖の念を込めて私を抱きしめ直しました。  けれど、その腕の力は決して緩むことはありません。

「閉じ込めておかなくても、私は逃げたりしませんよ? あなたのことが、大好きですから」

 私が微笑むと、魔王陛下は顔を真っ赤にして絶句してしまいました。  強大な魔王を言葉一つで翻弄できるのは、この世界で私、レティシアだけなのかもしれません。

 夜の帳の下で、聖女と魔王の真の物語が、ここから幕を開けるのでした。
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