聖女の身代わりとして捨てられた私は、隣国の魔王閣下に拾われて溺愛される

紅葉山参

文字の大きさ
5 / 11

かつての家族が、這いつくばって助けを求めてきました

しおりを挟む
ノクティス帝国の豪華絢爛な応接間に、その不釣り合いな集団が現れたのは、穏やかな午後のことでした。

 ボロボロになった騎士の礼装を纏ったアステリア伯爵と、かつての輝きを失い、髪を振り乱したエルヴィラ様。  彼らは帝国の兵士に左右を固められ、震えながらその場に膝を突いていました。

「……レ、レティシア。そこにいるのか……?」

 伯爵の掠れた声が響きます。  私は、ヴォルデレード様の隣に用意された上座の椅子で、彼らを見下ろしていました。  隣に座る陛下の放つ魔圧があまりに鋭く、冷徹であるため、部屋の空気は氷点下まで下がったかのように感じられます。

「……お久しぶりです。お父様。それに、お姉様も」

 私の髪は今や、完全な白銀色。  帝国特製の、星屑を散りばめたような深い紫のドレスを纏った私の姿に、エルヴィラ様は血を吐くような叫び声を上げました。

「そんな……嘘よ……! その髪の色、始祖の聖女の……! レティシア、貴女、どうしてそんな姿に……!」 「お黙りなさい。汚らわしい偽物が」

 ヴォルデレード様の冷たい一喝が、物理的な衝撃となってエルヴィラ様を床に叩き伏せました。  彼女は恐怖で声を失い、金魚のように口をパクパクとさせています。

「ヴォルデレード陛下! お願いです、どうか慈悲を……! レティシアを、いや、聖女様をどうか我らにお返しください! 彼女がいなければ、アステリア王国は魔物に食い尽くされてしまうのです……!」

 伯爵は床に額を擦り付け、必死に命乞いをしていました。  かつて私を「ゴミ」と呼び、物置小屋に閉じ込めていた男が、今や私の靴の先を舐めんばかりの勢いで懇願している。  その光景は、あまりに醜悪で、哀れでした。

「返せ、だと? ……片腹痛いな」

 ヴォルデレード様はゆっくりと立ち上がると、彼らの前まで歩を進めました。  一歩踏み出すごとに、大理石の床にヒビが入り、凄まじい闇の力が渦巻きます。

「私の伴侶を、生贄として森に捨てたのはどこの誰だ? 君たちの無能な姉を聖女に仕立て上げるため、レティシアの魔力を長年奪い、虐げてきた罪……万死に値すると思わないか」

「ひ、ひいっ……! あ、あれは……教育の一環で……!」 「教育、だと? ……死を以て償うがいい」

 ヴォルデレード様が右手をかざした瞬間、彼らの影が生き物のように動き出し、鋭い棘となって彼らの喉元に突き立てられました。  絶叫すら許されない沈黙の処刑が始まろうとしたその時、私は思わず彼の袖を掴みました。

「待ってください。ヴォルデレード様」 「……止めるのか? レティシア。これほどの屈辱を君に与えた者たちだぞ」

 彼は不思議そうに私を見つめました。その瞳には、私への愛しさと、敵への容赦ない殺意が混在しています。

「殺す価値もありません。……それより、私が彼らから『返してもらう』べきものがあるのです」

 私は席を立ち、エルヴィラ様の前に歩み寄りました。  彼女の胸元には、私の魔力を吸い取り続けてきた呪いのペンダントが光っています。  私がその宝石にそっと触れると、パリン、と乾いた音を立ててそれが砕け散りました。

「……あ、あ、あああああああ!」

 エルヴィラ様の体から、無理やり繋ぎ止められていた魔力の残滓が完全に消失しました。  同時に、彼女の金髪は見る影もなく色褪せ、濁った灰色へと変わっていきます。   「お姉様。あなたが欲しがっていた『聖女の力』は、もうどこにもありません。どうぞ、その体でアステリア王国の滅びを見届けてください。……それが、私からの最後の贈り物です」

 私の言葉を聞いた伯爵たちは、絶望に顔を歪めながら、兵士たちによって引きずり出されていきました。  彼らがこの先、どのような過酷な運命を辿るのか、今の私にはもう興味がありませんでした。

「……よく言ったな。我が愛しのレティシア。君の慈悲深さは、まさに女神そのものだ」

 ヴォルデレード様は私を背後から抱き寄せ、耳たぶを甘く噛みました。  その熱い感触に、私の心臓がまた大きく跳ね上がります。

「さあ、不快な客はいなくなった。次は……君をどれだけ愛しているか、じっくりと分からせてあげよう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷徹公に嫁いだ可哀想なお姫様

さくたろう
恋愛
 役立たずだと家族から虐げられている半身不随の姫アンジェリカ。味方になってくれるのは従兄弟のノースだけだった。  ある日、姉のジュリエッタの代わりに大陸の覇者、冷徹公の異名を持つ王マイロ・カースに嫁ぐことになる。  恐ろしくて震えるアンジェリカだが、マイロは想像よりもはるかに優しい人だった。アンジェリカはマイロに心を開いていき、マイロもまた、心が美しいアンジェリカに癒されていく。 ※小説家になろう様にも掲載しています いつか設定を少し変えて、長編にしたいなぁと思っているお話ですが、ひとまず短編のまま投稿しました。

冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件

水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。 以後、 寝室は強制統合 常時抱っこ移動 一秒ごとに更新される溺愛 妻を傷つける者には容赦なし宣言 甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。 さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――? 自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。 溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ

【短編】花婿殿に姻族でサプライズしようと隠れていたら「愛することはない」って聞いたんだが。可愛い妹はあげません!

月野槐樹
ファンタジー
妹の結婚式前にサプライズをしようと姻族みんなで隠れていたら、 花婿殿が、「君を愛することはない!」と宣言してしまった。 姻族全員大騒ぎとなった

【完結】旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!

たまこ
恋愛
 エミリーの大好きな夫、アランは王宮騎士団の副団長。ある日、栄転の為に辺境へ異動することになり、エミリーはてっきり夫婦で引っ越すものだと思い込み、いそいそと荷造りを始める。  だが、アランの部下に「副団長は単身赴任すると言っていた」と聞き、エミリーは呆然としてしまう。アランが大好きで離れたくないエミリーが取った行動とは。

貧乏子爵令嬢ですが、愛人にならないなら家を潰すと脅されました。それは困る!

よーこ
恋愛
図書室での読書が大好きな子爵令嬢。 ところが最近、図書室で騒ぐ令嬢が現れた。 その令嬢の目的は一人の見目の良い伯爵令息で……。 短編です。

師匠の嫉妬で才能を奪われた薬師見習いの私、牢獄で本物の力を取り戻す

er
恋愛
辺境貴族の娘セシリアは宮廷薬師見習いとして働くが、師匠エリザから無能と罵られ続ける。疫病が王都で流行すると、エリザはセシリアに濡れ衣を着せ処刑させようとする。

【完結】元強面騎士団長様は可愛いものがお好き〜虐げられた元聖女は、お腹と心が満たされて幸せになる〜

水都 ミナト
恋愛
女神の祝福を受けた聖女が尊ばれるサミュリア王国で、癒しの力を失った『元』聖女のミラベル。 『現』聖女である実妹のトロメアをはじめとして、家族から冷遇されて生きてきた。 すっかり痩せ細り、空腹が常となったミラベルは、ある日とうとう国外追放されてしまう。 隣国で力尽き果て倒れた時、助けてくれたのは――フリルとハートがたくさんついたラブリーピンクなエプロンをつけた筋骨隆々の男性!? そんな元強面騎士団長のアインスロッドは、魔物の呪い蝕まれ余命一年だという。残りの人生を大好きな可愛いものと甘いものに捧げるのだと言うアインスロッドに救われたミラベルは、彼の夢の手伝いをすることとなる。 認めとくれる人、温かい居場所を見つけたミラベルは、お腹も心も幸せに満ちていく。 そんなミラベルが飾り付けをしたお菓子を食べた常連客たちが、こぞってとあることを口にするようになる。 「『アインスロッド洋菓子店』のお菓子を食べるようになってから、すこぶる体調がいい」と。 一方その頃、ミラベルを追いやった実妹のトロメアからは、女神の力が失われつつあった。 ◇全15話、5万字弱のお話です ◇他サイトにも掲載予定です

前世の私は重い女だったので、今世は恋なんてしません。

ありま氷炎
恋愛
前世は余りにも夫が大好きで、愛が重すぎた。 だから捨てられた。 なので生まれ変わった今は、恋なんてするつもりはなかったのだけど……。

処理中です...