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追放の日の宣告と出発
『陰の皇女』に下された、死刑宣告にも等しい生贄の勅命
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マドレス帝国の皇宮は、どこまでも白く、きらびやかだった。しかし、スーザン・ロア・マドレスが暮らすのは、陽の当たらない宮殿の最奥にある、カビ臭い部屋だ。
「スーザン様、皇帝陛下がお呼びです。すぐに来なさい」
付き添いの侍女の冷たい声に、スーザンは身を硬くした。この宮殿で過ごした二十一年間、皇族としての温かい愛情など、一度も受けたことはない。平民の血を引く彼女は、常に兄である皇帝アルフレッドとその側近たちに『陰の皇女』と呼ばれ、蔑まれてきた。
食事は残飯と硬いパン。衣服は十年前のもの。そして何よりも、幼い頃から閉じ込められて育ったため、閉所恐怖症と根深い人間不信を抱えていた。
(一体、今度は何を命じられるのだろう……)
皇帝の執務室に入る瞬間、スーザンは思わず自らの右手をきつく握りしめた。緊張で手のひらが汗ばむ。
執務室の中央には、金色の玉座にふんぞり返った、義理の兄である皇帝アルフレッドが座っていた。彼は肥沃なマドレス帝国を支配する、この上なく傲慢で、残虐非道な支配者だ。
「おお、来たか、スーザン。久しいな、陰の皇女」
アルフレッドは、口元だけで笑い、ぞっとするような冷たい眼差しでスーザンを見下ろした。その隣には、彼を崇拝する大臣たちが並び、スーザンを嘲笑の対象として見ている。
「お呼びにより参りました、陛下」
スーザンは深々と頭を下げた。視線を上げることも許されない。
「良い報せだ。お前の存在が、ついにこの帝国の役に立つ時が来た」
「……」
「和平の条件として、隣国トロイセンは皇族の娘を要求してきた。そして、その生贄に選ばれたのは、誰あろう、お前だ」
スーザンの全身の血が一瞬で凍りついた。
トロイセン。それは、帝国が最も恐れる国だ。
彼らは肥沃な帝国領土への侵略を繰り返す『蛮族の国』として知られ、その王、ロキニアス・ハンナバルは、冷酷無比な『蛮王』として、帝国の子どもたちの泣き止ませにも使われるほど恐れられていた。
「ロキニアス王は、戦の天才にして、拷問を好む残虐な男と聞く。トロイセンに嫁ぐということは、生贄として利用された後、凄惨な死を迎えるということだろう」
アルフレッドは楽しげに笑い、続けた。
「お前の命と引き換えに、帝国はしばらくの平和を得る。平民の血が流れるお前のような者が、この国の役に立つなど、皮肉なものだ。せいぜい、蛮王の慰み者として、立派に死んでくるがいい」
大臣たちは下品な笑い声をあげた。
スーザンは顔を上げることができなかった。その場で膝から崩れ落ちそうになるのを、必死に耐えた。
生贄。死刑宣告にも等しい屈辱的な追放。
(結局、私はどこにも居場所がないのね……)
絶望のあまり、スーザンの視界がぼやける。しかし、ふと、前世の記憶が頭をよぎった。
私はこの世界とはまったく異なる場所で生活をしていたが、ある日仕事中に意識が遠のき気が付いたらこの世界のスーザンの姿で生活している。
しかし、この状況である……いかに前世の記憶をもっていても何も役にたたない。絶望的な生活をすること早数年……。
『生きるのを諦めないで。美味しいものを食べたいという、ささやかな欲でも、それは生きる力になるから』
スーザンは唇を噛みしめ、強く心の中で誓った。
(いいえ。このまま終わらない。私は生贄じゃない。たとえ蛮王の元だろうと、そこで美味しいものを食べて、人間らしい生活を掴んでやる。……そして、いつか、この屈辱を忘れない)
彼女は、顔を上げないまま、震える声で返答した。
「かしこまりました、陛下。スーザンは、帝国のため、トロイセン王の元へ参ります」
その日から三日後。スーザンはわずかな荷物と、皇族の証である簡素なティアラを身に着け、護衛兵に囲まれた粗末な馬車に揺られ、北の国境へと旅立った。
彼女の心は、蛮王への恐怖と、未来へのかすかな希望で、激しく揺れ動いていた。
「スーザン様、皇帝陛下がお呼びです。すぐに来なさい」
付き添いの侍女の冷たい声に、スーザンは身を硬くした。この宮殿で過ごした二十一年間、皇族としての温かい愛情など、一度も受けたことはない。平民の血を引く彼女は、常に兄である皇帝アルフレッドとその側近たちに『陰の皇女』と呼ばれ、蔑まれてきた。
食事は残飯と硬いパン。衣服は十年前のもの。そして何よりも、幼い頃から閉じ込められて育ったため、閉所恐怖症と根深い人間不信を抱えていた。
(一体、今度は何を命じられるのだろう……)
皇帝の執務室に入る瞬間、スーザンは思わず自らの右手をきつく握りしめた。緊張で手のひらが汗ばむ。
執務室の中央には、金色の玉座にふんぞり返った、義理の兄である皇帝アルフレッドが座っていた。彼は肥沃なマドレス帝国を支配する、この上なく傲慢で、残虐非道な支配者だ。
「おお、来たか、スーザン。久しいな、陰の皇女」
アルフレッドは、口元だけで笑い、ぞっとするような冷たい眼差しでスーザンを見下ろした。その隣には、彼を崇拝する大臣たちが並び、スーザンを嘲笑の対象として見ている。
「お呼びにより参りました、陛下」
スーザンは深々と頭を下げた。視線を上げることも許されない。
「良い報せだ。お前の存在が、ついにこの帝国の役に立つ時が来た」
「……」
「和平の条件として、隣国トロイセンは皇族の娘を要求してきた。そして、その生贄に選ばれたのは、誰あろう、お前だ」
スーザンの全身の血が一瞬で凍りついた。
トロイセン。それは、帝国が最も恐れる国だ。
彼らは肥沃な帝国領土への侵略を繰り返す『蛮族の国』として知られ、その王、ロキニアス・ハンナバルは、冷酷無比な『蛮王』として、帝国の子どもたちの泣き止ませにも使われるほど恐れられていた。
「ロキニアス王は、戦の天才にして、拷問を好む残虐な男と聞く。トロイセンに嫁ぐということは、生贄として利用された後、凄惨な死を迎えるということだろう」
アルフレッドは楽しげに笑い、続けた。
「お前の命と引き換えに、帝国はしばらくの平和を得る。平民の血が流れるお前のような者が、この国の役に立つなど、皮肉なものだ。せいぜい、蛮王の慰み者として、立派に死んでくるがいい」
大臣たちは下品な笑い声をあげた。
スーザンは顔を上げることができなかった。その場で膝から崩れ落ちそうになるのを、必死に耐えた。
生贄。死刑宣告にも等しい屈辱的な追放。
(結局、私はどこにも居場所がないのね……)
絶望のあまり、スーザンの視界がぼやける。しかし、ふと、前世の記憶が頭をよぎった。
私はこの世界とはまったく異なる場所で生活をしていたが、ある日仕事中に意識が遠のき気が付いたらこの世界のスーザンの姿で生活している。
しかし、この状況である……いかに前世の記憶をもっていても何も役にたたない。絶望的な生活をすること早数年……。
『生きるのを諦めないで。美味しいものを食べたいという、ささやかな欲でも、それは生きる力になるから』
スーザンは唇を噛みしめ、強く心の中で誓った。
(いいえ。このまま終わらない。私は生贄じゃない。たとえ蛮王の元だろうと、そこで美味しいものを食べて、人間らしい生活を掴んでやる。……そして、いつか、この屈辱を忘れない)
彼女は、顔を上げないまま、震える声で返答した。
「かしこまりました、陛下。スーザンは、帝国のため、トロイセン王の元へ参ります」
その日から三日後。スーザンはわずかな荷物と、皇族の証である簡素なティアラを身に着け、護衛兵に囲まれた粗末な馬車に揺られ、北の国境へと旅立った。
彼女の心は、蛮王への恐怖と、未来へのかすかな希望で、激しく揺れ動いていた。
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