虐げられし陰の皇女ですが、生贄嫁いだ隣国で「蛮王」に甘く愛され、飯テロ&内政チートで国を救うことになりました

紅葉山参

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帝国の影と王の愛の証明

帝国の使者と科学の展示場

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 聖堂で起こった「奇跡」の儀式は、トロイセンを巡る国際情勢を瞬く間に塗り替えた。

 神聖教団国家は、王妃スーザンを「偽りの神の代行者」として非難する声明を改めて発したが、その効果は薄かった。彼らの権威の源であった奇跡が、トロイセンの新しい科学、すなわち知恵によって再現可能だと示されたのだ。民衆はもはや司祭の言葉よりも、王都の新しい学校で子供たちが学ぶ知識に、より大きな希望を抱いた。

 教皇庁はトロイセンに対する外交的孤立をさらに深めようとしたが、皮肉にも、この奇跡の噂は、大陸の強国、特にロムエルド帝国の関心を引きつけてしまった。

 儀式から三日後、私はグスタフ宰相から驚くべき報告を受けた。

「王妃様。ロムエルド帝国より使節団が到着しました。彼らは、王妃様の持つ『知恵』、特に火薬の製造と水の浄化技術について、正式な技術交流を求めております」

 グスタフは困惑の色を隠せない。帝国はこれまで、トロイセンを蛮族の国として蔑視し、経済制裁を課していた敵国だ。その帝国が、頭を下げて技術交流を求めてくるなど、前代未聞だった。

「帝国が⁉ 」私は安楽椅子から身を乗り出した。「王よ、どう判断されますか」

 ロキニアスは、玉座に深く座りながら、獰猛な笑みを浮かべていた。

「来るがいい。奴らは、我々を未開の蛮族だと見下している。その蛮族が、奴らの喉元に突きつける剣の力を、知恵として手に入れようとする。愚かな連中だ」

 彼、ロキニアスの考えはシンプルだ。帝国に使節団を送らせることで、トロイセンは蛮族の国ではなく、技術力を持つ独立国として、国際的な地位を確立できる。

「グスタフ。帝国使節団は、丁重に迎えろ。そして、奴らが求めている知恵は全て、王妃スーザンの許可なくして、一片たりとも漏らすな。奴らの相手は、このスーザンが直接行う」

「王よ。よろしいので⁉ 帝国は、わたくしの祖国、アステリアを滅ぼした国です。わたくしが彼らと対峙することは、危険を伴います」

 私がそう申し上げると、ロキニアスは立ち上がり、私の安楽椅子に近づいた。

「危険だと⁉ 貴様が何を恐れている、スーザン。お前をこのトロイセンの王妃として迎えたのは、他でもない私だ。貴様を害する者は、たとえそれが帝国であろうと、この私が焼き尽くす」

 彼は、私の頭に、自分の顎を乗せ、力強く抱きしめてくれた。彼の激しい独占欲と愛情が、私を完全に守ってくれる盾になる。

「彼らにとって、私はもはや生贄の皇女ではありません。トロイセンの繁栄をもたらした、最も恐れるべき知恵の源。ロキニアス王の絶対的な寵愛と武力に守られた、王妃なのです」

 私は、彼の胸の中で決意した。帝国との交渉は、単なる技術交流ではない。トロイセンが、かつて私を売った祖国、アステリアを滅ぼした帝国に対して、知恵の優位性を確立する戦いとなる。

 翌日、ロムエルド帝国からやって来た使節団は、王都の広場でロキニアス王に謁見した。

 使節団の代表は、帝国の軍事顧問を務める、見るからに傲慢な貴族、グラディウス公爵だった。彼は、私、スーザンの故国であるアステリアを、軍事的に追い詰めた主要人物の一人だと、グスタフから聞いている。

「蛮王ロキニアス。そして、噂の……蛮王妃」

 グラディウス公爵は、ロキニアスを蔑視し、私に対しては侮蔑の混じった視線を投げかけた。

「我々は、貴国が最近開発したという、火薬の製造技術、および大規模な水の浄化技術に興味がある。これらを、帝国との友好関係の証として、速やかに我々に譲渡してもらいたい」

 彼は、技術の譲渡を「友好関係」と称し、事実上の要求を突きつけてきた。

 ロキニアスは、玉座から降り、グラディウス公爵の前に仁王立ちになった。彼の巨大な体躯と、全身から発せられる獣のような威圧感に、グラディウス公爵は一瞬怯んだ。

「公爵。我々トロイセンは、貴国から何を譲渡された⁉ 経済制裁と、国境線への兵の集中ではなかったか」

「それは……蛮族の分際で、帝国の秩序を乱したからだ」

「秩序だと⁉ 」ロキニアスは低い声で嘲笑した。「貴国の『秩序』は、王妃スーザンがもたらした知恵によって、水不足と飢餓から解放されたこのトロイセンの民衆を、再び苦しめることか」

 ここで、私が一歩前に進み出た。

「グラディウス公爵」

 私は、彼の瞳を真っ直ぐに見つめた。かつて、私が生贄として売られる原因を作った帝国の貴族。私の心には、静かな怒りが燃えていた。

「技術の譲渡は可能です。ただし、無料ではありません」

 公爵は、私の言葉に驚き、鼻で笑った。

「金銭か⁉ 蛮族はやはり、目先の利益しか見えぬようだな。いくらだ」

「金銭ではありません」私は首を横に振った。

「わたくしが求めるのは、貴国が、かつてわたくしの祖国アステリアから略奪した、古代の学術書と、最新の製鉄技術の公開です」

 私の要求は、グラディウス公爵の予想を遥かに超えていた。彼が求めていた火薬技術は、トロイセンを軍事的に有利にするためのものだが、私が求めたのは、トロイセンの工業と文化の基盤を築くための、長期的な優位性だった。

「古代の学術書⁉ 製鉄技術だと⁉ 貴様、蛮族妃の分際で、何を……」

「ロムエルド帝国が、我がトロイセンの知恵にふさわしい対価を払う気がないのなら、交渉はここで終わりです」

 私は、冷静に言い放った。

「王よ。グラディウス公爵殿を、私どもが誇る火薬製造工場と、浄水施設にご案内ください」

 ロキニアスは、私の意図を即座に理解した。

「わかった、スーザン。公爵。王妃の知恵の力を、その目で確認し、その対価が、貴様らの要求に見合うものか、判断するがいい」

 彼は、グラディウス公爵を連れて、王都の裏側にある秘密の施設へと向かった。

 私は知っている。ただ技術を渡すだけでは、帝国はそれを解析し、模倣するだけだ。だが、その技術が、どれほどの圧倒的な規模と効率性で運用されているかを見せつければ、彼らはその知識の全貌を手に入れることの困難さを理解するだろう。

 トロイセンは、もはや単なる蛮族の国ではない。私、スーザンという知恵の源に支えられた、一つの巨大な「科学の展示場」として、帝国に使節団を迎え入れたのだった。
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