虐げられし陰の皇女ですが、生贄嫁いだ隣国で「蛮王」に甘く愛され、飯テロ&内政チートで国を救うことになりました

紅葉山参

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帝国の影と王の愛の証明

火薬工場と王妃の条件

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 ロキニアス王に連れられて、グラディウス公爵は王都の裏手にある火薬製造工場と浄水施設を視察することになった。私自身は安楽椅子で待機していたが、後にロキニアスから聞いた報告は、私の予想を上回るグラディウス公爵の動揺を示すものだった。

 まず、火薬工場だ。

 ロキニアスはグラディウス公爵を、地下深く掘られた硝石生成のための巨大な空間へと案内した。そこでは、大量の尿と土壌が効率的に処理され、純粋な硝石が大量に結晶化していた。

「これは……⁉ この規模は、帝国のどの鉱山よりも効率的ではないか‼ 」

 グラディウス公爵は、その尋常ではない生産規模に目を見張ったという。彼が知る硝石は、非常に貴重な資源として、帝国内でも厳重に管理されていた。しかし、トロイセンでは、その資源がまるで無限に湧き出る泉のように、地底で生み出されていたのだ。

「公爵。これが、我が王妃の知恵だ」ロキニアスは誇らしげに言った。

「貴国は硝石を採掘する。だが、我がトロイセンは生成する。この違いがわかるか」

 グラディウス公爵は、その製造過程の全てを理解することはできず、ただ圧倒されるばかりだった。彼らが欲していたのは「火薬のレシピ」だったが、レシピの背後にある、この圧倒的な「生産体制」は、帝国が即座に模倣できるものではなかった。

 次に案内されたのは、王都の飲料水を賄うための大規模浄水施設だった。

 そこでは、ミョウバンを用いた凝集沈殿法と、砂と木炭を用いたろ過の仕組みが、巨大な水車によって動かされていた 。汚染された川の水が、数段階の処理を経て、驚くほど透明な清浄な水となって、王都へと供給されていた。

「この水は……飲めるのか⁉ 」公爵は信じられないといった顔をした。

「飲めるぞ」ロキニアスは、公爵の目の前でその清浄な水を汲み、一気に飲み干してみせた。「我が王妃の知恵は、病を運び込む水を、命の源に変えた。疫病は、このトロイセンから追放されたのだ」

 グラディウス公爵は、この二つの施設を見て、トロイセンが単なる蛮族の国ではないことを痛感した。彼らが欲していた技術は、もはやレシピの問題ではなく、国全体のシステムの問題だった。この圧倒的な生産力と衛生環境は、帝国が抱える慢性の疫病や水不足の解決に直結する。

 公爵は、謁見室に戻ると、もはや傲慢な態度はなりを潜めていた。彼は、私、スーザンを前にして、素直に畏敬の念を示した。

「王妃様……。貴女の知恵は、我々の想像を遥かに超えていた。貴国の技術は、我々帝国にとって、極めて価値あるものだと認めよう」

「感謝いたします、公爵」私は静かに答えた。

「では、わたくしが提示した条件は、受け入れてくださいますか⁉ 」

 グラディウス公爵は、しばし沈黙した後、重々しく頷いた。

「わかった。貴国の要求通り、帝国図書館に封印されていた古代アステリアの学術書の写しを、全て提供しよう。また、帝国の最新鋭の製鉄技術に関する詳細な資料も公開する。ただし、これらは火薬製造の全工程と、浄水技術の全容と引き換えだ」

 彼らが、これほど容易に条件を飲むとは、私自身も驚きだった。これは、彼らが、トロイセンの技術力を、それほどまでに必要としている証拠だ。

「公爵。取引は成立です」私は微笑んだ。

「しかし、一点だけ、付け加えさせてください」

 私は、安楽椅子から立ち上がり、玉座の隣に立つロキニアスの傍へ寄った。

「これらの技術の公開は、わたくし自身が、帝国へ向かい、使節団の前で実演指導を行うことを条件とします」

 私のこの提案に、グラディウス公爵は驚き、ロキニアスは激しく反応した。

「スーザン⁉ 何を言っている‼ 貴様を帝国へ行かせるわけがないだろう‼ 」ロキニアスが、即座に拒否の声を上げた。

「王よ。待ってください」私は、ロキニアスの手を握り、静かに制した。

 公爵は、私の申し出に、戸惑いを隠せない。

「王妃様自らが⁉ それは、願ってもないことですが……。何か、裏の目的があるのでは⁉ 」

「裏の目的などありません」私はきっぱりと言った。

「わたくしは、あなた方の前で、この知恵が、トロイセン王国の王妃、スーザンという一人の女性によってもたらされたことを、世界に証明したいのです。そして、この技術が、平和的に利用されることを確認したい」

 平和的な利用など、真っ赤な嘘だ。私が帝国へ乗り込む目的は、他にある。

 それは、私自身が帝国の内部構造を把握すること。そして、私が帝国で実演指導を行うことで、トロイセンが単なる技術保有国ではなく、「知恵の源」そのものである私、スーザンが支配する、格上の存在であることを、大陸中に印象づけるためだ。

 何よりも、私が帝国へと向かうことによって、かつて私を生贄として見捨てた私の故国、アステリアの王族たちに、私自身が、トロイセンの力と知恵を背負って、帝国と対等に渡り合う姿を見せつけることができる。

 ロキニアスは、私の真意を測りかねている。

「スーザン……」

 私は、彼の顔を見上げ、強く頷いた。

「王よ。わたくしは、ロキニアス王に愛され、守られた王妃です。帝国へ行くことは、あなた様の愛と、トロイセンの強さを証明する、最も劇的な舞台となるでしょう」

 ロキニアスは、私の目から、彼の愛と、この国の未来を賭けた、強い意志を読み取った。彼は、深い溜息をついた後、ついに折れた。

「わかった。貴様の好きにしろ、スーザン。ただし、私も同行する。貴様から一歩でも離れることは許さない。使節団は、トロイセン軍が、私と共に、帝国へ向かう準備をせよ‼ 」

 ロキニアス王のこの決定は、グラディウス公爵を再び驚愕させた。蛮王ロキニアス自身が、王妃の護衛として、帝国の心臓部へと乗り込むというのだ。これは、単なる技術交流ではなく、トロイセン王国の軍事パレードを兼ねた、史上初の蛮王妃による外交遠征となるだろう。
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