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元カレ

だいたい悪い予感は当たる

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 次の日、私は営業部の部長から呼ばれて落胆していた。

「それは、絶対ですか?」

「ん? どうしてだ? 相手が是非とも神薙さんにと名指してきて、こんなに早く返事をくれたんだ。途中で担当が代わるのもアレだしお願いしたいのだがね」

 目の前に出された見積書を見る。
 金額の欄に書かれた数字が七桁なのを見ると、かなり本気で取り組んでくれそうだ。

「いや、肥田さんが……」

「彼はもう少し現場復帰まで時間がかかる。さっそく今日にでも出向いてくれないか? ほら、この金額が動くのは大きいぞ」

 それは理解しているけれども! 乗り気になれない。
 担当欄に漆田くんの名前を見て、小さく心の中でため息をついてしまう。

「お相手さんも随分と気前が良いなぁ、返事を昨日の今日でくれるなんて」

 それほど彼の信頼度が高いのだろう、その日のうちに会議に通して、即決めた。
 小回りのきく小さい会社では稀にあるけれど、早すぎる。

「何かあるのかしら?」

 違和感を感じ、モヤッとした感覚が襲ってくる。
 別に前の彼氏だったからということではなく、純粋に気になってきた。

「なんだって良いじゃないか、とにかく頼んだよ。今日の仕事は部下にまわしてもかまわないから」

 ここまでくれば仕方がない、私は軽く頭を下げると部屋を出て、デスクに戻り今日の仕事を確認していく。
 大した仕事も入っていないようで、事情を周りに話すと快く引き受けてくれた。

「任せてください、係長はいつも私たちの仕事もコッソリやってくださってるので、これぐらいなら全然大丈夫ですよ」

 心強いような気もするが、私がコッソリ仕事を手伝っていたのはどうやらバレていたようで、今度から手伝い難くなってしまった。 
 いや、本当はダメなのだろうがツイツイやってしまう。

「ありがとう、それじゃあお願いするわね」

 必要な書類などを鞄に入れて、身だしなみを整えると会社を出て行く。
 足取りはいつもより重いも、仕事だと割り切り前へと進んでいく。
 
 取引先の会社へは、すぐに着いてしまった。
 具体的には、好きな音楽を五曲聴くか聴かないかの範囲内で通えてしまう。

「こんな近くにいたのね」
 
 本当に人生というのはわからない、今まで巡り会わなかった人と、いつどこで会うのかわからない。 
 
「よし!」

 気合いを入れて入って行くと、すぐに昨日の部屋へと通される。
 同じように準備をして、少し部屋の中を観察していると、ドアが叩かれた。

「すみません、お待たせしました」
 
「いえいえ、全然待っていませんよ」

 昨日よりも笑顔な彼が私に座るように促し、自分も腰を落ち着けた。
 
「すみません、無理を言ってしまい」

「大丈夫ですよ。全然無理ではないですし」

 こちらも営業スマイルをすると、受付の女性が飲み物を持って来てくださった。
 アイスコーヒーにコーヒーフレッシュが二つ、ガムシロップはついていない。

「覚えていたの?」
「まぁね、ちょっと気持ち悪いかな?」

 小さく顔を横に振るって、アイスコーヒーに白い液体を入れていく。 
 漆田くんは相変わらずブラックを飲んでいる。 
 人は変わる、でも、中々変われない習慣や好みもあった。

「よし! それでは、さっそく商談といきますか」

 彼の合図で話しが進められていく。
 流石、出世しているだけあって的確な事を伝えてくる。
 見積書に対し、納期など詳しく打ち合わせし概ね発注してくれる流れになった。

「ありがとうございます」

「いや、こちらこそありがとう」
 
 振込先情報や締め日の確認まで済ませると、私は礼を再度述べて立ち上がろうとしたが、何か言いたげな感じに動きを止めてしまう。

「他にも何か?」

「ん? えっと、そうだなぁ」

 チラッと壁にある時計を確認する。 
 時刻はもう少しで十一時半になろうとしていた。

「少し早いけれど、お昼ご飯どう?」

「ご、ご飯どうって、それもしかして私誘われている?」

「そうだよ」

 そうだよって、随分と軽く誘われてしまう。
 別に急いで会社に戻る必要もないけれど、断るわけにもいかなかった。
 私の手には、契約書が握られ社判も押されている。

「奢ってくれる?」

「どうしようかな、次奢ってくれるなら今回は俺が出そう」

 次? 次もあると言うの? なんだか雲行きが怪しくなってきたので、私はこう言った。

「あら、それなら今日は割り勘ね」
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