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王都へ向けて
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アスモデウス王子による物資輸送の妨害工作を退けたことで、辺境伯領の財政は盤石となり、騎士団の士気も最高潮に達した。しかし、王都に残した火種が消えたわけではない。エリスの勝利は、王子の怒りを爆発させた。
数日後、城に一人の見慣れない行商人がやってきた。彼は王都の流通ギルドとは関係のない、独立した小規模な薬草商人だと名乗った。
「旦那様と奥様、長旅でさぞお疲れでしょう。王都で密かに流行っているという、滋養強壮に効く【特別なハーブティー】を献上しに参りました」
その行商人は、地味なメイドから公爵夫人になったエリスの姿を、好奇心と軽蔑が混ざった目で見ていた。しかし、私には別のものが感じられた。
(これは……アスモデウス王子が最後に残した【毒牙】だわ)
ハーブティーの包みを受け取った瞬間、前世の公爵令嬢としての記憶が警鐘を鳴らした。かつて、父の政敵が使用人を使って父を毒殺しようとした事件で、私はその毒の匂いを嗅いだことがあった。ごく微量だが、この包みから漂うのは、滋養強壮の香りではない。
「申し訳ありませんが、ライオンハート様は多忙を極めております。この手の【特別なもの】は、まず城の医師が安全を確認することになっています」
私が冷静に言うと、行商人の顔が一瞬引きつった。
「な、何を仰いますか!これは王都の最高級品でして、医師の確認など無用!奥様、どうかすぐに旦那様にお渡しを……」
彼が強引に包みを私の手に押し付けようとした、その時だった。
「待て」
城の隅から、騎士のルクレツィアが現れた。彼女は私への忠誠心から、私が王都から連れてきた者たちを常に警戒していた。
「辺境伯様の口に入るものは、すべて私が管理する。それを私に渡せ」
ルクレツィアが包みを奪い取ろうとした瞬間、行商人は表情を豹変させ、懐に隠していた短剣を抜き放った。
「ちぃ!面倒な真似を!」
行商人の顔は、かつて王宮で私のいじめに加担していた、メイド長ジェニファーが王都から送り込んだ【刺客】の顔だった。彼の目的は、ハーブティーの毒で私を殺害すること、あるいは、抵抗された場合に短剣で致命傷を与えることだったのだろう。
しかし、彼の短剣が私に届くことはなかった。
ルクレツィアは、即座に剣を抜き、刺客の腕を打ち払った。
「城内で剣を抜くとは不届き者!!」
ルクレツィアの剣は、辺境伯に次ぐ腕前だ。刺客は一瞬で無力化され、騎士たちに拘束された。ハーブティーの包みも回収され、城の医師が検査した結果、即効性の猛毒が仕込まれていたことが判明した。
「この刺客は、王都のメイド長ジェニファーと、アスモデウス王子の命で動いていたに違いありません」
ルクレツィアは怒りに震えながら報告した。
「旦那様とエリス様を引き離し、この領地を孤立させようとしたのです!」
その日の夕方。東の砦で魔獣討伐を終え、城に戻ってきたライオンハート様は、一連の事件の報告を受け、その場に立ち尽くした。
「毒……刺客……エリスが、危なかった……」
彼は、まるで世界が崩壊したかのような顔をした。私の命が、一瞬の間に奪われかけたという事実が、彼の強靭な精神を激しく揺さぶったのだ。
彼は、拘束された刺客の前に立ち、その男を睨みつけた。
「誰の命令だ」
ライオンハート様の声は、これまでに聞いたことのないほどの、冷酷で恐ろしい響きを持っていた。凍てつくような殺気が、部屋全体を覆い尽くす。
刺客は恐怖に震えながら、全ての指示がメイド長ジェニファーを経由したアスモデウス王子からのものであることを白状した。
報告を終えたライオンハート様は、一言も発さず私の部屋に戻ってきた。彼は私を固く、壊れるほどに強く抱きしめた。
「エリス。私は……私は、君を一人にしたばかりに……」
彼の声は掠れていた。最強の辺境伯が、私を守りきれなかったという事実に対して、激しく後悔しているのだ。
「私は君に、二度と誰にも泣かせないと誓ったのに。王都の悪意は、私の想像を遥かに超えていた」
私は、彼の背中にそっと腕を回した。
「大丈夫です、ライオンハート様。私は無事です。それに、私には前世の経験がありましたから、毒の匂いを察することができたのです」
私の言葉で、彼の腕の力がさらに強まった。
「君の【知識】と【機転】が、私を守ったのだ。だが、もうたくさんだ」
ライオンハート様の瞳には、怒りだけではない、深い愛と決意の炎が燃え上がっていた。
「アスモデウス王子は、私と君の愛を踏みにじり、この辺境の平和を脅かした。もはや、我々が動くべき時だ」
彼は立ち上がり、私の手を取った。
「エリス。私は王都へ戻る。君の安全と、この国の未来のためだ。そして、アスモデウス殿下と、あのメイド長ジェニファーに、全ての報いを受けさせる」
私は、この時を待っていた。
「私も、ご一緒させてください。公爵夫人として、王都で【最後のざまぁ】を見届けたいのです」
ライオンハート様は、私の強い眼差しを見て頷いた。彼の顔には、もう迷いはなかった。
「分かった。君の復讐だ。ならば、最高の衣装を纏い、最高の威厳をもって、王都へ乗り込むぞ」
辺境伯と、元公爵令嬢である私は、王都の裏切り者たちへ【制裁】を与えるため、二度と戻らない覚悟で王都へと向かう準備を始めたのだった。
数日後、城に一人の見慣れない行商人がやってきた。彼は王都の流通ギルドとは関係のない、独立した小規模な薬草商人だと名乗った。
「旦那様と奥様、長旅でさぞお疲れでしょう。王都で密かに流行っているという、滋養強壮に効く【特別なハーブティー】を献上しに参りました」
その行商人は、地味なメイドから公爵夫人になったエリスの姿を、好奇心と軽蔑が混ざった目で見ていた。しかし、私には別のものが感じられた。
(これは……アスモデウス王子が最後に残した【毒牙】だわ)
ハーブティーの包みを受け取った瞬間、前世の公爵令嬢としての記憶が警鐘を鳴らした。かつて、父の政敵が使用人を使って父を毒殺しようとした事件で、私はその毒の匂いを嗅いだことがあった。ごく微量だが、この包みから漂うのは、滋養強壮の香りではない。
「申し訳ありませんが、ライオンハート様は多忙を極めております。この手の【特別なもの】は、まず城の医師が安全を確認することになっています」
私が冷静に言うと、行商人の顔が一瞬引きつった。
「な、何を仰いますか!これは王都の最高級品でして、医師の確認など無用!奥様、どうかすぐに旦那様にお渡しを……」
彼が強引に包みを私の手に押し付けようとした、その時だった。
「待て」
城の隅から、騎士のルクレツィアが現れた。彼女は私への忠誠心から、私が王都から連れてきた者たちを常に警戒していた。
「辺境伯様の口に入るものは、すべて私が管理する。それを私に渡せ」
ルクレツィアが包みを奪い取ろうとした瞬間、行商人は表情を豹変させ、懐に隠していた短剣を抜き放った。
「ちぃ!面倒な真似を!」
行商人の顔は、かつて王宮で私のいじめに加担していた、メイド長ジェニファーが王都から送り込んだ【刺客】の顔だった。彼の目的は、ハーブティーの毒で私を殺害すること、あるいは、抵抗された場合に短剣で致命傷を与えることだったのだろう。
しかし、彼の短剣が私に届くことはなかった。
ルクレツィアは、即座に剣を抜き、刺客の腕を打ち払った。
「城内で剣を抜くとは不届き者!!」
ルクレツィアの剣は、辺境伯に次ぐ腕前だ。刺客は一瞬で無力化され、騎士たちに拘束された。ハーブティーの包みも回収され、城の医師が検査した結果、即効性の猛毒が仕込まれていたことが判明した。
「この刺客は、王都のメイド長ジェニファーと、アスモデウス王子の命で動いていたに違いありません」
ルクレツィアは怒りに震えながら報告した。
「旦那様とエリス様を引き離し、この領地を孤立させようとしたのです!」
その日の夕方。東の砦で魔獣討伐を終え、城に戻ってきたライオンハート様は、一連の事件の報告を受け、その場に立ち尽くした。
「毒……刺客……エリスが、危なかった……」
彼は、まるで世界が崩壊したかのような顔をした。私の命が、一瞬の間に奪われかけたという事実が、彼の強靭な精神を激しく揺さぶったのだ。
彼は、拘束された刺客の前に立ち、その男を睨みつけた。
「誰の命令だ」
ライオンハート様の声は、これまでに聞いたことのないほどの、冷酷で恐ろしい響きを持っていた。凍てつくような殺気が、部屋全体を覆い尽くす。
刺客は恐怖に震えながら、全ての指示がメイド長ジェニファーを経由したアスモデウス王子からのものであることを白状した。
報告を終えたライオンハート様は、一言も発さず私の部屋に戻ってきた。彼は私を固く、壊れるほどに強く抱きしめた。
「エリス。私は……私は、君を一人にしたばかりに……」
彼の声は掠れていた。最強の辺境伯が、私を守りきれなかったという事実に対して、激しく後悔しているのだ。
「私は君に、二度と誰にも泣かせないと誓ったのに。王都の悪意は、私の想像を遥かに超えていた」
私は、彼の背中にそっと腕を回した。
「大丈夫です、ライオンハート様。私は無事です。それに、私には前世の経験がありましたから、毒の匂いを察することができたのです」
私の言葉で、彼の腕の力がさらに強まった。
「君の【知識】と【機転】が、私を守ったのだ。だが、もうたくさんだ」
ライオンハート様の瞳には、怒りだけではない、深い愛と決意の炎が燃え上がっていた。
「アスモデウス王子は、私と君の愛を踏みにじり、この辺境の平和を脅かした。もはや、我々が動くべき時だ」
彼は立ち上がり、私の手を取った。
「エリス。私は王都へ戻る。君の安全と、この国の未来のためだ。そして、アスモデウス殿下と、あのメイド長ジェニファーに、全ての報いを受けさせる」
私は、この時を待っていた。
「私も、ご一緒させてください。公爵夫人として、王都で【最後のざまぁ】を見届けたいのです」
ライオンハート様は、私の強い眼差しを見て頷いた。彼の顔には、もう迷いはなかった。
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