13 / 14
全ての舞台は整った
しおりを挟む
辺境伯公爵夫妻を乗せた馬車は、静かに王都の城門をくぐり抜けた。前回、私が王都を去った時とは比べ物にならないほど、その威容と存在感は圧倒的だった。ライオンハート様の馬車は、辺境伯領の紋章を掲げ、武装した騎士団に守られていたため、誰もこれを止めることはできない。
私たちは、王宮ではなく、ライオンハート様が王都に所有する別邸に入った。その別邸は、王宮にも引けを取らないほどの壮麗さで、辺境伯の財力と権力を静かに物語っていた。
「エリス。少し休むように。明日の朝、私は国王陛下に謁見を求める」
ライオンハート様は、辺境での冷徹な表情に戻っていた。彼の目は、アスモデウス王子に対する最終的な断罪を見据えている。
「その前に、一つだけ、私が済ませたいことがあります」
私がそう言うと、ライオンハート様は不思議そうな顔をした。
「君が?何をするつもりだ」
「メイド長ジェニファーに、私が【公爵夫人】として王都に戻ったことを、誰よりも早く知らせたいのです。そして、彼女の【最後の傲慢】を引きずり出すつもりです」
私は、深紅のドレスを纏ったまま、一通の短い手紙をしたためた。差出人は「ヴァルトガルト公爵夫人エリス」とし、内容はただ一言。
『あなたに、一杯のお茶を勧める権利を差し上げましょう。場所は、王都別邸の広間にて。本日午後四時。』
この手紙を、最も口の軽い王宮の使用人に渡るように手配した。
午後四時ちょうど。王都別邸の広間は、豪華な調度品と、辺境から連れてきた厳粛な騎士たちで満たされていた。
そして、広間の扉が開き、驚きと混乱の表情を浮かべたジェニファーが、よろめきながら入ってきた。彼女は、深紅のドレスを纏い、威厳に満ちた私を一目見て、凍りついたように立ち尽くした。
「エ、エリス!?なぜ、あなたがここに……しかも、その格好は……」
ジェニファーは、私が王子の執務室で隅に立っていた、みすぼらしいメイドの姿しか想像していなかったのだろう。彼女の目には、憎悪と恐怖、そして信じられないという感情が渦巻いていた。
私は、ライオンハート様の隣に座り、優雅に紅茶のカップを傾けた。
「ごきげんよう、ジェニファー。久しぶりですね。メイド長のあなたが、このような形で辺境伯公爵夫人に会いに来るとは思いませんでした」
私の静かで冷たい声が、広間に響き渡った。
「公爵夫人……嘘よ!あなたのような地味で能無しの女が、辺境伯様の妻になどなれるはずがない!あの飾り皿の件で、追放されて然るべき人間よ!」
ジェニファーは、信じたくないという感情から、つい本性を露わにして叫んだ。
「王子の【厄介な影】が、何を偉そうに!」
その言葉を聞いた瞬間、ライオンハート様が立ち上がった。彼の背後には、ルクレツィアをはじめとする屈強な騎士たちが控えている。
「メイド長ジェニファー。私が【ヴァルトガルト公爵】ライオンハートだ。そして、彼女は私の【愛する妻】、エリス・ヴァルトガルト公爵夫人だ」
ライオンハート様が発する威圧的な気配に、ジェニファーは思わず後ずさりした。
「君は、我が妻を『厄介な影』と罵り、その命を毒で奪おうとした。さらに、アスモデウス殿下と共に、辺境伯領の物資輸送を妨害し、辺境の防衛を脅かした」
ライオンハート様の言葉は、まるで氷の刃のようにジェニファーの心を貫いた。彼女の顔は蒼白になり、足が震え始めた。
「し、知るものですか!私は王子の命令に従ったまで!全ては、あの方の命……!」
「その『あの方』には、明日、私が直接会う」
ライオンハート様は、冷酷に言い放った。
「そして、君の【主犯】であるアスモデウス王子は、君をあっさり見捨てるだろう。君は王子の【毒牙】として利用されただけだ。この状況で、まだ君が王子の庇護を受けられると思うのか?」
ジェニファーは、その言葉の意味を理解し、顔から血の気が引いた。彼女は、王子の冷酷さを知っている。利用価値がなくなった瞬間、容赦なく切り捨てられることを。
私は、最後の追い打ちをかけた。
「ジェニファー。あなたは、私に毒を盛り、私を陥れようとしました。その罪は重い。ですが、私に残された【公爵令嬢としての知識】が、あなたの仕業を全て暴きました」
私は立ち上がり、ジェニファーの目の前まで歩み寄った。
「あなたが最も軽蔑した私の【知識】と【地味さ】が、今、あなたの全てを奪います。これが、あなたが私にしたことへの【ざまぁ】です」
ジェニファーは、その場で膝から崩れ落ちた。深紅のドレスを纏った私の姿は、彼女にとって、王都での地位も、権力も、全てを失う【恐怖の象徴】となったのだ。
「もう二度と、私の夫と、私の領地に手出しはさせません」
私の命令で、騎士たちがジェニファーを拘束した。彼女の末路は、王子の告発の後に決まるだろうが、王都での彼女の生活はここで完全に終わった。
夜、広間から戻った私は、ライオンハート様に抱きしめられた。
「見事だった、エリス。君の知性と勇気が、私に代わって復讐を遂げてくれた」
「いいえ、ライオンハート様。これは、あなたという【最高の盾】があったからこそできたことです」
明日、私たちは、いよいよアスモデウス王子と対峙する。王子の運命を決める【最後のざまぁ】の舞台が整ったのだ。
私たちは、王宮ではなく、ライオンハート様が王都に所有する別邸に入った。その別邸は、王宮にも引けを取らないほどの壮麗さで、辺境伯の財力と権力を静かに物語っていた。
「エリス。少し休むように。明日の朝、私は国王陛下に謁見を求める」
ライオンハート様は、辺境での冷徹な表情に戻っていた。彼の目は、アスモデウス王子に対する最終的な断罪を見据えている。
「その前に、一つだけ、私が済ませたいことがあります」
私がそう言うと、ライオンハート様は不思議そうな顔をした。
「君が?何をするつもりだ」
「メイド長ジェニファーに、私が【公爵夫人】として王都に戻ったことを、誰よりも早く知らせたいのです。そして、彼女の【最後の傲慢】を引きずり出すつもりです」
私は、深紅のドレスを纏ったまま、一通の短い手紙をしたためた。差出人は「ヴァルトガルト公爵夫人エリス」とし、内容はただ一言。
『あなたに、一杯のお茶を勧める権利を差し上げましょう。場所は、王都別邸の広間にて。本日午後四時。』
この手紙を、最も口の軽い王宮の使用人に渡るように手配した。
午後四時ちょうど。王都別邸の広間は、豪華な調度品と、辺境から連れてきた厳粛な騎士たちで満たされていた。
そして、広間の扉が開き、驚きと混乱の表情を浮かべたジェニファーが、よろめきながら入ってきた。彼女は、深紅のドレスを纏い、威厳に満ちた私を一目見て、凍りついたように立ち尽くした。
「エ、エリス!?なぜ、あなたがここに……しかも、その格好は……」
ジェニファーは、私が王子の執務室で隅に立っていた、みすぼらしいメイドの姿しか想像していなかったのだろう。彼女の目には、憎悪と恐怖、そして信じられないという感情が渦巻いていた。
私は、ライオンハート様の隣に座り、優雅に紅茶のカップを傾けた。
「ごきげんよう、ジェニファー。久しぶりですね。メイド長のあなたが、このような形で辺境伯公爵夫人に会いに来るとは思いませんでした」
私の静かで冷たい声が、広間に響き渡った。
「公爵夫人……嘘よ!あなたのような地味で能無しの女が、辺境伯様の妻になどなれるはずがない!あの飾り皿の件で、追放されて然るべき人間よ!」
ジェニファーは、信じたくないという感情から、つい本性を露わにして叫んだ。
「王子の【厄介な影】が、何を偉そうに!」
その言葉を聞いた瞬間、ライオンハート様が立ち上がった。彼の背後には、ルクレツィアをはじめとする屈強な騎士たちが控えている。
「メイド長ジェニファー。私が【ヴァルトガルト公爵】ライオンハートだ。そして、彼女は私の【愛する妻】、エリス・ヴァルトガルト公爵夫人だ」
ライオンハート様が発する威圧的な気配に、ジェニファーは思わず後ずさりした。
「君は、我が妻を『厄介な影』と罵り、その命を毒で奪おうとした。さらに、アスモデウス殿下と共に、辺境伯領の物資輸送を妨害し、辺境の防衛を脅かした」
ライオンハート様の言葉は、まるで氷の刃のようにジェニファーの心を貫いた。彼女の顔は蒼白になり、足が震え始めた。
「し、知るものですか!私は王子の命令に従ったまで!全ては、あの方の命……!」
「その『あの方』には、明日、私が直接会う」
ライオンハート様は、冷酷に言い放った。
「そして、君の【主犯】であるアスモデウス王子は、君をあっさり見捨てるだろう。君は王子の【毒牙】として利用されただけだ。この状況で、まだ君が王子の庇護を受けられると思うのか?」
ジェニファーは、その言葉の意味を理解し、顔から血の気が引いた。彼女は、王子の冷酷さを知っている。利用価値がなくなった瞬間、容赦なく切り捨てられることを。
私は、最後の追い打ちをかけた。
「ジェニファー。あなたは、私に毒を盛り、私を陥れようとしました。その罪は重い。ですが、私に残された【公爵令嬢としての知識】が、あなたの仕業を全て暴きました」
私は立ち上がり、ジェニファーの目の前まで歩み寄った。
「あなたが最も軽蔑した私の【知識】と【地味さ】が、今、あなたの全てを奪います。これが、あなたが私にしたことへの【ざまぁ】です」
ジェニファーは、その場で膝から崩れ落ちた。深紅のドレスを纏った私の姿は、彼女にとって、王都での地位も、権力も、全てを失う【恐怖の象徴】となったのだ。
「もう二度と、私の夫と、私の領地に手出しはさせません」
私の命令で、騎士たちがジェニファーを拘束した。彼女の末路は、王子の告発の後に決まるだろうが、王都での彼女の生活はここで完全に終わった。
夜、広間から戻った私は、ライオンハート様に抱きしめられた。
「見事だった、エリス。君の知性と勇気が、私に代わって復讐を遂げてくれた」
「いいえ、ライオンハート様。これは、あなたという【最高の盾】があったからこそできたことです」
明日、私たちは、いよいよアスモデウス王子と対峙する。王子の運命を決める【最後のざまぁ】の舞台が整ったのだ。
2
あなたにおすすめの小説
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』
放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」
王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。
しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!?
「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!)
怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。
【完結】ハメられて追放された悪役令嬢ですが、爬虫類好きな私はドラゴンだってサイコーです。
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
やってもいない罪を被せられ、公爵令嬢だったルナティアは断罪される。
王太子であった婚約者も親友であったサーシャに盗られ、家族からも見捨てられてしまった。
教会に生涯幽閉となる手前で、幼馴染である宰相の手腕により獣人の王であるドラゴンの元へ嫁がされることに。
惨めだとあざ笑うサーシャたちを無視し、悲嘆にくれるように見えたルナティアだが、実は大の爬虫類好きだった。
簡単に裏切る人になんてもう未練はない。
むしろ自分の好きなモノたちに囲まれている方が幸せデス。
転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。
ラム猫
恋愛
異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。
『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。
しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。
彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。
※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
崖っぷち令嬢は冷血皇帝のお世話係〜侍女のはずが皇帝妃になるみたいです〜
束原ミヤコ
恋愛
ティディス・クリスティスは、没落寸前の貧乏な伯爵家の令嬢である。
家のために王宮で働く侍女に仕官したは良いけれど、緊張のせいでまともに話せず、面接で落とされそうになってしまう。
「家族のため、なんでもするからどうか働かせてください」と泣きついて、手に入れた仕事は――冷血皇帝と巷で噂されている、冷酷冷血名前を呼んだだけで子供が泣くと言われているレイシールド・ガルディアス皇帝陛下のお世話係だった。
皇帝レイシールドは気難しく、人を傍に置きたがらない。
今まで何人もの侍女が、レイシールドが恐ろしくて泣きながら辞めていったのだという。
ティディスは決意する。なんとしてでも、お仕事をやりとげて、没落から家を救わなければ……!
心根の優しいお世話係の令嬢と、無口で不器用な皇帝陛下の話です。
追放された薬師は、辺境の地で騎士団長に愛でられる
湊一桜
恋愛
王宮薬師のアンは、国王に毒を盛った罪を着せられて王宮を追放された。幼少期に両親を亡くして王宮に引き取られたアンは、頼れる兄弟や親戚もいなかった。
森を彷徨って数日、倒れている男性を見つける。男性は高熱と怪我で、意識が朦朧としていた。
オオカミの襲撃にも遭いながら、必死で男性を看病すること二日後、とうとう男性が目を覚ました。ジョーという名のこの男性はとても強く、軽々とオオカミを撃退した。そんなジョーの姿に、不覚にもときめいてしまうアン。
行くあてもないアンは、ジョーと彼の故郷オストワル辺境伯領を目指すことになった。
そして辿り着いたオストワル辺境伯領で待っていたのは、ジョーとの甘い甘い時間だった。
※『小説家になろう』様、『ベリーズカフェ』様でも公開中です。
辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました
腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。
しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。
家を乗っ取られて辺境に嫁がされることになったら、三食研究付きの溺愛生活が待っていました
ミズメ
恋愛
ライラ・ハルフォードは伯爵令嬢でありながら、毎日魔法薬の研究に精を出していた。
一つ結びの三つ編み、大きな丸レンズの眼鏡、白衣。""変わり者令嬢""と揶揄されながら、信頼出来る仲間と共に毎日楽しく研究に励む。
「大変です……!」
ライラはある日、とんでもない事実に気が付いた。作成した魔法薬に、なんと"薄毛"の副作用があったのだ。その解消の為に尽力していると、出席させられた夜会で、伯爵家を乗っ取った叔父からふたまわりも歳上の辺境伯の後妻となる婚約が整ったことを告げられる。
手詰まりかと思えたそれは、ライラにとって幸せへと続く道だった。
◎さくっと終わる短編です(10話程度)
◎薄毛の話題が出てきます。苦手な方(?)はお気をつけて…!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる