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奪われた光と、龍の咆哮
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轟音と共に、書庫の壁が大きく崩れ落ちる。 舞い上がる埃の中で、私は激しく咳き込んだ。 目の前に立つ男は、周囲に漂う神聖な空気など微塵も気に留めない様子で、私へと一歩ずつ近づいてくる。
「龍神の結界も、この『滅神の錫杖』の前では形無しだな。さあ、娘。大人しくついてくるがいい。お前のような宝が、こんな山奥で朽ちるのは惜しいことだ」
「……嫌。私は、ここから離れません!」
私は崩れた棚の破片を手に取り、精一杯の拒絶を示す。 けれど、男は嘲笑うように手を一振りした。 目に見えない圧力が私を襲い、体から力が抜けて床に膝をついてしまう。
「無駄な抵抗だ。お前のその血、その涙……すべてを我が教団の糧としてやろう」
男の手が私の腕を掴もうとした、その時だった。
「――私の許可なく、私の社を荒らす不埒な輩は誰だ」
天を割るような鋭い声。 次の瞬間、眩いばかりの雷光が書庫の中を駆け抜けた。 男は悲鳴を上げて飛び退き、私の前には、怒りに燃える金色の瞳を持った琥珀様が降り立った。
「琥珀様……‼」
「……紗良、下がっていれ。少し、この虫けらを教育してやる必要があるようだ」
琥珀様の背中から、今までとは比べ物にならないほどの魔力が溢れ出している。 周囲の空気がビリビリと震え、建物の瓦礫が宙に浮き上がる。 神としての真の姿を現そうとしている彼の威圧感に、黒い法衣の男も顔色を変えた。
「龍神か……! だが、今の貴様は人間に心を奪われ、弱くなっているはずだ。この娘を差し出せば、社の安全は保障してやろう」
「寝言は死んでから言え。この娘は、私の魂そのものだ。指一本、触れることすら許さぬ!」
琥珀様が手をかざすと、巨大な水の龍が虚空から現れ、男に向かって牙を剥いた。 狭い書庫の中が、荒れ狂う嵐のような激流に飲み込まれていく。 男は錫杖を振り回して応戦するが、本気の神の力の前には、その呪術も虚しく弾け飛ぶだけだった。
「おのれ……! 今日は引くが、預言者様の言葉は絶対だ。お前はいずれ、我らの手へと堕ちるのだ、黄金の乙女よ!」
男は不気味な煙と共に、その場から姿を消した。 静寂が戻った書庫の中で、琥珀様は荒い呼吸を整えながら、すぐに私の方を振り返った。
「紗良! 怪我はないか⁉ どこか痛むところは……」
彼は慌てて私を抱き起こし、全身をくまなく確認する。 その手が、微かに震えていることに気づき、私の胸は締め付けられるように痛んだ。 龍神様が、私のために、こんなに狼狽えている。
「大丈夫です……怪我はありません。ただ、少しびっくりしただけで。……琥珀様、ごめんなさい。私のせいで、あなたがこんなに……」
「謝るな。私が側にいなかったのが悪い。……お前を失うかと思った。あのような恐怖、数千年の人生で初めてだ」
彼は私を壊れ物を扱うように抱きしめ、私の首筋に顔を埋めた。 彼の深い絶望と、それ以上に強い愛着が伝わってくる。 私は彼を安心させるように、その銀色の髪に手を伸ばし、優しく撫でた。
「私、私ね……どこにも行きません。あんな怖い人のところなんて、絶対に行かない。だから、もうそんなに震えないで、琥珀様」
あなたは、強くて気高い神様なのに。 私という小さな存在のために、こんなにも心を乱してしまう。 その事実が、申し訳なさと同時に、どうしようもないほどの愛おしさを連れてくる。
琥珀様は顔を上げると、潤んだ金色の瞳で私を真っ直ぐに見つめた。
「紗良。……もう、隠し立てはせぬ。お前の中には、確かに古の神の血が流れている。お前が笑えば福を呼び、泣けば災いをもたらす。お前という存在そのものが、この世界の均衡を保つための鍵なのだ」
「……私の血が、神の血……?」
「ああ。だからこそ、奴らのような欲深き者たちが、お前を狙って集まってくる。……今の私の力だけでは、いつかお前を守りきれなくなる日が来るかもしれん。それを防ぐには、一つだけ方法がある」
琥珀様は真剣な眼差しで、私の両手を握りしめた。 その真意を量りかねて、私は息を呑む。
「お前と私が、魂のレベルで完全に融合することだ。……私と、本当の意味で夫婦(めおと)になれ、紗良。お前の全てを私に預け、私の全てをお前に刻む。そうすれば、どんな神も人間も、お前に手を出すことはできなくなる」
夫婦……。 その言葉の響きに、顔が火が出るほど熱くなる。 今までの甘いやり取りとは違う、一生を誓い合う重い約束。
「私は……、私、私ね……ずっと前から、あなたの隣にいたいって思っていました。それが、私を守るための方法だというのなら、喜んでお受けします」
私の答えを聞いた瞬間、琥珀様は世界で一番幸せそうな笑みを浮かべた。 彼は私の頬を包み込み、誓いを立てるように、深く、長く口づけを交わした。
けれど、結界を破られた社は、もはや安全な聖域ではなくなっていた。 私たちは、さらに深く険しい、龍神の真の棲家へと移動することを決意する。 二人の絆が深まる一方で、外界では「黄金の乙女」を巡る争奪戦が、密かに始まろうとしていた。
「龍神の結界も、この『滅神の錫杖』の前では形無しだな。さあ、娘。大人しくついてくるがいい。お前のような宝が、こんな山奥で朽ちるのは惜しいことだ」
「……嫌。私は、ここから離れません!」
私は崩れた棚の破片を手に取り、精一杯の拒絶を示す。 けれど、男は嘲笑うように手を一振りした。 目に見えない圧力が私を襲い、体から力が抜けて床に膝をついてしまう。
「無駄な抵抗だ。お前のその血、その涙……すべてを我が教団の糧としてやろう」
男の手が私の腕を掴もうとした、その時だった。
「――私の許可なく、私の社を荒らす不埒な輩は誰だ」
天を割るような鋭い声。 次の瞬間、眩いばかりの雷光が書庫の中を駆け抜けた。 男は悲鳴を上げて飛び退き、私の前には、怒りに燃える金色の瞳を持った琥珀様が降り立った。
「琥珀様……‼」
「……紗良、下がっていれ。少し、この虫けらを教育してやる必要があるようだ」
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「龍神か……! だが、今の貴様は人間に心を奪われ、弱くなっているはずだ。この娘を差し出せば、社の安全は保障してやろう」
「寝言は死んでから言え。この娘は、私の魂そのものだ。指一本、触れることすら許さぬ!」
琥珀様が手をかざすと、巨大な水の龍が虚空から現れ、男に向かって牙を剥いた。 狭い書庫の中が、荒れ狂う嵐のような激流に飲み込まれていく。 男は錫杖を振り回して応戦するが、本気の神の力の前には、その呪術も虚しく弾け飛ぶだけだった。
「おのれ……! 今日は引くが、預言者様の言葉は絶対だ。お前はいずれ、我らの手へと堕ちるのだ、黄金の乙女よ!」
男は不気味な煙と共に、その場から姿を消した。 静寂が戻った書庫の中で、琥珀様は荒い呼吸を整えながら、すぐに私の方を振り返った。
「紗良! 怪我はないか⁉ どこか痛むところは……」
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「大丈夫です……怪我はありません。ただ、少しびっくりしただけで。……琥珀様、ごめんなさい。私のせいで、あなたがこんなに……」
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あなたは、強くて気高い神様なのに。 私という小さな存在のために、こんなにも心を乱してしまう。 その事実が、申し訳なさと同時に、どうしようもないほどの愛おしさを連れてくる。
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「……私の血が、神の血……?」
「ああ。だからこそ、奴らのような欲深き者たちが、お前を狙って集まってくる。……今の私の力だけでは、いつかお前を守りきれなくなる日が来るかもしれん。それを防ぐには、一つだけ方法がある」
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「お前と私が、魂のレベルで完全に融合することだ。……私と、本当の意味で夫婦(めおと)になれ、紗良。お前の全てを私に預け、私の全てをお前に刻む。そうすれば、どんな神も人間も、お前に手を出すことはできなくなる」
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私の答えを聞いた瞬間、琥珀様は世界で一番幸せそうな笑みを浮かべた。 彼は私の頬を包み込み、誓いを立てるように、深く、長く口づけを交わした。
けれど、結界を破られた社は、もはや安全な聖域ではなくなっていた。 私たちは、さらに深く険しい、龍神の真の棲家へと移動することを決意する。 二人の絆が深まる一方で、外界では「黄金の乙女」を巡る争奪戦が、密かに始まろうとしていた。
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