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「まだ純潔だったんだね。それまでのこともしてないみたいだし、手が早いあいつにしては珍しい」
ベッドに横になり、ウィルフレッドは嬉しそうにベルティーユの髪を撫でた。彼女はもはや体を動かす元気などない。されるがままになっていた。
「オースティン様は、どうしてウィル様をライバル視されているのですか?」
ずっと気になっていたことだが、ウィルフレッドにもオースティンにもどちらにも聞けなかったことだ。機嫌がいいせいか、ウィルフレッドは多少不快そうな顔をしながらも答えてくれた。
「あいつが一方的に、私をライバル視しているだけだ。貴族学校ではいつも私が一番だったし、社交界であいつが目をつけた女性が、毎回私のほうを気に入ってしまうみたいでね。もちろん私には君がいたから、どんな女性にアプローチされてもまったくなびかなかったけれど」
「ウィル様は素敵ですもの」
ベルティーユが隣に並んでいた先日の社交界デビューのときですら、すきをみてはひっきりなしに女性たちが声をかけてきたのだ。普段ベルティーユが不在の時ならばもっとすごかったのだろう、と容易に予想ができる。
「誰に好かれたって、ベルに好かれないのなら意味がないけどね」
「……」
寂しそうにウィルフレッドに言われて、ベルティーユは困って口ごもってしまった。
その時、ベルティーユの腹が小さく鳴った。真っ赤になってベルティーユは腹を押さえたが、ウィルフレッドは当然聞こえてしまったようだ。
くすくす笑いながら、ベッドから降りる。ポケットから懐中時計をとりだし、
「ああ、君は朝食も食べていなかったね。昼もすぎたし、運動もしたからお腹が空いただろう。すぐに用意するからゆっくり待っていて。歩けるのならあっちで待っていてもいいよ」
「ウィル様が用意するのですか? 食事を?」
ベルティーユは目を丸くした。様々な雑務を貴族は使用人に任せるものだが、調理もその最たるものだからだ。女性ならば貴族であってもお菓子を作ったりすることはあるが、男性が調理場に入ることなどまずない。
「結婚したら使用人も使わずに静かなところで、しばらく二人っきりで過ごしたいと思ってね。基本的なことはできるように覚えたんだよ。この家もそのときのために用意した。思惑とは違ったけれど、こうして役に立つのならよかった」
軽口を叩いて、ウィルフレッドは部屋を出て行った。ベルティーユも多少体がだるくはあったが、続いてリビングに出て行く。普段人が調理をするところを見ないので、興味があったのだ。
「そばで見ていてもいいですか?」
「かまわないよ」
ウィルフレッドが調理をするところを、邪魔にならないところで立って見ていることにした。ウィルフレッドはスープを作りながらパンにバターを塗ったりと、並行作業をしている。初めて見たが、かなり手際がよいことが分かる。
「わたしも手伝ってもかまいませんか?」
何もしないでいるのがいたたまれなくて、そう申し出たが、
「うん。じゃあ、お皿出してくれる?」
とか
「コップにミルクを注いで」
とか子供でもできるような簡単なことしかさせてもらえなかった。刃物や火を扱うことは任せる気にならないらしい。
ほどなくしてスープとサラダ、サンドイッチという朝食ができあがった。普段屋敷で食べているものよりは簡単なメニューではあるが、ウィルフレッドが作ってくれたというだけで特別な料理のように思えた。
「夕食はもう少しちゃんと作るね。まあそこまでレパートリーはないんだけど」
「十分美味しいです、ウィル様」
ベルティーユはにこにこと昼食をほおばった。
(あ、うっかり餌付けされてしまったわ!)
「ウ、ウィル様!」
「何?」
食べ終えたウィルフレッドが、優しく微笑む。
「食べ終わったら、外に出してください。きっとみんな心配しています。それに早く戻らないと大変なことに……」
意を決して言ったのに、
「少し出るよ。いい子にしていてね。ベル」
まるで何も聞こえていなかったように、ウィルフレッドは立ち上がってしまった。食器を手に取ってキッチンに下げる。
「ウィル様? あの……」
「ベルティーユはゆっくり食べていて。食器は洗わなくてもいいよ。私が帰ってからやるから」
「あ、あの……」
困惑するベルティーユを残して、ウィルフレッドはさっさと汚れた服を着替えると出て行ってしまった。がっちりと鍵をかけて。
ベッドに横になり、ウィルフレッドは嬉しそうにベルティーユの髪を撫でた。彼女はもはや体を動かす元気などない。されるがままになっていた。
「オースティン様は、どうしてウィル様をライバル視されているのですか?」
ずっと気になっていたことだが、ウィルフレッドにもオースティンにもどちらにも聞けなかったことだ。機嫌がいいせいか、ウィルフレッドは多少不快そうな顔をしながらも答えてくれた。
「あいつが一方的に、私をライバル視しているだけだ。貴族学校ではいつも私が一番だったし、社交界であいつが目をつけた女性が、毎回私のほうを気に入ってしまうみたいでね。もちろん私には君がいたから、どんな女性にアプローチされてもまったくなびかなかったけれど」
「ウィル様は素敵ですもの」
ベルティーユが隣に並んでいた先日の社交界デビューのときですら、すきをみてはひっきりなしに女性たちが声をかけてきたのだ。普段ベルティーユが不在の時ならばもっとすごかったのだろう、と容易に予想ができる。
「誰に好かれたって、ベルに好かれないのなら意味がないけどね」
「……」
寂しそうにウィルフレッドに言われて、ベルティーユは困って口ごもってしまった。
その時、ベルティーユの腹が小さく鳴った。真っ赤になってベルティーユは腹を押さえたが、ウィルフレッドは当然聞こえてしまったようだ。
くすくす笑いながら、ベッドから降りる。ポケットから懐中時計をとりだし、
「ああ、君は朝食も食べていなかったね。昼もすぎたし、運動もしたからお腹が空いただろう。すぐに用意するからゆっくり待っていて。歩けるのならあっちで待っていてもいいよ」
「ウィル様が用意するのですか? 食事を?」
ベルティーユは目を丸くした。様々な雑務を貴族は使用人に任せるものだが、調理もその最たるものだからだ。女性ならば貴族であってもお菓子を作ったりすることはあるが、男性が調理場に入ることなどまずない。
「結婚したら使用人も使わずに静かなところで、しばらく二人っきりで過ごしたいと思ってね。基本的なことはできるように覚えたんだよ。この家もそのときのために用意した。思惑とは違ったけれど、こうして役に立つのならよかった」
軽口を叩いて、ウィルフレッドは部屋を出て行った。ベルティーユも多少体がだるくはあったが、続いてリビングに出て行く。普段人が調理をするところを見ないので、興味があったのだ。
「そばで見ていてもいいですか?」
「かまわないよ」
ウィルフレッドが調理をするところを、邪魔にならないところで立って見ていることにした。ウィルフレッドはスープを作りながらパンにバターを塗ったりと、並行作業をしている。初めて見たが、かなり手際がよいことが分かる。
「わたしも手伝ってもかまいませんか?」
何もしないでいるのがいたたまれなくて、そう申し出たが、
「うん。じゃあ、お皿出してくれる?」
とか
「コップにミルクを注いで」
とか子供でもできるような簡単なことしかさせてもらえなかった。刃物や火を扱うことは任せる気にならないらしい。
ほどなくしてスープとサラダ、サンドイッチという朝食ができあがった。普段屋敷で食べているものよりは簡単なメニューではあるが、ウィルフレッドが作ってくれたというだけで特別な料理のように思えた。
「夕食はもう少しちゃんと作るね。まあそこまでレパートリーはないんだけど」
「十分美味しいです、ウィル様」
ベルティーユはにこにこと昼食をほおばった。
(あ、うっかり餌付けされてしまったわ!)
「ウ、ウィル様!」
「何?」
食べ終えたウィルフレッドが、優しく微笑む。
「食べ終わったら、外に出してください。きっとみんな心配しています。それに早く戻らないと大変なことに……」
意を決して言ったのに、
「少し出るよ。いい子にしていてね。ベル」
まるで何も聞こえていなかったように、ウィルフレッドは立ち上がってしまった。食器を手に取ってキッチンに下げる。
「ウィル様? あの……」
「ベルティーユはゆっくり食べていて。食器は洗わなくてもいいよ。私が帰ってからやるから」
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