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「風の噂で不届きにもソフィアに婚約の申し入れをするものがあとをたたないと聞いた。そなたが不義を働くことがないのはよく承知の上だ。男爵にも適当にあしらわせるように文をしたためたしな。
だが私のソフィアに懸想するものがいるだけで腸が煮えくり返るのを押さえられない。社交界など出られたら、ますます拍車がかかるだろうと急いで訪ねた次第だ。
婚約者である私の公表を許可できずすまなかった。勝手に決められた婚約を破棄したりするのに手間取ってしまった。これからは堂々と私の婚約者であることを名乗っても構わない」
そこまでほとんど休みなく言うと、クロードは注いであった紅茶を一息に口にする。すかさずマリアが温かい紅茶を注ぐ。
婚約者?
意味が分からず男爵を見やるが、夫人とともに微笑んでうなづくだけだ。ジャンはいつも通り感情の読めない顔をしている。
婚約の約束をしたとしたら唯一クロードと接した幼い頃だろうと記憶を懸命に掘り起こしたが、全く思い出せない。
貴族の結婚とは家と家のつながりの意味合いが強いため、親同士で決定し、子には決定権がないというのはごく一般的なことではあるが、身分の差がありすぎるのでその可能性はないに等しいのではないだろう。先ほど決められていた婚約を破棄した、というクロードの発言からも、この婚約が本当だったとしても国王の許可した婚約でないのが分かる。
「・・・・・・申し訳ありません。
クロード様と結婚の約束をした記憶がないのですが、父とクロード様の間でお決めになったことでしょうか?」
ソフィアの言葉にクロードはがっくりと肩を落とした。
「別れ際、言ったことをソフィアは幼さゆえ、覚えていなかったのだな・・・・・・」
ややあってクロードは顔をあげる。
「10年前『10年後には必ず迎えに行くから待っていてくれ』と言った私に、ソフィアは『ずっと待っている』と言った。男爵も『ソフィアの同意があるなら』と婚約を了承している。
よってこの婚約は成立だ」
その眼差しはまっすぐで異論は認めないと告げている。王族特有の、威嚇にも似た威厳がある。
『10年後に迎えに行く』という言葉の真意を汲み取れる5歳児はそうはいまい。その言葉をおぼろげに覚えてはいるが、「また会いにくる」と言われた程度の認識だったと思う。10年と来月の違いも分かっていたか定かではない。
「そういえば、クロード様に会いたがるソフィアをはぐらかすのが大変で、なるべく話題にあげなかったから成長してから気持ちを確認することはありませんでしたわね」
「あれだけ慕っていたのだから問題あるまい」
のんびりと男爵と夫人が頷きあう。仕事こそきちんとしているものの、どちらかと言えばおっとりとした夫婦なので、子がしっかりした性格になるのは自然なことかもしれない。
だが私のソフィアに懸想するものがいるだけで腸が煮えくり返るのを押さえられない。社交界など出られたら、ますます拍車がかかるだろうと急いで訪ねた次第だ。
婚約者である私の公表を許可できずすまなかった。勝手に決められた婚約を破棄したりするのに手間取ってしまった。これからは堂々と私の婚約者であることを名乗っても構わない」
そこまでほとんど休みなく言うと、クロードは注いであった紅茶を一息に口にする。すかさずマリアが温かい紅茶を注ぐ。
婚約者?
意味が分からず男爵を見やるが、夫人とともに微笑んでうなづくだけだ。ジャンはいつも通り感情の読めない顔をしている。
婚約の約束をしたとしたら唯一クロードと接した幼い頃だろうと記憶を懸命に掘り起こしたが、全く思い出せない。
貴族の結婚とは家と家のつながりの意味合いが強いため、親同士で決定し、子には決定権がないというのはごく一般的なことではあるが、身分の差がありすぎるのでその可能性はないに等しいのではないだろう。先ほど決められていた婚約を破棄した、というクロードの発言からも、この婚約が本当だったとしても国王の許可した婚約でないのが分かる。
「・・・・・・申し訳ありません。
クロード様と結婚の約束をした記憶がないのですが、父とクロード様の間でお決めになったことでしょうか?」
ソフィアの言葉にクロードはがっくりと肩を落とした。
「別れ際、言ったことをソフィアは幼さゆえ、覚えていなかったのだな・・・・・・」
ややあってクロードは顔をあげる。
「10年前『10年後には必ず迎えに行くから待っていてくれ』と言った私に、ソフィアは『ずっと待っている』と言った。男爵も『ソフィアの同意があるなら』と婚約を了承している。
よってこの婚約は成立だ」
その眼差しはまっすぐで異論は認めないと告げている。王族特有の、威嚇にも似た威厳がある。
『10年後に迎えに行く』という言葉の真意を汲み取れる5歳児はそうはいまい。その言葉をおぼろげに覚えてはいるが、「また会いにくる」と言われた程度の認識だったと思う。10年と来月の違いも分かっていたか定かではない。
「そういえば、クロード様に会いたがるソフィアをはぐらかすのが大変で、なるべく話題にあげなかったから成長してから気持ちを確認することはありませんでしたわね」
「あれだけ慕っていたのだから問題あるまい」
のんびりと男爵と夫人が頷きあう。仕事こそきちんとしているものの、どちらかと言えばおっとりとした夫婦なので、子がしっかりした性格になるのは自然なことかもしれない。
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