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「ソフィアをこのまま連れ帰りたいのだが、よいか」
「もちろんです、クロード様」
すぐさま男爵は了承する。
「細かいことはまた文を送る。服などは城に用意があるし、異動中必要なものは道中で手にいれればよい。置いてきたもので必要なものがあれば、荷物を取りに行かせる。ではソフィア行くぞ」
どんどん勝手に話が進む。腕を掴まれ、立たされたソフィアは慌てる。このまま流れに身を任せれば、本当にクロードの婚約者となれる。
幼い頃兄のように慕った憧れのクロード。それは思慕のようなものであっただろう。ずっと会いたかった。そんなクロードとずっと一緒にいられるなど、どれほどの幸福な話だろう。
だが貴族、特に王族の結婚とは感情に流されて決めていいものではない。王族同士、もしくは力のある貴族でなければならない。そうやって国は磐石になっていくものだ。
少なくとも男爵家の娘と婚約して利点はない。何不自由なく生活させてもらい、男爵には感謝しているし、誠実な仕事ぶりには尊敬しているが。
ソフィアは自分の思いにふたをした。
「クロード様!」
淑女らしくない声をあげると、クロードがぴたりと足を止める。
「このお話はなかったことにしていただけませんか」
断られるなど思ってもいなかったのだろう、クロードが狼狽し始める。
「待遇の心配か?言い方が悪いが、城ではここよりいい暮らしをさせてやれるぞ。そして王都ではここにはない珍しいものもある。劇場など連れていってやろう」
「そのような心配はしておりません。贅沢を望んでいるわけではありませんし。
私では身分違いです。クロード様は王族、もしくはそれなりの家柄の淑女と婚約なさらなくてはいけません」
「兄上たちならもちろん、そのように重鎮どもから反対されるだろうがな。私は第四王子ゆえ、そのような心配はいらぬ。もちろん第一順位の跡継ぎであってもソフィア以外との婚姻はせぬ。王族という立場がソフィアとの婚姻に足かせになるならいらぬ。ソフィア以外のものは等しく無価値だ。比べるまでもない」
クロードにじっと見つめられるとまたソフィアの胸は締め付けられ、葛藤する。迷いのない、真摯な目だ。
「姉上」
ジャンが口を開く。珍しくイライラした口調だ。
「先程クロー……義兄上と見るにたえないほど新婚夫婦のような二人の世界を作っておられましたが、姉上はどのような男性とも手を握ったり、キスをお許しになるのですか」
「見るにたえ……ってそのようなことあるはずないでしょう」
先程のことを思いだし、ソフィアはまた赤面する。
「ではクロ…義兄上を慕っておられるのですよね。
軽視しているわけではありませんが、婚姻ではなく婚約ですし、なにかしら問題があればそこでクロ…義兄上にご相談なさってはいかがですか。
私も休暇中とは言え、課題があるのです。お二人の糖分過多になりそうな睦まじい姿をこれ以上見ている時間はありません」
「で、でも私が急にいなくなれば困るわよね」
「いえ、特に。むしろ使用人たちの仕事は少なくなるくらいです。
姉上宛の文を運んだり、大量の紙を捨てる仕事から解放されます。姉上も文の返事に半日費やすこともなくなりますよ」
「い、家の仕事もあるし」
「父上と母上がなさるので。今までも姉上はその補佐という立場のはずですが」
他に返す言葉がなくなりソフィアは黙りこむ。
「ソフィア」
優しい口調で男爵が口を開く。
「今までソフィアは長女という立場から責任を感じ、様々なことを我慢してきたな。今回はおまえの思う通りにしてよいのだぞ」
夫人も優しく頷く。
「父上、母上・・・」
優しい言葉にソフィアは目を潤ませる。
取り立てて自分を犠牲にして行動した覚えはないが、両親として思うところがあるのだろう。
「ではよいな。行くぞ」
嬉しそうなクロードが再び手をひく。
気がせいているのか、あくまでも着の身着のままのソフィアを連れていく気らしい。
「せ、せめてベスとマリアを連れていかせてください!自室にベスを取りに行くのでお待ちください」
「マリアは存じているしもちろん構わないが、ベスとはなんだ。どのような物体だ」
「犬のぬいぐるみです。ソフィア様はそれがないと眠れませんので」
「マリア!」
言い添えたマリアにソフィアは非難の声をあげる。もうすぐ成人なのに、ぬいぐるみがないと眠れないのが恥ずかしいのだ。
「ベスの同行も許可する。そうか、前もそのようなものを抱いて寝ていたな」
クロードは頬を緩ませる。
「・・・・・・今後そのようなものを抱く余裕はないと思うがな」
そう聞こえたのは気のせいだろう。そうであってほしい。
「もちろんです、クロード様」
すぐさま男爵は了承する。
「細かいことはまた文を送る。服などは城に用意があるし、異動中必要なものは道中で手にいれればよい。置いてきたもので必要なものがあれば、荷物を取りに行かせる。ではソフィア行くぞ」
どんどん勝手に話が進む。腕を掴まれ、立たされたソフィアは慌てる。このまま流れに身を任せれば、本当にクロードの婚約者となれる。
幼い頃兄のように慕った憧れのクロード。それは思慕のようなものであっただろう。ずっと会いたかった。そんなクロードとずっと一緒にいられるなど、どれほどの幸福な話だろう。
だが貴族、特に王族の結婚とは感情に流されて決めていいものではない。王族同士、もしくは力のある貴族でなければならない。そうやって国は磐石になっていくものだ。
少なくとも男爵家の娘と婚約して利点はない。何不自由なく生活させてもらい、男爵には感謝しているし、誠実な仕事ぶりには尊敬しているが。
ソフィアは自分の思いにふたをした。
「クロード様!」
淑女らしくない声をあげると、クロードがぴたりと足を止める。
「このお話はなかったことにしていただけませんか」
断られるなど思ってもいなかったのだろう、クロードが狼狽し始める。
「待遇の心配か?言い方が悪いが、城ではここよりいい暮らしをさせてやれるぞ。そして王都ではここにはない珍しいものもある。劇場など連れていってやろう」
「そのような心配はしておりません。贅沢を望んでいるわけではありませんし。
私では身分違いです。クロード様は王族、もしくはそれなりの家柄の淑女と婚約なさらなくてはいけません」
「兄上たちならもちろん、そのように重鎮どもから反対されるだろうがな。私は第四王子ゆえ、そのような心配はいらぬ。もちろん第一順位の跡継ぎであってもソフィア以外との婚姻はせぬ。王族という立場がソフィアとの婚姻に足かせになるならいらぬ。ソフィア以外のものは等しく無価値だ。比べるまでもない」
クロードにじっと見つめられるとまたソフィアの胸は締め付けられ、葛藤する。迷いのない、真摯な目だ。
「姉上」
ジャンが口を開く。珍しくイライラした口調だ。
「先程クロー……義兄上と見るにたえないほど新婚夫婦のような二人の世界を作っておられましたが、姉上はどのような男性とも手を握ったり、キスをお許しになるのですか」
「見るにたえ……ってそのようなことあるはずないでしょう」
先程のことを思いだし、ソフィアはまた赤面する。
「ではクロ…義兄上を慕っておられるのですよね。
軽視しているわけではありませんが、婚姻ではなく婚約ですし、なにかしら問題があればそこでクロ…義兄上にご相談なさってはいかがですか。
私も休暇中とは言え、課題があるのです。お二人の糖分過多になりそうな睦まじい姿をこれ以上見ている時間はありません」
「で、でも私が急にいなくなれば困るわよね」
「いえ、特に。むしろ使用人たちの仕事は少なくなるくらいです。
姉上宛の文を運んだり、大量の紙を捨てる仕事から解放されます。姉上も文の返事に半日費やすこともなくなりますよ」
「い、家の仕事もあるし」
「父上と母上がなさるので。今までも姉上はその補佐という立場のはずですが」
他に返す言葉がなくなりソフィアは黙りこむ。
「ソフィア」
優しい口調で男爵が口を開く。
「今までソフィアは長女という立場から責任を感じ、様々なことを我慢してきたな。今回はおまえの思う通りにしてよいのだぞ」
夫人も優しく頷く。
「父上、母上・・・」
優しい言葉にソフィアは目を潤ませる。
取り立てて自分を犠牲にして行動した覚えはないが、両親として思うところがあるのだろう。
「ではよいな。行くぞ」
嬉しそうなクロードが再び手をひく。
気がせいているのか、あくまでも着の身着のままのソフィアを連れていく気らしい。
「せ、せめてベスとマリアを連れていかせてください!自室にベスを取りに行くのでお待ちください」
「マリアは存じているしもちろん構わないが、ベスとはなんだ。どのような物体だ」
「犬のぬいぐるみです。ソフィア様はそれがないと眠れませんので」
「マリア!」
言い添えたマリアにソフィアは非難の声をあげる。もうすぐ成人なのに、ぬいぐるみがないと眠れないのが恥ずかしいのだ。
「ベスの同行も許可する。そうか、前もそのようなものを抱いて寝ていたな」
クロードは頬を緩ませる。
「・・・・・・今後そのようなものを抱く余裕はないと思うがな」
そう聞こえたのは気のせいだろう。そうであってほしい。
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