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謁見を終えた二人は、ソフィアの部屋のソファーに並んで腰かけていた。
クロードの執務室は王の応接間のある塔にあるのだが、「執務に余裕があるから」とソフィアの部屋に同行してきたのだ。確かに一人で部屋に戻るのは難しかっただろうが、使用人に案内させればすんだだろうに。
部屋に連れてきてもらってすぐ戻ってもらうのも気にやまれるので、
「おかけになってください」
とソファーに誘ったが、この部屋のなかで二人きりなのだと改めて気づく。
子供の時も誰か側にいたので、二人きりになったのは出会ってから初めてのことだったのだ。
「お茶でもお持ちいたしましょうか?」
緊張に耐えかねてソフィアは立ち上がるが、クロードは手首を掴んで自分の方に引き寄せた。
「…あっ」
軽い力だったが、そのまま立ち続けることはできず、クロードの膝の上に収まってしまう。
「いらぬ」
「……かしこまりました。おろしていただくわけには「却下する」
ソフィアにの発言を待たず、食いつくように言ってきて、まるでだだっ子のようだ。子供のようで、可愛らしく感じてソフィアはふふっと笑う。
「……なんだ?」
恥ずかしがるのを予想していたのに思いがけず笑っているソフィアに、クロードは戸惑う。
「存外お可愛らしくていらっしゃるので。あ、失礼なことを申し上げました」
大人の男性でしかも王子であるクロードに軽率な発言だったとソフィアは謝罪するが、もちろんそれくらいで気分を害するクロードではない。
「そのようなことを言われたのはソフィアだけだ。だが悪い気はせぬな。ソフィアのほうがかわいらしいが」
甘やかな声で言って、子供をあやすようにクロードが頭をなでてくる。甘い言葉をささやかれたりすることはもちろんはずかしいのだが、これはこれで羞恥心をくすぐられる。
このままでは甘い雰囲気に突入してしまいそうで、ソフィアは慌てて口を開いた。
「そういえば国王様は婚約の申し入れを快諾してくださいましたが、事前にお話になっていたのですか?」
「10年間『ソフィアとの結婚を認めぬならソフィアと出奔する』と言い続けて前々からあった婚約も破棄させたからな。結婚式の招待状も各所に送付したとお伝えしたので、このまま進めたほうがよいと判断されたのだろう。お二人とも私を甘やかしておられるから、そこまでせずともお許しいただいたと思うが賢明なご判断だ」
「そうですか。結婚式の招待状を…。誰と誰のですか?」
平然とクロードは言いはなったが、ソフィアは聞き逃さなかった。
「私とソフィアに決まっているだろう。貴族は早いうちに予定を押さえておかねばな。ああ、ソフィアの学友にももちろん送付しておいた。心配するな」
「いえ、そのような心配ではないのですが……」
送付してしまったものは、何を言っても無駄だと口をつぐむ。
だが、一般的に貴族の結婚式の招待状は様々な手続きを踏んだのち送付されるものだ。ソフィアは王宮の仕組みはまだ無知だが、王子の結婚式の招待状ともなれば、なおさらそう簡単に出せるはずはなさそうだが。不思議そうな顔をしていたのか、
「父上を酔わせて必要なサインをしてもらったからな。それは正式な招待状だ」
クロードに甘いから許されたのだろうが、罪に問われても仕方のない行為だ。
ワインとウイスキーを混ぜると弱いのだ、とクロードはいたずらをたくらむ子供のように笑った。
「わたしとの婚約のためにどれほど恐ろしいことをなさるのですか……」
平然としているが、ともすればクロードが罪に問われたと思うと、恐ろしくて仕方がない。
「ソフィア以外の全ては無価値だと、言ったはずだ。ソフィアとの婚約を確実にする可能性があるのならどんなことでもする」
耳元でささやかれてソフィアはぞくり、と身を震わせる。
満足そうに微笑んだクロードは、ソフィアの頬を愛おしそうになでた。
「囲い込むような強引なやり方をしてすまなかった。どうしてもソフィアを手に入れたかったのだ」
ソフィアは王子であるクロードに謝られ、慌てて首を振る。
「私に謝辞など、もったいないです。クロード様」
クロードの執務室は王の応接間のある塔にあるのだが、「執務に余裕があるから」とソフィアの部屋に同行してきたのだ。確かに一人で部屋に戻るのは難しかっただろうが、使用人に案内させればすんだだろうに。
部屋に連れてきてもらってすぐ戻ってもらうのも気にやまれるので、
「おかけになってください」
とソファーに誘ったが、この部屋のなかで二人きりなのだと改めて気づく。
子供の時も誰か側にいたので、二人きりになったのは出会ってから初めてのことだったのだ。
「お茶でもお持ちいたしましょうか?」
緊張に耐えかねてソフィアは立ち上がるが、クロードは手首を掴んで自分の方に引き寄せた。
「…あっ」
軽い力だったが、そのまま立ち続けることはできず、クロードの膝の上に収まってしまう。
「いらぬ」
「……かしこまりました。おろしていただくわけには「却下する」
ソフィアにの発言を待たず、食いつくように言ってきて、まるでだだっ子のようだ。子供のようで、可愛らしく感じてソフィアはふふっと笑う。
「……なんだ?」
恥ずかしがるのを予想していたのに思いがけず笑っているソフィアに、クロードは戸惑う。
「存外お可愛らしくていらっしゃるので。あ、失礼なことを申し上げました」
大人の男性でしかも王子であるクロードに軽率な発言だったとソフィアは謝罪するが、もちろんそれくらいで気分を害するクロードではない。
「そのようなことを言われたのはソフィアだけだ。だが悪い気はせぬな。ソフィアのほうがかわいらしいが」
甘やかな声で言って、子供をあやすようにクロードが頭をなでてくる。甘い言葉をささやかれたりすることはもちろんはずかしいのだが、これはこれで羞恥心をくすぐられる。
このままでは甘い雰囲気に突入してしまいそうで、ソフィアは慌てて口を開いた。
「そういえば国王様は婚約の申し入れを快諾してくださいましたが、事前にお話になっていたのですか?」
「10年間『ソフィアとの結婚を認めぬならソフィアと出奔する』と言い続けて前々からあった婚約も破棄させたからな。結婚式の招待状も各所に送付したとお伝えしたので、このまま進めたほうがよいと判断されたのだろう。お二人とも私を甘やかしておられるから、そこまでせずともお許しいただいたと思うが賢明なご判断だ」
「そうですか。結婚式の招待状を…。誰と誰のですか?」
平然とクロードは言いはなったが、ソフィアは聞き逃さなかった。
「私とソフィアに決まっているだろう。貴族は早いうちに予定を押さえておかねばな。ああ、ソフィアの学友にももちろん送付しておいた。心配するな」
「いえ、そのような心配ではないのですが……」
送付してしまったものは、何を言っても無駄だと口をつぐむ。
だが、一般的に貴族の結婚式の招待状は様々な手続きを踏んだのち送付されるものだ。ソフィアは王宮の仕組みはまだ無知だが、王子の結婚式の招待状ともなれば、なおさらそう簡単に出せるはずはなさそうだが。不思議そうな顔をしていたのか、
「父上を酔わせて必要なサインをしてもらったからな。それは正式な招待状だ」
クロードに甘いから許されたのだろうが、罪に問われても仕方のない行為だ。
ワインとウイスキーを混ぜると弱いのだ、とクロードはいたずらをたくらむ子供のように笑った。
「わたしとの婚約のためにどれほど恐ろしいことをなさるのですか……」
平然としているが、ともすればクロードが罪に問われたと思うと、恐ろしくて仕方がない。
「ソフィア以外の全ては無価値だと、言ったはずだ。ソフィアとの婚約を確実にする可能性があるのならどんなことでもする」
耳元でささやかれてソフィアはぞくり、と身を震わせる。
満足そうに微笑んだクロードは、ソフィアの頬を愛おしそうになでた。
「囲い込むような強引なやり方をしてすまなかった。どうしてもソフィアを手に入れたかったのだ」
ソフィアは王子であるクロードに謝られ、慌てて首を振る。
「私に謝辞など、もったいないです。クロード様」
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