昔助けた王子様に求婚されて外堀を埋められています

水無瀬雨音

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 学校の長期休暇中、いくつかある別荘のひとつに連れてこられていた。
 今日は近くの町では収穫祭が開かれているらしい。秋に農作物の収穫を祝って行われ、夜通し出店や音楽の演奏に合わせたダンスなどが行われるのだ。
 日中警護されながら町に降りたことはあるが、祭に参加したことはない。
 遠くから小さく聞こえる音楽に興味をひかれ、こっそりのぞいてみることにした。
 普段過ごしている城より断然警護が手薄で、外出しやすい。
 メイドに「疲れたので早めに就寝する」と告げ、部屋のバルコニーにくくりつけたロープをつたって庭に降りた。城壁に子供だけが通れるほどの穴が開いているのは確認済みだ。
 薄暗くなってはいたが、あちこちに吊るしてあるランタンのおかげで辺りは明るい。中央の広場がダンス会場になっているようだ。
屋台を覗けば普段見ることのない食べ物などがたくさんある。多くの金銭を持たされているわけではないので、厳選して揚げ菓子を買うことにした。
「熱いから気をつけな」
 紙袋に入れて、店主の中年女性が渡してくれる。
 息を吹きかけて冷ましながら少しずつ食べる。ナイフやフォークを使わずかぶりつくのは初めてだが美味しかった。
 冷えてきた空気に温かい菓子を口にすると体まで暖まるようだ。食べ終わったら帰ることにしよう。
 もう少し見たくはあるが、バルコニーから吊るしてあるロープを見回りの衛兵が見つけるのは時間の問題だろう。



 迷った。
 もと来た道を戻ったつもりが、すっかり別の道を歩いてしまったらしい。一人で出歩くのは初めてなので、仕方のないこととも言える。
 辺りが暗くなってしまった。会場から外れてしまったようでランタンの灯りもないため、視界はかなり悪い。
 明るい喧騒のある方へ行けば戻れるのだろうが、やみくもに歩けばよけい外れたところにいく気がした。適当な店先に座り込む。
 ほどなくすれば、優秀な騎士たちが彼を探しだしてくれるだろう。
 とは言え、人通りもなく、暗闇のなか一人で待つのは退屈な時間だ。町の中なので、そう危険なこともないだろうが。
「坊や一人かい?」
 不意に灯りが近寄ってきたと思うと、男に声をかけられる。中年くらいの男だろう。
 声は親切そうだが、がたいがよく顔には大きい切り傷がある。身なりは薄汚れていた。普通の町民にはなさそうな鋭い雰囲気がある。
「父ちゃんと母ちゃんのところに連れていってあげよう」
「もうすぐ来るので結構です」
 怪しさを感じてすぐさま断るが、
「いいから」
 苛立ちの混じった声で無理矢理手首を掴まれ立たされる。
「離せっ」
 振りほどこうとするが、子供が力でかなうはずもなかった。
「いいから来い」
 引きずるように歩かされるのを抵抗にもならない抵抗をするしかできず、どこへ連れていかれるのだろうと絶望的な気持ちになった。 
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