昔助けた王子様に求婚されて外堀を埋められています

水無瀬雨音

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 メイドと湯あみをしようとしていると、部屋の扉がノックされた。
 ベルだ。
「突然お伺いして申し訳ありません。二人だけでお話ししたくて参りましたの。よろしいでしょうか?」
「もちろんです。ベル様。どうぞお入りください」
「お茶をお持ちいたします」
 メイドが一礼して退室する。

「ベルと二人きりになってはだめよ」

 王太子妃の助言が頭をよぎったが、二人きりになるのはメイドが戻ってくるまでのほんのわずかな時間だ。特に問題はないだろう。
「こちらへどうぞ、ベル様」
 ソフィアはベルにソファをすすめた。ベルはテーブルを挟んだソフィアの向かい側に座る。ベルが嫣然と微笑む。
「ソフィア様が気に病んでいらっしゃるのではと心配してきましたの。
 ……私がクロード様の元婚約者ということで」
 ベルがクロードの元婚約者なのではと言うことは誰も口にはしなかったが、はれ物に触るような感じでなんとなくは予想をしていたことだった。
 何の衝撃もないと言えば嘘になるが、婚約者がいたことはわかっていたことだし、誰が元婚約者であろうとも今の婚約者がソフィアだというのはゆるぎない事実だ。堂々としていればいいのだとソフィアは自分に言い聞かせる。
「私に気を使ってか誰もそのことを私に教えてくれなかったので、存じ上げませんでした」
「まぁ申し訳ありません。ご存知かと思っておりましたので」
 ベルは申し訳なさそうな顔で謝罪してくる。
 ベルの真意が今一つ分からない。
「いずれ分かったことでしょうし、ベル様に謝罪していただくなど、私のほうが申し訳ないです。もう婚約は解消されていることですし、お気になさらないでください」
「失礼。言葉が足りませんでしたわね」
 ベルの目がすっと鋭くなる。
「このまま婚約を継続してモンブールと戦にでもなったら気に病まれるのではと思ったのです」
「……戦なんて」
 そうそう戦など起こるはずはない。今のところ王女が単独で訪問に来られるほど友好的な関係を保っているはずだ。
「起こりえるはずがない、と思ってらっしゃいますか?今でも私は国王に次ぐ権力を持っておりますが、次期女王ですのよ?これは絵空事ではありませんわ、ソフィア様」
戦をけしかけることを示唆しているというのに、ベルは薄気味悪いほどの笑顔だ。お茶会では好意的に感じていたベルが、今は得体のしれない生き物に思えて恐ろしいほどだ。
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