昔助けた王子様に求婚されて外堀を埋められています

水無瀬雨音

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「……なぜ私に?婚約解消させたいのであれば、国王陛下かクロード様にお話しされたほうが話が早いかと思いますが」
 なんと返答するのが正解なのかソフィアは分からなかった。やっと絞り出すようにそれだけを答える。
「クロードに言えば、なんとしてもあなたと婚約を続けたいと言うのは目に見えていますわ。私と婚約解消したときも、かなり強引なやり方でしたもの。
 でもソフィア様にはありますの?無関係な人間の命と引き換えにしてでも、クロードと添い遂げたいという覚悟が」 
 ソフィアを見据えたベルの目はそらすことを許さない。
「……それではベル様には」
 ベルにはあるというのだろうか。
 無関係な、何の罪もない人々を犠牲にしてでもクロードと夫婦になりたいという強い思いが。
 続きをソフィアが口を開く前に、扉がノックされメイドが入室してくる。
「遅くなり申し訳ございません」
 ソフィアとベルの前にカップと菓子を置き、静かにお茶を注ぐ。
「せっかくだからお茶をいただいていくわね。寝る前のお菓子はよくないからやめておくわ。ここの料理人は腕がいいから食べすぎてしまうし」
 メイドが注いだお茶をベルは優雅に口に含む。
「まぁベル様でしたらそこまで気にされなくて大丈夫ですのに。料理長に伝えておきますわ。きっと喜びます」
 メイドがベルの体形ならばもう少し太ったほうがいいくらいだと、クスクス笑う。
 せっかく入れてくれたお茶なのに、ソフィアは口にする気になれなかった。わざわざ選んでくれたのだろうソフィアが気に入ったと言った、薔薇の香りのお茶なのに。
 飲まれることのないお茶の湯気が、ゆらゆらと立ち上るのをソフィアはぼんやりと眺める。
「ソフィア様が、クロードに会ったのは10年前でしたわね」
「はい、そうですが……」
「私は20年前。好きになったのはもっと後だったけれど長い間お慕いしていたのに、父上が勝手に婚約解消を了承してしまわれて……。あ、そうだわ」
 ふとベルが思い出したように告げる。



 —―—ソフィア様がお聞きになりたかったのはこの言葉でしょう?」
 お茶を飲み終わったベルが立ち上がる。
「さっきの話はお願いじゃない。忠告よ。クロードを私に返して」
 鋭く言い放ってベルが退室する。
「あの、ソフィア様、ベル様と何をお話されたのですか?私、お茶をお持ちせずにお傍にいたほうがよろしかったのでは……」
 ベルの言葉にメイドがおろおろと見ていて哀れなほど狼狽する。
「大丈夫よ、気にしないで。ベル様御冗談がお好きみたいね」
 ソフィアはメイドに笑顔で言い聞かせる。
 全く笑える気分ではなかったが、誰にも心配かけてはいけない。気づかれてはいけない。すべて自分一人の胸にとどめなくては。
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