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翌朝、眠れない夜を過ごしたソフィアは、目を覚ましたメイドにマリアに会わせてほしいと頼んだ。
業務を休むほどなのだから断られるかと思ったが、メイドは快く了承してくれた。起きてからもソフィアを心配している様子だったので、気心しれたマリアに任せたほうがよいと思ったのかもしれない。
マリアの部屋は使用人たちの私室のある棟の一室にある。ソフィアがマリアの部屋を訪ねたのは初めてだった。
「朝早くにごめんなさいマリア。ソフィア様がお見舞いに来てくださったのだけれど、お通ししてもいいかしら?」
「大丈夫よ」
メイドがノックすると、ややあってマリアの返答があった。ガチャリとドアを開けてソフィアを招き入れてくれる。
寝ているかもと思っていたが、起きていたらしい。
中に入ると部屋の中はベッドとクローゼット、小さな机といすだけだった。使用人の部屋はこのようなものなのかもしれない。
「お久しぶりです。ソフィア様。急にお休みをいただいて申し訳ありません。あとこんな格好で」
起きたばかりだからか、マリアは夜着のままで普段きちんと結い上げている髪はおろされている。
「いいのよ。私こそ具合が悪いのにごめんなさい。しかもこんなに朝早くに」
「ソフィア様と二人にしてくれる?ソフィア様のお食事もこちらにお願い」
ソフィアを一目見たマリアがメイドに言うと、了承して一礼して退室する。
「申し訳ありません。ソファがありませんのでベッドにお座りください」
言われた通りソフィアがベッドに腰かけると、マリアもその隣に腰かけた。
「具合は大丈夫?」
「はい、もうだいぶいいので、明日には戻れると思います」
「よかった」
ソフィアは胸をなでおろした。具合が悪いと面会すらも苦痛だろうと思ったからだ。
「……ソフィア様寝てらっしゃらないのではないですか?」
「……少しは寝たわ」
二日ほとんど寝ていないのだ。ソフィアのいつもは透き通るような白い肌がくすみ、クマができていることから、それは容易にわかるうそだとマリアにはすぐ分かっただろうが、そこは追及しなかった。
「眠れなかった理由を、マリアにはお話しくださいますか?」
「……クロードに私との婚約を破棄してベル様と婚約をやり直していただくようお願いしたの」
マリアが息をのむ気配がしたが、何も言わないでくれたのでソフィアはそのまま続ける。
「このまま王宮にいられないから、私は今日王宮を出て修道院に入ろうと思うわ。もちろんマリアは残ってくれていいけれど、あなたには伝えておこうと思って。クロードやお父様たちには入ってから手紙を書く」
王都には様々な事情を抱えた女子だけが入ることができる修道院がある。
男性は中に入ることすらできない。一度入ると簡単に出ることはできないだろう。
マリアはソフィアに向き合い、ぎゅっと両の手を握ってきた。じっとソフィアの目を見据える。
「ソフィア様はなぜ急にそのようなことをおっしゃったのですか?ベル様に、なにか言われたのですか」
「いいえ。ベル様は関係ないわ。
私はクロードを兄のようにしか思っていなかったのに流されてしまったのを今まで言い出せなかっただけ。ベル様とお会いしてこのような方と婚約なさったほうがいいと思ったの」
「……私はソフィア様をずっとお傍で見てきました。クロード様へのお気持ちがそんなものだったとは思えません。何より、それが本当にソフィア様のお気持ちならそのような泣きはらした目にはなりません。眠れぬはずがありません」
マリアはかなりの衝撃だったのだろう、絞り出すような声を出した。
「クロードは、クロード様は了承されたのですか?」
「ベル様と婚約し直すとはおっしゃらなかったけれど、招待客の方にはクロードから婚約破棄の手紙をお出しくださるそうよ。クロードも、昔の私を美化していただけだったのかも」
本当はもっと強く止めてくれるのではとどこかで期待したのだ。止められたらそれはそれで困ったのに。
クロードにとってソフィアはこうも簡単に手放せるものなのかと、勝手なのは承知だががっかりしたのだ。
「クロードの気持ちを勝手に決めないで!」
冷静なマリアが声を荒げるのをソフィアは初めて見た。
驚いたソフィアは何も言うことができず、そのまま黙ってしまう。
「ソフィア様の本当のお気持ちも、クロード様の真意も私にはわかりません。ですが、クロード様に黙って出て行かれるのはおやめください。もう一度、お二人でちゃんとお話しになってください。
ソフィア様もクロード様も私の大切な……ご主人様なのです。お二人に、幸せになってほしいのです。
ソフィア様を手にいれるためのクロード様の努力は大変なものでした。……クロード様の気持ちを偽りだとおっしゃるのはやめてください。」
うつむいたマリアのひざに、ぽたり、ぽたりと透明な雫が落ちる。
「ごめんなさい、マリア。……本当にごめんなさい」
ソフィアはたまらずマリアを抱きしめた。マリアの細い肩が震えている。
マリアはソフィアの謝罪をクロードの気持ちを軽んじたことへの謝罪だと思っているだろう。でもそれだけではない。
ソフィアが本心を隠し続けるのであれば二人の心は交わることはないだろう。……二度と。
業務を休むほどなのだから断られるかと思ったが、メイドは快く了承してくれた。起きてからもソフィアを心配している様子だったので、気心しれたマリアに任せたほうがよいと思ったのかもしれない。
マリアの部屋は使用人たちの私室のある棟の一室にある。ソフィアがマリアの部屋を訪ねたのは初めてだった。
「朝早くにごめんなさいマリア。ソフィア様がお見舞いに来てくださったのだけれど、お通ししてもいいかしら?」
「大丈夫よ」
メイドがノックすると、ややあってマリアの返答があった。ガチャリとドアを開けてソフィアを招き入れてくれる。
寝ているかもと思っていたが、起きていたらしい。
中に入ると部屋の中はベッドとクローゼット、小さな机といすだけだった。使用人の部屋はこのようなものなのかもしれない。
「お久しぶりです。ソフィア様。急にお休みをいただいて申し訳ありません。あとこんな格好で」
起きたばかりだからか、マリアは夜着のままで普段きちんと結い上げている髪はおろされている。
「いいのよ。私こそ具合が悪いのにごめんなさい。しかもこんなに朝早くに」
「ソフィア様と二人にしてくれる?ソフィア様のお食事もこちらにお願い」
ソフィアを一目見たマリアがメイドに言うと、了承して一礼して退室する。
「申し訳ありません。ソファがありませんのでベッドにお座りください」
言われた通りソフィアがベッドに腰かけると、マリアもその隣に腰かけた。
「具合は大丈夫?」
「はい、もうだいぶいいので、明日には戻れると思います」
「よかった」
ソフィアは胸をなでおろした。具合が悪いと面会すらも苦痛だろうと思ったからだ。
「……ソフィア様寝てらっしゃらないのではないですか?」
「……少しは寝たわ」
二日ほとんど寝ていないのだ。ソフィアのいつもは透き通るような白い肌がくすみ、クマができていることから、それは容易にわかるうそだとマリアにはすぐ分かっただろうが、そこは追及しなかった。
「眠れなかった理由を、マリアにはお話しくださいますか?」
「……クロードに私との婚約を破棄してベル様と婚約をやり直していただくようお願いしたの」
マリアが息をのむ気配がしたが、何も言わないでくれたのでソフィアはそのまま続ける。
「このまま王宮にいられないから、私は今日王宮を出て修道院に入ろうと思うわ。もちろんマリアは残ってくれていいけれど、あなたには伝えておこうと思って。クロードやお父様たちには入ってから手紙を書く」
王都には様々な事情を抱えた女子だけが入ることができる修道院がある。
男性は中に入ることすらできない。一度入ると簡単に出ることはできないだろう。
マリアはソフィアに向き合い、ぎゅっと両の手を握ってきた。じっとソフィアの目を見据える。
「ソフィア様はなぜ急にそのようなことをおっしゃったのですか?ベル様に、なにか言われたのですか」
「いいえ。ベル様は関係ないわ。
私はクロードを兄のようにしか思っていなかったのに流されてしまったのを今まで言い出せなかっただけ。ベル様とお会いしてこのような方と婚約なさったほうがいいと思ったの」
「……私はソフィア様をずっとお傍で見てきました。クロード様へのお気持ちがそんなものだったとは思えません。何より、それが本当にソフィア様のお気持ちならそのような泣きはらした目にはなりません。眠れぬはずがありません」
マリアはかなりの衝撃だったのだろう、絞り出すような声を出した。
「クロードは、クロード様は了承されたのですか?」
「ベル様と婚約し直すとはおっしゃらなかったけれど、招待客の方にはクロードから婚約破棄の手紙をお出しくださるそうよ。クロードも、昔の私を美化していただけだったのかも」
本当はもっと強く止めてくれるのではとどこかで期待したのだ。止められたらそれはそれで困ったのに。
クロードにとってソフィアはこうも簡単に手放せるものなのかと、勝手なのは承知だががっかりしたのだ。
「クロードの気持ちを勝手に決めないで!」
冷静なマリアが声を荒げるのをソフィアは初めて見た。
驚いたソフィアは何も言うことができず、そのまま黙ってしまう。
「ソフィア様の本当のお気持ちも、クロード様の真意も私にはわかりません。ですが、クロード様に黙って出て行かれるのはおやめください。もう一度、お二人でちゃんとお話しになってください。
ソフィア様もクロード様も私の大切な……ご主人様なのです。お二人に、幸せになってほしいのです。
ソフィア様を手にいれるためのクロード様の努力は大変なものでした。……クロード様の気持ちを偽りだとおっしゃるのはやめてください。」
うつむいたマリアのひざに、ぽたり、ぽたりと透明な雫が落ちる。
「ごめんなさい、マリア。……本当にごめんなさい」
ソフィアはたまらずマリアを抱きしめた。マリアの細い肩が震えている。
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ソフィアが本心を隠し続けるのであれば二人の心は交わることはないだろう。……二度と。
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